カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

[ 切ない / 造花 / 太陽(サン) ] より・枯れない花

2015-08-13 13:38:13 | 三題ランダムキーワード
 青い空と、陽の光に照らされた明るい世界に憧れる吸血鬼の少女を哀れに思った父親は、太陽に良く似た花を摘み取って愛娘にプレゼントした。少女は喜んでそれを自分の部屋に飾ったが、やがて花は残らず枯れてしまい、更に少女を悲しませることになった。

 そして今、少女の部屋を飾るのは本物のように美しく、しかし命を持たない造花だけとなった。
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[ くすぐる / レンズ / 欲望(ラスト) ] より・石の誘惑

2015-08-12 22:38:42 | 三題ランダムキーワード
 大小様々な深紅の石をあしらった、レンズで拡大しても一切乱れのない繊細なアラベスク模様の細工に心を奪われた。

 家人の隙を狙って盗み取ったアンティーク細工を持ってそのまま一刻も早く家に戻ろうと走っていた私は、信号の変わり目に突っ込んできた車に撥ね飛ばされ、そのまま道路に叩き付けられる。大量に流れ出ていく自分の血を一滴残らず飲み干さんとばかりに啜っているのがあの細工物だと本能的に知った時、私は自分が餌にされたのだと悟った。
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[ 休む / フローライト / 知恵(コクマー) ]より・蛍灯祭

2015-08-11 22:42:12 | 三題ランダムキーワード
 この地方の子供達は、夏祭りが近くなると蛍を捕まえ小遣い稼ぎをするのが常だった。
 集められた蛍は腕の良い幻灯師の手によって柔らかく光る灯火に加工され、祭の間中はずっと淡く柔らかい輝きで会場内を照らし出すのだ。
 やがて祭が終わると輝きの消えた灯火は細かく砕かれ、川に沈められる。そうして人々は次の祭まで静かに蛍の生育を見守るのだ。
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[ 聞く / 切符 / 塔(タワー) ] より・そして伝説が

2015-08-10 23:27:38 | 三題ランダムキーワード
 竜の塔まではどう行けば良いのでしょうか。
 そんなことを勇者の格好をした男に聞かれたので、ちょうど目的地が同じだったので塔まで同行することになった。

 至る所に伝説の勇者や姫、それに塔に姫を閉じ込めた悪竜の姿が闊歩する祭の街中でも本物らしい鎧を身に付けて立派な鞘に入った剣を帯びた(ただし刀身は木剣にすげ替えてきたらしい)、長身できびきびした動作の男は一際目立っていたせいか道中に何度も写真撮影を頼まれていたが、何と実は本当にこの街の祭の発祥になった『竜の勇者』の子孫だという。
 何でも一千年後の再会を約した竜に会いに来たらしいが、まさかここまで塔が観光地化して祭まで行われるようになるとはご先祖様も思っていなかったでしょうねと笑った。

「まさか本当に竜が飛来するとは思っていませんし、そもそもそんなことになったら大惨事が発生しますが、何分にも先祖代々の遺言となっていたので、代表で私が参りました」

 そんな風に教えてくれた男に、私はウチに先祖代々伝わってきた『人間の娘に惚れて竜の寿命も力も全て捨てて人間になったご先祖様が、戦いから千年後に因縁の地で勇者の子孫と再会するようにと息子に遺言を残した』という伝説について一体どういう風に説明するべきか悩むことになった。

 ちなみに『塔に閉じ込められた姫』も私のご先祖様だが、勇者とご先祖様達の間に何があったかは知らない。
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[ 叱る / ビー玉 / 理解(ビナー) ] より・手に入れた宝物

