カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

今日のお題は『ノイズ』『白鳥』『予測』です。

2014-06-30 19:08:17 | ついのべ三題ったーより
 贈賄事件に巻き込まれて自殺した友人から手紙が届いた。
「おまえから借りた白鳥を社に置いた」とだけあった文面から、異境の地で故郷を思いながら死んでいった悲劇の皇子を思い起こして心当たりの神社を訪ねると、境内の片隅にひっそりと、だが厳重に包装された荷物を発見した。中に入っていたのは貸した本とデータファイル。こんなもののせいで奴は死んだのかと、耳鳴りが響く中で視界が赤く染まった。
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今日のお題は『青』『老婆』『舞台』です。

2014-06-29 21:04:09 | ついのべ三題ったーより
 はるか保育園そら組のお遊戯発表会で、舞台の端に一生懸命踊る園児を見守るような姿で立っていたお婆ちゃんの存在に気付いたのは僕だけだったらしい。嬉しそうに笑っているから園児の血縁かと思ったら、少し前に病院で亡くなった先代園長とあとで知った。
 今月限りで保育園が無くなるので、園児たちの晴れ舞台が最期の心残りだったのだろう。
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今日のお題は『白鳥』『農業』『連絡』です。

2014-06-28 14:22:11 | ついのべ三題ったーより
 田舎で農業をやっている実家から祖母が亡くなったと連絡が入った。
 祖母は若い頃、戦争に行った彼女の弟が亡くなった際、青い蝶になって家族の元に帰ってきたと信じており、だから自分はきっと白い鳥になって皆の元に挨拶に訪れるから宜しくと言っていた。そして結局、祖母の訃報に際しては誰の元にも白い鳥が訪れることはなかったのだが、私を含めた彼女の親戚や友人は皆、「きっと先に逝ってしまった祖父の元に一刻も早く飛んでいこうと焦ったのだろう」と納得する。
 祖父母は、それほど仲の良い夫婦だったのだ。
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今日のお題は『チョコケーキ』『速度』『無差別』です。

2014-06-27 20:06:55 | ついのべ三題ったーより
 俺の部屋にいる「そいつ」が何なのかは判らないが、とにかく淒まじい勢いでチョコケーキだけを喰らう。高級品だろうと駄菓子だろうとお構いなしだ。とうとう彼女からのプレゼントだった手作り品を皿に移そうとした直後に攫われた時は殺意が沸いたが、祟られるのも嫌だったので「おまえのぶん」と書いた皿にチョコケーキを置くようにしたら、きちんとその皿でだけ食うようになった。
 躾って大事だとつくづく思いつつ「お供え」を続けていたらチョコケーキの食い方が徐々にゆっくりになってきて、同時にその姿も何となく見えるようになってきた。若い女で、チョコケーキさえ貪り食っていなければ多分なかなかの美人に見えると思う。

 その頃、何の気なしに友人に「そいつ」の話をしたら、取り殺される前に成仏させろと忠告されたが、どうやったら成仏するのかは教えてもらえなかったので、取りあえずデパートで有名店のチョコケーキを一箱買ってきて丸々お供えしたら泣かれた。
 何でも、横暴な旦那が買ってきた同じ物を空腹に耐えかねて食べたら殴り殺され、チョコケーキに対する怨念を抱えたまま幽麗になってしまったのだそうだ。旦那への怨念はどうなっているんだと思いつつ、その辺はさすがに聞けなかった。

 とにかくこれで成仏できます、ありがとうございましたと女は消え、良いことをしたという満足感と「そいつ」が居なくなったことで一抹の寂しさを感じていたら、例の友人が呆れたように言った。

「向こうの連中と縁を結んで道が出来ちまったから、これから散々に縋られるようになるぞ」

 どういう意味なのかよく判らなかったのは家に帰るまでだけだった。
 今度はフライドチキンが消えるようになったのだ。
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今日のお題は『合格』『ぬくもり』『モデル』です。

