「カーニバルのダンスで殿下をエスコートするんだって?」
いつものように屈託のない笑顔で訊ねてくるアルベルトに蹴りを入れたくなる衝動を何とか抑えながら、ハリーは無愛想に言い捨てる。
「殿下の護衛(エスコート)が、私の任務ですから」
そうかそうかと意味ありげに頷いてから、それなら、おれが取って置きの晴れ着を貸してやろうと提案してくるアルベルト。
「何と言っても年に一度の祭りだ、ハリーだって着飾った方が楽しいだろう」
着飾る、という言葉に対して年頃の娘らしく僅かだが心が揺れるハリー。ローランドから持参した衣服は礼を失さない程度の古着、それも兄のお下がりが殆どで、当然のように晴れ着などの用意はなかった。
「卸し立てではないが殆ど着ていないし、立派な仕立ての絹服だぞ」
絹服という言葉に思わず瞳を輝かせるハリー。ローランドでは即位の儀式並みの重要な式典でもない限り、たとえ王族でも絹服を纏うことなど稀だった。
それではお願いしますと答えたハリーは何故か騎士隊長(当人曰く”代行”)であるコリンの家に連れて行かれ、やたらと人懐こい奥方に着替えを手伝って貰うことになり…… それ故に逃げることも出来ないまま、晴れ着に着替える羽目に陥った。
絹地特有の光沢を持つ、鮮やかな空色に染め上げられた膝上までの衣。
胸部には王冠と盾、それに二頭の獅子をあしらったフランク王室の紋章が金糸と銀糸によって緻密に刺繍されている。
「…… 何ですか、この服は」
地獄の底から響いてくるような不吉な口調と表情で訊ねるハリーに、アルベルトはコリンの奥方ともども嬉しそうに笑いながら答える。
「おお、良く似合っているぞハリー。これなら王子さまと言っても充分に通用する」
「だから、何ですかこの服は」
「何だと言われても、王室騎士隊の儀礼服だが」
立派な晴れ着だろうと言い切るアルベルトと、持ち主の兄様より遥かに似合うわと太鼓判を押してくれた奥方(実はアルベルトの妹君)に押し切られて、ハリーはその格好のままカーニバルで賑わう街に放り出された。そして、王室騎士隊に憧れを抱く若い娘や子どもの熱い視線を四方から浴びせかけられることになったわけだ。
いつものように屈託のない笑顔で訊ねてくるアルベルトに蹴りを入れたくなる衝動を何とか抑えながら、ハリーは無愛想に言い捨てる。
「殿下の護衛(エスコート)が、私の任務ですから」
そうかそうかと意味ありげに頷いてから、それなら、おれが取って置きの晴れ着を貸してやろうと提案してくるアルベルト。
「何と言っても年に一度の祭りだ、ハリーだって着飾った方が楽しいだろう」
着飾る、という言葉に対して年頃の娘らしく僅かだが心が揺れるハリー。ローランドから持参した衣服は礼を失さない程度の古着、それも兄のお下がりが殆どで、当然のように晴れ着などの用意はなかった。
「卸し立てではないが殆ど着ていないし、立派な仕立ての絹服だぞ」
絹服という言葉に思わず瞳を輝かせるハリー。ローランドでは即位の儀式並みの重要な式典でもない限り、たとえ王族でも絹服を纏うことなど稀だった。
それではお願いしますと答えたハリーは何故か騎士隊長(当人曰く”代行”)であるコリンの家に連れて行かれ、やたらと人懐こい奥方に着替えを手伝って貰うことになり…… それ故に逃げることも出来ないまま、晴れ着に着替える羽目に陥った。
絹地特有の光沢を持つ、鮮やかな空色に染め上げられた膝上までの衣。
胸部には王冠と盾、それに二頭の獅子をあしらったフランク王室の紋章が金糸と銀糸によって緻密に刺繍されている。
「…… 何ですか、この服は」
地獄の底から響いてくるような不吉な口調と表情で訊ねるハリーに、アルベルトはコリンの奥方ともども嬉しそうに笑いながら答える。
「おお、良く似合っているぞハリー。これなら王子さまと言っても充分に通用する」
「だから、何ですかこの服は」
「何だと言われても、王室騎士隊の儀礼服だが」
立派な晴れ着だろうと言い切るアルベルトと、持ち主の兄様より遥かに似合うわと太鼓判を押してくれた奥方(実はアルベルトの妹君)に押し切られて、ハリーはその格好のままカーニバルで賑わう街に放り出された。そして、王室騎士隊に憧れを抱く若い娘や子どもの熱い視線を四方から浴びせかけられることになったわけだ。