2015-08-07 23:25:29 | 三題ランダムキーワード
 息子がラムネ瓶を地面に叩き付けて割っていたのを目撃したので叱ったら、中に入っているビー玉が欲しかったのだと言われた。
 それなら大人の人に頼みなさいと諭し、危ないので私が破片を拾い集めてからビー玉を渡すと、息子はそれを覗き込むように片眼を凝らしてビー玉の中心を見詰め、何故か酷く落胆した表情になった。
 夜、帰宅した夫に何気なくその話をしたら「僕にも覚えがある」と懐かしそうに呟いた。ラムネ瓶の中で輝いていた時は掛け替えのない宝石に思えたビー玉が、いざ手に取った時には単なるガラス玉でしかなかったのがとても寂しかったそうだ。
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[ 後悔 / 風鈴 / 剛毅(ストレングス) ]向日葵、夕立、蝉の声

2015-08-06 23:54:33 | 三題ランダムキーワード
 制作体験に行って来た際に自分で朝顔の絵を描いて作った、丸い形をしている薄手の繊細なガラス風鈴を誤って割ってしまったら、お前にはこれが似合いだと友人が無骨で緑青が浮いた金属製の風鈴を持ってきた。

 反論できないまま哀しい気分で軒先に吊しておいたら、ガラス風鈴より遙かに高く澄んだ音を響かせてくれたので更に哀しくなった。
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[ 演じる / スカート / 理解(ビナー) ] より・月夜に集いてドレスで踊れ

2015-08-05 22:57:54 | 三題ランダムキーワード
 昔、ひらひらスカートに憧れる余りカーテンでドレスを自作して着用し、夜の公園で踊り狂うのを止められなくなった日本男児風イケメン剣道部員の男子高生が出てくる漫画を読んだことがある。彼は同級生のヒロインにそれを目撃され、何故か彼女は彼の協力者となり、彼らの周辺で繰り広げられる恋愛模様に揺れながら『平凡で平和な日々』を暮らして行く。
 最終的に彼はドレスを着るのを止めるのだが、最後と決めた日の晩に満月の下で踊る彼と彼女は、まるで二人だけのプロムパーティーを行う卒業生のようだと、このお伽話の幕引きに感動したものだ。

 流石に年を取った今だと、『他に目撃者がいなくて良かったね』位の身も蓋もない感想は抱くようになった。  
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[ 劣等感 / 化粧 / 月(ムーン) ] より・月面(つき)と知りせば

2015-08-04 20:46:00 | 三題ランダムキーワード
 周囲から冴え渡る月のように美しいと称えられる妹の努力は普段から半端ない。自分に最適の化粧品を選び最高のメイクを施し、公の場に出る時は厳選したファッションで臨み、会話術を駆使して周囲の心を掴むテクニックは見事の一言だ。

 ただ、惜しむらくはその心根が月の表面のように歪なせいか、いつまで経っても妹にとって太陽の様な理想の男性に選ばれることがない。
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[ 怨む / 星空 / 王冠(ケテル) ] より・星の冠を戴いた王子

2015-08-03 22:38:05 | 三題ランダムキーワード
 伯父によって両親を殺されて王太子としての座を追われ、辺境に幽閉の身となった王子は不自由な生活の中でも本を読み、花を愛で、夜空を仰ぎ見てはその見事な金髪に星の光を浴びていた。
 その様は、まるで冠を戴いた王のようだと周囲に称えられ、それが為に彼は王子を恐れる伯父に暗殺された。

 少なくとも、その国の記録では暗殺されたと言うことになっている。
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[ 不安 / ランプ / 月(ムーン) ] より・フロムダスク,ティルドーン

2015-07-31 22:53:53 | 三題ランダムキーワード
 古道具市で月のランプを買った。今は稀少となった月齢一巡り分の月光を浴びせた月晶石を加工したという、淡い銀色の光を放つ純正品だ。ただし、純正品であるが故に新月時には真っ暗になるので太陽のランプも一緒に買うように勧められた。これも夜光石を使った稀少品だが、日の入りから日の出まで橙色の灯りを消すことが出来ない。

 自然の力を利用し、自然のままに輝く光と人間が共存できなくなった時代となって久しいと、古道具屋は言った。
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