カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

[ 恥らう / 金魚鉢 / 正義(ジャスティス) ]より・正義の味方始めました

2015-05-31 19:04:10 | 三題ランダムキーワード
 どういう経緯でかは知らないが、友人が正義の味方を始めたらしい。正義の味方協会が設立された昨今では珍しくない話なのでふーん頑張れよとしか思わなかったが、わざわざ着て見せてくれたどぎつい赤に琉金のヒレを重ねづけでもしたかと見まごうコスチュームのセンスに言葉を失ったら、当人も恥ずかしいことは恥ずかしいのだが、目立つ格好をしないと乱闘時に悪人と区別出来ずに一般市民から攻撃を食らう可能性があるので、なるべくインパクトの強い格好を義務づけられているのだそうだ。

 悪人が負けない位に派手な格好をしてきたらどうするんだと突っ込んだら、それはそれで悪事の証拠となると答えが返ってきた。
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[ 怖がる / 海 / 星(スター) ] より・月無き御空の星の海

2015-05-30 20:54:43 | 三題ランダムキーワード
 宇宙飛行士になった理由を後輩に聞いたら、昔住んでいた惑星で子供の頃に乗っていた船が沈んで家族を全員亡くし、発見されるまで一人で海を漂った体験からだと思うと答えが返ってきた。
 黒々と広がる果ての見えない夜の海が、まるで満天の星空と繋がっているように見えて、海に沈んでいった家族はきっとあそこに居るんだと思った。だから、いつか皆に巡り会える日まで飛び続けるつもりなのだと。
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[ 怪しむ / チョコレート / 剛毅(ストレングス) ] より・聖バレンタインデーの惨劇

2015-05-29 19:13:04 | 三題ランダムキーワード
 放課後の部室で、先輩が泣きながら彼女から貰った手作りらしいチョコを貪り食っていたから嬉し泣きかと思ったら、実はチョコの苦さに耐えかねての涙だった。どうやらカカオ本来の苦さではなく、チョコを溶かす際に湯煎ではなく直火を使って焦げた結果らしい。
 まあ先輩の彼女って確か料理や製菓は少しばかり(婉曲的表現)苦手らしいから、などと遠い目をしていたら、先輩がまともなチョコを食いたいと呟きながら涙目で私の抱えていた包みを見上げて来たので力一杯の笑顔を作ってから答えた。

「大丈夫です!真の愛というのはほろ苦いものだと良く聞きますからね!ちなみにコレは部長から買ってきてくれと頼まれたゴディバですから、手を出したら確実に血を見ますよ」
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[ 贈る / 珊瑚 / 形成(イェツィラー) ] より・血赤珊瑚

2015-05-28 18:55:04 | 三題ランダムキーワード
 戦乱に追われて故郷から一人で逃げて来たと言う彼女は、両親の形見である赤い珊瑚の枝以外は何一つ持って来られなかったと泣いた。
 その境遇に同情した僕は伝手を辿って珊瑚の買い手を見つけてやり、彼女は記念にしたいと珊瑚をほんの一欠片だけ残して売った。それでは身に付けられるようにした方が良いだろうと、僕は知り合いの職人に頼んで残った欠片を磨き、指輪に加工して彼女に渡した。

 綺麗……と呟きながら指輪を見詰める彼女の表情が歪み切った笑顔でさえなかったら、僕はきっと彼女を自分の家に迎え入れていただろう。そして恐らく酷い結果を招いたはずだ。
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[ 懐かしむ / 方位磁針 / 形成(イェツィラー) ] 丑寅はどちらですか?

2015-05-27 20:26:13 | 三題ランダムキーワード
 かつて暮らしていた町並みを二十年ぶりに歩いてみる。道路を挟んで続く商店街はまるごとすげ変わったかのように見覚えがなくなってしまったが、公園のある住宅街は細い道路を含めて殆ど変わりなく、本を抱えて通いつめた当時の下宿から図書館までの道は完全に体が覚えていて自分でも驚いた。
 しかし、私はこの町に於ける丑寅の方角を知らない。故郷のあるはずの方角を、この町で暮らしていた私は決して見定めようと思わなかったのだ。
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[ 劣等感 / 文字 / 王国(マルクト) ] より・キミノ、コトノハ

2015-05-26 19:59:21 | 三題ランダムキーワード
 田舎から出て来た彼は、自分の訛りが他人の嘲りを生むと知って必死に訛りを消そうと努力を重ね、実際に殆ど訛りを消した。そこまでは良かったが、周囲を見回すと各地から集まった人々は各地の言葉を臆することなく使い、それどころか却って連帯感を深めていた。

 慌てた彼が同郷の人間に話し掛けたら、苦労して矯正した筈の言葉は一瞬でお国言葉に戻っていた。
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[ 不安 / 鉱物 / 無神論(バチカル) ]より・祟る神

2015-05-25 19:06:16 | 三題ランダムキーワード
 神が宿ると人々から崇められていた石を棄て、祠を壊したのは仕事の為で他意はない。それ故に仕事仲間はいちいち気にしていられるかと強気だったが、日が経つにつれて徐々に覇気を失い、しまいには神社や寺に次々とお祓いを片っ端から頼みはじめた。
 その時点であいつは気付くべきだったのだ。神は、正確には神に対する畏れは、他ならぬ己自身の裡にあったのだと。

 ただし、それに気付いたときには全てが手遅れだった。
 あいつだけではなく、俺自身も。
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[ 苛立つ / 菊 / 知恵(コクマー) ] より・母さんのハーブと聖者の草

2015-05-24 18:06:15 | 三題ランダムキーワード
 最近どうにも眠りが浅い上に苛々が治まらない。そう言ってぼやく友人にキク科の植物にアレルギーがないならカミツレ茶を飲んで寝てしまえと勧めた。そうしたら効果があったらしく喜ばれたが、それ以来すっかりハーブにハマってしまい、知識を付けたいので俺の持っている本を何冊か貸して欲しいと言われた。が、自然系の健康法は個人差と時代による常識の変遷が激しいからと断った。

 実際、セイヨウオトギリソウ内服が日本人には殆ど効果がない上、外用の場合も薬効が強すぎるので素人の使用には適さないと知ったときには驚いた。道理で最近売っているのを見ないわけだ。
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[ 劣等感 / 星雲 / 欲望(ラスト) ] より・開拓者たち

2015-05-23 20:39:45 | 三題ランダムキーワード
 植民星への移住を検討していると妻に話したら離婚を切り出された。
 人口の飽和によって将来の可能性が極めて限定されてしまった世界で生きるより、才覚次第で自分の領地を切り拓ける世界に人生を賭ける方が素晴らしいと力説したところ、数代前の先祖が同じようなことを言って満州に行って、結局命からがら戻ってきたと言われた。ついでにメイフラワー号に乗ったのは要するに母国で生きていけないような境遇の人間が殆どだったと畳み掛けられた。
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[ 慕う / 裸足 / 貪欲(ケムダー) ] より・ささやかな出会い

2015-05-22 22:05:56 | 三題ランダムキーワード
 後にこの国の王となった少年と天使が出会ったのは、小さな村の焼け跡だった。戦乱で家と家族を同時に失い、行く宛てもないまま身を寄せ合って暮らしていた子ども達の彼は最年長で、それ故に一生懸命に他の子ども達の面倒を見ていたし、他の子供達も彼を慕って良く言うことをきいていた。
 この世界で長い時間を彷徨ってきた天使に取っては特にどうと言うこともない程に見慣れた光景だったが、今回は何となく少年に対して離れ難いものを感じ、そこに留まる事にしたのだ。
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