鳥類は空を飛ぶために最低限必要なもの以外の一切を捨て去った機能を有する肉体を持つに至ったと話す先生に、それでは天使はどうして空を飛べるのですかと尋ねると、残念だが天上における博物学は地上の博物学者ではなく神父様が学ばれていらっしゃる分野だよと答えが返ってきた。
鳥類は空を飛ぶために最低限必要なもの以外の一切を捨て去った機能を有する肉体を持つに至ったと話す先生に、それでは天使はどうして空を飛べるのですかと尋ねると、残念だが天上における博物学は地上の博物学者ではなく神父様が学ばれていらっしゃる分野だよと答えが返ってきた。
英雄と呼ばれる者は、普通の人間がその場で五十歩分踏み止まれるとしたら百歩分を踏み止まれる人間の事だと常々言い続けた夫は、結局戦から帰って来なかった。人々は規律に厳しく部下に篤い英雄だったと夫を褒め讃えたが、それなら私は決して生涯口にすることは無いが、英雄の妻になどなりたく無かった。
たかあきは東国の地方都市に辿り着きました。名所はツインタワー、名物は肉料理だそうです。
人間の理性と感情を象徴するという一対の塔が聳える都市には、特定の神を信じなくなって久しい時代に尚も宗教を学ぶ学生が集っている。彼らは化石を掘り出すように神の教えを学び実践はするが、神の教えを語る伝道者特有の熱さや生々しさとは無縁のまま宗教を捉え、その美しい面のみを務めて語ろうとするのだ。
人間の理性と感情を象徴するという一対の塔が聳える都市には、特定の神を信じなくなって久しい時代に尚も宗教を学ぶ学生が集っている。彼らは化石を掘り出すように神の教えを学び実践はするが、神の教えを語る伝道者特有の熱さや生々しさとは無縁のまま宗教を捉え、その美しい面のみを務めて語ろうとするのだ。
たかあきは真夏の僻地に辿り着きました。名所は花畑、名物は砂糖菓子だそうです。
死に際に川向うの花畑を見るのは何処の国でも聞くことだから、どんな神を信じていても、あるいは信じていなくても、きっと皆逝く場所は同じなのだと言った彼女の言葉を砂糖菓子のように甘いと思ってしまうのは、私が一度だけ見た向こう側の世界が地獄としか呼びようのない場所だったからだろうか。
死に際に川向うの花畑を見るのは何処の国でも聞くことだから、どんな神を信じていても、あるいは信じていなくても、きっと皆逝く場所は同じなのだと言った彼女の言葉を砂糖菓子のように甘いと思ってしまうのは、私が一度だけ見た向こう側の世界が地獄としか呼びようのない場所だったからだろうか。
たかあきは東国の学生街に辿り着きました。名所は花畑、名物は肉料理だそうです。
食事や生活習慣をはじめとする禁忌から発生しかねないトラブル防止のため、宗教都市の学生寮は宗教毎にエリア分けされ、境界には手入れの行き届いた花壇が設けられ明確な区分と共に和みの空間を演出している。ただ、花壇の向こう側である別宗教エリアを学生達はお互いこっそり「彼岸」と呼んでいた。
食事や生活習慣をはじめとする禁忌から発生しかねないトラブル防止のため、宗教都市の学生寮は宗教毎にエリア分けされ、境界には手入れの行き届いた花壇が設けられ明確な区分と共に和みの空間を演出している。ただ、花壇の向こう側である別宗教エリアを学生達はお互いこっそり「彼岸」と呼んでいた。
たかあきは収穫月の観光地に辿り着きました。名所は石碑、名物は砂糖菓子だそうです。
今年は十年に一度のお祭りだよと由来の彫られた石碑を見せられたので、それは運が良かったと答えると、街の人は微妙な笑顔でまあ来年も別の神様の十年祭があるし、その次の年もまた次の年もそれぞれ別の神様の十年祭が続いて一回りしたらまた初めの神様の十年祭だけどねと言って名物のリンゴ飴を売ってくれた。
今年は十年に一度のお祭りだよと由来の彫られた石碑を見せられたので、それは運が良かったと答えると、街の人は微妙な笑顔でまあ来年も別の神様の十年祭があるし、その次の年もまた次の年もそれぞれ別の神様の十年祭が続いて一回りしたらまた初めの神様の十年祭だけどねと言って名物のリンゴ飴を売ってくれた。
たかあきは収穫月の宗教都市に辿り着きました。名所は歴史ある博物館、名物は果物だそうです。
歴史ある考古学博物館を目当てに訪れた都市は多民族が暮らしている故か、各種取り揃えたとしか言いようのない程に神社仏閣教会神殿が節操なく立ち並んでいる。更に林檎、葡萄、柘榴などなど各宗教毎の供物とされる果実の収穫期ともなると市場に積み上げられた果物の甘い香りが街中に漂うのだそうだ。
歴史ある考古学博物館を目当てに訪れた都市は多民族が暮らしている故か、各種取り揃えたとしか言いようのない程に神社仏閣教会神殿が節操なく立ち並んでいる。更に林檎、葡萄、柘榴などなど各宗教毎の供物とされる果実の収穫期ともなると市場に積み上げられた果物の甘い香りが街中に漂うのだそうだ。
常日頃から付けペンを愛用している私が叔父の形見として譲られたブロッターを使うと、何故か吸い取り紙に通常では在り得ない程に明快な文章が現れたので読んでみた。すると内容は叔母に対する短いが熱烈な恋文だった。叔母の家に鏡文字で書かれた恋文がわざわざ額装された状態で飾られているのはそういう理由からだ。
もう香りは残っていないよと見せてくれた古い香水分の蓋を戯れに開けてから鼻を近づけた直後、頭蓋を揺すぶられたような衝撃と共に視界一杯が見知らぬ薔薇の花園で覆われ、一瞬にして消え失せた。とうに香りが失せた香水瓶から私は何を嗅ぎ取り、何故薔薇園を幻視したのか。
ようやく世界を手に入れたと奴が見せてきたのは極小写真を仕込んだ十字架のペンダントだった。横穴から覗くと浮かび上がる見慣れた大聖堂のすぐ側を何かが過ぎった直後に奴はオレから十字架を取り上げたので、その何かが行方不明になった彼女の姿をしていたかは判らずじまいだ。