カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「音楽」「サボテン」「バカな城」ジャンル「学園モノ」より・青春の墓標

2015-02-28 18:38:43 | 三題噺
 今から少し昔、新しい社会を夢見た学生が角材で学舎を占拠して気勢を上げた時期があった。
 彼らは若さと唄と未来に対する幻想以外は何も持たず、結局は理想と現実の狭間で様々な矛盾を晒しながら立ち枯れることになったが、あの時代を青春の証と胸に刻んだ筈の世代は現在、しばしは若い世代に対して「今時の若い者は年長者に対する尊敬が足らん」と罵りの言葉を上げる。
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「こいつの命が惜しければ武器を捨てろ」より・コトの顛末

2015-02-28 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 ようやく退院の日を迎えて家に戻ったオレだが、リビングの定位置にゴスペルの姿は見当たらなかった。半ば予想していた光景とは言え唇を噛みしめるオレに、爺さんは荷物をその辺に置いてから再び靴を履き直して俺を呼ぶ。
「よし、それじゃゴスペルを迎えに行くぞ。ワシじゃ手に負えん」
「え?」
 そんなに容態が酷いのかと愕然としながらも、例えどんな姿になっていようとゴスペルはゴスペルだ、コレからもずっと一緒だと覚悟を決める。

 ドアを開けるなり「いらっしゃい、そして退院おめでとう!」と飛び付いてきたあいつを無造作に押しのけてリビングに入ると。
 そこには犬用ベッドに納まり返ったゴスペルが、あいつの妹に向かって甘え鳴きをしながらケーキをねだっていた。
「コレはダメよ、ゴスペルちゃんにはちゃんと専用のお菓子を用意してあげるから」
 あいつの妹がそう言って離れていくとゴスペルは更に甘えた鳴き声を上げるが、決して自分から立ち上がろうとはしなかった。先程までのオレならゴスペルが歩けないほどのダメージを受けたのかと心配したところだが、この甘え鳴きを聞いた今となると話は別だ。
「……おい、ゴスペル」
 我ながら凄まじい重低音で名前を呼んでやると、ゴスペルはオレに気付くなり一瞬だけ硬直してから、次の瞬間には弾丸のようにオレに駆け寄ってきて盛んに尻尾を揺らしながら嬉しそうに吼えた。
「誤魔化されるかーっ!貴様、ちやほや世話されるのに慣れて今まで動けないフリしていやがったな!」
 しばらく見ないうちにずいぶんとツヤツヤな毛並みになったじゃねえか!ええ!などと叫んでゴスペルを思う存分どつき回しまくるこの時のオレを止める人間は誰もいなかった。あとで聞いたところでは一応あいつだけは止めようとしたらしいが、うちの爺さんに「アレは兄弟ゲンカのようなものだから放っておいてくれ」と言われたらしい。

「お前がケガして療養しているって聞いてオレがどれだけ心配したと思ってるんだ!可愛い女の子に世話してもらうのがそんなに嬉しかったのか!」
 ちなみに、キャインキャインと鳴き喚くゴスペルに対する折檻に夢中だったオレは、その時、あいつの妹が何故か頬を赤らめながら、
「やだ、こんなに人がいる場所で、そんな大声ではっきり可愛い子だなんて……」
 などとイヤイヤするように身を捩らせている事に気付かなかったし、例えその時点で気付いたとしても意味が分からなかったと思う。

 ちなみに、この件に関しては当然ながら後日とんでもない修羅場が発生した。
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「海」「告白」「新しい存在」ジャンル「ラブコメ」より・さよなら人類

2015-02-27 21:52:54 | 三題噺
 その日海岸から次々と砂浜に上がってきた異形の者は、人間の男に出遭う度に相手が愛しく思う姿に変わり、次々と結ばれていった。当然ながら世界は恐慌状態に陥り、異形狩りと称して各地で凄惨な殺戮が発生した。

 やがて異形の者は再び異形に戻って海に帰り収穫の時を終えたが、遺された人類は疑心暗鬼で滅んだ。
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「切り札は最後まで取っておくものだ」より・オーディエンス様より一言

2015-02-27 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 おいオーディエンス、いるんだろうと試しに言ってみると、よく判ったなと言いながらヤツが堂々とオレの病室に入ってきた。

「……学校はどうした」
「些細な問題だ。それで何の用だ」
「今回の騒ぎについては、お前に話を聞くのが一番分かりやすそうなんだが」
 何しろ大人連中は事態の収拾に忙殺され、あいつは事件直後からしばらくの記憶が曖昧だと言い張り、時々現れるあいつの妹も何があったのかはよく分からないと明言する、そんな中でオレは事態の流れを他人事のように見物していたであろうヤツの事を思い出したのだ。まさか本当に呼んですぐ現れるとは思わなかったが、その辺は無理矢理に目をつぶろう。
「ほう、一応考える頭はあるんだな」
 余計な一言を付け加えてから、ヤツは話し始める。

