カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

見習い錬金術師の作品外伝・サンドラとクソじじい

2018-12-16 22:29:58 | 見習い錬金術師の作品

 アレキサンドラがボーエンと初めて出会ったのは、錬金術アカデミーの作品発表会場でのことだった。

 普段は関係者以外立ち入り禁止の学舎が年に一度だけ開放され、錬金術師の仕事に興味を持つ多くの人々が訪れる会場で、課題作品としてアレキサンドラが出品した自律型の猫絡繰りを随分と長い間熱心に見入っていた老人は、たまたま通りかかったアレキサンドラ本人にこう言ったのだ。
「なあ兄ちゃん、この猫、随分とエロティックな造形だと思わないか?造った奴は絶対女体を知ってるぜコレは」
 元々から短気な性格をしているアレキサンドラは無言のまま殆ど反射的に老人を張り倒し、その後でようやく気付いた相手の身なりの良さに対して少しばかりの不安を感じながら謝罪の言葉と共に助け起こそうとした直後、老人に蹴られた。

 それからはお互いに掴み合いの喧嘩となり、警備員に引き剥がされた辺りではお互いボロボロの姿と化していた二人はそのまま学長室に連行され、普段は温厚な学長からみっちりと説教を食らった。学長との会話から判断すると老人はアルバート・ボーエンという貴族で、かつてアカデミーに在籍していたが劣等生のまま中退し、現在は郊外の荘園で隠居生活を送りながらアカデミーに対する援助を行っているらしかった。

 いわば上客に対する無礼に対して流石のアレキサンドラも厳重な懲罰を覚悟していると、学長は重いため息とともにボーエン卿に向かって呟いた。
「どうせ君の事だから、またうちの生徒に向かって不適切な発言をしたんだろう」
「不適切?女の体を知ってるだろうって言うのが不適切か?」
「充分に不適切だ、特にアレキサンドラのような若い女性に対して向けていい言葉ではない」
「女?これが?」
 ボーエン卿が極めて素直に疑問を口にした直後、アレキサンドラは再び老人を殴り飛ばし、学長に即刻の退出を命じられた。

 結局は数日の自室謹慎という軽い処置で済んだアレキサンドラだったが、謹慎空け早々のアカデミー正門脇で再びボーエン卿と顔合わせすることになった。嫌味にならない程度のフォーマルな格好で花束を手にした卿は、アレキサンドラの姿を見つけるなり笑顔で近づいてくるなり言った。
「よおサンドラ、そう呼んでいいよな?」
「好きに呼べよクソじじい。それで何の用だ」
「男が女を花束付きで誘っているのに、何の用もないと思うんだがな」
「ひとを男と間違えておいてか」
「軌道修正は早い方がいいだろう。とりあえず学長に許可は取ってあるから飯に行こう」

 アレキサンドラが連れて来られた店は王都でもそれなりの格式を誇る店だったが、ボーエン卿は臆した風も見せず鷹揚な態度でウェイターの案内を受け、明らかに上客が案内される席に躊躇なく着席した。
「先ずは乾杯だな」
 悪戯っぽく笑いながらワイングラスを掲げるボーエン卿に毒気を抜かれ、半ば自棄で手にしたグラスの中身を空けるアレキサンドラ。
「それで、私に何の用だ。殴ったことを謝らせたいのか?」
 すると卿はいかにも心外だという渋い表情になってから、自分のグラスを少しだけ傾けた後で宣言する。
「男が若い女に花束持参で会いに行って食事を共にしている時、何でそんな下らんことを話題にしなければならんのだ」
「で、具体的な話題は?」
「あんたに惚れたから付き合いを深めていきたい」
 ちょうど運ばれてきた前菜がテーブルに置かれるのをぼんやりと眺めながら、ここで暴れたら今度こそアカデミー退学だろうなとアレキサンドラが考えていると。
「別にお前の活きがいいからとか、そんな理由じゃない。お前の作る作品に惚れて、その作品を作ったお前の頭脳や技術、更に作品を作り上げる腕や指先を想像するだけでゾクゾクしてくるようになった」
「下半身がだろう」
「否定はしない、あんたの作品は久しく枯れていた筈の男に春を呼び覚ます程には艶めかしいからな」
 どうやら叶わぬ恋をしているようだが、さっさと諦めて俺に乗り換えるのも悪くないと思うぞ、そんな卿の言葉に呆れを通り越した脱力を感じながら、アレキサンドラは級友の事を思い出していた。自分などより遥かに可愛らしく、賢く、健気で儚げでありながら、同時に冷酷で、図太く、揺るぎない逞しさを持った愛しい人。

「……年の差を考えれば、あんたは私より先にくたばりそうだけど、そうしたら面倒な遺産争いに巻き込まれるんじゃないのか」
 自身も貴族であるが故に、遺産相続のゴタゴタがどれだけ凄まじいものであるのかを肌で知っているアレキサンドラが呟くと、卿は初めて嬉しそうに笑いながら言った。
「それはつまり、オレの誘いに対して前向きな検討を考えているということだな、サンドラ」
 先の事は先の事として、先ずはいい感じに親睦を深めていこうじゃないかと続く卿の言葉に、サンドラは冷然と答える。

「毒殺されたいか、クソじじい」


サンドラとクソじじい・終

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最終話・そして、錬金術師見習いは

2018-12-14 19:56:08 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『河原の石』と『雑草』を材料に『大地の幽霊の素』を錬成しました。用途は滋養強壮です。

