今日のひとネタ

日常ふと浮かんだことを思いのままに。更新は基本的に毎日。笑っていただければ幸いです。

ムッシュ!/ムッシュかまやつ(文春文庫)

2024年03月03日 | ブックレビュー

 これはムッシュかまやつの自伝で、元々は2002年9月に単行本として発行され、2009年11月に文庫化にあたり加筆されたものです。そもそもは「南沙織がいたころ」という新書を読んだところ参考書籍としてこれが出ており、そういえば読んでないわと思い立って入手しました。

 感想としてはすごく面白かったです。もっと早くというか、ムッシュが存命中に読んでいればあの人の活動にもっと注目していたかもと思います。

 ムッシュという人は、そもそも飄々としていて自分の好きなように歌ってれば知らず知らず人が集まってきて、常に日本のミュージックシーンで一定の地位を確立していたというイメージでしたが、その時々ではかなり苦労し、悩み、落ち込み、その中で方向性を模索していたのがわかって意外でした。

 本編は生い立ちから年代順の話になってますが、冒頭の「イントロダクション」はムッシュの還暦パーティーの話から。これは1999年の1月にユーミンの仕切りで知り合いのミュージシャンや俳優に声を掛け、メディアには内緒で行われたというもの。こんなパーティーがあったこと自体知りませんでした。

 参加の勧誘は前日または当日に電話かファクスで行い、マネージャーは同行させず本人だけ来て欲しいという要望だったにも関わらず当日は150人も集まったのだとか。それもスパイダースのメンバーはもちろん、泉谷しげる、井上陽水、トノバン、今井美樹、桃井かおり、NOKKO、高橋幸宏、吉田美奈子、石井竜也、、森山良子、アルフィーなどなど、錚々たる顔ぶれ。これだけでいかにミュージシャンから慕われてたかわかりますね。

 イメージとしては、結構適当にその場その場をやってきて、昔のことはあまり記憶されてないのかと思ったら、スパイダース以前からどういうバンドにいて、その時のメンバーがどうだったとか、その時々でどの事務所に所属していたのかとかすごく詳細に記されていたのが本当に意外。(何度も意外と書きますが。)

 還暦パーティーの様子を聞くと、昔からどのジャンルの人からも慕われてたのかと思いきや、ロックの側からは「ロックじゃねぇ」と言われ、フォーク側からはGS崩れのくせにと言われ、複雑な思いもあったようです。

 さらに、ビクターのスタッフとして社員になるよう勧誘されたり、映画「戦国自衛隊」に出演した時の苦労とか知らなかった話だらけ。とにかくそういうのが次々に出てくるので驚きっぱなし。

 さらに意外だったのは(またですが)、スパイダースで初のヨーロッパ遠征に行った時に人手がないという理由でマネージャーも同行せず、唯一片言の英語ができるムッシュが楽器の手配やローディーのような仕事もやって寝る暇もなかったということ。メンバーの中では芸能界のベテランの方だったので、そういうことはなさらないのかと思ってました。

 他のメンバーはホテルがぼろいとかいう文句も出てて、このあたりは井上尭之さんの著書で見た様子とは結構違いますね。あの人の本だとどこに行っても一流ホテルに泊まって注目されてたような話だったので。ここもちょいと興味深いです。

 これは読み物として面白いだけではなく、日本のポップスやロックの歩みを知る資料的な価値も大きいと思います。今はもしかしたら中古でしか入手できないかもしれませんが、興味ある方は是非お読み下さい。


人の目など構わなければこれはなかなか>大活字文庫

2024年02月28日 | ブックレビュー

 先日図書館から借りてきたのが大活字文庫というもの。別にこれを試したかったわけではなく「ゲゲゲの女房」を借りようと思ったらこのタイプしかなかったので。

 中を開いてみるとこういう文字サイズの本で、普通の本よりメチャメチャ大きくなってます。(文字の大きさを比較するとこんな感じ。同じ内容の本ではありません。) 図書館以外では見かけたことはないのですが、そもそもが弱視とか視覚障害の方向けなのですね。

 ただ、これはこれですごく便利で、私のような60代一般男性でも老眼鏡なしで楽勝。目が疲れません。先日は電車で出かける際に持って行きましたが、裸眼で問題なく読めます。

 しかし、デメリットはいくつかあって、元々は一冊の単行本なのがこの文字の大きさなので当然ページ数は増え三分冊となってます。もちろん重量もコストも相当なもの。そして、電車でこれを読むとなると隣の人からも中身が丸見えなので、それを気にする人は無理でしょう。

