愛されることが下手な春売りさんと迷子の子どもの「はじめまして」から「さようなら」まで
昔、迷子になった見知らぬ街で春売りのお姉さんに出会ったことがある。籠の中で蠢いていたハムスターのような生き物は、上手く育てれば全長四〇メートル体高三〇メートルに及び、背中に奇麗な桜色の花を咲かせたまま何処にでも春を運んでいけるようになるのだそうだ。一匹欲しかったが、その時の私はお金がなかったので仕方なく諦めた。やがて目的地に辿り着いてからよく考えてみると、その『春』は己の巨体で街を含む周囲を全て薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしながら進んでいくのではないだろうかと思い至った。
以来あの街に足を向けたことはないが、お姉さんは未だに春を売っているのだろうか。
昔、迷子になった見知らぬ街で春売りのお姉さんに出会ったことがある。籠の中で蠢いていたハムスターのような生き物は、上手く育てれば全長四〇メートル体高三〇メートルに及び、背中に奇麗な桜色の花を咲かせたまま何処にでも春を運んでいけるようになるのだそうだ。一匹欲しかったが、その時の私はお金がなかったので仕方なく諦めた。やがて目的地に辿り着いてからよく考えてみると、その『春』は己の巨体で街を含む周囲を全て薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしながら進んでいくのではないだろうかと思い至った。
以来あの街に足を向けたことはないが、お姉さんは未だに春を売っているのだろうか。