カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

過去

2016-09-30 18:36:01 | 字書きさんにお題出してみったー
たかあきさん、『汽水域』を舞台に、『古本』と『謎解き』と『孤独』の内二つをテーマにして話を書いてみませんか。

「御嶽丸が出て来た」
 そう俺が言うと受話器の向こう側の博士は流石に言葉を失う。アレは確かにあの日、俺の両親と姉夫婦、つまりアイツにとっては祖父母や両親と共に目の前で炎に呑まれた筈だった。この手で押さえ込んだアイツの悲鳴と背中に走る激痛、それに耳元で自分の肉が焼けていく音と匂いを、未だに俺は忘れられないでいる。
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疑問

2016-09-29 00:16:48 | 字書きさんにお題出してみったー
たかあきさん、『百貨店』を舞台に、『パズル』と『楽譜』と『大岩』の内二つをテーマにして話を書いてみませんか。

 アイツが咄嗟に焚いたフラッシュで何とか新しい獣は退散してくれたが、当然ながら問題の根本的解決にはならず、何より撮れたポラロイド写真に映し出された獣の姿に俺は頭を抱える。そのまま写真を見たがるアイツを追いやるようにして一人で俺にあてがわれた部屋に戻り、しばらく考えてから屋敷の当主に許可を得て電話を掛けると、何かを引っ繰り返したような轟音の後に聞き慣れた声で「何があった」と尋ねられる。
「博士こそ、機材は百貨店の棚みたいにキチンと整理しておけといつも言っているだろうが」
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準備

2016-09-28 00:14:53 | 字書きさんにお題出してみったー
たかあきさん、『深い森』を舞台に、『鳩時計』と『中華鍋』と『強風』の内二つをテーマ

「黒い獣が死んでるって事は、コイツを殺した第三者がいるって事だよな?」
 俺の問い掛けにアイツは頷きながら、自分だったら必要に応じて死骸を囮に間抜けな探索者を始末する事も考えますねなどと物騒な事を答えてきた。
「取りあえず、いつでもカメラを使えるようにしておけ」
 俺の言葉に、あいつはカメラ上部に設置された中華鍋を思わせる傘を開いてストロボをセットする。その直後、俄に巻き起こる強風。
「来るぞ!」
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混乱

2016-09-27 00:55:12 | 字書きさんにお題出してみったー
たかあきさん、『汽水域』を舞台に、『恩返し』と『石鹸』と『大岩』の内二つをテーマ

「そいつ」を見ながら俺の頭に広がったイメージは汽水域だった。つまり、浸透圧の異なる思考が己の思考と入り混じってくる感覚だ。果たして俺が石鹸だと思っていたそれは本当に泡立つのか、大岩の欠片では無いのか、一番初めの前提は本当に間違っていなかったのか……何だってそんな事を考えたのかというと、早い話が、黒い獣の痕跡を求めて森を訪れた俺達が見付けたのは既に骸と成り果てた獣だったのだ。
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発見

2016-09-26 00:13:53 | 字書きさんにお題出してみったー
たかあきさん、『黄昏』を舞台に、『爪痕』と『煉瓦』と『息切れ』の内二つをテーマ

 日暮れ前にようやく雨が止んだので、俺はアイツを連れて森の探索を行うことにした。激しい雨に洗い流されて黒い獣の痕跡は殆ど残っていなかったが、森の木々に幾つか残った爪痕が襲撃の様子を裏付けている。ふと、アイツが何かに気付いたように丘に向かって駆け出したので慌てて追いかけると、そこにあったのは意外なブツだった。
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朝になるまで

2016-09-25 13:39:45 | 色々小説お題ったー(単語)
「四つ葉」「血清」「夜は短し」がテーマ

 彼は周囲にどれほど危険だと諭されようと、彼女の病を癒やすには月の見えない夜にしか見付けられない四つ葉の薬草が必要なのだと言いながら夜の森を一人で彷徨う。そして、時折街で彼と出くわした相手は彼女がどれ程に美しく繊細か熱を帯びた口調で語られる。
 だが、病が癒えたら彼と結婚するのだという彼女の姿を、実は誰も見た事がないのだ。
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場面その15

2016-09-24 01:45:54 | 松高の、三羽烏が往く道は
「何というのか……正真正銘の化け物だな、あの人は」
 昼食の誘いを断り倉上邸を辞した後、取りあえずは何処かで蕎麦でも手繰るかと連れ立って通りを進む途上でふと優吾が呟くと、それに関して異論は無いと答える信乃。
「しかし、お前も相当だぞ。あの人を前に一歩も引かないで渡り合えるとは」
 我知らず喉の辺りに手をやる優吾に、信乃は極めて不本意そうに言った。
「アレは平気だった訳じゃない。とにかく喰われないようにと気を張っていただけだ」
 しかも向こうはそれすらお見通しと来ている、実際敵う相手じゃないな。そんな風に続く信乃の言葉に優吾も頷く。
「……ところで優吾、お前は『名は体を表す』というのが本当だと思うか?……もっと露骨に言ってしまうと、秀一さんと俺は似ているか?」
 優吾の方に視線を向けぬまま投げかけられる信乃の問い掛けに、優吾は敢えて己の歩む足を止め、数歩ばかり先行してから驚いたように振り向いて優吾を見詰めてくる信乃を見据えながら答えた。
「お前が自分の名前を嫌っているのは知っているが、今回の騒動の元凶になった女学生の名前は優香だ、俺の名前と大して変わらん」

 第一、今はお前がそんな事で悩んでいられる状況では無いと思うぞ。秀一さんには策があると言っていたが、あれは本当か?

