カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

[ 掴む / ブラックホール / 正義(ジャスティス) ] より・正義のために

2015-06-30 23:25:28 | 三題ランダムキーワード
 正義の味方を始めて以来、抉るような一撃で悪漢を屠る姿が評判になりつつある友人が、自分の必殺技の名前を決めたいとオレに相談してきた。技の名前を決める前に実戦投入したのかと突っ込んだら、とにかく雄叫びを上げながら撃ち込んでいたら先輩から『それでは正義の味方らしくない』と指導を受けたのだそうだ。
 結局、ああでもないこうでもないと二転三転した挙げ句、奴の必殺技名はブラックホールサンダーという意味不明のものになった。
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[ 飲む / インク / 技(アーツ) ] より・一芸に秀でる

2015-06-29 21:08:48 | 三題ランダムキーワード
 物質変換魔法で唯一覚えられたのがワインやジュースをインクに変えるという技だった僕は、当然のように魔法学校を卒業出来なかったが、故郷に帰って代書屋を始めた僕の使うインクは、滲まず変色せず嫌な匂いもしないという理由で多くの買い手が現れた結果、僕は雇い主を持たない貧乏魔法使いで喰っていくよりは裕福な生活を送れるようになった。
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[ 嫌悪 / 声 / 恋人たち(ラヴァーズ) ] より・永遠に貴方を愛します

2015-06-26 21:43:11 | 三題ランダムキーワード
 むかしむかし、不幸な魔女は幸せな恋人達を憎んで愛を語る声に呪いを掛けた。
 呪いは密やかに、だが確実に恋人達の間に毒をもたらし、蓄積された呪いはやがて二人を破局へと導くのだった。

 だから、もし貴方と貴方の恋人の間に隙間が出来た時、その隙間をお互いの毒で埋めることしか出来ないのなら、二人が魔女の呪いに打ち勝つことは不可能だろう。
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[ 不安 / 手紙 / 無感動(アディシェス) ] より・届くはずの無い手紙

2015-06-25 21:44:49 | 三題ランダムキーワード
 手紙が来るのだけを待ちながら生きていた頃がある。
 その頃、大体は午前十時過ぎと午後三時過ぎの一日二回届くはずの手紙を求めて何度も何度もポストを覗き、期待外れのダイレクトメールを破り捨てるのが日課だった。実際、手紙をくれる人は何人かいたが毎日届くわけでも無く、終いには夢の中で何度も来るはずの無い手紙を受け取っていた。夢の中で読んだ手紙は目覚めると何処にも見当たらず、読んだ筈の内容も覚えていないのだ。
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[ 退屈 / 杏 / 女教皇(プリエステス) ]より・杏革命のはじまり

2015-06-24 18:18:17 | 三題ランダムキーワード
 詰まらないものなら持ってこなければ良いのに。

 女教皇はそう言って信者からの貢ぎ物だった杏のタルトを次女たちに下げ渡した。
 そしてその晩、タルトを口にした侍女全員が血を吐いて死んだ。

 毒殺犯はすぐに捕まったが、女教皇が無事だった上に死んだのが身分低い侍女だったので処罰は比較的軽いものとなり、広場に引き出された犯人は衆人環視の中、一撃で首を刎ねられた。
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[ 切ない / ビーズ / 調整(アジャストメント) ]お揃いの記憶

2015-06-23 20:21:09 | 三題ランダムキーワード
 子供の頃にお気に入りだった、あの子とお揃いのビーズ細工のブレスレットはもう小さ過ぎて私の腕に嵌まらない。例えテグスを解いて新しいビーズを継ぎ足したとしても、きっと古いビーズとは色も形も合わないだろう。

 それと同じように、私とあの子が再び手を繋ぎ合う事は二度と無いのだ。昔はあんなに仲良しだったのに。
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[ 愛憎 / 楽器 / 悪魔(デビル) ] より・悪魔のトリル

2015-06-22 19:35:47 | 三題ランダムキーワード
 悪魔と契約した結果、天上の楽とも魔界の魅了とも賞される音楽を奏でる事が出来るようになったが、引き換えに己が積み重ねて来た努力と鍛練の日々を自ら否定する事になった。
 無力感に苛まれながらも楽器を捨てられない私に、悪魔はその無力感こそ貴様が悪魔に魂を売り渡した証であり、同時に支払うべき対価だと嘲笑った。
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[ 怪しむ / 鋏 / 慈悲(ケセド) ] より・呪いの終焉

2015-06-19 22:35:29 | 三題ランダムキーワード
 怪しむ間もなく耳元で鋏が鳴り、髪の毛が散り落ちる。男の手には床屋用の鋏があり、私の髪はそれで切られたらしい。

 何があったのか判らず呆然としていると、床に散った私の長い髪が、まるで足のない虫が暴れるようにのたうち回ってから嫌な匂いと共に焦げ縮んだ。そこまで確認すると、これでもう大丈夫だと男が笑いながら鋏を仕舞う。

 髪を媒体に掛けられたという私に対する呪いは、こうして終わった。
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[ 嫌悪 / 手袋 / 理解(ビナー) ] より・好奇心が殺すモノ

2015-06-18 18:57:00 | 三題ランダムキーワード
 手袋を嵌めた手で握手を求められたので戸惑っていたら、素手で触ると相手の思考が流れ込んでくるのだと説明を受けた。しかも記憶に溜め込まないようにそのまま口に出してしまうので非常に危険なのだと言われたので、自分は平気だと素手の握手を強行した。
 そして大変な思いをする事になった。

「だから危険だと言ったでしょう」
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[ 触れる / 葡萄 / 女帝(エンプレス) ]より・残酷な女帝の為の葡萄

2015-06-17 18:49:16 | 三題ランダムキーワード
 女帝がたおやかな手で摘み取った葡萄の房は、その実の一つ一つが人間の首の形をしている。
 首たちは女帝に向かって必死の表情で何かを懇願し続けるのだが、女帝はその声に対して僅かに顔を顰めるばかりで何も答えぬまま、その紅に染まった爪先で実を房からもぎ取っては口に運び、噛み締める度に笑顔を浮かべるのだ。
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