カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

骨董品に関わる物語・J. J. グランヴィルによる「花の幻想」図版

2024-04-22 06:38:03 | 突発お題

 醜い姿の下級悪魔が愛したのは、俗世の醜さを嫌って睡蓮と化した美しい尼僧だった。彼女の気を惹こうとする悪魔は尼僧に居ないものとして扱われ、魔界の掟に反して他者に愛を抱いた下級悪魔は魔王の裁きを受けるまでもなく、己の裡から絶えず湧き上がる炎に際限なく身を焦がされる。
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骨董品に関わる物語・真鍮とピューターのビアマグ

2024-04-22 06:35:46 | 突発お題

 以前、骨董品店で店番の手伝いをしていた時に暇だったので気を利かせたつもりで店内と展示品のあらかたを綺麗に清掃したら、何故か言われもしないのに余計なことをするなと怒られた。この店には骨董品が長い時間を掛けて纏うことになった歳月の気配を愛する客が訪れる場所なのだと。
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骨董品に関わる物語・水牛の角で出来たルーペ

2024-04-22 06:34:03 | 突発お題

 普段なら人間の眼には見えない世界に焦点を合わせてあるという小さな三連のルーペは、それぞれに異なる容姿の精霊を垣間見る事が出来たが、残り一枚のレンズが嵌めていないホールからは文字通り何も見えず不思議に思って尋ねると、いずれは喇叭を持つ天使が見える筈だと言われた。
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骨董品に関する物語・ハンス・ホルバインの手彩色木版画「死の舞踏」

2024-02-17 17:40:58 | 突発お題

 この世界の総ては時間の経過によって研削され、いずれは跡形も失くなるものだか、人間の心身もその例外には成り得ない。それ故にか、財と権勢を手にした人間の殆どは高価な布や石をあしらった金物で少しでも我が身を覆うのだ。しかし、きらびやかに覆われた肉体はやがて朽ち果て腐り落ち、後に残るのは薄汚れた骨ばかりと成り果てる。
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骨董品に関する物語・すみれのティーカップトリオ

2024-01-06 20:40:55 | 突発お題

 菫の香りに含まれる成分は短時間で人間の嗅覚を失わせる。そのせいか菫の花を眺める度に蘇りかける香りを伴った記憶も、脳裏で完全な像を結ぶ前に消えてしまう。思い出せるのは一面の菫の中で寝転がる顔も名前も、それどころか年齢や性別すら朧気な誰かの姿なのだと彼は寂しそうに呟きながら、精緻な菫が描かれたティーカップを傾ける。
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骨董品に関する物語・シックなステレオヴューワー

2023-11-26 20:41:29 | 突発お題

 ステレオヴューワーのスコープを何度覗いても立体に視えず癇癪を起こした僕に、父は同じように覗きながら、きちんと立体に見えると断言した。あの時感じた遣り場の無い憤りと父に対する断絶の感情は成長した僕が再び覗いたステレオヴューワー画面が立体に見えるようになるまで、絶えず胸の裡にあった。
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骨董品に関する物語・秘密結社フリーメイソンの公式マニュアル「ソロモン王と追随する者たち」

2023-11-26 20:38:47 | 突発お題

 中世の時代に欧州の石工集団が創設したフリーメイソンは随分と長い間、謎の多い秘密結社として一般人から胡乱な眼を向けられ続けてきた。しかし結局は彼らも一般社会を構築する市民であり、また昨今の風潮から情報開示的な会報も発行されているらしい。そんな中に会員間の犬猫や家具の譲渡欄があったら面白いと思うののだが如何なものだろうか。
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骨董品に関する物語・小型の幻灯機

2023-11-18 22:56:00 | 突発お題

 父さんが買ってくれた幻灯機は暗い部屋で蝋燭を置いて照らすと奇麗な色付きの絵が映し出される。この絵が動いたり喋ったりしたらどんなに素敵だろうと夢見る僕に父さんはきっと実現するよと言ってくれた。勿論その時の僕は自分の曾孫が異国でアニメーターなる職に就く事を知らない。
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骨董品に関する物語・観劇用のイヴニングバッグ

2023-11-12 15:44:40 | 突発お題

 観劇中の彼女は必ず、バッグから取り出したオペラグラス越しでしか周囲を見ようとしない。ある日事情を尋ねると余計なモノを見たくないからだと答えが返ってきた。別に害はないが芝居に集中出来なくなるのが嫌なのだと。ちなみに、その無害なモノが一体『何』であるのかまでは教えてもらえなかった
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骨董品に関する物語・古い手廻しオルゴール

2023-11-12 15:41:46 | 突発お題

 古い手廻しオルゴールを手に入れたと自慢した途端に表情が曇る友人に理由を尋ねると、嘗て読んだ物語に登場したオルゴール機能付きの珈琲挽きに憧れて自作したまでは良かったが、ハンドルがとてつもなく重くなって豆を挽いただけで体力を使い果たして音楽を楽しむ余裕もなかったと言う。当人はメロディーを二重奏にしたからだろうかと悩んでいたが、明らかにそういう問題ではないと思う。
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