カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

物語その55・鞘と成りて君を守らん

2020-01-31 22:10:13 | 不等号の関係性
たかあきは、剣の姫と呼ばれた王女と執事に関する非日常の物語を創作してください。

 その気性の烈しさから剣の姫と呼ばれ、周囲から恐れられる王女を御せるのは、常に彼女の傍らに影のように控える執事以外には存在しないと専らの評判だった。だから只ならぬ関係だったとされる先代王と現王妃の間に実は男児が誕生したという噂も、現王が産まれて間もない第一王子を廃嫡した理由に関しても、少なくとも表立って詳しく語ろうとする者は存在しない。
コメント

骨董品に関する物語・ミュンヘンカレンダー

2020-01-31 21:51:34 | 突発お題
 とある紋章を昔から探しているという彼が描いてくれた絵はお世辞にも巧いとは言えず、私にはその紋章が何であるのか判別できなかったが、一応はうちの店にあるだけの紋章が入った版画や本やカード、果てはカレンダーまで一枚残らず確認して貰った後、彼は力なく肩を落として帰って行った。

コメント

骨董品に関する物語・ロシアのリザ

2020-01-31 21:49:55 | 突発お題

 細密な手細工を施した真鍮製のリザを聖像に被せた人間は、本来なら永遠に輝き続けるべき聖像がどれ程に脆いかを知っていたのだろう。故にその美しさを損なわぬよう出来得る限りの保護を試みたのだ。だが、その聖像も聖像の姿を保とうとした人々も、あの日残らず戦の炎が焼き尽くした。
コメント

物語その54・旦那様の自慢の人形

2020-01-30 21:18:08 | 不等号の関係性
たかあきは、大商人と人造人間に関する忠節の物語を創作してください。

 錬金術師が造った人造人間は極めて多彩な能力を有していたが、肉体の維持には莫大な費用を必要としたので余程に裕福で酔狂な人物でなければ所有出来ず、彼を買い取った大商人も全くお前は金がかかるねぇ、と口癖のように呟いては苦笑するのが常だった。ただ、その口癖は人造人間である彼の耳にはとても優しく響き、だから大商人が長患いの末に亡くなった日、彼も全ての動きを止めて二度と起動することは無かった。
コメント

骨董に関する物語・「この世の終わり」シリーズのポストカード

2020-01-29 19:25:49 | 不等号の関係性
「もしも確実に地球が惑星ごと滅亡する日が明確になったとしたら、お前はどうしたい?」
「会える人がいるなら会いに行きたいな。交通機関は無茶苦茶だろうから歩いてでも。

 愛する夫を愛するがゆえに台所で料理する妻。
 決して訪れない試験日に向けて受験勉強に励む学生。
 問答無用のノーブレーキで突っ込んでくるバイクの運転手。

 そんな、日常と常識が崩壊した世界で壊れ果てた連中の狭間をかいくぐって」
「『ひとめあなたに…』か」
「正解」
コメント

物語その53・海を渡った詩人先生

2020-01-28 22:33:54 | 不等号の関係性
たかあきは、貴族の嫡子と貧乏詩人に関する追憶の物語を創作してください。

 貴族の嫡男だった彼の家庭教師は、自分の作品では生活費も稼げない詩人だった。やがて詩人は長年の貯えを元に余所の国で詩作に励もうと海を渡ると決め、彼は幾ばくかの餞別を渡してそれを見送った。その後、詩人が有名になった話は聞かないが、今も元気に詩作に励んでいるのだろうかと彼は時々思う。
コメント

物語その52・引退領主の秘かな愉しみ

2020-01-27 22:00:23 | 不等号の関係性
たかあきは、地方領主と野良犬に関する退屈の物語を創作してください。

 娘婿に家督を譲った元領主の老人は、まだ十分お元気なのにと言う周囲の声を無視して荘園で隠棲生活を始めた。後進に道を譲った潔い態度に人々は称賛を惜しまなかったが当の元領主は現在、十日ほど前に領内の散歩中に偶然出会った野良犬に惚れ込んで自分の館に連れ帰ろうと毎日必死になっている最中だ。
コメント

骨董品に関する物語・銀色の三日月マークの呼び鈴

2020-01-25 17:27:08 | 突発お題

 鉱石ラジオを改造したという配線の付いた四角い箱と大きなアンテナに接続されたボタンは、所定の位置に名前を書いた紙を入れると、星の巡りに作用して会いたい人を呼び寄せてくれるのだと言う。ただしその際、決して死者の名前を書いてはいけないと発明家は何度も僕に忠告してきた。
コメント

骨董品に関する物語・時計部品ケースに詰まった古小物

2020-01-25 17:24:33 | 突発お題
 時計の部品を入れる本来の役目を終え、古い小物を詰められたパーツ入れは、やがて本来の時計とは違う動かない時間を示し始める。それは七十歳を過ぎた老婆が嘗て十七歳であったことなど一度も存在しなかったと言わんばかりに、あの日の、あの時の時間だけを永遠に明確に示し続ける。
コメント

物語その52・仮面の姫君のサ―ガ

2020-01-25 16:10:58 | 不等号の関係性
たかあきは、剣の姫と呼ばれた王女と貧乏詩人に関する非日常の物語を創作してください。

その国の第一王女は幼い頃に罹った病で顔に酷い痘痕があったが、素顔を仮面で隠し戦った戦場での功績から周囲からは剣の姫と呼ばれていた。ただ、その戦場での働きが伝説として語られるようになったのは、歴史に埋もれていた姫の存在を絶世の美女として物語に書き上げた無名詩人に依るところが大きい。
コメント