名探偵の解答その88・時計仕掛けの林檎

有名な素人探偵であるたかあきに、隣人から『彼方の連隊』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に非凡のようです。

　時計仕掛けでありながら一見は普通の林檎。そんな状況に擬えた「人知れぬまま謎の勢力に制圧された街」をテーマにした創作は数多いが、不自然な時間に道路を通行する連隊について調査を始めた自分が、まさかいつの間にか自分や自分の周囲も含めて、その林檎の歯車にされていたとは流石に想像もつかなかった。　

骨董品に関する物語・紺碧の祈祷書

　海が青いのは水が赤光を吸収して青光のみが海底に届くからで、更に紫は人間にとって非常に視認しにくい色でもある。普段から家族に対して愛を示そうとしなかった父が、とうとう母に見限られ家を出て行く事になった時、娘の私に対して枯れた菫を挟んだ紺碧の祈祷書と共に残して行った言葉だ。

梅雨時の創作怪談・黒い糸

　昔から人間に絡み付く黒い糸が見えた。それが人間の怨恨から発するものだと気付いたのは最近だが、たまに地肌も見えない程に糸が絡み付きながら元気な人間もいて平気なのだろうかと思っていた。だが、ある日路上で激しく怒鳴り散らす男に糸が絡み付いた直後、全ての糸が男を締め上げるのを目撃した時、あのか細い糸が男にとって最後の一本だったのだと悟った。

名探偵の解答その87・真の殺意は殿に控える

稀代の名探偵であるたかあきに、謎の紳士から『甘き殺戮』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に肩透かしのようです。

　自分は人を殺したかもしれないと告白してきた謎の紳士は、事の真偽に対する調査を私に依頼してきた。貴方なら真実に辿り着けると信じていますという紳士の言葉通りに私は紳士の疑念を晴らし真犯人を見付けたが、全てが終わった後で紳士は笑いながら、これで私も本当の人殺しにならずに済んだと言った。

名探偵の解答その86・根本問題からの解決

事務所を開設したばかりの新米探偵であるたかあきに、伯父から『動かぬ盗難』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に残酷のようです。

　世間体を考え新米探偵の俺に仕事を依頼してきた伯父は、疲れ果てた表情で、もう妻の盗癖を庇えないと言った。確かに伯父の社会的な立場からすると配偶者の不祥事は看過できないだろう。だから俺は窃盗を繰り返す伯母さんに対して彼女のストレス源である夫が長年繰り返す不倫に対する証拠書類を渡した。

骨董品に関する物語・マイクロフォトグラフ

　人間が手に入れられる世界なんて、所詮はこの掌に乗る程度のちっぽけなものだと嗤った彼は、やがて父親の会社を継いで世界を動かすに足りるだけの権力を振るい暴虐の限りを尽くした挙句に殺されたが、奴がその掌に掴み取りたかった世界というのは実際の所、一体何だったのだろうか。

骨董品に関する物語・透かし細工のロケットペンダント

　ずっと長い間、狭い檻のような場所から外を眺める夢を見ていた。ただ、美しい意匠の細工が施された格子の向こう側から見詰めてくる瞳の持ち主は優しく愛の詩を囁き続け幸せだった。そんなある日、瞳の持ち主が寂しそうに格子を開いてバラバラニなった私を取り出し、もう一度飛んでごらんと囁く。

名探偵の解答その86・ホワイトブレス

有名な探偵であるたかあきに、仇敵から『白き楽器』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に非凡のようです。

　かつての親友であり、僕の婚約者を略奪した仇敵でもある男が己の妻の不審行為について調査して欲しいとやってきた。君なら感情と仕事は別と考えるだろうとぬかす奴の言葉に、僕は久しぶりに白い服が良く似合って素晴らしい歌声を響かせる彼女の姿と、当時から謎だった彼女の癖について思い出していた。

名探偵の解答その85・グラス・エイジの罅

全く無名の探偵であるたかあきに、謎の紳士から『可愛い空白』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に難解のようです。

　あまり公にしたくない案件だと謎の紳士が依頼してきたのは、誘拐された子供に関するものだった。とは言っても犯人が逃走したとはいえ子供は既に保護されていて、紳士が知りたいのは子供が覚えていない誘拐中の出来事だという。調査を始めると案の定ろくでもない事実が発覚し、その結果として俺は凄惨な復讐劇に巻き込まれろことになった。

名探偵の解答その84・仏の顔も三度目は無い

子供に大人気の探偵であるたかあきに、強欲な婆さんから『冷たい楽器』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に難解のようです。

　昔、屋外で聴いた琴のような楽器が何か知りたいという依頼はともかく、期限を切ってそれまでに見つからなかったら契約はチャラ、金も払わないと宣言された。嫁の母親でなかったら叩き出している所だが楽器の心当たりはあったので、近所の神社に設置された水琴窟を紹介したら簡単すぎると調査料金を値切られた。