カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

骨董品に関する物語・ヴィクトリアンタイル

2018-09-30 14:50:12 | 突発お題
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 結婚のお祝いにと僕が贈った花模様の古いタイルを、妻は新居の棚に飾った。時が経ち、娘が産まれた辺りで最初は蕾だった筈の花が僅かに綻んでいるのに気付いたが、妻は本当にそうだったら素敵ねと笑うばかりだった。その後は子育てや仕事に追われてタイルを観察する暇も無くなったが、成長した娘の結婚が決まった日に何げなく眺めたタイルの花は、いつの間にか満開になっていた。
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作品その45・過去の記憶

2018-09-28 22:17:19 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『碧玉』と『虹孔雀の舌』を材料に『飛翔する炭焼き菓子』を錬成しました。用途は観賞用です。

 どうして自分の記憶がないのか僕には分らなかったが、師匠はさほど意外でもなさそうに、そのうち分かるさと言って焼き菓子を出してきた。勧められるままに口にすると一瞬だが意識が飛んで、アカデミーの制服を着た若い男女三人が目の前に立っている姿が頭に浮かんだが、僕はその三人に見覚えがあった。
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作品その44・崩れ始めた何か

2018-09-27 23:41:55 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『孔雀石』と『日光』を材料に『静止した万年美容剤』を錬成しました。用途は秘密です。

 師匠は何年たっても姿が大して変わりませんねと僕が言うと、何故か師匠は悲しそうに笑いながら、それじゃ、お前は一体何年前にここに来たのか、ここに来る前は何処でどんな暮らしをしていたのかを覚えているかと尋ねてきた。そこで初めて、僕は自分が一体いくつなのかを知らないこどころか、家族も含めて過去の自分に関する記憶が一切思い出せないことに気付いたが、その時はまだ、それがどういう意味なのかも全く分からなかった。。
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骨董品に関する物語・ボンボニエール

2018-09-27 18:55:30 | 突発お題

 爺さんがが生前集めていた骨董品は殆どが二束三文のガラクタだったが、一つだけ厳重に梱包された包みから出てきた青い硝子製の壺だけは何やら由緒ありげな品物だった。とりあえず蓋を開けてみると、いきなり中からボンボニエールの精を名乗るおっさんが湧いて出てきて、この器に入れた菓子を極上の美味に変えてみせましょうと断言した。
 どうして爺さんがこの器を厳重に梱包というよりは封印していたのか薄っすらと理解しつつも、試しに飴玉そっくりのビー玉を入れて暫く待ったら一緒に姿を消したので、恐らくおっさんは常習の食い逃げ犯だと思うのだが、硝子は口に合っただろうか。
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作品その43・夢巡りの歌

2018-09-26 21:37:33 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『星屑』と『夢香草』を材料に『絡繰り仕掛けの妖精球』を錬成しました。用途は秘密です。

 最近眠れないとぼやいた僕に師匠は意味ありげな笑みを浮かべながら、これをやろうと淡く輝く掌大の球体を差し出してきた。何ですかこれと尋ねても秘密としか言わず、とにかく枕元に置けと言う。その晩言われた通りに球体を置くと綺麗な音楽が流れてきて、僕は次の日の朝、久しぶりに思い出せない夢と共に目覚めた。
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作品その42・第五元素

2018-09-25 20:02:05 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『陶器の破片』と『三十年物の光鼈甲』を材料に『大地の幽霊の素』を錬成しました。用途は不明です。

 かつての師匠はしょっちゅう粉薬や水薬のようなものを錬成していて僕には絶対に触るなと厳命していたが、それら単体の薬を一定法則で組み合わせ、更なる複雑な高次錬成を行うと極めて純度の高いエーテルとなる。作るのも使うのも保存するのも大変な気体を作る理由を僕が一度尋ねたところ、会いたい人がいるんだと答えが返ってきた。

 師匠が一体そこまでして誰の姿を見たがっていたのか、当然ながらその頃の僕は全く分からなかった。
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作品その41・ブルーローズ

2018-09-24 21:37:57 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『賢者の石』と『金色朝顔の種』を材料に『流れ出る青薔薇』を錬成しました。用途は極秘事項です。

 師匠の数多い趣味の中一つに園芸があるが、やはり師匠が育てているだけあって温室には他所では見られない色や種類の花が年中咲き乱れている。中でも師匠がお気に入りらしいのは空の色をした薔薇で、これは売るどころか存在すらも極秘にしている。ただ、師匠は薔薇の手入れをしながら、本来なら薔薇は悲しみの青になることを拒んだ筈なんだがなと呟くことがあった。

 遠い国の神話で、美の女神とともに生まれた薔薇たちが様々な色彩で我が身を装った際、ただの一輪として悲しみの青を装うことを選ばなかった為、この世界に青い薔薇は存在しないのだと語られているのを僕が知ったのは、ずいぶん経ってからだった。
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作品その40・戦場のタコロイヤー

2018-09-23 22:36:30 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『石榴石』と『虹の破片』を材料に『巨大タコ型縫いぐるみ』を錬成しました。用途は戦闘用です。

 お祭りの出し物に使うので受けを狙える個性的な戦闘鎧が欲しいという禄でもない依頼に対して、師匠は嬉々として吸盤の付いた鞭型の触手が八本装備されている鎧を納品した。悪魔の魚を思わせる戦闘鎧は使いこなせば相当の威力を発揮するらしいが、まずは動かす際にどれがどの触手なのかを完璧に認識する必要がある、非常に操作性に問題のある代物だった。
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作品その39・夢の欠片

2018-09-22 21:57:52 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『蛍石』と『夢香草』を材料に『天使の影分身』を錬成しました。用途は滋養強壮です。

 最近になって新技術の開発に成功したという師匠は、二人の男女が寄り添う幻影を創り出して僕に見せてくれた。なんでも二人は師匠と同じアカデミーに通っていた親友で、後に結婚して夫婦となったという。綺麗な人ですねと僕が素直な感想を漏らすと、そうだよなと笑った師匠の表情は何故か泣いているように見えた。
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作品その38・擬似生命体の運命

2018-09-21 22:39:26 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『貝の化石』と『三日放置した魚シチュー』を材料に『可愛い羽根馬』を錬成しました。用途は観賞用です。

 師匠は絡繰りを造るのは得意だが、擬似生命体は滅多なことで錬成を行わない。一度、貴族相手の大きな仕事を断った際にどうしてなのかと尋ねたところ、ナマモノはどうも苦手でなと言葉を濁された。やがて擬似生命体を錬成した僕は、自分が作り出した仮初めの生命が目の前で崩れ去るのを止められないまま、かつて師匠が味わったであろう苦しみを体感した。
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