今日のお題は『夏休み』『屋台』『銃弾』です。

　夏休み中、夏祭りを見に行ったら、並んだ屋台に不思議な射的屋があった。
　普通は棚の上に並んだ標的を銃で狙うのだが、その屋台は黒塗りの大きな箱を覗き穴から確認しつつ、撃ちたい時に叫べば良いという。やってみるといつものように父が母を殴っているのが見えたので叫んだら父の頭が砕け散った。そのまま家に帰ると本当に父が死んでいて、我が家は平穏を手に入れたのだが、屋台の爺さんが『御代は後ほど頂きます』と言った言葉の意味は、あれから十年以上たった今でも分からない。

今日のお題は『幼児』『群れ』『募集中』です。

　うっかり『妖児』保育士募集の面接に応募したら泣かんばかりに歓迎され、早速妖怪の幼児の群れに引き合わされた。
　怖がらないでください、みんな大人しい子たちなんですと更に泣き付かれ、実際躾の行き届いた子ばかりだったので、まあいいかとそのまま就職を決めた。
　ところで、何で妖怪が人間に紛れて暮らしているのかについて聞いてみると、一種の契約らしい。何でも妖に対する畏れを忘れた人間は倫理的にだけでなく空間的にも厄介な存在と成り果てるらしく、してみると、この仕事も一応は世界を守る大事なものと言うことになる。

今日のお題は『一人』『タバコ』『まとめ』です。

　草原の民に渡す手土産にと、自分では喫わない煙草を箱でまとめて購入する。街の灯が届かない夜の草原を案内してくれる彼らは、天の星を指しながら一族に伝わる伝説を語り、実に旨そうな表情で煙草の煙を吐き出してみせる。満天の星空と、草原にはこんな楽しみしかないと笑う彼らを見る為の1人旅だ。

今日のお題は『かさぶた』『すごろく』『記憶』です。

　十二単衣姿の娘と双六をしている。
　昨晩までに九戦九勝しているので、今夜勝てば約束通り彼女はおれのものだ。そして善戦しながらも負けてしまった彼女は、いきなり刃物を振りかざしてきて、そこで目が覚めた。
　残ったのは夢の記憶、殺してでもおれを拒もうとした彼女の決意と、何故か切り付けられた傷あとに出来ていたかさぶた。

今日のお題は『満月』『味覚』『群れ』です。

　満月の光は、かつて自分が獣だった時を切れ切れに思い出させる。群れと共に獲物を追い、仕止め、その新鮮な血と肉を味わった日々。そしてきっと、あのどうしようもなく甘い味覚を完全に思い出した時、自分はきっと還る事になるのだろう。荒野に向かって、今はもう何処にもいない仲間の群れを目指して。

今日のお題は『原稿』『布地』『カーテン』です。

　うちのカーテンレールが「下げられるのがいつも無地のつまらない布地ばかりだ」という理由でストライキと言うか嫌がらせを始めた。夜中にいきなり開く、朝にいきなり閉まる、終いには力尽きるまで開閉をくり返したので、たまりかねて図案原稿を提出して認証をもらい、刺繍をはじめた。時間はかかるが、そのうち布地全体が緑の森に覆われれば満足してくれるだろう。

今日のお題は『味覚』『男』『猫なで声』です。

　ようやく見付けて入った宿屋で、主人が猫なで声と共に出して来た名物料理とやらを口にした時、味覚が異常を感じたので食事を切り上げ早めの床に就くことにした。案の定、寝込みを襲って来たので帰り討ちにして役人に届けたら主人は家族を捨てた実の父親だった。男が現在この宿屋の主人をやっている理由だそうだ。

今日のお題は『男』『虹』『男』です。

　男は虹の根元に埋まっているという宝を生涯追い求め、人生の全てを捧げ尽くした末にようやく辿り着いた虹の根元から宝の入っている箱を掘り出し、その蓋を開けた途端に宝を追い求める事なく平凡に暮らし、妻子と共にささやかな生涯を送ったもう一人の自分の人生を体感する事になった。己の手にするべき宝が何であったかを知った直後に虹が消え、同時に男の寿命も尽き果てた。

今日のお題は『乳』『国』『無差別』です。

　産まれてすぐに母親を亡くし、山羊の乳で育てられた彼は、長じて勇敢な戦士となって草原を駆け巡り、無差別で容赦のない戦いの果てに己の国を建てるに至った。やがて彼は妻を亡くし息子に背かれ、最後に残された唯一の財産である山羊を牽いて自分の国を離れる事になった。

今日のお題は『アイコン』『布地』『CD』です。

　お気に入りのCDをエンドレスで聴きながら、刺繍枠に張った布地にアイコンのドット絵を思わせる×で埋まった升目で構成された図案を延々と刺繍していく。大概は途中で意識が飛んで升目を一つ、あるいは1列間違えて泣く泣く解く事になるが、ある日開き直ってそのままにしたら、それはそれで味になった。