狭いアパートのベランダで家庭菜園を始めたら鉢と苗が収拾の付かないレベルで増殖してしまい、洗濯物すら碌に干せない状況に陥って困っていたら、先輩が自宅の使っていない裏庭を貸してくれると言った。
まずは整地だとばかりに喜び勇んで借り物の鍬を振るって土を耕していたら、何だか良く判らないモノを掘り出してしまったので、取りあえずじっくり観察してみたところ、どうやら土に還りかけた猫らしいと判った。
※ ※ ※
「先輩!庭を掘ったら猫が出てきたんですけど!」
「ああ、そう言えばウチの歴代猫、昔は結構あそこに亡骸埋めてたな、忘れてたわ」
「忘れてたわ、じゃないでしょうが!祟られたらどうしてくれるんですか!」
「ああ大丈夫、祟らん祟らん」
「断言出来る根拠を示してください」
「いちいち細かい奴だな、ちょっと待ってろ」
※ ※ ※
「待たせたな、取りあえずコレを見ろ」
「これって先輩の猫アルバムじゃないですか、いったい何冊あるんですか」
「コレは滅多には他人に見せない別巻だ、ほれ」
「…… 猫、写ってないですよね」
「何を言う、こんなに楽しそうじゃないか」
「煙にしか見えません、つーか心霊写真ですかコレ!」
「だから猫だと言っているだろう」
「何処が猫なんですか」
「うちの猫は死んでからも暫くの間、こうやって家の中をウロウロしている」
「いや、だから」
「だが、大抵は一月もしないうちに気配が消えて、そうすると新しい猫がやってくる」
「あのですね、先輩」
「どうやら猫の輪廻は人間よりサイクルが早いらしいな」
「もしもーし」
「そんなわけで、朽ちかけた身体に未練たらしく留まっているような猫は家にはいない、納得したか?」
「…… 掘り出した猫、庭の隅に埋め直してきます」
※ ※ ※
少し深めに掘った穴に猫を埋め戻した僕は、ふと思い立ってアパートに戻ると、以前先輩から貰った短めのお香とマッチを持って再び先輩宅の裏庭を訪れた。そのまま掘り出してしまった猫の眠りを妨げたことを詫びつつ、庭の隅で土に挿したお香に火を灯して手を合わせる。
どうか安らかに眠って祟ったりしないでください。
そのお香が猫専用のマタタビ入りだと先輩が教えてくれたのは、お香の匂いを嗅ぎつけた近所中の猫が安らかな眠りを余裕で妨げる音量で騒ぎ出してからだった。