「実は、貴様らが拉致される現場にたまたま居合わせてな。流石に分が悪いと判断して手持ちの携帯で写真を撮って、ついでにその辺の石に手持ちの絵の具を塗ってから車にぶつけて目印にした」
「……携帯はともかく、何で絵の具なんか持ち合わせてたんだ」
「貴様らの学校では夏休みに絵画の課題はないのか?」
 ああそう言えばコイツ小学生だったなコレでも、などとオレが脱力しているのにも構わずヤツの話は進む。
「それで当然警察に通報したんだが、色々と事情を聞かれた後で貴様の祖父に犬をあいつの家にいる妹に預けてやってくれと頼まれてな」
 今考えてもあの流れは謎だ、恐らく動揺しすぎて判断力がおかしくなっていたんだろうとヤツが言う、オレも珍しくその点に関してはヤツと同感だった。
「だが、結果的にはそれが事件の早期解決の決め手になった。あの犬、かなりの年寄りだと思って油断していたら、いきなり明後日の方向に全速力で走り出してな。追いかけたら倉庫街の辺りで銃声が聞こえて、警察が踏み込んだらお前達がいた。
 とまあ、概要はこうだ。質問があれば受け付けるぞ」
 テメエはどうやってゴスペルを服従させた、それに全速力のゴスペルを見失わずに追いかける事が出来たのか、などと幾つかの突っ込みはすぐに浮かんだが、とにかく一番気になった事を訊ねてみる。
「……ゴスペルは、どうなった?」
 するとヤツは珍しくわずかに渋面を作ってから答えた。
「貴様を撃った女に飛びかかって、少しばかり怪我をしたので療養中だ。
 まあ、その辺は貴様が退院してから自分の目で確かめろ」 
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「前世」「テント」「燃える遊び」ジャンル「邪道ファンタジー」より・理由

2015-02-26 18:22:39 | 三題噺
 かつて炎の民と呼ばれた彼らは、持って生まれた炎の力で略奪と破壊を繰り返し、時には面白半分で村や人を燃やしたが故に英雄に滅ぼされた。少なくとも王都で読める公式文書にはそう記されている。

己が国を奪われ、同胞を殺され、人里にも住めずに砂漠をさ迷う流浪の民となり果てた彼らにはまた彼らの言い分があるだろうが、その声に耳を傾ける者はいない。
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「脱出」より・福音(ゴスペル)

2015-02-26 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 思い出すのは葬式の日。
 それまで特に仲が悪くなかった筈の親戚連中は、残らずオレを邪魔もの扱いした。

 ウチハ同イ年ノ女ノ子ガイルカラ引キ取ルノハ無理ヨ。
 ソレナラウチダッテ子供ガ三人イルカラモウ養ナエナイ。
 ソモソモ親ノ命ト引キ替エニ生キ伸ビタ子供ナンテ不吉デ関ワリタクナイゾ。
 オ前ダケデモ宿無シノ穀潰シナンダカラ犬ハ処分スルゾ。

 オレとゴスペルの事など誰も考えてくれない大人達の言葉に散々傷つけられたオレは、突然現れてオレを引き取ると宣言した爺さんも、結局いずれは他の親戚連中と同じようにオレに冷たくなるのだと思い込んでしまった。だからいつまで経っても心を開く事が出来なかったのだ。

 でも、爺さんはそんなオレに何も強制せず、オレが体勢を立て直して日常を暮らせるようになるのをひたすら待ってくれた。俺が酷い事を言って傷つけた時も、ただ黙ってその痛みに耐えていた。
 そしてあいつ。意識していたかは怪しいが、ともすれば学校の連中や行事から離れがちだったオレを引き戻すようにして一緒にいてくれた。口に出した事はないが、オレだって本当はあいつの事を一番の友達だと思っていた。

「なあ……二人とも泣くなよ!」
 そう叫んで思わず駆け出しかけたオレの肩を、父さんは静かに離した。傍らでゴスペルが嬉しそうに吼えたが、何故かオレに付いてきてはくれずに二人の側に留まる。

 ココで振り返ってはいけないのだと、何故かその時のオレには判っていた。
 父さんと母さんにはいずれまた必ず会える。だから今は。

『幸せに、なりなさい』

 最後に厳かな声で囁くように聞こえてきたのは、多分オレの為だけの福音。
 そして、いずれ二人に再会するまでの約束。

 目が覚めたオレが最初に見たのは実にお約束な事に白い天井、そしてクシャクシャに歪んだ爺さんとあいつの泣き笑い顔だった。
「……ただいま」
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「虹」「裏切り」「伝説の中学校」ジャンル「指定なし」より・虹色の未来

2015-02-25 18:20:01 | 三題噺
 伝説と呼ばれる程の団結力を発揮して、数々の学校行事を盛り上げてきた我が三年B組も、本日の卒業式が終われば各人がそれぞれの道に向かって進んでいく。だが十年後のこの日、この場所、この時間に再び全員が会することを誓おう!と一人が宣言し、残りの全員で「絶対に!」と唱和した十年後。

 校舎と校庭の存在していた場所に立ち並ぶ住宅街の前で、かつて三年B組の委員長を務めた彼は一人佇む。
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「猶予は僅か」より・それぞれの叫び

