カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第二十六景・サクラ咲き、サクラ散る

2019-01-30 20:36:22 | 桜百景
たかあきは、悪夢の友達と桜の髪飾りに関わるお話を語ってください。

 祖母から贈られた桜細工の髪飾りをこっそり見せた時に親友の彼女はしつこく欲しがったが、大切なものだからと決して譲らなかった。それなのに彼女はどう見ても私の髪飾りを付けた姿で可愛いからすごく似合うねと皆の賞賛を一身に浴びていて、返してと叫んでも嘘つき扱いされた。そしてその日から、私を取り巻く世界の全ては容赦なく音を立てて軋みながら壊れ始めた。
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第二十五景・浜辺の桜

2019-01-29 23:45:09 | 桜百景
たかあきは、小糠雨の玩具と桜の花弁に関わるお話を語ってください。

 雨の日は夏でも浜辺から人が消えるので、子供の頃の僕は我が物顔で砂浜を歩いた。母さんとの約束で海には入らなかったが波が打ち寄せるギリギリまで近付いては流れ着いてきたものを拾い集める。中でも砂に磨かれた丸いガラス片と小指の先くらいの桜貝は宝物だった筈だが、いつの間やら残らず何処かに無くしてしまった。
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骨董品に関する物語・コバルトブルーのボンボニエール

2019-01-28 21:56:03 | 突発お題

 月光錬成した菓子器とは大したモノを手に入れたなと奴は言った。何でも僕が偶然蚤の市で手に入れた青い蓋付きの器は文字通り月光を錬成した品で、中に入れた菓子を極上の月光風味に変えるそうだ。そんな貴重なものを何故手放したのかと悩む僕に、奴は、きっと持ち主が月光味に飽き飽きしたんだろうと意味ありげに笑う。
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第二十四景・花と緑の祭

2019-01-28 21:53:08 | 桜百景
たかあきは、雨の思い出と桜の造花に関わるお話を語ってください。

 毎年のことだが故郷で行われる春の祭は結構な確率で雨が降る。街の通りを飾る桜の造花が春の冷たい雨に濡れる中、それでも人通りが絶えないのは祭の売り物が植木市からだろう。普段は見られないような珍しい苗木を普段より割高な値段で購入する人々は、それが神様へのお布施になることを知っているのだ。
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骨董品に関する物語・真珠貝のオペラグラス

2019-01-27 19:29:45 | 突発お題

 そのオペラグラスから視える景色は少しばかり現実からズレていた。どういう原理かは不明だが数分後に視える筈の景色が映し出されるのだ。そしてあの日、庭の樹に登っていた息子が高い枝から落ちたのを見た私は思わず窓から飛び出して辛くも息子を受け止め、代わりにオペラグラスは壊れてしまった。
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骨董品に関する物語・ヴィクトリア朝のレモン色の印章

2019-01-27 19:27:40 | 突発お題

 社交好きの母は頻繁にホームパーティーの招待状を友人に送って家に招いていた。騒がしいのが嫌いな私は、ある程度の歳になると遠くの学校に入学して殆ど家には帰らなくなった。やがて母は病を得て亡くなったが、遺言はパーティーに使う食器や印章を友人に形見分けして欲しいだった。
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第二十三景・あの日の故郷へと続く道

2019-01-27 19:25:14 | 桜百景
たかあきは、宵闇の故郷と桜の狭間に関わるお話を語ってください。

 桜の花というのは多分人を狂わせる何かを含んでいて、だから、あの時桜並木を歩いていた私もきっとおかしくなっていたのだと思う。道の向こうに続いていたのは天災で跡形も無くなった筈の見慣れた故郷に続く道で、この足を止めなければ「そこ」に辿り着けるのだと信じて、私はいつまでも歩き続けた。
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骨董品に関する物語・ニューヨークの少年向け天文書「The Sky movies」

2019-01-24 23:58:26 | 突発お題

 子供の頃は本に書かれた世界と現実との境界が曖昧で、すっぽりと入り込んだ本の世界で登場人物に案内されながら行ったことのない場所で見たことのない冒険を何度も繰り広げたものだ。だから宇宙船なんかなくても宇宙を探検できる子供の時期に本を読むのは、実はとても大切なことなのだ。
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骨董品に関する物語・デスカード

2019-01-24 23:57:09 | 桜百景

 生者達の忘却が故人の真なる死を意味するのであれば、故人の縁者がせめてその「死」を一刻でも遅らせようと縁(よすが)を残すのも当然だろう。物語の英雄のように華やかでは無いにしても、故人を語り継ぐ彼らのささやかな記憶と伝承が失われない限り、故人もまた彼らと共に在る存在なのだ。
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骨董品に関する物語・センチメンタル・ジュエリー

2019-01-24 23:55:03 | 突発お題

 遠くに行く兄の安全と健康を祈って私が自分の髪で編んだお守りは、火事で亡くなったという兄のただ一つの遺品として見知らぬ相手から届けられた。結局兄が亡くなった時の詳しい状況は判らなかったが、兄が最期まで私が渡したお守りを大切にしてくれていた事だけは本当だと告げられたし、ほつれの殆ど見られないお守りの状態からも判った。
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