理髪店を営む叔父に言わせると、脂を含んだ細く柔らかい毛は鋏にとって非常に切りにくい材質なのだそうだ。故に研ぎ直しを含む定期的なメンテナンスは必須なのだが、その正しい扱い方を知らないと刃の裏面を研いで鋏そのものを完全に使いものにならなくしてしまう場合もあるという。
流石にこれだけ小型だと操演に依る音声は望めないので直接に音楽精霊を憑依させたと奴は得意げに言う。しかしそれでは万が一に制御術式が外れたら延々と音楽が止まらなくなるのではと突っ込みを入れると、まあ百年くらいで止まるからいいだろと無責任極まりない事をぬかしやがった。
江戸時代に大流行した変わり咲き朝顔は、花が咲いた大量の鉢を一箇所に集めて受粉後に採れた種子から発生した変種を更に掛け合わせるという実に気の長い方法が行われていたが、遺伝法則も不明確な時代の、結果は神のみぞ知る方法で、何と現代でも幻とされる金色の朝顔が存在した。