それで一体、私に何の御用ですかとハリーが問いかけると、元々から短気らしいギリアムという男は爆発したように叫んだ。
「今まで人の話を聞いていなかったのか小娘!貴様がローランドの姫ならフランク国王からの召喚状を受けて王都に向かっているんだろうが!それを寄越せと言っているんだ!」
「それは出来ません、ローランドの信用問題にも関わります」
「命が惜しくないのか小娘!十七の餓鬼だと聞いていたから、こっちも穏やかに話を進めてやろうとすれば付け上がりやがって!」
「穏やかに…… 、ですか?」
思わず珍獣でも眺めるような視線を向けてしまったハリーの態度に酷く自尊心を傷付けられたらしく、ギリアムは少しの間その身体を小刻みに震わせていたが、やがて決心したように口元を歪めて嗤ってから右腕を真っ直ぐに伸ばし、何かを唱えはじめる。それが拘召(こうしょう)の呪言であるとハリーが気付くと殆ど同時に空間が歪み、次の瞬間にはギリアムの右手に巨大な刃が握られていた。円形の柄に三振りの剣を等間隔に配した三角形の武器は、実用性云々はともかく威嚇効果は高そうだった。そのまま街道の並木に向かって投げると、子どもの胴ほどもある太さの幹を薙ぎ払ってからギリアムの手元に戻ってくる。
「貴様もあんな風に真っ二つにされたくなれば、大人しく言うことを聞くんだな」
己の優位を確信しきった尊大な口調のギリアムに、ハリーはあからさまに眉をひそめて答えた。
「街道の維持は警備兵の仕事です、手間を増やすのは止めてください」
「舐めてるのかぁ!」
面白い位に逆上したギリアムに、今度は酷く冷ややかな視線を向けてから軽く握った左手を胸に当てるハリー。不審顔のギリアムより速く、背後に立っていたザロンという大男のほうが危険を察知したようにハリーの口を塞ぎにかかるが、その時は既に遅かった。ギリアムが唱えた拘召の呪言とは比べものにならない力が周囲の空間を歪ませながら、次の瞬間には目も眩むような閃光を発し、そのまま実体となって現れる。
「…… 真正の、精霊使いか」
蒼白い鬣を持つ、巨大な狼の姿をした幻獣の姿を目の当たりにしてザロンは呻くように呟いた。それに対して、ギリアムは発する言葉もない。自身も神殿で学んだことがある身として、幻獣を従える程の高位術者に喧嘩を売るのがどれほど無謀かは思い知らされているらしい。
「それで、どうなさいますか?」
威嚇の呻り声を上げる狼を止めもしないまま二人に問いかけるハリー。渋い顔で相棒を見据えるザロン、そして。
「き…… 今日のところはこれで勘弁してやるっ!」
ギリアムは今にも泣きそうな表情で叫ぶなり、その場を駆け出していた。
「今まで人の話を聞いていなかったのか小娘!貴様がローランドの姫ならフランク国王からの召喚状を受けて王都に向かっているんだろうが!それを寄越せと言っているんだ!」
「それは出来ません、ローランドの信用問題にも関わります」
「命が惜しくないのか小娘!十七の餓鬼だと聞いていたから、こっちも穏やかに話を進めてやろうとすれば付け上がりやがって!」
「穏やかに…… 、ですか?」
思わず珍獣でも眺めるような視線を向けてしまったハリーの態度に酷く自尊心を傷付けられたらしく、ギリアムは少しの間その身体を小刻みに震わせていたが、やがて決心したように口元を歪めて嗤ってから右腕を真っ直ぐに伸ばし、何かを唱えはじめる。それが拘召(こうしょう)の呪言であるとハリーが気付くと殆ど同時に空間が歪み、次の瞬間にはギリアムの右手に巨大な刃が握られていた。円形の柄に三振りの剣を等間隔に配した三角形の武器は、実用性云々はともかく威嚇効果は高そうだった。そのまま街道の並木に向かって投げると、子どもの胴ほどもある太さの幹を薙ぎ払ってからギリアムの手元に戻ってくる。
「貴様もあんな風に真っ二つにされたくなれば、大人しく言うことを聞くんだな」
己の優位を確信しきった尊大な口調のギリアムに、ハリーはあからさまに眉をひそめて答えた。
「街道の維持は警備兵の仕事です、手間を増やすのは止めてください」
「舐めてるのかぁ!」
面白い位に逆上したギリアムに、今度は酷く冷ややかな視線を向けてから軽く握った左手を胸に当てるハリー。不審顔のギリアムより速く、背後に立っていたザロンという大男のほうが危険を察知したようにハリーの口を塞ぎにかかるが、その時は既に遅かった。ギリアムが唱えた拘召の呪言とは比べものにならない力が周囲の空間を歪ませながら、次の瞬間には目も眩むような閃光を発し、そのまま実体となって現れる。
「…… 真正の、精霊使いか」
蒼白い鬣を持つ、巨大な狼の姿をした幻獣の姿を目の当たりにしてザロンは呻くように呟いた。それに対して、ギリアムは発する言葉もない。自身も神殿で学んだことがある身として、幻獣を従える程の高位術者に喧嘩を売るのがどれほど無謀かは思い知らされているらしい。
「それで、どうなさいますか?」
威嚇の呻り声を上げる狼を止めもしないまま二人に問いかけるハリー。渋い顔で相棒を見据えるザロン、そして。
「き…… 今日のところはこれで勘弁してやるっ!」
ギリアムは今にも泣きそうな表情で叫ぶなり、その場を駆け出していた。