カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

無駄な抵抗はやめろ

2009-12-02 20:44:26 | 危機的状況を切り抜ける30の方法
 それで一体、私に何の御用ですかとハリーが問いかけると、元々から短気らしいギリアムという男は爆発したように叫んだ。
「今まで人の話を聞いていなかったのか小娘!貴様がローランドの姫ならフランク国王からの召喚状を受けて王都に向かっているんだろうが!それを寄越せと言っているんだ!」
「それは出来ません、ローランドの信用問題にも関わります」
「命が惜しくないのか小娘!十七の餓鬼だと聞いていたから、こっちも穏やかに話を進めてやろうとすれば付け上がりやがって!」
「穏やかに…… 、ですか?」
 思わず珍獣でも眺めるような視線を向けてしまったハリーの態度に酷く自尊心を傷付けられたらしく、ギリアムは少しの間その身体を小刻みに震わせていたが、やがて決心したように口元を歪めて嗤ってから右腕を真っ直ぐに伸ばし、何かを唱えはじめる。それが拘召(こうしょう)の呪言であるとハリーが気付くと殆ど同時に空間が歪み、次の瞬間にはギリアムの右手に巨大な刃が握られていた。円形の柄に三振りの剣を等間隔に配した三角形の武器は、実用性云々はともかく威嚇効果は高そうだった。そのまま街道の並木に向かって投げると、子どもの胴ほどもある太さの幹を薙ぎ払ってからギリアムの手元に戻ってくる。
「貴様もあんな風に真っ二つにされたくなれば、大人しく言うことを聞くんだな」
 己の優位を確信しきった尊大な口調のギリアムに、ハリーはあからさまに眉をひそめて答えた。
「街道の維持は警備兵の仕事です、手間を増やすのは止めてください」
「舐めてるのかぁ!」
 面白い位に逆上したギリアムに、今度は酷く冷ややかな視線を向けてから軽く握った左手を胸に当てるハリー。不審顔のギリアムより速く、背後に立っていたザロンという大男のほうが危険を察知したようにハリーの口を塞ぎにかかるが、その時は既に遅かった。ギリアムが唱えた拘召の呪言とは比べものにならない力が周囲の空間を歪ませながら、次の瞬間には目も眩むような閃光を発し、そのまま実体となって現れる。
「…… 真正の、精霊使いか」
 蒼白い鬣を持つ、巨大な狼の姿をした幻獣の姿を目の当たりにしてザロンは呻くように呟いた。それに対して、ギリアムは発する言葉もない。自身も神殿で学んだことがある身として、幻獣を従える程の高位術者に喧嘩を売るのがどれほど無謀かは思い知らされているらしい。
「それで、どうなさいますか?」
 威嚇の呻り声を上げる狼を止めもしないまま二人に問いかけるハリー。渋い顔で相棒を見据えるザロン、そして。
「き…… 今日のところはこれで勘弁してやるっ!」
 ギリアムは今にも泣きそうな表情で叫ぶなり、その場を駆け出していた。
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敵に囲まれる・その2

2009-12-01 19:16:20 | 危機的状況を切り抜ける30の方法
「何だその態度は!馬鹿にしているのか小僧!」
 これは明らかに勘違いしているようだと判断したハリーが、いつもの癖で左手を覆う革製の手甲に右手をやりながら口を開きかけると、それよりも早く、今の今まで無言のままハリーの背後で道を塞いでいた大男が、やかましく喚き散らす優男に向かって言った。
「おい、ギリアム」
「何だザロン!こんな礼儀知らずの小僧に情けは無用だぞ!」
「”小僧”では、ないと思うのだが」
「ああ?帯剣してりゃ立派な男だとか、そんな意味で言ってるのか?」
「いや…… 普通は年頃の娘子を”小僧”とは呼ばないと思うのだが」
「娘子?」
 一瞬だけ呆けたような表情になってから、ギリアムと呼ばれた優男はまじまじとハリーを眺め回し、ようやく自分の間違いに気付いたように顔を真っ赤にして叫んだ。
「小娘が紛らわしい格好してるんじゃねえよ!」
 小僧の次は小娘呼ばわりしてくる相手の発言に、普段は滅多に怒らないハリーも流石に腹に据えかねて、その青い瞳で優男を真っ直ぐに見据えて名乗りを上げることにする。
「小娘ではありません、私は辺境自治領ローランドの第一公女、ハリエッタ。
 普段はハリーと呼ばれておりますので、そう呼んで下さっても結構です」
「誰が呼ぶか!この小娘!」
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敵に囲まれる・その1

2009-11-30 06:05:06 | 危機的状況を切り抜ける30の方法
 昔はともかく、今は王都に続く街道も整備されている。
 だから、一人旅もそれほど危険ではないと聞いていた。
 ハリーは自分の進路、それに退路を塞ぐ男二人を確認しながら、そんなことを考える。
「とにかく小僧、お前が誰なのかはもうバレているんだ。大人しく出すものを出して貰おうか」
 そんな台詞と共に、極めて偉そうな態度で右手を突き出してきたのは年の頃二十歳半ばほどの、一見すると優男だった。目付きも言動も荒いが元々の育ちは悪くないのかも知れないなどと、思わず場違いなことを考えてしまうハリー。
「ああ、ひょっとしてビビってるのか小僧?」
 返事もせず、かと言って逃げようともしない態度に苛立ったのか男は声を荒げて凄んでくる。仕方ないのでハリーは口を開いた。
「私に一体、何の御用でしょうか」
「だから言ってるだろうが小僧!お前の持っている王都への召喚状を寄越せと言っているんだよ!」
 素直に寄越せば手荒な真似はしないと続ける男に対して、極めて冷ややかな視線を向けるばかりのハリー。

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