カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第九十二景・風の案内役

2019-04-30 10:30:16 | 桜百景
たかあきは、風の公園と桜の花弁に関わるお話を語ってください。

 海の見える高台に桜樹が並んだ公園にはいつも強い風が吹き付けてきて、せっかく綺麗に咲いた桜もすぐに花弁を散らしてしまうのだが、ある年の春、偶然遠くから公園を見上げた直後に公園中から巻き上がった薄紅色がまっすぐ天を目指し昇って消えていくのを目撃して以来、この公園の桜樹に与えられた本当の役割を知った気がする。
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第九十一景・彼方の桜花

2019-04-29 17:39:40 | 桜百景
たかあきは、晩秋の異星と桜の髪飾りに関わるお話を語ってください。

 ご先祖様の惑星では、桜は霞のように枝を彩って咲く儚げな薄紅色の花らしいけど、そうだとしたら私たちが知っている桜とは随分と趣が違うんだろうねと笑う彼女の髪を飾る桜花は、大人の掌位の大きさで薄い緑色の細い花弁が幾重にも重なり合った、僕らにとってはごくありふれた秋の季節を彩る花だ。
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骨董品に関する物語・モスアゲート(苔瑪瑙)のブローチ

2019-04-29 13:51:10 | 突発お題

 うちは質屋なのだが、この前奇妙な客が奇妙なブローチを預かって欲しいと来店した。苔瑪瑙に似た天然鉱石を風景画の一部にあしらった見事な細工のブローチは客の故郷をモチーフにしたと言うが、およそ地球上に存在するとは思えない光景に、故郷を離れてこの地で暮らしている客の苦労が偲ばれた。
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骨董品に関する物語・懐中時計ケース

2019-04-28 11:07:38 | 突発お題

 叔父の家には繊細な枠飾りが施された古い小振りのガラスケースが棚に置いてあるが、中には何も飾られていない。理由を尋ねたら一緒に購入して収納しておいた懐中時計を盗まれて以来の事らしい。まあ盗まれた時計よりこのケースの方が遥かに高額な品物だったけどねと笑う叔父の笑顔は何故か黒い。
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骨董品に関する物語・菫色のリボンスカーフ

2019-04-27 18:13:44 | 突発お題

 このリボンスカーフは多分未完成だよと彼女は言った。刺繍図案のパターンからすると本来あるべき図案が使われていないのだそうだ。それに他と比べて未熟な針痕も少し混じっているから、何かの事情があって刺繍が中断した後で別の誰かが完成させたのだろうねと。それが本当だとしたら、このスカーフが完成するまでの物語は美談なのか、あるいは悲劇なのか。
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骨董品に関する物語・金継の入ったデミタスカップ

2019-04-27 18:11:15 | 突発お題

 新しい義母は優しかったが、亡き母が大切にしていたカップを割った時に新しいものを用意しましょうねと微笑んだ姿に私の中でも何かが割れてしまい、その時点では必死に修復しようとカップの金継を依頼したのだが、修復されて戻ってきたたカップが再び義母の手で割られた時、今度こそ本当に何もかもが修復不能になった。
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第九十景・人喰い桜

2019-04-27 10:21:53 | 桜百景
たかあきは、真夜中の田舎と桜の狭間に関わるお話を語ってください。

 その時期、僕の暮らしていた田舎の夜道に浮かび上がる光は天を彩る月星の白々と冴え渡った輝きだけではなかった。彼方の森に広がる薄らとした紅色の霞はその蠱惑的な色彩で視線を奪い、美しさに魅せられた人間が突然に薄紅の散る森で首を括り、桜に食われたと囁かれるのも珍しいことではなかった。
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骨董品に関する物語・ヒュギエイアの杯のブックマーク&レターオープナー

2019-04-27 00:20:48 | 突発お題

 蛇は楽園で暮らすイブを唆して知恵の実を齧らせたことからキリスト教では悪魔の象徴とされているが、かつては楽園や不死を引き換えに手にした知恵が人間を神の軛から解き放ったとする教義も存在した。異端とされ消え去った教義にどれほどの真実が含まれていたのか、今となってはは知る術もない。

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骨董品に関する物語・ケース入りペーパーナイフ

2019-04-27 00:19:05 | 突発お題

「ペーパーナイフの出物があったんだが」
「ほう、これは見事な」
「俺も知らなかったがペーパーナイフは昔の袋綴じ装丁の本を切り開く為に使ったそうだ」
「手紙を開封する為だけのモノじゃないんだな」
「しかし袋綴じと言うと週刊誌の特別企画で」
「それ以上何も言うな」
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第八十九景・花見の季節

2019-04-26 23:27:25 | 桜百景
たかあきは、秋の異星と桜の上に関わるお話を語ってください。

 テラフォーミングに成功して居住可能となった惑星は、だからと言って気候や植生が地球のそれと完璧にリンクしている訳ではない場合も多く、そういう場合、例えば地球では秋に当たる筈の季節に桜が咲いたり、まあ色々とズレが発生するのだが、当の移住民は住めば都とばかりにあまり気にしないようだ。
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