カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第八十五夜・光に浮かぶ影

2017-09-29 23:19:34 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『光のどけき』と『牡丹色』を使って創作してください。

 森鴎外の鼠坂を基にした物語で、日本人少年が中国の大きな家で暮らしていた際に自宅で目撃した女の子を花の精霊だと思って楽しい空想に耽るが、実はそれは隠れ住んでいた抗日分子の中国人一家で、少年が花の精霊について話したせいで全員処刑されてしまったという話を読んだ。優しく夢を浮かび上がらせる光が生み出す現実の影は、いつだって哀しい。
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第八十四夜・彼女の中身

2017-09-28 20:53:40 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『つれなく見えし』と『真緋』を使って創作してください。

 人の腹なんて、それこそ割ってみないとわからないという言葉に、私は自分に笑いかけてくる美しい外見をした彼女の中見も同じように美しいのかをどうしても知りたくなった。
 やがて完璧な準備を調えた末に、私が引き裂いて中に詰まっていた腸を一つ残さず露わに晒した物言わぬ彼女の新鮮な緋色は予想以上に美しく瑞々しい姿をしていて、だから私は一人で泣くのだ。
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第八十三夜・高嶺の薔薇にはトゲがある

2017-09-27 21:44:33 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『高嶺に』と『薔薇色』を使って創作してください。

 届かないと思い込んでいた高嶺の花を手にした時は嬉しくて、自分を取り巻く世界が変わって見えた。けれど、同時にその花は咲かせ続けるために膨大な肥料と手間が必要な、少しでも扱いを間違えると鋭い棘を突き刺してくる無慈悲で冷酷な存在でもあった。
 結局、傷だらけになって耐え切れずに高嶺から落ちた私が最期に見上げた花は、はじめて見た日と寸分違わぬ美しい姿をしていた。

 つまり、私はあの花にとって、その美しさに惹かれて現れた虫の一匹にしか過ぎなかったということか。
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第八十二夜・緑の檻

2017-09-26 22:29:40 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『行くも帰るも』と『萌木色』を使って創作してください。

 もう、この延々と続く森の中で、どれだけの時間を歩いているのかは覚えていない。
 判で押したように同じ高さで同じ枝振り、更に同じ色彩の葉を茂らせている森の木々は、この森が少なくとも通常の自然が育んだものではないことを物語っているが、まだ動ける間に出口を見付けられない限り、いずれは私もこの樹木に入り混じって似たような樹に変成するか、さもなくば肥料になるのだろう。
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第八十一夜・うらみ葛の葉

2017-09-25 19:50:31 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『みをつくしても』と『狐色』を使って創作してください。

 狐だったお前の母さんは森に還ってしまったのだと、父さんは僕に言った。
 それが真実かどうかはともかく、確かに僕に母さんはいない。

 だから僕は父さんのいない夜に、魔物が棲むと恐れて人が近付かない深い森を、自分で造った淡い輝きを放つ妖火を片手に、未だ見たことのない母さんを探して彷徨うのだ。
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第八十夜・飛散

2017-09-22 23:42:23 | 百人一首と色名で百物語
 秋の紅葉を思わせる、飛び散って重なり合った鮮やかな赤い色の中に一人佇む。やがて私が歩き出すと、逃げることも出来ないまま座り込んでいた連中は一人残らず飛び散っていった。
 大勢で一人を嬲りものにするような男は全て砕けて散ってしまえとは思ったが、私がそう願っただけで砕け散るとは思わなかった。
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第七十九夜・お祖母ちゃんのストール

2017-09-21 23:19:35 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『春過ぎて』と『藤色』を使って創作してください。

 私が中学校に入学した春、お祖母ちゃんはお祝いだと薄い紫色のストールをくれた。鮮やかな赤や黄色が好きだった子どもの私は、濡れたように輝く絹製の薄紫色が持つ落ち着いた上品さが全く分からずに不満だったが、やがて成人式の振り袖姿でそれを肩に羽織ったとき、ようやく理解出来た。お祖母ちゃんはきっと私が成人式を迎える日まで、自分が待ってはいられないことを知っていたのだ。
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第七十八夜・言葉の意味と世間の誤解

2017-09-20 21:35:03 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『人は言うなり』と『鶯色』を使って創作してください。

 やや古めかしい言葉だが「目白押し」という有名な言い回しがあって、これは群れを成して枝などに止まる小鳥のメジロが、まるで押しくら饅頭でもしているかのような状態のことを言う。

 ちなみに、メジロとは目の周りが白いための名前らしいが、実は世間で言うウグイス色をしているため、ウグイスと間違えられることが多い。実際のウグイスはメジロより遥かに地味な色合いをしているから、全く以て世界は理不尽に満ちている。
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第七十七夜・見えるひと、見えないひと

2017-09-19 19:49:20 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『蜥蜴色』を使って創作してください。

 家神様は誰にでも見える訳ではなく、うちの家族なら婆ちゃんと僕だけがお公家さんの姿で見える。母さんは光る金蛇にしか見えないらしく、父さんと妹は全く見えないそうだ。そして妹は、婆ちゃんや僕がお公家さんのような格好をしているという家神様を物凄いイケメンと思い込んでいるが、現実が見えないって本当に哀れで幸せだと思う。
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第七十六夜・飴玉の記憶

2017-09-18 19:45:58 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『今ひとたびの』と『飴色』を使って創作してください。

 口の中に入れて噛み砕くと、イチゴ風味をした表面の固い部分が崩れて中に詰まったミルク味と混じるだろう。すぐに心の中で願いごとを唱え、飴の味が口の中からなくなるまで繰り返せば願い事が叶うんだけど、飴と一緒に血の味を感じたら……

 そこで言葉は止まり、いきなり何人も現れたおまわりさんの格好をした大人が、この部屋に私が連れてこられてからずっと飴玉しか食べさせてくれなかったお兄ちゃんを押さえ付けた。
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