クリスマスプレゼントを君に
それは、まだ私がサンタを信じなかった頃。
仕事で忙しかった両親は娘の私と季節の行事を過ごす暇もなく、誕生日もクリスマスも日付を遥かに超えてから買い物に連れて行かれ、自分で好きなものを選ぶように促された。
とは言え両親の多忙は理解していたつもりだし、時期が遅れてもきちんとプレゼントを貰えるだけマシだなどと醒め切った事を考えながら嬉しそうな顔をしてみせる、今考えると嫌な子供だったと思う。
***
その年のクリスマスイブ。相変わらず両親は忙しく、私は渡されたお金で夕飯を済ませることになった。
幸い近所のスーパーやコンビニにはクリスマス仕様のチキンやケーキ、オードブルなどが沢山売られていて、目移りしながら買い物を済ませて店を出ると、空から大粒の雪が降ってくる。おまけに風の音も響いて来たので急いで家に帰ろうと走り出し、暫く進んていると、いきなり渦巻くような吹雪に視界を遮られた。一瞬だけ怯んでから駆け出すと突然の衝撃に尻もちをつく。
「あたた……」
顔を上げて周囲を見回すと、眼前には赤茶色のコートに白いふわふわの縁取りの付いたフードを被ったお姉さんが心配そうな表情で立っていた。
「大丈夫?」
「あ、はい、ごめんなさい」
反射的に謝りながら手にしたレジ袋を確認すると、当然のように中に入っていたチキンの盛り合わせやケーキは悲惨な姿と成り果てていた。絶望に歪んだ私の表情を憐れんだのか、お姉さんは右手を差し出して立ち上がるのを手伝ってくれる。
「お使いだったのかしら?」
「えーと、今日は一人です」
私の答えに対して少しだけ表情が曇ったお姉さんの反応に、ひょっとして下手を打ったかと動揺する。しかし、お姉さんはすぐに笑顔になると、持っていた手提げ紙袋に手を突っ込んで小振りの包みを取り出して私に差し出してきた。そのまま反射的に受け取った私に、お姉さんは笑顔のまま指を立てて言った。
「メリークリスマス!」
直後に再び雪を巻き込んだ風が巻き起こり、私は思わず目を閉じる。そして再び周囲を見回した時、何故かお姉さんの姿は何処にもなかった。呆然とする私は、果たして一連の不可解な事態が現実だったのかと少しの間だけ悩んだが、レジ袋を掴んだ手とは逆の手に握られた包みは、確かに先程お姉さんから手渡されたものだった。
とりあえず家に戻った私は、お姉さんから貰った包みを開く。中に入っていたのは大振りのおはぎを思わせる形状の白い体に円らな赤い目、その頭上に伸びた二本の耳と数カ所に赤やピンクの苺をあしらった愛らしいぬいぐるみだった。
「とりあえず、お前の名前は『うさいち』に決定」
外見が残骸同然になったクリスマス料理を何とか少しは見栄え良くなるように皿に並べてから、私は久々に自分一人だけではないクリスマスをうさいちと共に過ごすことになった。
***
それから結構な歳月が流れ、私は相変わらずぼっち気味に過ごしながらも平穏な日常を暮らしている。ただ、あのクリスマス以来、贈り物をする存在、つまりギフトブリンガーは須らくサンタであると確信した私は、それ以来家族や友人にささやかながら贈り物をするようになった。
そして、この年も街のショッピングモールで色々なプレゼントを買い込んでいた時、とある店舗のディスプレイに視線が釘付けとなる。そこに居たのは、あの日お姉さんから貰って以来、ずっと私の部屋の棚に鎮座している縫いぐるみ、うさいちにそっくりだった。しかも色や付属品が少しずつ異なる同族が何匹も並んでいる。思わず傍らのポップに視線を移すと、彼らがウミウシであると説明してあり愕然とした。
「うさいち……お前、ウサギじゃなかったのか」
そんな風に呟いてから、ほとんど無意識にうさいちそっくりの縫いぐるみを手にした私は、レジに向かい会計を済ませることにした。
***
私がショッピングモールから出てしばらく歩いていると、空からは大粒の雪、おまけに風の音も響いて来たので急いで家に帰ろうと思ったその時、いきなり渦巻くような吹雪に視界を遮られた。一瞬だけ怯んだ直後に突然の衝撃。
「あたた……」
私にぶつかってきたのは、中身が詰まったレジ袋を手にした小柄な女の子だった。
「大丈夫?」
「あ、はい、ごめんなさい」
そのまま女の子は自分が手にしたレジ袋の中身を確認する。どうやら中に入っていたチキンの盛り合わせやケーキなどは悲惨な姿と成り果てていたらしく、その表情が絶望に歪んだ。さすがに気の毒に思って私は右手を差し出し、女の子が立ち上がるのを手伝う。
「お使いだったのかしら?」
「えーと、今日は一人です」
この子もぼっちなのかと思わず表情を曇らせると女の子は動揺する。だから私は慌ててすぐ笑顔を浮かべると、持っていた手提げ紙袋に手を突っ込んで小振りの包みを取り出し、女の子に差し出した。
あの日のサンタを信じなかった私に、お姉さんがうさいちを手渡してくれたように。今ここに現れた女の子に対して、私がサンタになれるというのなら。
そのまま反射的に包みを受け取ってくれた女の子に、私は笑顔のまま指を立てて言った。
「メリークリスマス!」
クリスマスプレゼントを君に・終
