’08/10/14の朝刊記事から
ボツリヌス菌 作用解明
東農大網走 丹羽教授の研究グループ
【網走】東京農業大生物産業学部(東農大網走)食品科学科の丹羽光一教授(41)の研究グループは、ボツリヌス菌の毒素が食中毒などの症状を引き起こすメカニズムを世界で初めて解明、ヨーロッパ細菌学会誌の電子版最新号に発表した。
ボツリヌス毒素は致死性の高い食中毒を引き起こす一方、筋肉の異常緊張を和らげる治療薬にも使われるが、作用の仕組みは不明だった。
丹羽教授らは牛の大動脈の壁をつくっている「血管内皮細胞」を培養してボツリヌス毒素を接触させ、倍率300ー600倍の顕微鏡での観察を3年間続けた。
この結果、毒素が細胞に接触すると、細胞から出ている「糖鎖」と呼ばれる毛のような部分が毒素をつかんで細胞の中に取り込み細胞を通過させていた。
食事で体内に入った毒素は「口→腸→毛細血管→毛細血管の外の体液→神経細胞」というルートで神経細胞に至ることが確認された。
この毒素は筋肉に信号を伝える神経伝達物質アセチルコリンの動きを阻害することで筋肉を弛緩させるため、重症の場合は呼吸麻痺などで死亡することもある。ボツリヌス菌は道内などの海岸の砂に広く分布。菌が付着した魚で作られた「いずし」は、長期保存中に菌が増殖し、度々食中毒を引き起こす。
全身の筋肉が捩れたり硬直したりする原因不明の運動障害ジストニアや、まぶた、顔などの筋肉の痙攣の治療にも、少量のボツリヌス毒素を注射する療法が行われている。
丹羽教授は「今後、ボツリヌス毒素が神経細胞に働きかけることを、さらに明確にしたい」としている。
道立衛生研究所(札幌)と孝口裕一研究員は「医薬品の安全性確保や効果改善につながる」と評価している。