 そんな優吾の言葉に信乃は一瞬だけ胸を突かれたような表情になったが、やがて普段通りの柔らかな笑みを湛えた表情に戻ると、殊更に余裕を含んだ口調で断言する。
「勿論だ」
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場面その14

2016-09-23 22:48:59 | 松高の、三羽烏が往く道は
 秀一が今の圭佑とほぼ変わらぬ年頃だった昔、彼には幼い頃より親同士に定められた婚約者がいた。そこには当然ながらお互いの意思は介在していなかったが、秀一自身は大店の跡継ぎという己の立場を充分承知していたし、何より華やかで明るい雰囲気を持つ婚約者の美登利に不満はなかった。ただ一つの懸念材料と言えば幼い圭佑が何故か美登利に近付こうとしなかった事だが、むしろ秀一にとってはその方が有難かった。成長するにつれて自分に懐いて来るようになった弟を、当時の秀一は毛嫌いしていたのだ。

「しかし、流石に美登利から『どうしても大金が必要になったけれど、貴方以外に頼る相手がいない』と縋られた時は戸惑いましたよ」

 大店の跡取りとは言え若輩の秀一に大金など有る訳が無い。かと言って商家の跡取りとして厳しく躾けられた彼に『店の金に手を付ける』いう行動は思考の埒外だったし、何より現実的に不可能だったろう。
 それでも秀一は何とか必死に自力で掻き集められるだけの金を用意して、誰にも気取られぬように細心の注意を払いながら美登利との待ち合わせ場所に向かった。

「そして私は、待ち合わせ場所に指定された県境に通じる峠道で何処か見覚えのある男に刃物で刺されて財布を奪われ、程近い林の中にあらかじめ掘ってあったらしい穴に埋められた訳ですが……男の傍らには美登利が居ました」

 物言わぬ骸が土中で腐りながら蟲に喰われて肉と腸(はらわた)を失い、やがて白骨と化しても決して消え去る事のない憎悪。
 人間にこのような表情が出来るのかと、優吾などは己の背筋を這い上ってくる痺れに似た冷気に身震いを禁じ得ないらしいが、信乃は相変わらず悠然と微笑んだまま尋ねる。
「確か真相は、大店の令嬢が下男と駆け落ちする際に、逃走資金を得るのと時間稼ぎに本来の婚約者を陥れたと言う辺りだったそうですが」
「結局は、そういうことだったらしいですね」
 実にあっさりと冷酷な事実を認めてから、それでも『全く女は怖い』などと笑ってみせる秀一。
「そういう訳で、私は本来なら大店の跡取りという重責に耐え兼ね、許嫁を連れて駆け落ちした大馬鹿者の烙印を押されたまま山の中で埋まっていた筈なのですが」
「何故か、そこに圭佑が現れたと」
 早急な信乃の態度に秀一は言葉を止めて眉を顰めたが、すぐに一人納得したように頷いてから再び話し始める。
「実際、三つになったばかりの子供が家の者に気付かれぬまま、しかもほんの僅かな時間でどうやってあんな山奥まで辿り着けたのかは未だに解らないし、圭佑も覚えていないそうなのです」
 そして結論だけ言ってしまえば、『兄ちゃん、兄ちゃん』と山道で泣いていた圭佑を見付けた通りすがりの木樵が半死半生の秀一を掘り出し、美登利と下男は獄舎に入る事になったのだった。
「病院で一部始終を知らされて、その時ようやく私は圭佑が『神倉屋のてんにんご』で、私もまた圭佑にとっては守るべき存在だったのだと気付かされたのですよ」
 圭佑が喋るようになったのはその事件以来でしたと話を締めくくる秀一。
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因果

2016-09-23 00:16:11 | 字書きさんにお題出してみったー
『大正時代』を舞台に、『恩讐』と『懐中時計』と『未確認飛行物体』の内二つをテーマ

 切っ掛けは所謂「良くある話」だった。今より少し前、この家の先代主人が狩猟中の森で親子の化け物に襲われて一頭は何とか射殺したが小さい方は逃亡を果たし、それ以来この季節になると自在に宙を飛び回る黒い化け物が一族の人間を襲うのだという。依頼人の話す話がどれだけ正確か、或いは意識無意識の嘘がどれだけ含まれているかは、今のところまだ不明だ。
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予兆

2016-09-22 18:01:15 | 字書きさんにお題出してみったー
『玄関』を舞台に、『自転車』と『傘』と『独立』の内二つをテーマ

 大きなお屋敷ですねと言うのがアイツの感想で、どれだけ稼げばこんな豪邸に住めるんだと言うのが俺の感想だった。折悪しく降り出した豪雨に顔を顰めながら蒸気自動車から降りた俺達。仕方なく、一本しか無い傘で嫌がるアイツと押し合うような格好で俺達が屋敷の玄関を目指した途端に輝く稲光、そして轟音。全く、舞台効果は無駄に満点だ。
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