 これが「ゲゲゲの女房」だからいいようなものの、村上春樹先生の「1Q84」なぞ読んでたら「彼女はとても効率的に、天吾の中から一週間分の性欲を搾り取っていった。」という表現が出てくるわけです。(ちなみにマイルドな部分を選んでます。あの人の作品は「勃〇は完璧だった」なんてのがしょっちゅうありますし。) ふと覗き込んだところがそういう文章だと、隣の人は目が点になりますね。

 あとは、本来視覚障害者か極端に視力が低い人向けであろうものを私が独占するのも申し訳ないので、読んだらすぐに返さねばと。図書館に行けばこういう読書の方法もあって貸し出しも可能ということは、世の中に広く知られるべきでしょうね。あとは自分がもっと年取って視力が弱ったらお世話になることもあろうかと思います。

 そもそも数年前から出かける際に老眼鏡忘れると電車ではまったく本が読めず、そのせいで読書量が減りました。そんなこんなも含めて、いよいよ視力がきつくなった老後でも図書館には頼れるというのは覚えておきます。

 

 なお、この本を読んだ直後にスマホを見ると、物凄く字が小さくなった気がします。一種副作用といえるかも。


「南沙織がいたころ」から数珠つなぎで

2024年02月26日 | ブックレビュー

 「南沙織がいたころ」は私の愛読書ですが、毎回読むたびに新たな発見があります。著者は芸能関係ではなく大学の社会学部教授で、シンシアの大ファンだった人。その人が当時の雑誌記事や関連書籍、ファンクラブの会報、近年の南沙織さんのインタビュー記事など膨大な資料を基に執筆されたものです

 その資料に関しては、大宅壮一文庫、国立国会図書館、京都府立図書館、京都ノートルダム女子大学学術情報センター図書館、東京大学情報学図書室、関西大学図書館などで調べたそうで、巻末の参考文献・資料一覧には、本だけでも70冊くらい並んでます。

 これがその一例。次のページにもあります。

 先日はその参考図書として紹介されていた「ガサコ伝説」を読んだのですが、それが結構面白かったので、参考資料で紹介されている本を他にも読んでみようと思った次第。それが面白ければまた関連図書も読んでみようかと思ってますので、これぞ数珠繋ぎ。

 今のところ気になったのは以下の通りです。

泉谷しげる「わが奔走」
酒井政利「アイドルの素顔」
つのだじろう「女のヒットスタジオ」
萩原健太「はっぴいえんど伝説」
ムッシュかまやつ「ムッシュ!」
太田省一「アイドル進化論」

 「ムッシュ!」は既に入手済みですが、他が普通に入手できる本なのかどうかは調べてません。「はっぴいえんど伝説」あたりは参考資料も紹介してありそうな気がします。ちなみに、戦後の沖縄の歴史についても相当調べたそうで、私はそこも興味を持ちました。とはいえ、さすがに沖縄県史や沖縄市史にまでは手が出ません。

 それにしても、この著者の方は1971年から78年までの明星、平凡は全部読んだとか。多分国立国会図書館に行けば可能なのでしょうが、何日くらいかかるでしょうか。ちょっとやってみたい気もありますが、通勤するような気でやらないと無理でしょうね。すごい熱意と根性です。尊敬します。


暗記するほど読む本があるかどうか

2024年02月16日 | ブックレビュー

 水木しげる先生は若い頃に哲学書がやたら流行し宗教書も読み漁ったのだとか。それは時代のせいでもあって、戦争が始まったのであと2~3年すれば確実に死ぬと感じての本能的なものだったそうです。周囲の若者にもそういう空気が蔓延してたとか。ドキドキせずに安心して死にたいという事で。

 宗教書では仏教の本はつかみどころがなかったけど、新約聖書は気に入って5回読んで暗記するほどだったとか。あとはゲーテにもはまったそうです。その聖書については、それを暗記していたおかげで南方の島で現地人と仲良くなり、みんなに「パウロ」と呼ばれて「除隊して一緒に暮らそう」と口説かれたほどになったのは有名な話。世の中何が影響するかわからないものです。

 それはそうとして、自分が気に入って暗記するほど読んだ本があるだろうかと考えました。私の場合は毎年読書記録をブログに残してますが、それを見るとここ何年かで一番多く読んだ本は「嵐の季節 甲斐バンド40周年」です。ここ数年は毎年最低1回は読んでますね。あれは面白いし読みやすいし。