2014-06-26 19:07:25 | ついのべ三題ったーより
 練金術学校に合格して邸を出て行く事になったあいつは、休暇には戻るので、それまで何とか生き伸びていてくださいと言った。思わずその身体を抱きしめると、父親譲りの笑顔で大丈夫ですよと微笑んだ。
「父さんと母さんがそうだったように、僕も幸せになろうと思います」
 そして見送りが終わった後、俺は幾ばくかの憧憬と、何より己の生活維持のために早速新しい使用人を傭い入れた。マーサと言う名の、俺の乳母の孫娘だ。
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今日のお題は『責任』『時計』『まとめ』です。

2014-06-25 19:25:03 | ついのべ三題ったーより
 ある日僕は、この館で暮らすようになってからずっと抱いていた疑問、自分の正体や両親について旦那様に訊ねてみた。
 初めは何とか誤魔化そうとした旦那様も、どうしても引かない僕の態度に折れたのか真面目な表情になり、「時が熟していない」と仰った。
「せめてお前がこの館を出ても自力で暮らせるようになるまで待て、それが俺の責任だ。
 そして俺の話を聞いたあとで、それでもこの館で暮らして行くかは自分で決めろ」
 そんな風に続いた旦那様の言葉に、僕は自分が今は開いてはならない、けれどいずれは開かなければならない扉の鍵を手にしたことを知った。
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今日のお題は『マナーモード』『合格』『カーテン』です。

2014-06-24 19:14:31 | ついのべ三題ったーより
 旦那様は行儀作法に厳しいところがあって、時々カーテンの陰からいきなり現れて僕の不作法を叱る。
 悪いのは僕なので素直に謝るが、ある日旦那様が日頃から大切にしていらっしゃる茶器を壊してしまった時は気が遠くなった。それでも勇気を出して罰を受ける覚悟で正直に謝ると、何故か微笑んだ旦那様は「一回限りの手品を見せてやる」と仰いながら割れた茶器に手をかざし、次の瞬間元通りにしてみせた。
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今日のお題は『肉』『勇気』『虹』です。

2014-06-23 19:20:20 | ついのべ三題ったーより
 僕には旦那様の館で暮らすようになった以前の記憶がない。だから時々、『人形のようだ』と他人に賞されるこの肉体が、実は造り物なのではないかと思う時がある。何しろ賢者の石を精錬できるほどに術を極めた練金術師は人造生命体すら紡ぎ出せると言われていて、旦那様はその賢者の石の持ち主なのだ。
 ある日、僕は思い切って刀物で腕に傷を入れようとして旦那様に叱られた。理由を聞かれたときに自分の正体を知りたかったと答えると、旦那様は哀しげに目を伏せ、それは勇気ではないと仰った。
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今日のお題は『合格』『合格』『国』です。

2014-06-22 12:29:54 | ついのべ三題ったーより
 この国で錬金術師を名乗るには国家試験に合格しなければいけないので、たぶん旦那様も資格者なのだろうが、客間にそれらしい書状やメダルは飾られていないので、ごくたまに仕事を依頼に訪れるお客様が不審の念を示すことがある。
 でも、一度だけ旦那様が礼服姿で王城に赴いた際に身に付けたメダルは他の錬金術師とは違う虹色の輝きを放っていて、とても綺麗だった。
 それが錬金術師にとって究極の精錬物質である賢者の石であるという噂を僕が知ったのは、ずっと後日になってからだ。
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たかあきの今日のお題は『通信』『留守』『茶碗』です。

2014-06-21 19:30:18 | ついのべ三題ったーより
 自分が留守の際に茶菓子をたかりにくる奴が居たら暇つぶしの相手をして貰いなさい。
 旦那様にそう言われていたので、僕は家にやってきた灰色狐にお茶とケーキを出して話し相手になって貰った。話題は主に旦那様について、年齢不詳で経歴不明で女癖が悪いと評判の、実に立派な不良錬金術師だそうだ。
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