王都に辿り着いたハリーが最初に目指したのは、王室騎士隊の詰め所だった。
案内された隊長室の椅子に座っていたのは三十前後と思われる穏やかな雰囲気の男で、何となく兄を思い出しながら挨拶するハリー。
「盟約により辺境自治領ローランドから参りましたハリエッタと申します」
兄は身体が弱く、弟は未だ幼いので、女の身ではありますが精霊使いとしての称号を受けた私が代理を務めますと続けると、男は少しだけ困ったように微笑んでから言った。
「失礼だが、貴方は今回の召喚についての具体的な内容を御存知だろうか」
考えようによっては確かに失礼極まりない問いかけだったが、相手がなるべくハリーの誇りを傷付けまいとしていることは充分に感じ取れたので、ハリーも微笑んで答える。
「はい、フランク王家第三王子殿下の護衛だと承っております。殿下の為人(ひととなり)は存じませんが、先ほど申し上げましたように幼い弟がおりますので、小さい子どもの扱いはある程度の心得がございます」
すると男は更に曖昧な表情となってから、取りあえず陛下への謁見を済ませようとハリーを伴って部屋を出た。
謁見室の玉座に着いていたのは年老いた男で、どうやら何かの病を患っているらしかったが、ハリーはそれに気付いた風も見せずに、やや古風ながら非の打ち所のない動作で挨拶をして、陛下も鷹揚にそれを受ける。
「ローランドの若き騎士よ、そなたの国と交わした古き盟約の遵守を喜ばしく思うぞ」
形式通りの言葉の後、もう下がって良いと疲れ果てたような態度だけで示す陛下。古き盟約と言っても現在はほぼ有名無実のもので、ローランドが国として承認されているのはあくまで形式上であり、現在のフランク王家に取っては辺境の属領に過ぎないと父から教えられていた事実を早速思い出すハリー。そもそもローランドの大使としてではなく、フランク国王室騎士隊の仮隊員として国王との謁見が行われたこと自体が現実の全てを物語っていた。しかし。
ローランド現国王であるハリーの父は、生まれてはじめてフランク国の王都へ向かうことになった自分の愛娘に対して言ったのだ。
「恐らく、お前はローランドの王族だという理由から王都で様々な侮りや蔑み、同時に妬みや嫉みを受けることになるだろう」
もはや有名無実に近い盟約によってフランク国に自治を認められている我が国の、それが宿命だと寂しげに俯く父王の姿。
「だが、決してローランドの、そしてお前がお前である誇りを失ってはならない。
忘れるな、他人に頭を下げられない人間に、本当の誇りなど持てはしないのだと」
そこまで言うと感極まったように玉座から立ち上がり、自分を強く抱きしめてくれた父王の姿と言葉をハリーはあの日、深く心に刻み込んだのだ。
「それでは隊長、第三王子殿下は今、何処にいらっしゃるのでしょうか」
案内された隊長室の椅子に座っていたのは三十前後と思われる穏やかな雰囲気の男で、何となく兄を思い出しながら挨拶するハリー。
「盟約により辺境自治領ローランドから参りましたハリエッタと申します」
兄は身体が弱く、弟は未だ幼いので、女の身ではありますが精霊使いとしての称号を受けた私が代理を務めますと続けると、男は少しだけ困ったように微笑んでから言った。
「失礼だが、貴方は今回の召喚についての具体的な内容を御存知だろうか」
考えようによっては確かに失礼極まりない問いかけだったが、相手がなるべくハリーの誇りを傷付けまいとしていることは充分に感じ取れたので、ハリーも微笑んで答える。
「はい、フランク王家第三王子殿下の護衛だと承っております。殿下の為人(ひととなり)は存じませんが、先ほど申し上げましたように幼い弟がおりますので、小さい子どもの扱いはある程度の心得がございます」
すると男は更に曖昧な表情となってから、取りあえず陛下への謁見を済ませようとハリーを伴って部屋を出た。
謁見室の玉座に着いていたのは年老いた男で、どうやら何かの病を患っているらしかったが、ハリーはそれに気付いた風も見せずに、やや古風ながら非の打ち所のない動作で挨拶をして、陛下も鷹揚にそれを受ける。
「ローランドの若き騎士よ、そなたの国と交わした古き盟約の遵守を喜ばしく思うぞ」
形式通りの言葉の後、もう下がって良いと疲れ果てたような態度だけで示す陛下。古き盟約と言っても現在はほぼ有名無実のもので、ローランドが国として承認されているのはあくまで形式上であり、現在のフランク王家に取っては辺境の属領に過ぎないと父から教えられていた事実を早速思い出すハリー。そもそもローランドの大使としてではなく、フランク国王室騎士隊の仮隊員として国王との謁見が行われたこと自体が現実の全てを物語っていた。しかし。
ローランド現国王であるハリーの父は、生まれてはじめてフランク国の王都へ向かうことになった自分の愛娘に対して言ったのだ。
「恐らく、お前はローランドの王族だという理由から王都で様々な侮りや蔑み、同時に妬みや嫉みを受けることになるだろう」
もはや有名無実に近い盟約によってフランク国に自治を認められている我が国の、それが宿命だと寂しげに俯く父王の姿。
「だが、決してローランドの、そしてお前がお前である誇りを失ってはならない。
忘れるな、他人に頭を下げられない人間に、本当の誇りなど持てはしないのだと」
そこまで言うと感極まったように玉座から立ち上がり、自分を強く抱きしめてくれた父王の姿と言葉をハリーはあの日、深く心に刻み込んだのだ。
「それでは隊長、第三王子殿下は今、何処にいらっしゃるのでしょうか」