 その他、好きで何回も読んだ本としては

ポップコーンをほおばって 甲斐バンドストーリー/田家秀樹
スパイダースありがとう/井上尭之
ちばてつやが語る「ちばてつや」/ちばてつや
いっしょに泳ごうよ/石川ひとみ
南沙織がいたころ/永井良和


などなど。2回読んだ本は多いですが、これらは確実に4~5回は読んでます。

 これらの本は、読むたびに新しい発見があるので快感だったりもします。「ポップコーンをほおばって」「南沙織がいたころ」などは特にそう。暗記して中身が全部頭に入ってしまってると、読み返すのがつまらないと思うのは私だけでしょうか。

 とりあえず、上に挙げた本はいつ読んでも何度読んでも楽しめます。そういう読書もいいですよね。


水木しげる「昭和史」をあらためて

2024年02月13日 | ブックレビュー

 朝ドラ「ゲゲゲの女房」を見てて、水木しげるそのものにも興味を持ったので「昭和史」全8巻を読んでみようかと。

 こちらは漫画ですが、昭和の事件と自分の生い立ちを綴ったもの。事件史についてはねずみ男がストーリーテラーとして登場したり、ねずみ男に自分をインタビューさせる形で当時何を考えていたかということを語ったりしています。

 これは20年ほど前に図書館で何冊か借りて来たのですが、漫画とはいえ結構分量があってなかなか読み切れず、結局自分で買いました。が、何と言っても戦時中の軍隊にいた部分が壮絶で読み応えあったので、持ってたのは3巻以降だけ。

 しかし、家族の希望もあって今回1巻と2巻も入手したので、ようやく全巻揃ったことになります。「昭和史」という半藤一利先生の本も持っておりますが、水木先生の場合はもうちょっと年代が上でご本人が徴兵されて南方に行き、死の危険にはなんども直面し、現地人に追いかけられて一日中泳いで逃げたり、マラリアになって寝込んだり、その最中に空襲され片手を失ったりという話は読み始めたら止まりません。

 さらに今日は図書館に行って「ゲゲゲの女房」を借りて来たし、ついでに「総員玉砕せよ」も借りてきました。これで水木マニアになれるか。って、肝心の鬼太郎読んでないわ。そちらも読まねば。


ガサコ伝説「百恵の時代」の仕掛人/長田美穂

2024年01月27日 | ブックレビュー

 こちらは2010年に発行された本で、雑誌「月刊平凡」の伝説の編集者と言われた折笠光子についての人物伝。その人の通称が「ガサコ」なのですが、伝説と言われる割にはこの人の事はWikipediaにも項目が無いので私は知りませんでした。

 これを読もうとしたキッカケは朝日新書の「南沙織がいたころ」(永井良和著)。その中でこの本の事が紹介されていたのでした。

 私は1963年生まれなので、小学生の頃から月刊明星と月刊平凡は親戚の家に行けば普通に置いてありました。ちょっと年上のいとこが多かったので。そして中学生くらいになると、歌本目当てで自分で買ったりもしましたが、はっきり言って明星派でした。

 この本はそのガサコについての人物伝ではありますが、あの時代の月刊明星と月刊平凡の編集方針の違い、タレントの取材はどのように行われていたか、どうして明星の方が一般大衆には受けたのかなど、いろいろ興味深い内容もあります。当時の雑誌の発行がどんな感じだったかという大きい話もありますし。

 ちなみにこの「ガサコ」という人は、1960年に平凡出版にアルバイトとして入社、編集者として活躍したのち、1997年に57歳で亡くなってます。著者がこの人のことを知ったのは没後数年経っての事だったので、取材は結構難航した様子。

 実は内容を読むと何しろ故人の話なので伝説が本当に伝説化してしまい、「あれもあれもガサコがきっかけ」と言われていたことが、関係者の証言で「そんなことはない」という話になったり、こちらも「本当かなあ」と思う場面がいくつもありました。

 が、その「ガサコ」についての取材に応じたのは、渡辺美佐、橋幸夫、西郷輝彦、森田健作、南沙織、野口五郎、森昌子、三浦友和、ピンクレディーのミーをはじめとした錚々たる顔ぶれで、普段あまり取材を受けないのが「この人の事なら語りたい」と言った人もいたので、実際に大きな働きをした人だったのでしょう。特に三浦友和と山口百恵夫妻については家族ぐるみの付き合いだったのは確かですし。

