カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第百夜・空に在るのは彼

2017-10-21 21:28:09 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『みをつくしても』と『空色』を使って創作してください。

 彼は放蕩を重ねた末に病に倒れ、死の淵で神の存在に触れた。そのまま聖職者の道を選んだ彼は人びとに神の愛を語り、本来あるがままの姿を認め、何事も裁くことをせずにその生涯を終え、やがて天に還って神の一部となった。
 だから、彼に会いたければ空を見上げればいつでもそこに居ると、彼女は笑いながら言った。
コメント

第九十九夜・赤い月

2017-10-20 23:56:07 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『月を待ち出で』と『桃色』を使って創作してください。

 人間の脳は、どうやら色についてかなりイメージ認識が強いらしく、特に淡い色は更に濃く、鮮やかに捉えるのか水色を青、濃い茶色を黒と表現しても大概は通じる。そんな意味で血のように赤い月と称される色彩は大体がくすんだ朱色なのだが、確かにそれは血を連想させる不吉な色合いに見えるのだった。
コメント

第九十八夜・有難いお言葉

2017-10-19 22:50:26 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『名にし負わば』と『墨染』を使って創作してください。
 
 聞いた話だが、生前はどんな宗教の信者であろうと成仏させる際は般若心経を唱えるという霊能者がいて、必要かつ重要なのは心経に綴られた言葉の意味なのだそうだ。そんなものなのかと思っていたら、先日百均で心経の練習帳を見付けたので購入した。これで意味も書き方も学習できるが、若干有り難みに欠ける気はする。
コメント

第九十七夜・台風一過

2017-10-17 22:35:53 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『乱れ染めにし』と『瑠璃色』を使って創作してください。

 凄まじい暴風を伴った豪雨が過ぎ去った後の空は、様々な形をした雲の残骸が取り残されたように黄昏に染まり、まるで頭のいかれた前衛芸術家が思うさまに画材をぶちまけたような惨状を呈していた。
 そんな中にウチで飼っていたミイによく似た姿を見付けて、私はただ涙を流す。あの日、癇癪持ちの父が振るったゴルフクラブは家の中を今の空と同じ光景に替え、ミイを奪ったのだ。
コメント

第九十六夜・紅葉おろしのゴルゴ

2017-10-16 21:08:32 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『月を待ち出で』と『紅葉色』を使って創作してください。

 うちのゴルゴは、目付きの悪さとサイズのデカさが近所でも評判の三毛猫だが、何故か二つ名を「紅葉おろしのゴルゴ」という。
 一体、どうしてそんな怪しげな名前で呼ばれるようになったのだろうと悩んでいたら、ある月の綺麗な晩に、ゴルゴの体重を支えきれなかったらしい紅葉の枝と一緒に僕の眼前に転げ落ちてきたので、だいたい納得した。
コメント

第九十五夜・てんでんご

2017-10-13 22:52:49 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『わが身一つの』と『藍色』を使って創作してください。

 天災時、いざという時に自分だけが逃げられるのか。そんな答えを即座に出せる人間は多分少ないだろう。だが、危険を察知した直後に家族を含む全てを振り捨てて命を永らえた時、私は自分がどれ程までに他人に対して冷酷になれるかを知った。だから現在、振り捨ててきた命の重みの分も含めて、どれ程の孤独に苛まれようと一人で生き続けるしかないのだ。
コメント

第九十四夜・大判焼きのララバイ

2017-10-12 22:56:22 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『立ち別れ』と『小豆色』を使って創作してください。

 故郷で過ごす休暇を終え、下宿先に帰ることになった僕に、珍しく父が何か包みを渡してきた。
 電車に乗ってからそれが大判焼きだと知った僕は、一応下宿先に着いた連絡時に礼を言っておいた。

 それからずっと、父は帰省した実家から新居に帰る僕に大判焼きを手渡してきて、お陰で僕は、昔は大嫌いだった筈の大判焼きを完全に食べ慣れてしまった。
コメント

第九十三夜・野生の帝国

2017-10-11 20:23:49 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『降れる白雪』と『雀色』を使って創作してください。

 古い言葉だが、冬の雀を『ふくら雀』と呼ぶことがある。寒い冬を乗り切る為に精一杯羽毛を膨らませ、文字通りふっくらとした外観となった雀だが、その姿が可愛いと思って近付くと、特に人間を恐れない都会の雀はトラウマになるレベルで物騒な目付きをこっちに向けて来る個体も少なくないので、注意が必要だ。
コメント

第九十二夜・花の終わり

2017-10-10 23:16:06 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花の色は』と『桜色』を使って創作してください。

 昔の貴族達が詠んだ歌では花と言えば桜で、だから花の色は桜色なんだよと言った彼は、夏に咲く鮮やかな色彩の花に心を奪われて私に問答無用の別れ話を切り出してきた。やがて夏の花がその色彩を失う頃、疲れ果てたように彼は戻ってきたが、その頃の私が纏っていたのは淡い桜色ではなく、血のように赤い紅葉色だった。
コメント

第九十一夜・降り続く花吹雪

2017-10-09 17:57:16 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『風のかけたる』と『桜色』を使って創作してください。

 たまに、漫画やドラマで吹雪のように渦巻く桜の花片を見ることがある。
 春の薄い色彩をした青空や星の見えない闇夜に散り急ぐ大量の花吹雪は、概ねは華やかでありながら同時にひどく物哀しい演出となるが、実は強い風に煽られて飛び回る桜の花弁は凶器同様で、頬に当たると結構本気で痛く、以降は花吹雪に対して抱いていた儚げなイメージが変質せざるを得ない。
コメント