カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

春が来る

2016-04-29 12:50:04 | 依頼です、物書きさん。
愛されることが下手な春売りさんと迷子の子どもの「はじめまして」から「さようなら」まで

 昔、迷子になった見知らぬ街で春売りのお姉さんに出会ったことがある。籠の中で蠢いていたハムスターのような生き物は、上手く育てれば全長四〇メートル体高三〇メートルに及び、背中に奇麗な桜色の花を咲かせたまま何処にでも春を運んでいけるようになるのだそうだ。一匹欲しかったが、その時の私はお金がなかったので仕方なく諦めた。やがて目的地に辿り着いてからよく考えてみると、その『春』は己の巨体で街を含む周囲を全て薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしながら進んでいくのではないだろうかと思い至った。
 以来あの街に足を向けたことはないが、お姉さんは未だに春を売っているのだろうか。
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星の下のクラウン

2016-04-28 19:01:33 | 依頼です、物書きさん。
不眠症の写真家と地味過ぎて目立たない大道芸人、二人のせつないごっこ遊びの話

 眠れないままの散歩中に訪れた真夜中の公園で、年老いた道化師と出会った。古くさいが凝った衣装とメイク姿の彼は、自分はピエロじゃなくてクラウンなんですと笑ってからぎこちなくボールを操って見せ、僕はそれを写真に撮った。夜の灯に浮かび上がった道化師の写真は何処からも需要がなかったが、僕はそれを簡易製本して道化師に渡した。
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割れ鍋には綴じ蓋を

2016-04-27 00:34:26 | 依頼です、物書きさん。
二重人格の長女と迷惑なほど気を回してくる不良、その関係を観察する人物視点の話

 外面だけは異様に良いが身内には非常に暴力的になる姉ちゃんが、何か知らないうちに古き良き時代の不良に目を付けられたらしい。止めておけば良いのにと思いながら放置したら案の定関係は泥沼化し、いつの間にか暴力的な彼女と口うるさいヤンキーという組み合わせの、いつの時代の少女漫画だよという突っ込み必至の校内公認カップルに成り果ててしまった。
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愛こそ全てなら、何故に彼等は

2016-04-26 00:19:58 | 依頼です、物書きさん。
恋愛守備範囲が破綻している小学生とさらっと人を蹴落すサラリーマン、彼らの些細な嘘だけが命綱となった事件

 貴方が好きですと小学五年生の少女に告白された二六歳のサラリーマンが取るべき行動として、親御さんに会いに行くと言うのは些か唐突すぎたかも知れない。が、訪れた少女の家で再会した随分と尊大なライバル会社の部長は愛娘の決意に顔色を変えて狼狽え、事態と僕の立場は随分と面白いことになる。ただ、その時の僕は何故、少女が僕を選んでそんな嘘を吐いたのか全く判らなかった。
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歩み寄る命

2016-04-25 00:08:41 | 依頼です、物書きさん。
じさつするつもりの法律家と一年以上口もきいていない兄が幸せになる話

 人間は往々にして他人の痛みには鈍感で、しかもその痛みが己の理解の範疇外だった場合は大概、的外れか無関心か冷酷かの三択対応となる。そんな訳で法律家の弟の心ない言葉に深く傷付いたまま1年以上も口をきかなくなった兄が、実は自分が口をきかないことで弟に対して同じ痛みを与えていたのだと気付いて心から謝罪した時、結果的にではあるが自ら命を絶とうとしていた弟を救った。
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松高の、三羽烏が往く道は・序章の語り

2016-04-24 23:54:50 | 松高の、三羽烏が往く道は
 さてお立ち会い、これより始まる今は昔の物語。

 昔と言っても、チョンマゲを結って腰に大小を手挟んだお侍が通りを闊歩していたほど昔ではございません。御維新が終わり、明治の御代に始まった文明開化が爛熟期を迎え、日本がロマンとデモクラシーに満ちあふれた大正時代の話でございますから、平成も早三十年を迎えようとしている現在からは百年ほど昔の事でございましょうか。
 そして処は信州、戦国時代から残る名城である松本城下の街、つまりは松本市でございます。六万石には過ぎたる名城なんて揶揄されることもあるようですが、黒い堅固な五重天守と小天守、更に二つの櫓を有する風格ある姿は今も昔も松本で暮らす人々の誇りと言えましょう。
 さてこの松本城から駅に通じる大通りに出て暫し東に真っ直ぐ進むと見えてくるのが県(あがた)の森、現在は疎林の中に図書館や記念館、それに水の流れる小さな公園を有する市民の憩いの場と化しておりますが、実は此処こそ、この物語の主なる舞台となる旧制高等学校、当時は松本高等学校と呼ばれていた学舎が存在していた場所なのでございます。
 これで舞台は整いました。後は役者の登場によって物語の幕開けと相成ります。
 
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ナイト・カーニバル

2016-04-22 19:47:49 | 依頼です、物書きさん。
ある意味とても真面目すぎる不良と異常に人目を気にするチンピラ、彼らが織成す封鎖された遊園地からの脱出劇

 無人の遊園地を歩いてみたいという理由から閉園後の園内にこっそり侵入したら、何かヤバそうな連中がヤバそうな取引をしている現場に出くわし、いち早く気づいた一人に早く逃げろと言われたが他の連中に気付かれて園内を股に掛けた壮絶な追いかけっこが始まった。やがて、実は囮捜査員だった男の仲間達が突入して来てヤバそうな連中は全員逮捕され、何とか命を賭けた追いかけっこは終わったが、俺は当然のように捜査員全員から物凄く怒られた。
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笑って欲しいだけなのに

2016-04-21 20:32:44 | 依頼です、物書きさん。
泣き虫な男と全力で捨て身の笑いを狙ってくる美女が段々おかしくなっていく話

 バナナの皮で滑って転ぶのは駄目だったし、金ダライ直撃もウケなかった。私は死なないと車に突っ込んだ時は警察沙汰になりかけた上に他人の顔をされた。もうどうしたら彼に笑って貰えるのかが判らないと相談してきた友人に、私は真顔で『今すぐ彼から離れて遠くに引っ越し、全く新しい生活を始めなさい』と一応の忠告だけは促した。
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灰になるまで

2016-04-20 21:52:24 | 依頼です、物書きさん。
ある一人以外を忘れた記憶喪失のホストと勤務時居眠り常習者のホステスが、期間限定の相棒(或いは共犯)になる話

 他人の運命に関わる厄介さは嫌と言うほど良く知って来たので、一見華やかな職場に渦巻く有象無象は極力見えない、聞こえないを貫くことにしている。が、己が何者かすら忘れて漂いながら、それでもただ一人に対する強烈な感情だけは消えなかったらしい彼の『ただ一人』が妹を死に追いやった敵であると知った私は、彼と共に今度こそ復讐に向けて行動を起こすと決めた。
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人間の一番外側は見た目

2016-04-19 18:45:39 | 依頼です、物書きさん。
恥ずかしがり屋のスポーツ少年と健康的でいやに行動力のあるニートが救い、救われる話

 人が沢山居るのが嫌だという理由で早朝の町を散歩するようにしていたら、ジャージと言うよりはモロに体操服姿の学生が走りながら挨拶してきた。翌日から同じ時間に顔を合わせることが増えたので何となく話を聞いていると、真面目なのは良いが融通が効かず、遊びも洒落っ気も知らないまま周囲から浮いているようだったので、少し前まで俺が着ていたスポーツブランドのジャージを渡して意識改革から始めることにした。
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