昔々、魔王に世界を滅ぼされかけた偉大なる魔法王は己の世界を宝玉に封じ込めて守ろうとした。だが、それは王自らが人ならざる身に姿を変えて宝珠の守護者となる事でのみ可能な技だった。故に彼の后は王と共に姿を変え、宝玉と化した己の世界を今もなお二人で守り続けているという。
昔々、魔王に世界を滅ぼされかけた偉大なる魔法王は己の世界を宝玉に封じ込めて守ろうとした。だが、それは王自らが人ならざる身に姿を変えて宝珠の守護者となる事でのみ可能な技だった。故に彼の后は王と共に姿を変え、宝玉と化した己の世界を今もなお二人で守り続けているという。
貴女は気付くだろうか。貴女の良人から贈られたであろう、貞節を意味する聖女を冠した祈祷書に隠された許されぬ思いを。幼い頃の二人が無邪気に描いた渦を巻く蔦模様を。そして、もしもそれに気付いた貴女の心は、今でもあの日の蔦模様に心を絡め取られる余地があるのだろうか。
厳格な祖父の書斎には高価な書籍を収める鍵付きの書架が設えてあって、子どもの頃に鍵が開いていたのを良い事に一冊の綺麗な本を抜き出した事がある。内容は難しくて良く分からなかったが、天使や綺麗な女の人の絵が沢山描かれていて夢中で見ていたら祖父に見つかって酷く怒られ
私の両親は裕福で優しく、そして平凡な人間だった。それ故に聖人のような清廉さは持ち合わせておらず、日常の生活や商売などではしばしば世俗の汚泥に身を浸す事があったが、聖なるものに憧れる敬虔さと家族を愛する心を併せ持つ、私にとってはごく普通の、そして最高の両親だった。
空に輝いている時は美しく見える月も、幻燈で大きくすると痘痕だらけなのねと彼女は残念そうに呟いた。無理もない、彼女は光が生み出す影、更にその影が生み出す闇が恐怖や嫌悪を孕んだ、しかしどうしようもなく魅力的なものであるのを知るのには、まだ幼すぎる年頃であるのだから。
昔から測定器を携えて夜空を眺めてばかりいた奴に理由を尋ねると、星の巡りには法則性があり、それは世界の摂理の一端を示しているのだと言われた。それなら星占いも信じるのかと俺が更に尋ねると、世界の摂理が人間に、それも一個人に対応して動くと本気で思うのかと尋ね返された。
友人が久し振りに山間の故郷に帰省すると、玄関先に巨大な鹿の角が花と共に飾ってあった。鹿そのものは珍しくない土地だが一体何事だと父親に尋ねると先日猟友会が仕留めた鹿の角だという。人間にとっては害獣でもこれだけ巨大なら名のある鹿に違いないから敬意を表したのだそうだ。
先日、得体の知れない古道具屋で購入した砂時計は頻繁に砂が硝子内部に引っ掛かって止まる。元々時間を図る意図で求めた訳ではないので最初は気にしなかったが、砂が止まっている間は何らかの問題から予定進行が停滞することに気付いたので、一日に数回砂時計を軽く叩く癖が付いた。
路地裏の古道具屋で主人が勧めてきたのは自身の寿命が分かるという大きな砂時計だった。砂の最後の一粒が落ち切った時に持ち主の寿命も尽きると、ありがちな口上と共に売りつけられた砂時計だが、よく考えてみると砂が落ち切るまで砂時計を眺めていられるほど俺の人生に暇はない。