カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

鋼の蝶

2016-05-31 00:35:08 | 色々小説お題ったー(単語)
「刃物」「蝶々」「ぽつり」がテーマ

 木目調の模様が奇麗だからと買ってきたダマスカス綱の包丁を眺めていたら、一部が蝶のような模様になっていることに気付いた。見れば見るほど羽を広げた蝶の形そっくりの模様を不思議に思いつつ、その日はそのまま包丁を仕舞って休んだが、次の日、朝食を作ろうと包丁を手にすると蝶模様が奇麗さっぱり消えていた。ひょっとしたら新天地を目指してどこかに飛んでいったのだろうか。
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シュレディンガーのケーキ屋

2016-05-30 19:05:44 | 色々小説お題ったー(単語)
「ベッド」「パフェ」「シュレディンガーの猫」がテーマ

 子供の頃住んでいた町に美味しいケーキを売る店があった。だが大人になり町を離れている間に店はなくなり、私が暮らす町の人達は当然店を知らず、その店は私の中では夢と記憶でのみ存在する幻の店と成り果てた。そんな中、夢の中でケーキを買い続けた私はやがて現実でも店の存在を忘れられなくなり、そうなって以来、店は私の夢に全く現れなくなった。
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錦糸輝くニッポンの

2016-05-27 00:15:11 | 色々小説お題ったー(単語)
「背伸び」「二重」「猫も杓子も」がテーマ

 当時の小学校女子の間ではゴム跳びが大流行していた。文房具屋で売っている色とりどりのゴムを結び合わせて長い輪っかを造り、向かい合わせに立った二人の広げた足四本で張り渡した空間に向かって歌いながら踊るように足を突っ込んでいくアレだ。そして妹に頼まれて僕が作った輪っかは編み方が二重だったせいで普通のものより太くて重く、故に制作時間も材料費も普通の倍くらいかかったが、その分簡単には切れずに長持ちした。
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幸せの歩幅

2016-05-26 19:55:57 | 色々小説お題ったー(単語)
「傷跡」「会いたい」「駄目なひと」がテーマ


 いつだって私に構わず自分の歩幅で歩く両親を小走りに追う癖が身について以来、一緒の歩幅で歩いてくれるかどうかがお付き合いの基準となり、そうしてくれる人が優しく良い人だと思うようになっていた。やがて必ずしもそうではないのだと気付くのが遅かった私は、今日も彼の手を振り払ってどこか遠くに駆け出したくなる。
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迷宮の罠・出張版

2016-05-25 19:40:34 | 色々小説お題ったー(単語)
「嘘つき」「ポニーテール」「迷宮」がテーマ

 これは迷宮にあった宝箱から見付けた貴石を加工したんだよ。彼女はそう言って長い髪を束ねた後頭部の飾りを見せてくれた。その輝きに魅せられた見習い細工師の僕は彼女の誘いに乗って迷宮に赴き、とにかく宝箱を開けまくった。職業柄、宝箱に仕掛けられた罠を外すのはそれほど難しくなかったが、宝箱そのものに食いつかれた時は流石にどうしようも無く、助けを求める僕を笑顔で見送ってくれた彼女の姿が薄れていくのと共に、色々な意味で僕の旅は終わりを告げた。
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星に恋した深海魚

2016-05-24 18:42:52 | 色々小説お題ったー(単語)
「深海」「キス」「幸せ」がテーマ

 むかしむかし、深い海の底に落ちてきた星の欠片の輝きに恋をした魚がいた。しかし魚が星の欠片を飲み込んでも躰が輝くことはなく、己の愚かさから大事な輝きを失ってしまった魚はひたすらに星の住処を目指して登っていき、最後には息絶えた。

 やがて骸となった魚に接吻するかのように、無数の星の光が優しく波間に降り注ぐ。
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場面その3

2016-05-23 00:57:20 | 松高の、三羽烏が往く道は
 旧制の学校制度は現代と違って様々な中等、高等教育機関、更に軍学校が存在した。
 例えば尋常小学校を卒業した後には中学校、七年制高校、高等女学部、高等小学校、実業学校などの進路が複数存在し、更に高等学校(旧制高校)専門学校、高等師範学校、陸軍兵学校、海軍士官学校などに分岐していく。

 なお官立大学、更に最終学府である大学院に入学するには七年制高校、もしくは高等学校を卒業する必要があったが、旧制高等学校の在籍者数は当時の同世代男子の1パーセントにも満たなかったという。

 ここで話は松本高校に戻るが就学年数は三年で学級は基本的に四十人編成、文科理科共に甲・乙類のクラスがあったと言うので全生徒数は四百八十名ほどの計算だろうか。甲類は第一外国語として学ぶのが英語、乙類は独語となる。文科と理科では若干授業内容が異なるが、国語・漢文、歴史、地理、哲学、数学、物理、化学、心理、体操など今日でも馴染み深い学科の他に修身、自然科学、図学など聞き慣れないものも存在する。

 いずれにしろ学生らは週に三十二から三十四時間、三年間では九十八時間をそれらの勉学に費やす計算となる訳だ。ざっと計算すると月曜から金曜までの五日間は六時限、土曜日は三時限編成と思われるが、残念ながら、その件に関しては乏しい資料から正確な時間割を発見することが出来なかった。

 それはともかく、この物語の主人公である三人は文乙、つまり文系で第一外国語は独語選択クラスの二年生である。授業内容は高度であったが『教わるのではなく学生自らが考え、そして学ぶ』をモットーに数多くの名物教授が個性的な講義を行う興味深いものであり、学生の入れる茶々で授業内容が脱線することも珍しくなかったようだ。
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おしまいのヤイバ

2016-05-23 00:16:50 | 色々小説お題ったー(単語)
「メモ」「カッター」「サヨナラダケガ」がテーマ

 刃物を友人や恋人に送るのが良くないとされるのは、その用途が縁を断ち切るのを連想させるからだろう。だから私は敢えて『一時間待ちました、さようなら』と書いたメモに買ったばかりのカッターを添えて、あの人との待ち合わせ場所だった店のマスターに託した。
 でも、果たしてこれで私は自由になれるのだろうか。
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千歳漫才万々歳

2016-05-20 00:09:02 | 依頼です、物書きさん。
人生に疲れた末っ子と全力で捨て身の笑いを狙ってくる美女との愛をテーマにした話

 お兄ちゃん達の言うことを聞きなさいと言われ続けてきた末っ子が家族に反旗を翻したのは、仲良くなった先輩の家に遊びに行ったら家族一丸となってボケ突っ込みを繰り返す様に憧れたからだった。取りあえず家に帰るなり無茶を言ってくる兄を張り倒し、殴りかかってきた父を蹴り倒したら母に独り暮らしを勧められた。そんな訳で末っ子は新しい生活を始め、やがて先輩と一緒に暮らし始めることになった。
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恩讐の果てに

2016-05-19 20:03:58 | 依頼です、物書きさん。
社交的だけど敵の多い法律家と下戸疑惑のバーテンダー、二人にとって余りにも短かった数年間のお話

 有能だが正義感に乏しい弁護士がお気に入りのバーは、酒が飲めないバーテンダーが働いていた。お酒を飲んでいる人を見るのが好きなんですよと微笑んだ彼の目が笑っていないのに気付いた弁護士の嫌な予感は的中し、彼は自分の店に来店した恋人の仇を酔い潰してから殺した。そして、弁護士はお気に入りの店を護るという名目で彼の弁護を受ける事を決めた。
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