竜飼いその70・軽快なる電波受信

たかあきの竜は亜麻色の鉱石ムカシトカゲという品種名です。気性はお調子もので、用途は通勤用です。

　どうしてなのかは良く分からないが父の通勤竜は角の辺りでラジオ電波を受信再生できる。珍しいことは珍しいが別に怪異でも何でもないと父は構わず竜を通勤に使っているが、四十過ぎたおっさんにラジオの歌に合わせて背中でじたばた動かれる竜にとっては迷惑極まりない話ではないだろうかと時々思う。

骨董品に関する物語・オパールセントガラスの聖母像

　浮気した妻と離婚したばかりだという先輩から、オパールセントガラス製の聖母を渡された。どう見ても年代物だったのでいいのかと尋ねると、その身に受ける光で色彩を変えてみせる聖母像を見ていると叩き割りたくなるから、どうかお前が持っていてくれと頼まれた。そう、再び聖母の輝きを美しいと愛でることが出来る日が先輩に訪れる、その時まで。

竜飼いその69・我は永遠に君を忘れじ

たかあきの竜は碧空の鋼鉄ドラゴンという品種名です。気性は強情で、用途は朗読役です。

　うちの竜は飼い主だった祖父ちゃんが亡くなって以来、祖父ちゃんが最後に朗読を命じた詩を延々と朗読するようになった。家族が心配して朗読を止めるように命じても祖父ちゃん譲りの頑固さからか止めようとしない。遺言で竜を譲ってもらった立場上、考えに考えて爺ちゃんの好きだった詩を順番に朗読してくれと命じたら、どれを一番先に朗読するのか悩み始めたようで、ようやく朗読が止まった。

竜飼いその68・蒼空と疾風の記憶

たかあきの竜は碧空の疾風竜という品種名です。気性は穏やかで、用途は愛玩用です。

　かつて蒼空を覆う程に群れを成して飛翔していた飛竜は、今やこの地上に数頭しか残っていない。彼らは環境が整えられた飼育施設で繁殖を期待されながら大切に育てられているが、皆一様に数え切れぬ程の仲間と広い空を疾風のように駆け抜けた経験も、そのような光景を夢見るだけの記憶も持たない。

竜飼いその67・逆光のフォーチュン

たかあきの竜は紫暗の疾風トカゲモドキという品種名です。気性は少し意地悪で、用途は飛翔用です。

　うちの飛竜は飛翔する姿がとても美しいのだが、写真を撮ろうとすると何故かすぐ太陽を背にする。そのせいで逆光気味のシルエット写真しか残らないのだが、コレはきっとヤツが俺に写真技術を鍛えろ、シャッターチャンスを逃すなと指導鞭撻しているに違いないと思い込んで今日もカメラ片手にヤツを追う。

竜飼いその66・誇り高き惰眠

たかあきの竜は橙色の鉱石ドラゴンという品種名です。気性は強情で、用途はペットです。

　うちの竜はフリスビーを使った「取ってこい」が大好きなのだが最近の酷暑のせいで公園に行けず、かと言って家の中で投げる訳にもいかない状態が続いたら、すっかりいじけてふて寝をするようになった。有毛種で汗をかく機能が不十分とは言えエアコンの風が当たる場所で腹を上にして爆睡している姿を見ると、何だか古の誇り高き竜に対して申し訳なくなる。　

竜飼いその65・真紅の懐刀

たかあきの竜は真紅色の流水竜という品種名です。気性は引っ込み思案で、用途は戦闘用です。

　うちの部隊の紅一点が操る飛竜は専守防衛が基本なので、時折だが新兵に、これだから女はと侮られることがある。勿論そんな時は古参兵が顔色を変えて怒鳴りまくるが、確かに数年前の撤退戦で殿を務めた奴らの、向かってくる敵を容赦なく、しかも確実に只の肉塊へと変えていく壮絶な戦いぶりを見た者にとって看過できる発言ではない。

竜飼いその64・我が征くは碧き虚空

たかあきの竜は碧空の虚空ムカシトカゲという品種名です。気性は冷酷で、用途は飛翔用です。

　編隊飛行中の不幸な事故で仲間を失い一頭だけ生き残ってしまったベテラン飛竜は、それから決して他の飛竜と共に飛ぼうとしなくなった。飼育士を含めた周囲は自分だけ生き残った事を悲しんでいるのだろうと考え、虚空を独りで飛翔する飛竜が未だにかつての仲間と共に飛んでいるなど考えもしなかった。

竜飼いその63・碧空の飛空石竜

たかあきの竜は碧空の鉱石オールドドラゴンという品種名です。気性は利発で、用途は運搬用です。

　飛竜に飛空石を喰わせると滞空時間が延びることは知られているが、与え方を間違えると飛竜を殺してしまいかねないので大概の人間は躊躇する。ちなみにうちの飛竜が飛空石喰いで長距離重量運搬が可能なのは奴が何を思ったか勝手に他人の飛空石を喰ったからで、あの時は色々な意味で大変な騒動になった。

竜飼いその62・常緑の日常

たかあきの竜は新緑の鋼鉄ムカシトカゲという品種名です。気性は臆病で、用途は愛玩用です。

　うちの竜の名前は「はっぱ」というが、これは小さかった娘がこの子クレヨンの葉っぱ色だと叫んだことに由来する。それからずっとはっぱは葉っぱ色で、歳を取って動きが鈍くなっても変色することがなかったので娘もはっぱは紅葉しないねと軽口を叩いていたが、葉っぱ色のまま動かなくなった日は泣いた。