それは、まだ私がサンタを信じなかった頃。
仕事で忙しかった両親は娘の私と季節の行事を過ごす暇もなく、誕生日もクリスマスも日付を遥かに超えてから買い物に連れて行かれ、自分で好きなものを選ぶように促された。
とは言え両親の多忙は理解していたつもりだし、時期が遅れてもきちんとプレゼントを貰えるだけマシだなどと醒め切った事を考えながら嬉しそうな顔をしてみせる、今考えると嫌な子供だったと思う。
***
その年のクリスマスイブ。相変わらず両親は忙しく、私は渡されたお金で夕飯を済ませることになった。
幸い近所のスーパーやコンビニにはクリスマス仕様のチキンやケーキ、オードブルなどが沢山売られていて、目移りしながら買い物を済ませて店を出ると、空から大粒の雪が降ってくる。おまけに風の音も響いて来たので急いで家に帰ろうと走り出し、暫く進んていると、いきなり渦巻くような吹雪に視界を遮られた。一瞬だけ怯んでから駆け出すと突然の衝撃に尻もちをつく。
「あたた……」
顔を上げて周囲を見回すと、眼前には赤茶色のコートに白いふわふわの縁取りの付いたフードを被ったお姉さんが心配そうな表情で立っていた。
「大丈夫?」
「あ、はい、ごめんなさい」
反射的に謝りながら手にしたレジ袋を確認すると、当然のように中に入っていたチキンの盛り合わせやケーキは悲惨な姿と成り果てていた。絶望に歪んだ私の表情を憐れんだのか、お姉さんは右手を差し出して立ち上がるのを手伝ってくれる。
「お使いだったのかしら?」
「えーと、今日は一人です」
私の答えに対して少しだけ表情が曇ったお姉さんの反応に、ひょっとして下手を打ったかと動揺する。しかし、お姉さんはすぐに笑顔になると、持っていた手提げ紙袋に手を突っ込んで小振りの包みを取り出して私に差し出してきた。そのまま反射的に受け取った私に、お姉さんは笑顔のまま指を立てて言った。
「メリークリスマス!」
直後に再び雪を巻き込んだ風が巻き起こり、私は思わず目を閉じる。そして再び周囲を見回した時、何故かお姉さんの姿は何処にもなかった。呆然とする私は、果たして一連の不可解な事態が現実だったのかと少しの間だけ悩んだが、レジ袋を掴んだ手とは逆の手に握られた包みは、確かに先程お姉さんから手渡されたものだった。
とりあえず家に戻った私は、お姉さんから貰った包みを開く。中に入っていたのは大振りのおはぎを思わせる形状の白い体に円らな赤い目、その頭上に伸びた二本の耳と数カ所に赤やピンクの苺をあしらった愛らしいぬいぐるみだった。
「とりあえず、お前の名前は『うさいち』に決定」
外見が残骸同然になったクリスマス料理を何とか少しは見栄え良くなるように皿に並べてから、私は久々に自分一人だけではないクリスマスをうさいちと共に過ごすことになった。
***
それから結構な歳月が流れ、私は相変わらずぼっち気味に過ごしながらも平穏な日常を暮らしている。ただ、あのクリスマス以来、贈り物をする存在、つまりギフトブリンガーは須らくサンタであると確信した私は、それ以来家族や友人にささやかながら贈り物をするようになった。
そして、この年も街のショッピングモールで色々なプレゼントを買い込んでいた時、とある店舗のディスプレイに視線が釘付けとなる。そこに居たのは、あの日お姉さんから貰って以来、ずっと私の部屋の棚に鎮座している縫いぐるみ、うさいちにそっくりだった。しかも色や付属品が少しずつ異なる同族が何匹も並んでいる。思わず傍らのポップに視線を移すと、彼らがウミウシであると説明してあり愕然とした。
「うさいち……お前、ウサギじゃなかったのか」
そんな風に呟いてから、ほとんど無意識にうさいちそっくりの縫いぐるみを手にした私は、レジに向かい会計を済ませることにした。
***
私がショッピングモールから出てしばらく歩いていると、空からは大粒の雪、おまけに風の音も響いて来たので急いで家に帰ろうと思ったその時、いきなり渦巻くような吹雪に視界を遮られた。一瞬だけ怯んだ直後に突然の衝撃。
「あたた……」
私にぶつかってきたのは、中身が詰まったレジ袋を手にした小柄な女の子だった。
「大丈夫?」
「あ、はい、ごめんなさい」
そのまま女の子は自分が手にしたレジ袋の中身を確認する。どうやら中に入っていたチキンの盛り合わせやケーキなどは悲惨な姿と成り果てていたらしく、その表情が絶望に歪んだ。さすがに気の毒に思って私は右手を差し出し、女の子が立ち上がるのを手伝う。
「お使いだったのかしら?」
「えーと、今日は一人です」
この子もぼっちなのかと思わず表情を曇らせると女の子は動揺する。だから私は慌ててすぐ笑顔を浮かべると、持っていた手提げ紙袋に手を突っ込んで小振りの包みを取り出し、女の子に差し出した。
あの日のサンタを信じなかった私に、お姉さんがうさいちを手渡してくれたように。今ここに現れた女の子に対して、私がサンタになれるというのなら。
そのまま反射的に包みを受け取ってくれた女の子に、私は笑顔のまま指を立てて言った。
「メリークリスマス!」
クリスマスプレゼントを君に・終