カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第百景・桜稚児

2019-05-13 19:04:08 | 桜百景
たかあきは、朝の隣家と桜の花弁に関わるお話を語ってください。

 子供の頃は隣家の庭に桜樹が植えてあって、花の頃にはよく小さな女の子が花弁と主に舞い踊っていた。隣家の若夫婦の一人娘だった女の子は小学校の入学式で事故に遭って以来歳も取らず桜樹の側にいたが、若夫婦は全くそれに気付いておらず、やがて桜が切り倒されてしまうと女の子も何処かに消えた。
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第九十九景・かぜのかみさまのはなし

2019-05-12 12:20:21 | 桜百景
たかあきは、突風の哀しみと桜の髪飾りに関わるお話を語ってください。

 彼は突風しか操ることが出来なかったので、彼に対して微笑みかけてくる娘の髪を撫でようとしても付けた髪飾りを彼方に飛ばしてしまって哀しい顔をさせてしまうだけだと知っていた。その突風が国を守ると誰もが彼を崇めても、それ故に彼は常に孤独で決して誰とも触れ合うことが出来なかったのだ。
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第九十八景・薄青桜

2019-05-11 10:07:16 | 桜百景
たかあきは、春の異郷と桜の幹に関わるお話を語ってください。

 その世界の桜はごく薄い青色の花弁をしていたので、よもやと思って尋ねてみると、やはり樹皮を染色に使うと淡く輝くような青色になるという。ただ、その青い色は非常に退色しやすいので、仕立てられた衣は地元で黄昏祭と呼ばれる夕刻から深夜にかけて行われる初夏の祭でしか纏われることは無いそうだ。
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第九十七景・散る花

2019-05-09 22:57:38 | 桜百景
たかあきは、突風の異郷と桜の花に関わるお話を語ってください。

 昔住んでいた訳ありで格安という貸家に幽霊の類は出なかったが、代わりに出所不明の突風が訳の分からないものを運んできた。一番多かったのは真夏や真冬に吹き込んでくる桜の花弁だが、当然ながら貸家の近所には桜樹など存在せず、細かいことにこだわる人間には確かに耐えられない物件だったと思う。
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第九十六景・桜の森の満開の上

2019-05-06 23:24:04 | 桜百景
たかあきは、白昼の異郷と桜の上に関わるお話を語ってください。

 満開の桜樹に登ったことがあるという従兄は、視界を覆わんばかりの薄紅と周囲を取り巻く花の香りに気が遠くなり、危うく樹上から落ちかけたそうだ。異界と呼ぶべき空間は思わぬ場所に存在するものだと言葉を締めくくった従兄に、桜樹は幹や枝を痛めるとすぐに枯れてしまうから二度とやるなと突っ込んでやっだ。
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第九十五景・お屋敷から吹く風

2019-05-03 21:12:46 | 桜百景
たかあきは、風の隣家と桜の葉に関わるお話を語ってください。

 うちの隣にあったお屋敷の庭は沢山の樹や花が植えられていて、風が吹くと散った葉や花弁がうちの前にも吹き込んできて掃除が大変だった。祖父母はお福分けだと気にしていなかったが、二人が亡くなると神経質な母はお隣に文句を言い続け、やがてお隣が引っ越してお屋敷が更地になった頃、うちの身代も傾いた。
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骨董品に関する物語・初夏に似合う花模様のカラフ

2019-05-03 13:35:45 | 桜百景

 あまり酒の飲めない友人は、だからこそきめ細やかに酒を楽しみたいと器にこだわる。グラスやゴブレットの類は一通り欲しいものを集めたと言って今度は瓶から移した酒を注ぐ為の細長い器を探し始めたが、最終的には昔読んだ本に出てきた、たんぽぽのお酒に似合う器が欲しいそうだ。
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第九十四景・祭礼の終焉を告げるもの

2019-05-02 09:02:34 | 桜百景
たかあきは、暁の廃墟と桜の造花に関わるお話を語ってください。

 地図から抹消されて久しい筈の廃墟は未だ管理システムが稼働していて、街は人々が暮らしていた頃と殆ど変わらぬ外観を呈している。ちょうど祭りの季節だったせいか桜の造花で飾り立てられた誰もいない道を管制塔まで進んだ俺は、管理者権限で都市エネルギー供給を停止して長過ぎた祭りを終わらせた。
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第九十三景・会えなくなる理由

2019-05-01 01:00:57 | 桜百景
たかあきは、冬の友達と桜の下に関わるお話を語ってください。

 冬休みに行った母の故郷の田舎町にある公園で一緒に遊んだ女の子にまた遊ぼうねと言うと、春には公園が無くなるから会えなくなるよと言われて意味が分からなかったが、その公園を整地する際に掘り返された桜樹の根元から女の子の骨が出てきたと聞いて以来、その子とは二度と会うことが出来なかった。
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第九十二景・風の案内役

2019-04-30 10:30:16 | 桜百景
たかあきは、風の公園と桜の花弁に関わるお話を語ってください。

 海の見える高台に桜樹が並んだ公園にはいつも強い風が吹き付けてきて、せっかく綺麗に咲いた桜もすぐに花弁を散らしてしまうのだが、ある年の春、偶然遠くから公園を見上げた直後に公園中から巻き上がった薄紅色がまっすぐ天を目指し昇って消えていくのを目撃して以来、この公園の桜樹に与えられた本当の役割を知った気がする。
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