カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「来世」「時間」「激しいツンデレ」ジャンル「SF」より・あいたくて、あいたくて

2015-01-28 20:19:47 | 三題噺
 二度と貴方に会いたくないと、彼女は死の間際に呟いた。

 だから僕は長い時間を何度も生まれ変わりながら彼女の「貴方に会いたかった」という言葉を待つ。生まれ変わった新しい彼女に何度も何度も「二度と貴方に会いたくない」と繰り返し宣告されながら。

 そして、きっと彼女から「貴方に会いたかった」と告げられた時、僕に与えられた全ての時間が終わるのだ。
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「宇宙」「墓標」「嫌な子ども時代」ジャンル「ギャグコメ」より・我が往くは星の砂漠

2015-01-27 19:46:08 | 三題噺
 僕は地球で産まれ、宇宙移民団の率いる船内で育った。
 故郷を離れる際、好きだったあの子は次の便の船で同じ惑星を目指すと話してくれたので、僕は彼女を待つと決めた。

 そして冷凍睡眠を繰り返してもなお20歳ほど肉体年齢を重ねた頃にようやく惑星に辿り着いたのだが、僕らの船団が旅立ってすぐに飛躍的に移動時間を短縮できる亜空間飛行が開発されたのだそうで、大人になってしまった僕は後発だった筈の開拓団が完璧に開発し尽くした地で、別れたときと殆ど変わらない年頃の彼女と再会することになった。
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「屋敷」「金庫」「希薄な主人公」ジャンル「ミステリー」より・大いなる遺産

2015-01-26 19:28:13 | 三題噺
 男の遺言書によると屋敷は妻に、土地は兄弟に、貴金属と骨董品は姉妹に、そうして寝室の金庫の中身は全て息子にとあった。
 度重なる警察沙汰で一族に散々迷惑を押し付けてきた三文安の阿呆でも、やはり父親にとっては可愛い子供だったかという重い溜息と主に親族会議は終了する。

 そしてその晩、男の息子が大量の有価証券や権利書を想像しながら嬉々として開けた金庫に一枚だけ入っていた紙には、
たった一言「はずれ」とあった。
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ヨナスとペートイック・その2

2015-01-24 15:41:05 | 犬使いの果実
 犬使いとなったヨナスと彼が使う犬たちは、彼の父を含めた代々の犬使いがそうであったように極めて優秀な猟師と猟犬になった。
 ただし狩るのは獣ではない。祖国において重要な役割を持ちながらそれを放棄して国外に逃亡しようとする人物、及びその関係者だった。それは曾祖父の代から続いている『仕事』であり、ヨナス自身も疑問に思ったことはない。何よりヨナスに下されるのはあくまで対象の捕獲で、余程のことがない限り彼の犬が人を殺すことはなかった。
 そしてヨナスは彼と彼の犬に『仕事』を命じた政府の目的も、彼が狩り出した相手が何を考え、どのような事情を抱えているのかも全く頓着することはなかった。彼は自分が国に雇われた猟師であると認識し、自分の犬を使って『狩り』を遂行するだけの存在だった。
 そう、あの日でさえも。

 犬たちが追い詰めた『獲物』の背には切り立った崖。その遙か下には岩を砕く激流。
 逃れようのない状況下でありながら、それでも眼前の『獲物』であるペートイックの表情に怯えは見られなかった。
「……やはり君が来たか、ヨナス」
 懐かしい筈の友人との再会に、ヨナスは表情を消し去ったまま言った。
「このまま大人しく連行されるなら、不必要な危害を加える気は無い」
 しかし、ペートイックは微笑みに見えなくもない表情を浮かべながらゆっくりと首を横に振った。ヨナスは更に続ける。
「せめて、お前にだけは危害を加えたくない」
 直後にペートイックの表情が歪む。ヨナスが己の失言に気付いたときには手遅れだった。
「そうか、義父はもう、殺されたんだね」
「俺の犬が追っていたら、絶対にそんなへまはさせなかった」
 今となっては無意味な、しかし言わずにはいられなかったヨナスの弁明に、今度は微かに頷いてみせるペートイック。
「勿論だよ。君も、君の犬たちも、とても優秀だからね」
「それが判っているなら」
「ところで君にも話したことが無かったが、僕は義父に引き取られるまで国の教護施設で暮らしていた」
 正直、あそこでの生活はあまり思い出したくないと続けるペートイックの話に、ヨナスは犬たちの待機状態を解かぬまま無言で続きを促す。
「確か僕が七歳になる少し前だ。その日、養護施設で食事を摂った人間のほぼ全員が死んだ、大人も子供も血を吐いて苦しみながら、みんな死んでいった……僕一人を除いて」

