繊細な輝きを放つ茶器を手に取り、まるで魔法のようだと彼女は嘆息した。確かに石塊を砕き水で練り、風を起こして高温の炎で焼き上げる工程は物語に登場する地水火風の精霊要素の全てが関わっている。そして、魔法の儚さを証明するように僅かな不注意で砕け散る危うさを孕んでいる。
繊細な輝きを放つ茶器を手に取り、まるで魔法のようだと彼女は嘆息した。確かに石塊を砕き水で練り、風を起こして高温の炎で焼き上げる工程は物語に登場する地水火風の精霊要素の全てが関わっている。そして、魔法の儚さを証明するように僅かな不注意で砕け散る危うさを孕んでいる。
久し振りに軋みを感じた。職場の人間に、片付かない空間に、どれだけ歳月を経ようと何者にもなれなかった己の内側に。
これが現状を打開しようと藻掻く故のものなのか、現状に許して貰えない軋轢から来るものなのかは分からないが、いずれ私の背骨は軋みと共にへし折れる日が来るのだろう。
たかあきは三日前、お墓で、知り合いの犬の幽霊に出会い、あなたに取り憑いていいですかと泣かれました。
我が家の墓参を済ませた帰り、最近亡くなった隣人の墓前に老犬の幽霊が佇んでいた。隣人は生前にこの犬を溺愛していて最期まで行く末を心配していたが、隣人の奥さんはこの犬を嫌っていて、葬式の後に犬を何処かに譲ったと聞いた。何があったかは知らないが、主人を恋しがって鼻を鳴らす犬は只哀れだ。
我が家の墓参を済ませた帰り、最近亡くなった隣人の墓前に老犬の幽霊が佇んでいた。隣人は生前にこの犬を溺愛していて最期まで行く末を心配していたが、隣人の奥さんはこの犬を嫌っていて、葬式の後に犬を何処かに譲ったと聞いた。何があったかは知らないが、主人を恋しがって鼻を鳴らす犬は只哀れだ。
父の大切にしていた銀製のカップと瓜二つの品物を古道具屋で見付けたので買い求め、当の父に見せると愕然とした表情となるなり、まだ残っていたのかと呟いてから黙り込んでしまったので、カップに彫られた名前が父の祖母、つまり私の曾祖母ではなく私の名前である理由を聞き損ねた。
『針の先で何体の天使がダンスを踊れるか』という有名な神学上の命題があるが、正解は世界に存在する天使全員と奴は言った。質量とは無縁の存在である天使は例え何体集まろうと針の先に溢れ返ることはないと。そして同じようにロケットペンダント内の空間に俺の全世界があるのだと。
金色の十字架があしらわれたロケットペンダントは裏蓋が硝子製で、病床の母はこの中に貴方の大切なものを入れて何時でも見られるようにしておきなさいと渡してくれた。出来ることなら彼女の魂が祝福された国に旅立つ際に、その欠片でも此処に残して欲しいというのは我儘だろうか。