カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

店の名は琥珀亭・夜に咲く花

2017-04-28 18:39:20 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【破った読書感想文】というテーマで創作してください。

 祭の二日目は夜に花火が打ち上げられる。空の星より遥かに色鮮やかで大輪の花が次々と轟音を立てて弾け、散っていく姿は花火を碌に知らない遠方からの見物客たちの度肝を抜き、故郷に戻っての土産話も勢い派手なものになって更に遠方からの見物客を呼ぶことになる。勿論そんな美しい花火の打ち上げ演出は、監督と秘伝に近い技術を持った誇り高い火薬職人との罵り合いの産物だ。
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店の名は琥珀亭・怨恨(うら)みて散る

2017-04-27 22:55:47 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【獣の咆哮】というテーマで創作してください。

 今年の新趣向は、どんな手段を使ったのかは不明だが監督が東国から手に入れたという巨大な太鼓の響きだった。力自慢の若い衆でも疲弊が激しい打ち込みで示される、暴力的でありながら整然としたその音色は天使を獲物として蹂躙する獣の咆哮を表し、更に為す術もなく狩られていく天使の悲痛が女性の出せる殆ど最高域の音声で謡われ、それに被さる。
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店の名は琥珀亭・水鏡の都

2017-04-26 21:06:16 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【水底】というテーマで創作してください。

 二日目の舞台は、水面に映るかつての都を眺めながら天使たちが昔を懐かしむという形式の謡が披露される。舞台で水の質感をどう表現するか、更に謡と効果をどのように融合させるか、その辺は監督と先生に課せられた毎年の最重要課題で、たまに意見が合わないと夜中でも罵り合いが聞こえてくるが、大概の住人はこの街の風物詩だと気にしないことにしている。
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店の名は琥珀亭・告知、そして宣誓

2017-04-25 19:59:40 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【夢を喰らう人】というテーマで創作してください。

 この街で暮らす天使を大切にして下さい。多分、あの人は繫ぎ止めるものがないと、いずれは必ずどこかに飛び去ってしまいますよ。
 そう告げてから歩き出した神官をギルドの有力者は追わなかった。恐らく神官が戻らなければ今度こそ神殿側がそれを口実に港町に強制介入してくることは明らかだったからだ。
「……まあ、あの人に関しては言われるまでもないがな」
 恐らくは祭を見物する暇も無いままに店の厨房で客の注文に応じ続けている店長の姿を想像しながら、彼は呟いた。
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店の名は琥珀亭・沈めた筈の想い

2017-04-24 18:39:39 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【水底】というテーマで創作してください。

 実は父が死んだと連絡が入りましてね、祭を見られないのは残念だし葬儀にも間に合わぬ身ですが家に帰ろうと思ったのですよ。

 そう言って神官が差し出してきたのは開封済みの手紙だった。港町の商人ギルドでもよく使われる、蝋を垂らした上から金属製の印章を捺印した封緘は、手紙の差出人が相当に格式の高い商家であることを雄弁に示している。

 今でも家族と相容れる事は出来そうにありませんが、それでも帰らずには居られないのです。
 家を出て神殿に入ったその日に、血の繋がりなど断ちきったつもりでいた筈なのですがね、難しいものです。

 己の口元に貼り付いたような笑みを消せないまま、そんな風に神官の言葉は続いた。
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店の名は琥珀亭・貧乏神官の目的

2017-04-22 11:08:57 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【破った読書感想文】というテーマで創作してください。

 祭初日の夜、商人ギルドの実力者は荷物を背にした旅装束の貧乏神官に声を掛けた。声を掛けられた当人は急ぎの用が出来ましてと笑ったが、相手は微笑みも浮かべぬまま無言で立ち塞がり、やがて神官も諦めたのか僕を殺す必要はありませんよ、ここに居るのは神殿が捜している天使ではありませんからと応えた。
「でも、いつから僕が神殿の監査官だと気付いていたのですか?」
 そんな神官の質問に、ギルドの実力者はこの街の連中は勘が良い奴が多いのさと曖昧に笑う。

 実際の処、神殿にとってこの港町は相当に微妙な存在だった。認可された地域祭典という形を取っている祭も、一部の天使原理主義者から言わせれば異端の所業でしかないのだが、街の商業ギルドマスターは教会に対して表の寄進も裏の賂も惜しむことが無く、故に不用意な手段に訴えるのは憚られたのだ。

「それにな、神殿が派遣してきた監査官はあんたが初めてじゃ無い。そう言う意味で俺達は『慣れている』んだよ」
 港町が神殿から『神官の墓場』と呼ばれる真の理由は派遣された監査官の本部帰還率の低さに因るものだが、それもギルド実力者である彼の『仕事』の一部だった。
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店の名は琥珀亭・歓迎と別離

2017-04-20 23:33:31 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【根元から折った鍵】というテーマで創作してください。

 謡は構成的に幾つかの組曲となっていて、祭の三日間をかけて謡われる。初日はこの地に天使の群れが降り立った場面で、大地に降り立った天使は同時に翼を失い、天に還れぬまま大地で人間として暮らしていく事になる。揺るぎない大地を手に入れた事で翼を失った哀しみ、更に大地が人間となった天使たちにもたらす激し過ぎる生活の苦楽が曲のテーマとなる。
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店の名は琥珀亭・飛び立つ鳥、舞い降りる鳥

2017-04-19 23:44:06 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【箱の中に詰めたもの】というテーマで創作してください。

 広場に集まった歌い手たちが野外舞台に並ぶと、放たれた白い鳥が飛び立つ中で特別な祭装束を身に纏った楽師が三線の弦を強く弾き、謡が始まる。元々は監督の国の古い言葉を、更に今は使われていない古い言葉に翻訳したものらしく正確な内容を知っているものは歌い手にも少ないのだが、朗々と響く声がこの世界に対する祝福を謡っているのは聴いている誰にも分かった。
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店の名は琥珀亭・祭礼の始まり

2017-04-18 21:42:58 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【夢を喰らう人】というテーマで創作してください。

 港町の祭は通常、初夏に行われる。鮮やかな新緑が山を覆い、海から吹いてくる風が優しく感じられる爽やかな季節だ。毎年様々な新趣向を凝らして行われるとは言え、初日は必ずこの日に備えて練習を重ねてきた街の人間が鈴を鳴らしながら街の通りを練り歩き、集まった広場で楽を奏しながら謡を披露する。そうして祭が始まるのだ。
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店の名は琥珀亭・鳥が飛ぶように

2017-04-17 22:17:19 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【紙飛行機】というテーマで創作してください。

「店長から聞いたんだけど、君が昔見たのはコレかい?」
 などと言いながら監督は嬉しそうに貧乏神官の眼前で紙を折り、難なく空に飛ばして見せた。顔色を変える神官に、監督は相変わらずの笑顔でコレは僕の生まれた国のおもちゃだよと答える。人の技は世界の理に則りさえすればどんな事でも可能であり、それは奇跡などと言う言葉で称されるあやふやで不確実なものでは有り得ないのだと。
「まあ、ひょっとしたら、その世界の理そのものが奇跡の結晶なのかもしれないけれどね」
 そんな監督の言葉に、神官はただ無言を以て応える。
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