 血ヲ吐イテ、苦シミナガラ
 ミンナ、死ンデシマッタ

 ヨナスの脳裏に浮かぶのは『選別』の光景。
 犬使いの果実を与えられ、死んでしまった沢山の子犬たち。
 あの時までヨナスが一番可愛がっていた子犬、どうかこの子は生き残りますようにと何度も祈った子犬すら、結局は助からなかった。
「……まさか」
 やっとの思いで掠れるような声を絞り出すヨナスに向かって、ペートイックは更に言葉を重ねる。
「この国からの逃亡準備を整えてから、義父は『悪魔の所業に手を貸した自分を許してくれ』と泣きながら跪いたよ……僕は、義父と一緒に暮らせてとても幸せだったのにね」
 いつの間にか、灰色の雲が重く垂れ込めた空から白い雪が音もなく降り始めた中、ヨナスは絞り出すような口調でペートイックに向かって訊ねる。
「お前は、この国から出て一体何を望む……世界では『自由』などと呼ばれるものか?」

 そうだとしたら、そんなものは存在しないとヨナスは続けた。
 ペートイックがこの国に生まれたように、ヨナスが犬使いの家に生まれたように。
 全ては生まれたときから「決まっていた」事なのだと。

 しかし、ペートイックはいつものように柔らかく微笑むと緩やかに首を横に振ってから答えた。
「この国が強いた軛(くびき)から、この国の全てを解放する。
 それが恐らく、あの惨劇から僕一人が生き残らねばならなかった理由だ」
「……止めろ」
 己の裡で何か得体の知れない感情が蠢き始めているのを感じながらヨナスは呻く。しかし、ペートイックの言葉は更に続いた。
「ヨナス、君は本当に『犬使い』以外の存在にはなれなかったのかい?
 僕の義父から本気で『出来れば研究室に残って欲しかった』と惜しまれる能力を持っていた君が」
「止めろ!」
「本当は君だって判っているんだろう、この国は間違ってしまった。僕はその間違いを正したいんだ」
「止めてくれ!」
 これ以上ペートイックの言葉を聞きたくないとヨナスが耳を押さえた直後。
 不意に待機を命じていた筈のグレイプニルがヨナスに向かって飛びかかり、その顔を爪で抉った。
「……!」
 主人の指示には絶対に服従する筈の犬が突然犯した命令違反にヨナスの思考は一瞬だけ停止する。そして、それ故にペートイックがグレイプニルを突き飛ばして体勢を崩し、そのまま足を踏み外して崖下に転落していくのをただ見ていることしか出来なかった。
 更に厄介なことに降り始めていた雪はいつの間にか激しく吹雪き始めており、犬たちとヨナス自身の安全を考えるとペートイックの捜索は中途で一時断念せざるを得なかった。ただし、吹雪の中で真冬も凍ることのない川の激流に転落した以上、ペートイックの生存は絶望的と、ヨナスをペートイック捜索に差し向けた上司も判断した。
 ヨナスは任務を果たせなかった責を問われたが、それも上司の取りなしと、現在までの国に対する貢献度から結局はごく軽いもので済んだ。
 
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「雨」「彗星」「憂鬱な存在」ジャンル「指定なし」より・流星拳と彗星打法

2015-01-22 21:28:17 | 三題噺
 例え流星が雨のように降り注いでも、それを纏めて彗星には出来ないよな、そもそもモノが違う。

 などとドヤ顔で迫ってきた奴が本当は何を言いたいか、非常に不本意なことに俺には判ってしまったので、取りあえず礼儀として突っ込んでやることにした。
「それはひょっとしてペガサスのアレか?」
「いや、ジャコビニのアレだ」

