カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

[ 不安 / ランプ / 月(ムーン) ] より・フロムダスク,ティルドーン

2015-07-31 22:53:53 | 三題ランダムキーワード
 古道具市で月のランプを買った。今は稀少となった月齢一巡り分の月光を浴びせた月晶石を加工したという、淡い銀色の光を放つ純正品だ。ただし、純正品であるが故に新月時には真っ暗になるので太陽のランプも一緒に買うように勧められた。これも夜光石を使った稀少品だが、日の入りから日の出まで橙色の灯りを消すことが出来ない。

 自然の力を利用し、自然のままに輝く光と人間が共存できなくなった時代となって久しいと、古道具屋は言った。
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[ 満足 / 柊 / 理解(ビナー) ] より・鰯の頭も新人類

2015-07-30 19:37:35 | 三題ランダムキーワード
 今年はキチンとした作法で節分を行いたいと娘が言い、鰯の頭と柊を用意することになった。
 鰯の頭は焼いた時の煙と悪臭で鬼を遠ざけ、柊の鋭い葉先は鬼の目を突くという伝承由来を教えてやったら「お父さん凄い物知り」などと言いながら矢鱈と感心してくれたのは良かったが、実にお約束な事に娘が用意してくれた魚の頭はししゃもで、柊には赤い実が付いていた。
「却下だ」
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[ 切ない / 文字 / 審判(ジャッジメント) ] より・昔の手紙

2015-07-29 22:31:59 | 三題ランダムキーワード
 貴方が好きですと書かれた手紙を、私は無視した。
 大体ノートの端に鉛筆で書かれた差出人もない手紙での、人気の無い神社まで来てくれと言う誘いを受ける方がどうかしているだろう。
 だが、その一年を特定の男子から執拗に苛められて暮らす事になった私が数年後のクラス会に参加した時、酒に酔っていたらしい私を苛めていた相手から『あの日』に来なかったことを責められた。
 何でも、賭けに負けて結構な金額を払わされたそうだ。
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[ 愛しむ / 皮膚 / 王国(マルクト) ] より・刺青の記憶

2015-07-28 20:34:04 | 三題ランダムキーワード
 今はもう無い南の小さな王国では、毎年少しずつ褐色の肌に鮮やかな色の刺青を入れていく風習があったという。
 それは先祖への感謝と子孫繁栄を願う為のもので伝説と物語を極彩色で綴った実に見事な文様だったが、かつては年に一度の祭でしか見ることが出来なかったそうだ。

 そして今、その刺青は好事家によって高値で取引されており、それが為に彼らの国は滅んだ。
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[ 惜しむ / 細工物 / 星(スター) ] より・星の護り手

2015-07-27 23:04:58 | 三題ランダムキーワード
 もしも神様が本当に世界の造り手で、普段は熱と光を固めて造っている青い星を、本当にたまたま土と水で造って成功した唯一無二の青い美しさを持つ星に心奪われ、今まで大切に育んできたのならば、その星の表面に涌いて青をくすませていく黴を一体どう思うだろうね。
 奴はそう言い、星の美しさを守る為と称して次々に人間と人間の住む街を灼き、結果的に星を緑溢れる廃墟に変えた。
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[ 挑む / 昼 / 女教皇(プリエステス) ] より・猫の鍛錬

2015-07-24 23:02:07 | 三題ランダムキーワード
 最近、仕事から帰宅するとうちのトロ猫のプリ子さんが良くキャットタワーの最上段で降ろしてくれと鳴いている。一体どうやって昇っているのだろうと試しにカメラを仕掛けて様子を伺ったら、普段のトロさからは想像もつかない速度と身のこなしで最上段まで一気に駆け上がっていた。どうやら日々の鍛錬の結果らしいが降りるには修行不足らしく、僕が帰るまでずっと最上段で固まっているわけだ。
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[ 引く / 薔薇 / 創造(ブリアー) ] より・トワイライトローズ

2015-07-23 19:23:56 | 三題ランダムキーワード
 男はその生涯をバラの品種改良に捧げた。そして世界のバラ園芸家が求めて止まない青い空色をしたバラや、花心から縁にかけてグラデーションで虹色を示すバラなど、奇跡としか称しようのないバラを幾種類も作出したが、生涯己の業績を誇ることはなかった。
 男が本当に作りたかったのは、実は彼が子供の頃に母と手を繋ぎながら見上げた空の、まさにバラ色と称するに相応しい夕焼けの彩りをしたバラだったのだ。
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[ 後悔 / 衛星 / 教皇(ハイエロファント) ] より・星を壊した男

2015-07-22 21:53:47 | 三題ランダムキーワード
 彼はかつて、結果的にではあるが己の命と引き替えに故郷の星を滅ぼしてしまった。それ故に泥を噛むような苦労を重ねて雌伏しながら時を待ち、仲間を増やし、やがて彼の故郷を滅ばした相手を倒して今の地位を手に入れた。
 現在は誰もが彼の業績を称え、弱虫や卑怯者、ましてや人殺しなどと呼ぶものは何処にもいなくなったが、彼自身は未だに自分が何者であったかを良く覚えている。
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[ 悼む / 裸足 / 運命の輪(ホイールオブフォーチュン) ] より・歩く

2015-07-21 20:33:38 | 三題ランダムキーワード
 いつか何処かで見たことのある光景だと思いながら、廃墟の中をただ一人歩いている。

 空の色は何処まで行っても血のように赤く、地面は果てしなく重く濡れた黒い泥に覆われ尽くしている。
 それにしても、ときおり泥の表面から波打つように生え出ては蠢く茸のようなものは何なのだろうか。細かい起伏が多い上に奇妙に柔らかい為に歩きにくい足下に絡み付いて何度も転びかける。

 そして、とうとう足を取られたまま転んだ時にようやく気がつくのだ。泥の下に無数に転がるものが一体何であるのか、そして、これは過去ではなく未来の光景なのだと。
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[ 激怒 / 杖 / 貪欲(ケムダー) ] より・しましまケーキの誘惑

2015-07-20 21:29:31 | 三題ランダムキーワード
 使い魔に取って置きのケーキを食われて激高した老魔法使いは、感情のままに魔法の杖を振るって使い魔の姿をケーキに変えた。
 そしてそれから一昼夜、いつ何時にケーキとして貪り食われるか判らない恐怖に怯えることになった使い魔は、何とか元の姿に戻して貰って以来、すっぱりと主人の食べ物に手を出すのを止めた。

 ちなみに、実は老魔法使いの方も己の食欲を抑え込む辛さを嫌と言うほど味わい、これから使い魔を食い物に変化させるのは止めようと誓っていた。
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