つまりは筒井康隆の『大いなる助走だ』と、奴は言った。
商業作家という到達点にすら辿り着けない、延々と続く修行という名の助走。
「別に商業作家になりたいわけではないんだが」
俺の言葉に、奴は鼻を鳴らして応えた。
「それならお前は何故ものにもならない文章を書き続ける。一文の得にもならず、誰にも認めてもらえない中で行う自己満足の趣味か?滑稽だな」
昔はこんな物言いをする奴ではなかったんだがと思いつつ、俺は大して感情も動かないまま返事を返す。
「俺の最上がお前の最上である必要は何処にもない。お前がプロを目指すのは勝手だが、だからと言って、好きで文章を書いている俺の志が低いと言われてもな」
「物書きを名乗る身でその態度なら、志が低いと言われても仕方ないだろう」
「物書きなんて自称は単なる行動分類を示す呼称に過ぎん」
「そうやって逃げるか、投稿も同人誌作成販売も行わず物書きを名乗っていれば、まともな物書きが不快になるのは当然だろう」
少なくとも今のお前の言葉はまともじゃないと言いたかったが、奴は更に続ける。
「第一、そんな態度でいるお前におれと同格の友人面が出来ると思っているのか」
一瞬、自分が何を言われたか判らず硬直する、更に言葉を畳み掛けてくる奴が本当にかつては尊敬の念さえ抱いていた友人なのか、むしろ眼前のコイツは一体誰なのか。俺は半分呆けた頭で自問自答するしかなかった。
「……を名乗りたいなら、大きな即売会で己の実力がどの程度の物なのかを実感してからにするんだな。まあ本を作ったら読んでやらんこともないぞ」
ああ成る程、コイツにとって文章を書くというのはなるべく多くの相手に認められることであり、それから外れた場所で楽しむ行為は全て邪道なのか。それなら。
「お前がどう言おうと俺はそうは思わん。絶対にな」
俺が示した明確な怒りと揺るぎない感情に一瞬だけ怯み、奴の暴言はようやく止まった。
「取りあえず、用がそれだけなら俺は帰る」
有無を言わせぬまま、俺は奴を残してその場を歩み去った。情報を整理しようと頭の中で何回も先ほど聞いた言葉を繰り返しながら、そして。
一ヶ月以上自問自答を繰り返した結果、『これからも奴と付き合い続けるのは考慮の余地無く不可能』という答えが確定した。
それ以来、奴と顔を合わせたことは一度も無いし、奴の未来、ついでに言うなら過去にも興味は全く無い。
ただ、奴と出会って楽しかった数年間の記憶だけが、今となっては顔も思い出せない奴が確かに存在していたという証として残っている。まあ、良くある話だ。
商業作家という到達点にすら辿り着けない、延々と続く修行という名の助走。
「別に商業作家になりたいわけではないんだが」
俺の言葉に、奴は鼻を鳴らして応えた。
「それならお前は何故ものにもならない文章を書き続ける。一文の得にもならず、誰にも認めてもらえない中で行う自己満足の趣味か?滑稽だな」
昔はこんな物言いをする奴ではなかったんだがと思いつつ、俺は大して感情も動かないまま返事を返す。
「俺の最上がお前の最上である必要は何処にもない。お前がプロを目指すのは勝手だが、だからと言って、好きで文章を書いている俺の志が低いと言われてもな」
「物書きを名乗る身でその態度なら、志が低いと言われても仕方ないだろう」
「物書きなんて自称は単なる行動分類を示す呼称に過ぎん」
「そうやって逃げるか、投稿も同人誌作成販売も行わず物書きを名乗っていれば、まともな物書きが不快になるのは当然だろう」
少なくとも今のお前の言葉はまともじゃないと言いたかったが、奴は更に続ける。
「第一、そんな態度でいるお前におれと同格の友人面が出来ると思っているのか」
一瞬、自分が何を言われたか判らず硬直する、更に言葉を畳み掛けてくる奴が本当にかつては尊敬の念さえ抱いていた友人なのか、むしろ眼前のコイツは一体誰なのか。俺は半分呆けた頭で自問自答するしかなかった。
「……を名乗りたいなら、大きな即売会で己の実力がどの程度の物なのかを実感してからにするんだな。まあ本を作ったら読んでやらんこともないぞ」
ああ成る程、コイツにとって文章を書くというのはなるべく多くの相手に認められることであり、それから外れた場所で楽しむ行為は全て邪道なのか。それなら。
「お前がどう言おうと俺はそうは思わん。絶対にな」
俺が示した明確な怒りと揺るぎない感情に一瞬だけ怯み、奴の暴言はようやく止まった。
「取りあえず、用がそれだけなら俺は帰る」
有無を言わせぬまま、俺は奴を残してその場を歩み去った。情報を整理しようと頭の中で何回も先ほど聞いた言葉を繰り返しながら、そして。
一ヶ月以上自問自答を繰り返した結果、『これからも奴と付き合い続けるのは考慮の余地無く不可能』という答えが確定した。
それ以来、奴と顔を合わせたことは一度も無いし、奴の未来、ついでに言うなら過去にも興味は全く無い。
ただ、奴と出会って楽しかった数年間の記憶だけが、今となっては顔も思い出せない奴が確かに存在していたという証として残っている。まあ、良くある話だ。