カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第四十九景・ヒロイン・シンドローム

2019-02-28 22:03:31 | 桜百景
たかあきは、小糠雨の初恋と桜の花弁に関わるお話を語ってください。

 子供の頃に一番大好きだった男の子にとって、自分が単なる「その男の子が好きな子の一人」でしかないのが理不尽に思えて泣くしかなかったことがある。両親は昔から私の事を綺麗だと言ってくれていたが、私はそれが春に重なり合って咲き誇る満開の桜花のごくありふれた一輪の美しさに過ぎないのだと思い知ることになった。
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骨董品に関する物語・英国ヴィクトリア朝のフォブ(懐中時計の飾り)

2019-02-28 22:01:46 | 突発お題

「時計蒐集は茨道だぞ」
「と言うと?」
「例えばスイス製の時計は数年に一度、精度維持目的で完全に分解した部品一つ一つに新しく油を塗って組み立て直すんだ。勿論人の手でな」
「幾らかかるんだソレ」
「日本円なら高額紙幣三枚前後だそうだ」
「聞かなかったことにしよう」
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第四十八景・恐らくは、春雷

2019-02-27 20:26:06 | 桜百景
たかあきは、迅雷の思い出と桜の上に関わるお話を語ってください。

 幼児の頃だったのは間違いないのだが、妄想なのか現実なのか判断出来ない記憶がある。桜の季節に雨具を身に着けた姿で豪雨の只中を歩いていて、空が妙に明るいのは遠くの空で金色に輝く稲光のせいらしかった。傍らの大人は自分を家まで送ってくれたのだが、それに関する前後の記憶は一切残っていない。
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骨董品に関する物語・リモージュのデミタスカップ

2019-02-27 18:10:30 | 突発お題

 久方振りに住処を訪れた勇敢且つ無謀な人間に対して、慣例に従い「願いを告げよ」と竜が言うと、何故か鱗を調べさせて欲しいと答えが返ってきた。自分は職人だが病で眼をやられ、完全に光を失う前に最高の細工を完成させる為に来たと。相変わらず人間は面白いことを考えるものだと思いながら何かを紙に描き付けたり鱗に触れるだけでなく粘土で型を取ったりする人間の思う通りにしてやったが、あの職人は最期に何を作ったのだろうと考えることがある。
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第四十七景・雪桜

2019-02-26 19:27:04 | 桜百景
たかあきは、粉雪の初恋と桜の幹に関わるお話を語ってください。

 年を経た桜花は徐々に紅色を失い雪のような白い花弁と変わっていくと彼は言い、結局はそれが別れの言葉となった。多分どちらが悪い訳でもなく、お互いが時間という風に晒されて情熱という色彩を失い、たまたま彼から雪のように冷たい言葉を掛けられて終わったのだ。ただ、それ以来私の桜花は春になろうと一向に咲こうとしない。
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骨董品に関する物語・ミルクガラスの小箱

2019-02-26 19:02:18 | 突発お題

「ミルキーみたいで旨そうな小箱だ」
「言っておくが食えんからな」
「さすがに硝子を食うほど悪食じゃないが、ミルキー食いたくなったから買ってくる」
「ならおれの分も頼む」
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骨董品に関する物語・すみれ色の祈祷書

2019-02-26 19:00:22 | 突発お題

 人生の享楽の殆どを神に捧げて生きる神父様も葡萄酒を嗜むことだけは宗教的に問題ないとされているが、新しく赴任してきた神父様は頑なに葡萄酒を口にせず、代わりに葡萄を思わせる色をした祈祷書の表紙を撫でるだけだった。これは試練なのですと呟く神父様にかつて何処で何をしたかはとても聞けない。
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骨董品に関する物語・星のリキュールグラスとシャンパングラス

2019-02-26 18:57:19 | 突発お題

 祖父の持っているグラスは何故だか果汁を注ぐと酒になるという。葡萄ならワイン、檸檬ならリモンチェッロ、林檎ならシードルという具合にだ。ただ祖父が言うことには、このグラスには絶対に酒を注いではいけないという。当然ながら試してみたら、見事なまでに容赦のない酢と化した。
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第四十六景・移ろいながら変わらぬもの

2019-02-25 22:34:34 | 桜百景
たかあきは、春の隣家と桜の下に関わるお話を語ってください。

 学生時代の下宿先だった家の隣には大きな桜が植えられていて、数年間は春に豪奢な桜花を楽しめた。ただ、同時に花や葉っぱが散った後の掃除や普段の手入れなど、ただ植えて放置しているわけではない手間や苦労も伺う事が出来て、変わらぬものを保つ為には地道で弛みない研鑽が必要なのだと知った。やがて数十年後に偶然その地を訪れても桜の光景は変わらずそこにあった。
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骨董品に関する物語・梟の印章

2019-02-24 20:37:21 | 突発お題

「ミネルヴァの梟は黄昏に飛び立つ」という有名な言葉があるけど、梟に象徴されるのは元々僅かな光を頼りに闇の中でも正しく進んでいける知性の輝きなんだと彼は言った。そうだとしたら、彼が自らを二度と飛べない姿に変えたのは光を見失ったのか、それとも信じた光がまやかしだったのか。
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