……聖闘士星矢ならともかく、アストロ球団なんて知っている若い衆が現在この国にどれだけ棲息しているかは知らない。
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「湖」「レモン」「家の中の才能」ジャンル「時代小説」より・非時香菓

2015-01-21 20:45:46 | 三題噺
 昔々のお話。

 旅人には良く湖と間違えられる小さな海の岸辺に、ある日、見慣れない黄色の果実が流れ着いた。
 果実は半ば腐りかけていたが、それを見つけた農夫は丁寧に皮を剥き、中の房から取り出した種を自分の畑に撒いた。

 数年後に実った果実は非常に酸っぱく、そのままでは食べることが出来なかったが、蜂蜜や酒に漬けたものを飲むと疲労や風邪の回復薬になることがわかり、やがて評判を聞き付けた殿様が栽培を奨励した。

 お陰で、現在もこの地方は果実の園だ。
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「神様」「十字架」「おかしなかけら」ジャンル「純愛モノ」より・断罪

2015-01-17 21:35:44 | 三題噺
 二人がかりで数日かかって拾い集めた欠片を全部繋ぎ合わせても、砕け散った十字架が元の姿に戻ることはなかった。
 私が崇めていた貴方という神様は破片の隙間の僅かな罅割れから崩れ落ちていき、二度と輝くことはないだろう。

 それは、十字架を私に対する盾にしようとした貴方の罪なのか、十字架を貴方に向かって剣として振りかざした私の罪なのか。
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「昼」「指輪」「最速のカエル」ジャンル「王道ファンタジー」より・貴方を捜して

2015-01-15 20:36:39 | 三題噺
 恋人を蛙に変えられた娘は、蛙と化した恋人と力を合わせて命懸けで千の山と谷を越え、行きがかりから龍を倒し魔王を打ち臥せ世界を幾度となく救いつつ大魔法使いの元に辿り着いた。
 しかし、彼を元の姿に戻したいと言った娘に大魔法使いはこう答えた。

「道中は恋人が蛙で何か不都合が発生したか?人間に戻ればそうはいかんぞ」

 二人が思うのは旅の道中で繰り広げられた様々な物語と、それ故に深まった絆。
 恋人が人間だったら、決して成し遂げられなかった数々の冒険。

 結局、娘と蛙は大魔法使いに礼を言うと再び新たな冒険の旅に出ることにしたのであった。
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「野菜」「糸」「見えない物語」ジャンル「純愛モノ」より・夏の収穫

2015-01-12 21:37:46 | 三題噺
 爽やかな夏の日、俺と幼なじみは周囲の祝福を受けながら結婚式を挙げて夫婦となった。

 やがて子供も大きくなったある日、知り合った頃から変わらず明るくて気立ての良いままの彼女がどうして俺のような冴えない男の申し出を受けてくれたのかと尋ねたら、小学四年生の夏休みでクラスの野菜畑に水をやりに行った時、赤いトマトに齧り付いた時の幸せそうな顔に運命を感じ、しかし流石に自分からは言い出せないまま歳月ばかりが流れ去っていくうちに俺から告白され、本格的にその気になったのだそうだ。
 どうやら俺たちの運命はトマトの果実のように徐々に赤く熟していき、やがて程好い加減で収穫と相成ったらしい。
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「空気」「タライ」「役に立たないかけら」ジャンル「王道ファンタジー」より・儀式

2015-01-12 03:27:40 | 三題噺
 月夜の晩、水晶鉢に水を張って貴石の欠片を沈めて呪文を唱える。
 ざわり、と音を立てて空気が蠢くと水晶鉢の中の貴石が瞬く間に形を変えて大きくなっていき、人の形を取った直後に砕け散った。
「……失敗か」

 妻を失った魔道士は、己の妻を再び手に入れるため何度でも何度でも同じ儀式を繰り返す。そんな態度こそが彼の元から妻を去らせた元凶であると気付かぬままに。
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