 また、南沙織については彼女が当時まだアメリカであった沖縄から単身で来日した事情も考慮し、家族を呼び寄せるとか沖縄に帰郷する企画を組んだりしてたそうです。そういう点で、平凡はタレントに寄り添うという姿勢が強かったようですね。

 ただ、当時の同僚だったりライバル誌の編集だったりした人の取材も綿密に行い、会った事のない人の人物伝をまとめる苦労がいかに大変だったかは、エピローグとあとがきを見てよくわかりました。私も本編を読んでた時は「う~む」という感じだったのですが、そのエピローグとあとがきを読んで納得した思いが強かったです。

 70年代アイドルの好きな私が読んで楽しめた本ですが、月刊平凡や月刊明星について少しでも思い入れがある人が読めば面白いかと思います。今も電子書籍で読めます。関心を持った方は是非どうぞ。


2023年 今年読んだ本

2023年12月30日 | ブックレビュー

 世の中には読書マウントなんていう言葉もあるそうですが、そういう意味でいうと私の場合はタレント本マウントかもしれません。何しろタレントとかバンドに関する本は大好きなので、今年は下記の通り40冊読んでますがそういう方面が約半分です。

 まずは読んだ本は下記の通り。(再)となってるのは再読です。毎年登場する本もあります。


対岸の彼女/角田光代
財津和夫 人生はひとつ でも一度じゃない/川上雄三
旅のラゴス/筒井康隆
ポップコーンをほおばって/田家秀樹(再)
近現代史からの警告/保阪正康
最後の角川春樹/伊藤彰彦
象の記憶/川添象郎
グループサウンズ/近田春夫
ザ・タイガース 世界は僕らを待っていた/磯前順一(再)
大いなる助走/筒井康隆
キャンテイ物語/野地秩嘉
ショーケン/萩原健一(再)
スパイダースありがとう/井上堯之(再)
ショーケン 天才と狂気/大下英治
日本以外全部沈没/筒井康隆
ショーケン最終章/萩原健一
暗殺の幕末史/一坂太郎
民衆暴力/藤野裕子
月神/葉室麟
狂気の沙汰も金次第/筒井康隆(再)
甲斐バンド40周年 嵐の季節/石田伸也(再)
義民が駆ける/藤沢周平
蒼天みゆ/葉室麟
陽炎の門/葉室麟
いのちなりけり/葉室麟
バンド・オブ・ザ・ナイト/中島らも(再)
天翔ける/葉室麟
花や散るらん/葉室麟
黄昏のビギンの物語/佐藤剛
ヨイトマケと美輪明宏/佐藤剛
水谷豊自伝/水谷豊・松田美智子
陽眠る/上田秀人
小松政夫 遺言/小菅宏
中森明菜 消えた歌姫/西崎伸彦
自暴自伝/村上ポンタ(再)
Over the noon 私の小さな物語/伊藤蘭
ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒/島崎今日子
天を測る/今野敏
B面昭和史1926-1945/半藤一利(再)
いっしょに泳ごうよ/石川ひとみ(再)


 今年最初に読んだのが角田光代の「対岸の彼女」でこれはすごく面白かったです。これのおかげで読書の喜びに目覚めたかも。

 そして「旅のラゴス」を読んだらすごく面白くて「やはり天才だ」と、また筒井熱が再発。その後いくつか読みました。短編ですが「アフリカの爆弾」を今読むと、その先見性というか世の中が変わってないのかゾッとします。これが1968年の作品だそうで、SF作家のいうことは夢のような話だけじゃなくて確実に予見してる部分がありますね。

 「最後の角川春樹」は個別レビューでも書きましたがすごく面白くて、また角川映画をちゃんと見たいと思いました。「象の記憶」も面白かったけど、この人と一緒に仕事する人は大変だろうなというのが正直な感想。

 ちなみに島崎今日子の「安井かずみのいた時代」を読んでキャンティに興味を持ったのですが、あれとこの「象の記憶」と「ザ・タイガース 世界は僕らを待っていた」と「キャンティ物語」をまとめて読むと結構いろいろ見えてきます。

 「ショーケン 天才と狂気」という本も結構ショッキングでした。何しろショーケン自身が本に書いてなかったことが色々出てきたので「ん?」と思ってまた「ショーケン最終章」を読み直したり。読書はいろいろ繋がりますね。

