マッチ箱のような車両がホームに滑り込んで停車すると、車掌が降りて切符の提示を求めてきた。私は切符を持っていなかったのでそう答えると車掌は無言で車両に乗り込み発車する。後に残されたのは廃墟となって久しい雑草に覆われたホームと、ずっと昔から何処にも行けなくなった私だけ。
マッチ箱のような車両がホームに滑り込んで停車すると、車掌が降りて切符の提示を求めてきた。私は切符を持っていなかったのでそう答えると車掌は無言で車両に乗り込み発車する。後に残されたのは廃墟となって久しい雑草に覆われたホームと、ずっと昔から何処にも行けなくなった私だけ。
キリスト教における煉獄は断罪の場である地獄とは異なり、贖罪の場であるという。永劫とも思える苦しみの中、それでも扉を開いて道を進んでいくものだけが、やがて天国へと至れるのだと神父様は仰った。そうだとしたら、大罪を犯し今は煉獄に在る筈の彼の魂もいずれは解放されるのだろうか。
星の輝く夜空を見上げながら友達と語り合った幼い頃、世界には夢や希望で溢れ返っているように思えた。やがて数え切れないほどの裏切りと忘却を経て辿り着いた、無彩色の大人の世界で生きるようになった今でも、決して叶いはしないと知りながら夢や希望を捨てきれず星を見上げてしまうのは何故だろうか。
少しばかり極端な思考を有する錬金術学科首席の彼は、容器に収めた菓子に自らが構築した唯一無二の美味を付与する菓子器を錬成した。それは確かに天上の味覚と持て囃される程の美味ではあったのだが、残念なことに大概の人間は実にあっさりと、その単一極まりない美味に飽きた。
神は細部に宿り給うという言葉があるが、それがどのような小さきものでも神の御業の奇跡が宿るものだと取る者もいれば、大き過ぎる神の奇跡を人間が可能な限り正確に捉える為には、その掌に乗る程に小さな御業を確かめれば良いと取る者もいて、恐らくはどちらの考えも正解なのだ。
悪魔に妻を鶏の姿に変えられた男は、幸せになる為にどうしたと思う?と尋ねてきた彼に対して私は、悪魔と戦って妻の元の姿を取り戻すと答えた。彼にとっての正解が妻と共に鶏として暮らすであることは承知の上で、決してそれを正解と答えられなかった私は多分、最初から彼の敵だったのだ。
たかあきは失恋した日、スーパーで、ちょっと溶けた感じに見える猫の幽霊に出会い、あの人に伝えて欲しいと誘われました。
どんなに頑張っても上手くいかなかった恋愛に終止符を打った日、それでも普段通りにスーパーで買い物をしていたら少し前に虹の橋を渡った筈の友人宅で飼われていた猫に遭遇した。俺はもう逝くから飼い主にもう心配するな、猫缶も買わなくていいと伝えるように頼まれた今は、猫ですら愛着を断ち切って進んでいくのだと感心するしかない。
どんなに頑張っても上手くいかなかった恋愛に終止符を打った日、それでも普段通りにスーパーで買い物をしていたら少し前に虹の橋を渡った筈の友人宅で飼われていた猫に遭遇した。俺はもう逝くから飼い主にもう心配するな、猫缶も買わなくていいと伝えるように頼まれた今は、猫ですら愛着を断ち切って進んでいくのだと感心するしかない。
骨董市でコルク栓の詰まった硝子瓶が沢山並んでいたので中の小物を代わる代わる眺めていたら、一度に効くのは、せいぜいひと瓶だけですよと言われた。結局はそれぞれ違う物が入った瓶を五本ほど購入したのだが、一体何年くらい、何に効いてくれるのだろうかと今でも謎は解けない。