カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

085「賽銭(さいせん)泥棒」より ・ 神様御不在

2014-09-30 21:46:23 | 和モノ好きさんに100のお題
 日本の神社は何となくだがどんな地方の社でも、例えば天神様を祀っていれば参拝時に天神様自身が神社やご神体を依り代に来臨なされるイメージがあるが、中国では関帝廟など有名な神様を祀った小さな廟は、実は関帝とは何の関わりもない生前にいくばくかの徳を積んだ死者の霊が在駐しているらしい。
 考えてみれば中国のみならず世界中に廟を祀られた関帝はいちいち全部の廟を回るのも大変な気がするし、関帝廟に参拝する人々の願いを叶える事で死者も更に徳を積んでより高位の廟に栄転出来るのだそうだが、それでも何処か釈然としないモノを感じる。

 ちなみにキリスト教、と言うかカトリックには守護天使および聖人という、実にきめ細かい分野に特化したお助けシステムが確立されている。
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084「刺青(いれずみ)」より ・ 這い寄る蝙蝠

2014-09-29 20:50:27 | 和モノ好きさんに100のお題
 有能だが扱いが難しいと評判の夢魔を粘り強い交渉の末に使い魔にしたのはいいが、肌に焼き付けた蝙蝠型の契約印が勝手にあちこち動き回るのが困りものだ。服で隠れる部分ならまだしも、露出している顔や手指を殊更に移動してみせるのは絶対に嫌がらせでやっているに違いない。
 師匠に相談しても「粋なボディーアートじゃないか」と他人事のように笑うばかりだ。
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083「水」より ・ 消えないモノ

2014-09-28 21:25:47 | 和モノ好きさんに100のお題
 水はね、流れないと色々な物を溜めこむから怖いんだよ。
 幼なじみは言った。
 更に、長い間かけて奥底に蓄積してきた汚泥が何かの弾みでかき混ぜられて水面に浮かび上がってくるのはもっと怖いよと言葉は続く。

 ねえ判る?アンタが何の気なしに吐いてきた毒が死んだ後まで私を何度でも苦しめるんだよ!
 そう叫ぶと、いつものように幼なじみの姿は消えた。

 幼なじみが、私の気紛れと暴言に付き合わされるのはもう耐えられないと遺書を残して郊外の沼に身を投げてから、もう十年以上の年月が経っている。
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082「虫の音」より ・ やがて哀しき

2014-09-27 22:05:33 | 和モノ好きさんに100のお題
 鈴虫を捕まえたら口数の多いやつだったらしく、キュウリと一緒に籠に入れておいたら水っぽいからゼリーを食わせろだのメスを連れて来いだの要求を突きつけてきて鬱陶しいことこの上ない。たまらずに籠を引っくり返して追い出したら近所に居着いたのか延々とメスがいないと愚痴を垂れ流す。これは面倒なものを捕まえてしまったと後悔しても遅かった。
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081「あぜ道」より ・ 花埋め

2014-09-26 22:57:44 | 和モノ好きさんに100のお題
 毎年田植えと稲刈りの手伝いに行くお爺ちゃんの田んぼは蓮華を肥料として植えていて、苗を植え付ける直前まで一面に紅い絨毯を敷き詰めたようでとても綺麗なのだが、田植えが終わって瑞々しい緑色をした苗が並んだ頃には、当然のように掘り返されて跡形もなくなってしまうのが哀しかった。
 だから、今年の秋は蓮華の種を少しだけ持ち返って庭の花壇の片隅に蒔いた。そして春、あらゆる花芽を駆逐して花壇一面に紅い絨毯が敷き詰められることになった。

 少し意味合いが違う気もするが、「やはり野に置け蓮華草」という言葉を思い出した。
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080「ゆかた」より ・ 祭りの後、あるいは後の祭り

2014-09-25 20:17:44 | 和モノ好きさんに100のお題
 うちにホ一ムステイしていた留学生の女の子を地元の祭りに連れて行く際、浴衣が着たいと言うので貸したら案の定左前にしたので、「女物の洋服と違って着物の左前は死人の袷だよ」と教えた。
 やがて祭りを楽しんだ帰り道で、その子が声を潜めて「会場に浴衣を着た死人の女の子が結構混じっていたが、あれはそう言う祭なのか?」と訪ねてきたので、この子もそういったものが見えるのかと意外に思いながら「お祭りとか、賑やかなイベントでは珍しくないよ」と答えた。

 あの時の件について、ひょっとして双方の認識には致命的な齟齬があったのではないかと気付いた時、既に彼女は自国に戻った後だった。
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079「かごめかごめ」より ・ 籠女

2014-09-24 19:56:02 | 和モノ好きさんに100のお題
 随分と長い間、目の前をぐるぐると巡るように現れては消える、どこかで見たような顏をした人々の流れのただ中に立ちすくんでいた。 どうして良いのか判らぬ不安の中で大事な人の名をこっそり呼ぶと、不意に人々の流れが止まり、背後から私の名を呼ぶ声。

 思い切って振り返ると、そこにはあの人の笑顔があった。
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078「耳を澄ます」より ・ 海の唄

2014-09-23 18:56:35 | 和モノ好きさんに100のお題
 ひとは誰でも耳の奥に一対の巻貝を飼っていて、故郷を懐かしむように絶えず大古の海の音を奏で続けている。その音色は本当に微かで耳を塞がなければ聴こえないけれど、きっと我々は誰もが、いずれはその海に還るのだ。

 そんな事を子供だった私に話して聞かせてくれた、良く言えばロマンチスト、悪く言えば地に足の付かない夢想家だった父は、ある日「真実の愛」とやらを追いかける為に私たち家族を捨てて家を出て行った。父が言う「太古の海」とやらが地球で最初の生命を生み出した、所謂「原初の海」を意味するのだとしたら、それは煮えたぎる硫化水素だったらしいのだが。
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077「はにわ」より ・ 萬歳埴丸

2014-09-22 20:53:05 | 和モノ好きさんに100のお題
 友人と、昔見ていた子供番組の話をしていた時の話。

 奴は子供の頃、本気で埴輪の顔が怖かったそうだ。
 愛嬌のある顔じゃないかと突っ込んだら、暗い洞のような目と呆けたような口が恐怖の対象だったが、今は慣れたという答えが返ってきた。何しろ周囲が残らずそうなんだから慣れざるを得なかったと。

 これ以上突っ込むと、色々な意味で余計な恐怖を引きずり出してしまいそうなので黙った。
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076「泥団子」より ・ お彼岸

2014-09-21 22:52:02 | 和モノ好きさんに100のお題
 粘土で作ったフェイクスイーツの団子を乾燥させていたら、いつの間にか小さく囓った跡が付いていた。そう言えば今年から仏壇やお墓へのお供え物は全部専用の蝋製品にしたのだったと思い出しつつ、今度は本物の餅米と小豆を使っておはぎを作り、仏壇に供えて数分間だけ目を離したら、案の定綺麗に無くなっていた。私もそうだが、うちの一族は代々お酒を飲まない代わりに甘い物に目が無いのだそうだ。
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