カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第七十景・枯れない花と褪せる花

2019-03-29 18:24:33 | 桜百景
たかあきは、春の学校と桜の造花に関わるお話を語ってください。

 子供は新しい出会いを永遠のものと信じる。そして、その場限りの変わらぬ誓いが枯れない花のようにやがては色褪せ誰にも顧みられなくなるものだと知る頃には大人になって、かつて己が誓った筈の永遠を忘れてしまったことさえ忘れ果てるが、それはきっと健全な成長と呼ばれるものの為には必要なことなのだろう。
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第六十九景・花魄の鳴く庭

2019-03-28 19:38:39 | 桜百景
たかあきは、迅雷の隣家と桜の花に関わるお話を語ってください。

 隣家の庭に植えられた桜樹の枝に見たこともない綺麗な小鳥が止まっていたと祖父ちゃんに話したら、アレは花魄だ、あまり良いモノではない、まあコチラに害はないがなと言われた。そして隣家の人間が次々と三人も桜樹で首を吊り、花魄が首吊りのあった樹に宿る妖だと僕が知った頃、鳥の数は四羽になっていた。
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第六十八景・初桜

2019-03-27 19:03:36 | 桜百景
たかあきは、小糠雨の田舎と桜の花弁に関わるお話を語ってください。

 僕が冗談で言った、その年一番最初に咲いた桜の花を見付けると幸せになれるという出鱈目を真に受けた妹は小糠雨の中を飛び出してしまい、慌てて追いかけても花が見つかるまで帰らないと駄々をこねた。諦めて僕も一緒に探した中で、ようやく一輪だけ咲いている花を幸せになれるかなと見詰めた妹と僕は揃って風邪を引き、幸せになるどころか母さんにすごく叱られた。
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第六十七景・開花宣言

2019-03-26 20:08:02 | 桜百景
たかあきは、朝の公園と桜の幹に関わるお話を語ってください。

 僕が朝の散歩コースにしている並木道の桜樹に今年も花が開き始めた。他の人には見えないようだがそんな桜の幹には見たこともない文字で、それでも何故か僕には桜の開花日と開花状況を記していると判る文章が浮かび上がる。誰の仕事かは知る由もないが、とりあえず人外の仕事に見つけたとしても、こちらの人間は何も気付かぬ風に通過するのがルールだ。
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第六十六景・風と共に去りぬ

2019-03-25 20:42:53 | 桜百景
たかあきは、突風の学校と桜の造花に関わるお話を語ってください。

 街を一望出来る高台にあった校舎は常に山と海から吹く風に晒されていて、徒歩で登校する生徒にはハードな環境だった。特に女生徒にとっては制服のスカートは舞うわセットした髪は乱れるわ更に運が悪いと鞄に付けたアクセサリーまで持っていかれるわと散々で、私の作った会心の出来だった造花の桜も本物の桜花が散るように何処かに飛んで行ってしまった。
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骨董品に関する物語・モルフォ蝶の羽根製アクセサリー

2019-03-23 22:58:41 | 突発お題

 実は蝶と蛾に生物学的な意味での明確な差異は存在しないという。色彩も姿形も、飛翔時間の昼夜すら両者を明確に区分する根拠とはならない。ただ蝶は美しい姿で昼に光の下を遊び、蛾は醜いと呼ばれる事の多い姿で夜の闇に紛れて光を求めるイメージが定着している訳で、何とも残酷な話だ。
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骨董品に関する物語・イギリス製の幻灯機用天文スライド

2019-03-23 22:56:14 | 突発お題

 幻燈は文字通りに光と影が生み出した幻の如く実在しないものだが、それでも確かにその場に存在する。そして優れた芸術と呼ばれるものは必ず、触れることも留め置くことも出来ない一瞬を切り取ってこの世界に遺した、いわば遺産のようなものだと生涯貧乏画家だった俺の先生はよく言っていた。
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骨董品に関する物語・アンティークの理系チャート

2019-03-23 22:53:24 | 突発お題

 兄はこの世界に「此処ではない何処か」があると生涯信じて疑わなかった。そして疑いが鎌首を持ち上げると決まって異国の骨董じみた品物を見付けてきて身近に飾るのが常だった。だから今、兄が本当に「此処ではない何処か」に旅立ったのなら、私には必要のない兄の蒐集物は、きっと別の場所で別の誰かを癒すのだだろう。
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骨董品に関する物語・フランス製の悪魔のステレオグラム

2019-03-23 22:51:56 | 突発お題

 文化の発展には偉大な創造者だけでなく創造された文化を似て非なるものとして再生産する模造者、そして模造品すら享受する圧倒的な消費者層が絶対に必要で、創造の対象が神や悪魔であってもそれは変わらない。そこで彼らは人を導く高次の偶像ではなく人の投影として表現される。
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骨董品に関する物語・アンティークの星座早見盤

2019-03-23 22:49:04 | 突発お題

「星座盤か、俺も昔、ちょっといいものを父親に買って貰ったことがあるな」
「黒曜石製か?」
「湾曲した薄い金属盤に透明な回転窓が付いていたな、夜空の暗がりではロクに星座部分を確認できなくて、結局は飾り物になったが」
「あれ?懐中電灯で回転窓を照らしたりしなかったの?」
「……街中では星も見えづらくてな」
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