カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「桃色」「トマト」「ぬれた小学校」ジャンル「ホラー」より・桃太郎が降る

2015-04-18 03:44:39 | 三題噺
 上から降って来た桃太郎が校舎脇にべちゃり、と重く湿った音を立てて潰れた。やがて幾つもの桃太郎が同じように地面に叩き付けられて薄い桃色の中身を晒していく。
 当然大騒ぎになったが、真相は夏休み中にたった一人で学級農園で栽培していたトマト、品種名桃太郎の世話をさせられた生徒が更に収穫の手柄を横取りされてキレた結果だった。自分で食べきれない分を駄目にしてやろうと思ったらしい。
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「森」「ミカン」「鑑賞用の遊び」ジャンル「偏愛モノ」より・彼女の首

2015-04-16 18:30:17 | 三題噺
 その森には、まるで熟れ落ちた蜜柑か何かのように人形の首が無造作に転がっているので、知らない人間は大概驚く。
その首は妻を亡くした男が面影を刻んだものなのだが、幾つ刻んでも思い通りの顔にはならぬと次々打ち捨てられたのだ。

男の無念と似ていない妻の首はやがて森に満ち溢れ、腐敗して崩れた後に隅々まで染み渡り、やがて一斉に蜜柑のような首をたわわに実らせた。
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「来世」「ケータイ」「ねじれたカエル」ジャンル「SF」より・泣いて笑って喧嘩して

2015-04-15 22:34:18 | 三題噺
 昔、シャツに貼り付いた姿で喋ったり跳びはねたり人間と同じメシを食ったりする蛙がいたが、この世で一匹しかいなかったので絶滅した。それを悲しんだシャツの持ち主の話を聞いた科学者が残ったDNAから平面蛙の量産化に成功したが、オスしか再生出来なかったので、やっぱり絶滅した。

 ちなみに洗濯は手洗い推奨、脱水機は使わず緩く絞った後でハンガーに掛けて日陰干しを。
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「本」「鷹」「伝説の恩返し」ジャンル「ミステリー」より・鷹の目将軍の足跡

2015-04-14 19:06:29 | 三題噺
 その国の、ある古い書物には『猟師の某、王の鷹を救いて恩賞にあずかる』と記録されている。
 大半の人間はこの文章に興味を持たないだろうし、例え意識の端に引っ掛かりはしても字面通りに受け止めるだろう。だが、この言葉こそが後に「鷹の目将軍」と呼ばれるようになった男についての最初の記録であり、その後、彼が数多の栄光に浴しながら最終的に極めて悲劇的な最期を遂げたことについては、同じ時代の様々な別の書にちりばめられているのだった。
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「桜色」「冷蔵庫」「おかしな才能」ジャンル「ギャグコメ」より・憧れのレインボーカレー

2015-04-13 19:11:01 | 三題噺
 最近、同居人が有り得ない色彩をした料理を作るのにはまっているらしい。
 特に力を入れているのはカレーで、某所で実際に販売されているピンクカレーを取り寄せて研究を重ね、いずれ天然の食材だけで色を表現した「レインボーカレー」を作るのが夢だそうだが頼むから他人を、言うなれば俺を巻き込むな。
 あと、味は変わらぬ筈の青い鶏唐揚げに対して潮がドン引くように食欲が減退していった感覚、アレを忘れるな。
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「地獄」「兵士」「恐怖の目的」ジャンル「指定なし」より・戦場の駒たち

2015-04-12 20:07:07 | 三題噺
 様々な要素を織り込んだ巨大なゲーム版に、様々な能力を組み込んだ戦士の駒を投入して殺し合いをさせる。
 気候、地形効果、偶発的トラブルなどありとあらゆる条件下での戦闘結果がデータとなってプレイヤーに届けられ、それは今後の兵器開発において重要な資料となる。

 使う駒が生きた人間でなければ良い案だと言えるだろう。
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「動物」「鞠」「悪の恩返し」ジャンル「悲恋」より・猫の恩讐返し

2015-04-11 00:54:47 | 三題噺
 鞠を蹴りたくても鞠が無いと、猫を紙袋に押し込んでポンと蹴っていた山寺の和尚さんに少しばかりキツい鉄拳制裁を喰らわしたら、お礼にと猫が一席設けてくれた。酒も料理も上等で、猫又らしい別嬪さんのお酌で気分良く呑みつつかき口説き、当然のようにやんわりと躱され僅かな傷心と沢山の土産を抱えて帰ってきたら、山寺の和尚さんが貯め込んでいたお布施が全部馬の糞に変わっていたと聞いた。
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「北」「クエスト」「最弱の廃人」ジャンル「指定なし」より・北のオズ

2015-04-10 19:21:10 | 三題噺
 そのオンラインゲームで北の賢者と呼ばれる男の元を目指す者は多いが、会える者は殆ど存在しない。賢者の住む山頂までの道は険しく、凶暴なモンスターが徘徊する森には様々な罠が張り巡らされている。そして例え運良く出会えたとしても、賢者が冒険者の悩みを解消したり願い事を叶えてやることは全くない。何しろその正体は、森に阻まれ人里に降りることが出来なくなった引きこもりなのだ。

 だが、それでも彼を訪ねる者は絶えない。
 それがクエストというものだから。
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「地獄」「雑草」「穏やかな城」ジャンル「邪道ファンタジー」より・勇者なんか大嫌い

2015-04-09 20:26:33 | 三題噺
 王位を息子に譲って隠居生活に入った魔王が、若かりし頃に支配を目論んで失敗した人間界での観光旅行中に、彼を地上から撃退した勇者の子孫と遭遇した。どうやら勇者の子孫達は初代勇者の名を乱用して周囲の人間に対して相当に迷惑を掛けたらしく、その孤児に対する周囲の対応も非常に冷たかった。だから魔王は子供を連れ帰って、元は勇者の許嫁だった彼の亡き妻が愛した庭園の管理を任せる事にした。

 そのうち落ち着いたら、初代勇者が絡んだ亡き妻とのラブロマンスを聞かせてやろうと元魔王は思っている。
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「天国」「テレビ」「消えた剣」ジャンル「SF」より・英雄の旅立ち

2015-04-08 19:32:20 | 三題噺
 私が子供の頃、と、船長は話を始める。

 とあるテレビ番組で大好きなヒーローがいた。地球とは異なる星を故郷に持つ男は人間の常識を越えた力を備え、愛と正義の為に戦い続けた。が、ある日唐突にヒーローの顔が変わり、そのままなしくずしに番組も終わってしまった。
 当時ドラマの主役を務めていた役者が自殺したと知ったのはもう少し大きくなってからで、大人達には『せめて死因が自殺でなかったら、子供達にも何とか弁明出来たのに』とぼやく輩もいたが、私はずっと偉大なヒーローである彼が天の大いなる意思に呼ばれ、新たな戦いに赴いたのだと固く信じている。

 この人のルーツは、案外こんな処にあるのかも知れない。
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