2015-02-25 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 あいつは殆ど焦点を失った瞳のまま延々と「ボクのせいだ」と繰り返すばかりだった。すぐ側にいるはずのあいつの爺さんや、きっと激務の合間を縫うように会いに来たのであろう両親の言葉も、そもそも姿すら認識出来ているのかも怪しい状態だ。

「おい何やってるんだよ、お前は無事に助かって親だって会いに来てくれたじゃないか?きっともうあの蛇女に狙われることもないんだろ?なあ!」

 オレがそんな風に叫ぶのも、あいつには聞こえていないようだった。ただ自分のせいでオレが撃たれたなどと、オレにとっては理不尽極まりない事を呟き続ける。あいつの母さんが耐えかねたように取りすがって泣いてもそれは変わらなかった。
 冗談じゃない、あいつの指示を待たずに勝手に行動を起こしたのはオレだ。だから撃たれたのはオレが下手を打った結果というだけで、あいつは全く悪くない。
「なあ、やめろよ!」
 そう叫んだ直後にいきなり視界が切り替わり、今度は爺さん達がオレの前に現れる。

 爺さんはいつもの無愛想な爺さんとは思えないほど感情を露わにしながら泣いていて、兄ちゃん達はそれを哀しそうに見詰めるだけだった。
「どうして皆、ワシを置いていくんじゃ。十年我慢して、ようやく一緒に暮らせるようになったのに、どうして一人残った孫まで奪われなきゃならんのじゃ」
 オヤジ、あのさ……と兄ちゃん達の一人が思い切って声を掛けようとするのを大兄ちゃんが止める。
「俺たちには、無理だ」
 そう呟いた大兄ちゃんの表情が突き刺さるほどに痛くて、哀しくて、思わずオレは叫んでいた。

「何で大兄ちゃんたちじゃ無理なんだよ!みんなじーちゃんのことを『オヤジ』って呼んで大好きじゃないか!それなのに何でダメなんだよ!」

 オレはもうゴスペルと一緒に、とーさんやかーさんのところに行くんだから!と叫んで父さん達の方に振り向こうとするが、父さんはオレの肩を離さなかった。

『泣かせたままに、しておくの?』

 ああコレはかーさんの声だと思いながら、オレは叫んでいた。
「別にオレがいなくたって……って言うか、オレなんかいない方がいいだろ!あいつら皆でそう言ってやがったし!」
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「夜空」「絨毯」「伝説の中学校」ジャンル「邪道ファンタジー」より・ゆめのふなのり

2015-02-24 20:57:14 | 三題噺
 もっと小さい時は夜空を見上げただけで絨毯に乗って月のウサギに容易く会いに行けたのに。
 中学生になったらそんな空想も出来なくなったとぼやくと、中学生になっても空想を楽しみたいのなら足元を固めろと言われた。知識と経験を駆使して組み上げられた壮大な法螺話こそ大人の為にある夢物語なのだと。
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「冥土の土産に教えてやる」より・さよなら

2015-02-24 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 ゴスペルが、オレの前を歩いている。
 普段はオレの歩調に合わせてゆったりと歩くのに何故か早足で、しかもリードを付けていない。
「おいゴスペル!こっちに来い!」
 父さんから、ゴスペルのような大きい犬がリードもなしに外を歩いていたら、すぐに保健所に連れて行かれて殺されてしまうと教えられていたオレは、慌ててゴスペルを追いかけた。しかしゴスペルは決してオレに追いつけない速度で、しかし時々は足を止めてオレの方を振り返りながら進んでいく。
 周囲は闇に覆われて何も見えず、ただゴスペルの姿だけを頼りに必死に歩いていると、不意に人影が浮かんだ。

 ああ、あいつか。

 椅子に腰掛け、うなだれているあいつの傍らにはあいつの爺さんと両親が心配そうに控えていた。コレなら大丈夫だろう。

 元気でな。と呟いて更に進んでいくと今度は別の人影が現れた。

 ああ、じーちゃんだ。

 やはりうなだれた姿で立ち尽くしている傍らには、兄ちゃん達四人が辛そうに爺さんを取り巻いていた。コレなら大丈夫だろう。

 それじゃ、オレはゴスペルと行くよ。と呟いて更に進んでいくと、今度は光が見えてきた。何故か灯りではなく光だと直感的に思ったとき、その光の前に二人の人影が現れる。
 逆光に晒されて半分以上が影に沈んだ姿は、それでも明らかにオレにとってたまらなく懐かしいものだった。
「……とーさん、それにかーさん」
 思わず駆け出してすがりついたオレを二人は優しく抱きしめてくれて、でも、良く顔を見ようとした直後に肩を掴まれ、オレが今まで歩いてきた方向に視線を向かされる。

『よく見なさい、そして、聞きなさい』

 そんな父さんの声と共に、オレの耳がちょうど溜まっていた水が抜けた時のようにいきなり明確に周囲の音を拾えるようになり、そして声が聞こえてきた。
 先ほどオレが通り過ぎた場所で、あいつと、爺さんが何を呟いていたのかを。
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