カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第二十夜・都忘れを摘みながら

2017-06-30 18:42:16 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『寂しさ勝りける』と『藤色』を使って創作してください。

 都忘れという花の名の由来は、かつて暮らしていた都での日々を忘れて心楽しむと言う説と、逆に忘れていた都での日々を思い出して心憂うと言う説があって、どちらにせよ、その可憐な美しさは彼の、或いは彼女の、二度と手に届かない都の生活を時には優しく覆い隠し、時には残酷なほど鮮明に浮かび上がらせるのだろう。
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第十九夜・虹を追いかけて

2017-06-29 19:54:19 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『長長し夜を』と『虹色』を使って創作してください。

 降り続いている雨も夜明けには止むだろう。そうしたらボクは今度こそ虹の根元を、そこに埋められている筈の宝物を見付けに行くのだ。けれど、虹があんなに奇麗なのはその根元に埋まっている宝物が輝くからだと信じていたボクが見付けたのは、虹に吸い上げられて見る影もなくなった、かつて宝物だったものの哀れな残骸たちで、そしてボクは虹があれ程に美しく見える真の理由を知った。
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第十八夜・ゆきいろすずめ

2017-06-28 20:27:43 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『降れる白雪』と『雀色』を使って創作してください。

 土の色をしたひとりぼっちの小さな雀は、いつだって滑らかな灰色をしていないと鳩に、艶やかな黒色をしていないと鴉に苛められ続け、とうとうある冬の寒い日に道端で冷たい骸を晒すことになった。やがて雀を哀れんだ神様が雪を降らせると、その魂は染み一つ無い純白の衣を纏って天に昇っていったと言う。
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第十七夜・おしまいの鼠

2017-06-27 21:38:12 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『知るも知らぬも』と『鼠色』を使って創作してください。

 どうやら男女の別も無く遊ぶ仲の良い幼馴染みだと思っていたのは自分だけだったらしく、クラスの男児に冷やかされた彼は実に冷静な態度でむしろアイツは嫌いだよと言ってのけた。仮にそれが照れから来る嘘だったとしても私の裡で瞬く間にどす黒く広がっていった彼の言葉はこの心を薄汚い鼠色に染め上げ、その時から何年経とうが奇麗になる気配を見せない。
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第十六夜・みどりのおもい

2017-06-26 18:42:36 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『乱れ染めにし』と『萌木色』を使って創作してください。

 この国は、放っておけばいずれ豊かな森に覆われる世界でも希有の土地なのだと聞かされつつも半信半疑でいたら、実際に人が捨て置いた土地がほんの数十年で雑木林と化した。しかし人々が自然の回復力に感動したのは一瞬で、そこに潜んだ不審者が犯罪を犯したという理由で雑木林は残らず切り払われてしまったという。
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第十五夜・女の一生

2017-06-23 22:29:31 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『みをつくしても』と『雀色』を使って創作してください。

 母さんは家族を愛しているが口癖で、皆のためにご飯を作り掃除と洗濯を行い、更に休む間もなく仕事をして私たちを育ててくれた。けれど父さんも兄さんも弟もそれを当然のこととして享受するばかりで、すり切れていく母さんをまともに見ようともしなかった。だから母さんの葬式が終わった日に私は家を出た。後の事は知らない。
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店の名は琥珀亭・『店の名は』(完)

2017-06-23 19:56:15 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【へたくそな口笛を捧ぐ】というテーマで創作してください。

 天使が舞い降りると言われる春の祭で有名な港町には昔からずっと評判の食堂兼酒場があって、初代の店長は驚く位に長生きした末に沢山の孫と曾孫と玄孫に囲まれて大往生したが、現在は六代目の若夫婦が元気良く店を切り盛りしていて相も変わらず客が絶えることはない。

 その店の名は、琥珀亭と言う。
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第十四夜・電脳の妖精

2017-06-22 22:14:17 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神代も聞かず』と『苔色』を使って創作してください。

 人間達の作った幽霊と殆ど変わらない成分の妖精が世界を飛び回るようになって久しい。連中は人間の定めた役目を果たす為に空間を飛び回るだけの働き者で俺達にとっては理解しがたい存在だが、今日も連中はエレキの食事を済ませると、どうでも良いような人間の用事を果たす為に世界中を飛び回るのだ。
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店の名は琥珀亭・事の顛末

2017-06-22 21:11:03 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【オーバーヒートへのカウントダウン】というテーマで創作してください。

 翌日、夜明け頃にこっそり家を出た筈の店長は道に並んだ大勢の街の人々の姿に愕然とすることになった。悪びれもせずに楽師が見送り希望者を募ったらこうなったんだと笑い、行かないでと子供に、私が釣り合う歳まで待っていてとギルド有力者の妹に、そして何より逃げられると思っていたのと凄む娘にたかられた挙げ句に根負けした店長が逃亡の断念を宣言すると、周囲から一斉に歓声が上がった。
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第十三夜・闇の終焉

2017-06-21 23:45:31 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『長長し夜を』と『小麦色』を使って創作してください。

「闇は、愉しかった?」
 健康的な色をした肌と首筋を無防備に晒しながら彼女は私に向かってそんなことを尋ねてきた。答えるまでも無い質問に微笑みかけてみせると、でも今夜でそれもおしまいねと囁いた彼女は何の躊躇いも無く私の心臓に杭を突き立ててくる。たが、元々私の心臓は彼女に捧げるつもりだったので、私は微塵の後悔も抱かぬまま彼女に向かって愛していると囁いてから塵と化した。
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