名探偵の解答その31・少年の試練

男性に大人気の探偵であるたかあきに、母親から『可愛い正義』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に無駄骨のようです。

　最近、どうも孫の様子がおかしいと母親から相談を受けた。実は先日その孫、俺にとっては甥っ子に当たる少年がうちでは飼えない子犬を神社の軒下で飼っているのを目撃していたので大体はそれ絡みだろうと神社に行ってみると、ドッグフードの袋を片手にいなくなった犬の名前を呼びながら泣いている甥っ子が、その辺一帯をウロウロしていた。

名探偵の解答その30・茨の日常と濡れ羽色の夢

街ではよく知られた探偵であるたかあきに、いとこから『棘の多い盗難』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に無駄骨のようです。

　離婚の危機を回避したい、有名探偵のお前なら何とか出来ると泣き付いて来たいとこの話を聞くと、外しておいた結婚指輪が盗まれたと言う。だが状況から人間による盗難の可能性は限りなく低く、よもやと探し回ったカラスの巣で指輪を見付け、事件は解決したかのように思えた。ただ何故いとこが指輪を外していたかと言う根本問題は解決せず、その後色々と修羅場が展開されたらしい。

名探偵の解答その29・連れて逃げてと貴女は言った

女性に大人気の探偵であるたかあきに、王様から『苦き愛憎』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に深刻のようです。

　以前、あろうことか俺に不倫を持ち掛けてきた、この国の王妃が男と駆け落ちしたので行方を突き止めて欲しいという極秘の捜索依頼が転がり込んできた。出来れば断りたかったが陛下の「分かっておろうな」的態度に抗する事が出来ぬまま、下手を打った際の国外逃亡も視野に入れつつ助手と共に慌ただしい準備を始める事になった。

名探偵の解答その28・平凡かつ非凡な死因

有名な探偵であるたかあきに、幽霊から『割れた空白』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に平凡のようです。

　有名探偵の貴方なら私が死んだ真の理由を突き止めてくれる筈です。報酬は私の生命保険金から払いますとごねる幽霊に根負けした僕は、一応真面目に幽霊となった男の死因をあらゆる角度から調査し、お気の毒ですが、あなたの死因は遺族が言う通り間違いなくバナナの皮で滑って転んだのが原因ですと調査報告書を提出した。

名探偵の解答その27・与り知らぬ因縁と手を取り踊れ

事務所を開設したばかりの新米探偵であるたかあきに、師匠から『音の出ない血脈』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に単純のようです。

　独立祝いだと言って事務所に現れた師匠は、祝儀代わりに仕事をくれてやろうと僕にファイルを渡してきた。何でも行方不明になっていた当主息子の遺児とやらを連れて現れた女の正体を暴いて欲しいらしいそうだが、その女が幼い頃に離婚して以来一度も会っていない僕の母親だったので、事件は実にあっさり片付いた。

骨董品に関する物語・ブロンズ製のフクロウのインクウェル

　娘時代に女だからという理由で高等教育を受けさせてもらえなかった祖母は、現在通信大学で学びながら生きいきと暮らしている。兄の形見だという梟のインクウェルを使って書かれたらしい私宛の手紙の最後には、知恵の神ミネルヴァが女神であることを決して忘れないで欲しいとあった。

骨董品に関する物語・蝋製の聖母像

『錫（すず）の兵隊』という童話の最後で、一本しか足の無かった兵隊は暖炉の中で溶けてハートの塊に形を変えたが、この聖母像は火事になった家の焼け跡から溶けもせず、このままの姿で見付かったのだと彼女が見せてくれた蝋製の聖母像は、何処までも艶やかで滑らかな外見をしていた。

春の創作怪談・負債を支払う

　子供の頃に面白半分で何となく苛めていた相手が一度だけ泣きながら怒鳴ってきたことがある。今は無理でもアンタが弱くなった時に思い知らせてやると言う言葉は更なる嘲笑を生んだだけだっが、十数年後に飛蚊症に罹った俺の目には、どれだけ振り払おうとあの時の相手の泣き顔が浮かび上がり決して消えてはくれなくなっている。

名探偵の解答その26・爪弾かれる鎮魂曲は紅く染まり

有名な素人探偵であるたかあきに、不思議な婦人から『紅き鎮魂曲』事件解決の依頼が入りました。今回の事件は意外に悲恋のようです。

　その女性は夫が帰って来ないのですと俺に言い、俺はそうですかなどと間抜けな答えを返す。よく話を聞くと彼女の夫は先の戦争から戻らず既に死亡認定もされているが、彼女は夫が戻らなかった理由を知りたいと言う。一応は調べますと依頼を受けた俺が調べて分かったのは先の戦争の悲惨さと、祖国を守ろうとした国民に対する国が示した信じられない程の無慈悲さだった。

骨董品に関する物語・すみれの石鹸箱

　店内で熱心に石鹸箱を眺める老夫婦に宜しければ手に取って御覧下さいと促すと、色の濃い眼鏡を掛けた婦人が夫から丁寧な仕草で手渡された箱を極めて愛おしそうに優しく撫でながら、まだ目が見えた頃にこの石鹸の香りとすみれの刻印の感触を覚えておいて本当に良かったと呟いた。