 師匠が姿を消して随分と長い彩月が流れたが、僕は今も錬金術師として暮らしている。妹弟子はいつの間にか僕の弟子を名乗り、根切り屋は相変わらず商談がてら菓子を貪っては絡繰り犬に追い回され、僕も時折アカデミーの要請を受けて色々な厄介ごとを片付けている。

 確実に言えるのは、かつての師匠がそうだったように、今度は僕が誰かを導く番なのだ。



見習い錬金術師の作品。・終
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作品その99・魂だけは、常に。

2018-12-13 19:28:24 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『星の砂』と『空猫の髭』を材料に『不老不死の花兎』を錬成しました。用途は観賞用です。

 師匠の日記には最後にこう書かれていた。錬金術師は金を産み出すふいご屋のことではなく、世界の根幹を構成する真理を追い求める博物学者だ。その道が厳しく険しいのは百も承知だが、それでも道を進んでいく為の知識と技術は私が持てる限りのモノを時間をかけてみっちりと奴に叩き込んできた。だから、
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作品その98・大事な人

2018-12-12 21:04:40 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『貝の化石』と『三つ首獣の牙』を材料に『恋人の為の羽根馬』を錬成しました。用途は観賞用です。

 ちなみに師匠は自分が居なくなった後の僕の将来に関しては大して悲観していないようだった。師匠が時に糞爺ぃと呼んでいたパトロンも大概な性格の人だったようだが、自分のような偏屈でも友達がいれば何とかなるから大事にしろと事あるごとに師匠に言い聞かせてきて、塩相はそれが真実であると何度も思うことがあったそうだ。

 ところで、師匠が考える僕の友達とやらは妹弟子と根切り屋の事だろうか。
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作品その97・師匠の決意

2018-12-11 21:27:29 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『琥珀』と『雑草』を材料に『吸血の極意秘伝書』を錬成しました。用途は極秘事項です。

 僕を育てるにあたって師匠が一番悩んだのは自分自身の寿命についてだったという。年齢不詳が売りだった師匠も外見はともかく中身は老い先短い体で、だから師匠は絶えず延命用の薬を使っていた。例えそれにどれほどの副作用があろうと、また、死後に骸も残さぬ結果となろうと、それでも尚、使い続けた。
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作品その95・決断と、結果と、結論。

2018-12-08 12:40:19 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『星屑』と『水砂糖』を材料に『天使の一角獣』を錬成しました。用途は体力回復です。

 師匠は僕をどうするか随分と悩んだらしい。擬似生命体なら外気に晒せば数日で肉体が崩壊するし、このままにしてもエーテル液の供給が止まれば同じ結果となる。そして結局、賭けに出ることを決めた師匠は僕を装置から出し、一週間たっても無事だった僕を、生成過程はどうあれ紛れもない人間、そして彼と彼女の特徴を併せ持って産まれた二人の子供だと判断したという。
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作品その94・僕が産まれた場所

2018-12-07 18:58:57 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『河原の石』と『雑草』を材料に『果てしないエーテル回復薬』を錬成しました。用途は不明です。

 二人の工房は完全に焼け落ちていたが、師匠は同じ錬金術師として工房の地下に隠し部屋があることを見抜いた。そして、その部屋には当時としては最高の設備と資材をつぎ込んで作成した装置が置いてあって、巨大な硝子容器に満たされたエーテル液の中には一人の子供が眠っていて、師匠の日記によると、それが僕だったという。
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作品その93・酸いも甘いも

2018-12-06 19:57:23 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『まがい賢者の石』と『空猫の髭』を材料に『氷結の苦味飴玉』を錬成しました。用途は飲用です。

 結局アカデミーを次席で卒業した師匠は、同じく首席で卒業した彼女や教授連の誘いを蹴って、たまたま訪れた王都で師匠の作品を気に入った老貴族をパトロンとして田舎の荘園に引っ込んだ。やがて身寄りのなかった老貴族の遺産を受け継いだ頃、師匠はアカデミーを辞して工房を開いた彼と彼女が事故死したと知った。
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作品その92・仁義なき決闘

2018-12-05 21:57:02 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『月長石』と『日光』を材料に『終末の小鬼』を錬成しました。用途は謎です。

 結局、三角関係の均衡を崩したのは彼だった。非協力的な師匠は頼むに足らずと判断して一人で彼女に突撃を掛け告白したのだ。しかし彼女は彼の告白を信じられす師匠に相談し、師匠はブチ切れて彼に決闘を申し込み、何故か始まった絡繰り対決で危うく師匠に止めを刺されかけた彼を身を挺して庇ったのは彼女だった。
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作品その91・恋のから騒ぎ

2018-12-04 19:42:13 | 見習い錬金術師の作品
たかあきは『賢者の石』と『三日放置した魚シチュー』を材料に『恋人の為の虹茶』を錬成しました。用途は謎です。

 女二人に男一人という組み合わせは往々にして三角関係に発展するものだが、その点は師匠たち三人も例外ではなかった。が、彼は彼女を好きで、彼女は師匠と彼が恋仲だと思い込んでいて、師匠は同性の彼女が好きだったので、当人たちの思惑はどうあれ随分と長い間ややこしい関係が無駄に続いたらしい。
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