俺の部屋にいる「そいつ」が何なのかは判らないが、とにかく淒まじい勢いでチョコケーキだけを喰らう。高級品だろうと駄菓子だろうとお構いなしだ。とうとう彼女からのプレゼントだった手作り品を皿に移そうとした直後に攫われた時は殺意が沸いたが、祟られるのも嫌だったので「おまえのぶん」と書いた皿にチョコケーキを置くようにしたら、きちんとその皿でだけ食うようになった。
躾って大事だとつくづく思いつつ「お供え」を続けていたらチョコケーキの食い方が徐々にゆっくりになってきて、同時にその姿も何となく見えるようになってきた。若い女で、チョコケーキさえ貪り食っていなければ多分なかなかの美人に見えると思う。
その頃、何の気なしに友人に「そいつ」の話をしたら、取り殺される前に成仏させろと忠告されたが、どうやったら成仏するのかは教えてもらえなかったので、取りあえずデパートで有名店のチョコケーキを一箱買ってきて丸々お供えしたら泣かれた。
何でも、横暴な旦那が買ってきた同じ物を空腹に耐えかねて食べたら殴り殺され、チョコケーキに対する怨念を抱えたまま幽麗になってしまったのだそうだ。旦那への怨念はどうなっているんだと思いつつ、その辺はさすがに聞けなかった。
とにかくこれで成仏できます、ありがとうございましたと女は消え、良いことをしたという満足感と「そいつ」が居なくなったことで一抹の寂しさを感じていたら、例の友人が呆れたように言った。
「向こうの連中と縁を結んで道が出来ちまったから、これから散々に縋られるようになるぞ」
どういう意味なのかよく判らなかったのは家に帰るまでだけだった。
今度はフライドチキンが消えるようになったのだ。