 「民衆暴力」というのもすごく考えさせられる本で、関東大震災直後の朝鮮人虐殺云々の話をいうならこの本を一度は読んでみねばダメだろうと思ったりしました。ちなみにそれについてのみ書いてある本ではありません。

 たまたま本屋で見かけた「月神」というのが面白くて、その後ちょっと葉室麟に凝って5冊ほど読んでみました。どれも面白いですし、取り上げる人物や地域が特徴的ですが、もうこの人は亡くなってるんですね。著作は全部読んでみたいと思わせる人で、人物の描き方が生き生きしてるのが素晴らしいです。

 本日のトップ画像は半藤一利先生の「B面昭和史」ですがもう何回か読んでて、今年も半年くらいかけてちょびっとずつ読んでたのですが、毎回新たな発見があります。今回は「これは!」と思う個所に付箋を付けてたらこんなになりました。ちょうど朝ドラ「ブギウギ」がこの時代なので、実際市中の人の暮らしはどうだったのだろうと思いながら一気に最後まで読んでしまいました。

 そして最後は石川ひとみさんの「いっしょに泳ごうよ」で締め。この本も何回か読んでますが、こちらも毎回新しい発見があります。豚肉が苦手だったんですね。と、今さら気づいたり。あとは第三章はとにかく多くの人に読んで欲しいです。B型肝炎への偏見がなくなることを祈ります。ご本人もそうですが、友人のエピソードは本当に読んでて辛いし腹立たしい気持ちもあります。

 

 今年は40冊ですが、昨年は27冊、一昨年は39冊、その前は64冊でした。多かったのはコロナのステイホームだった年です。何よりも去年の暮れにちゃんとした老眼鏡を作ってから長時間の読書も疲れなくなったし、遠近両用メガネのおかげで電車の中や駅のホームでのちょっとした時間にも本を読みやすくなりました。食べた物は体の栄養になりますが、読んだ本は脳みその栄養になると思ってるものであります。さあ、来年もガンガン行くでぇ~。←と、最後はカネヤン風


ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒 / 島崎今日子

2023年12月21日 | ブックレビュー

 週刊文春の連載記事「ジュリーがいた」に、新たな取材と大幅な加筆をしたというもの。帯の言葉は「1960年代。音楽やファッションが革新を遂げ、サブカルチャーが花開き、大量消費の時代が始まる。その中心には必ず、彼がいた。バンドメンバー、マネージャー、プロデューサー、共に『沢田研二』を創り上げた69人の証言で織りなす、圧巻のノンフィクション」。

 島崎今日子作品は「安井かずみがいた時代」しか読んでませんが、あれがとにかく面白くてもう何回読んだことやら。その作者がジュリーの話を書いたとなっては期待しないわけにはいきません。ま、私はファンといえるほどではなく、380ページ超で1,980円というとなかなかですが、そこはまあ気にしないと。

 内容は結構面白かったです。私としては、タイガースとソロになって井上尭之バンドとともにベストテン入りのヒットを連発していたあたりに特に興味があるので、その合間であるPYGの事もわかったのが収穫。

 井上尭之さんはもう亡くなってるので新たな証言を得るのは無理ですが、今回は大野克夫さんの話が結構ありました。井上さんの本も読んでたので、かなり複雑な思いでジュリーのバックをやっていたことは知ってましたが、井上さんは井上さんで思うところがあったようで、大野さんはヒット曲を作曲してることもあるせいか結構ノリノリだった感じです。

 そんななので、私の場合は歌謡界の中心にいた頃のスタッフや本人の話を興味深く読みました。ショーケンとの関係については中盤にかなりのボリュームで綴られてますが、ショーケンの本も何冊か読んだこともあり「ふ~ん」という感じ。

 ちょっと抵抗があったのは、序盤でやたらとジュリーの存在とボーイズラブを絡めてたあたりで、私としてはドン引きでした。この辺は好みの問題によるのでしょうが、あそこまで言わなくてもいいような気が。

 あとは、あちこちで佐藤剛さんのコメントも出てて、そちらはメモにして残しておきたいような言葉でした。さすがです。

 と、色々書いてますがとにかく力作には違いありません。少しでも関心がある人は是非どうぞ。私の場合はもう一回じっくり読んでみることと、参考文献として紹介されている本で入手できるものを調べてみたいと思ってます。


「B面昭和史」を片手に「ブギウギ」を

2023年11月07日 | ブックレビュー

 

 朝ドラ「ブギウギ」は東京編に入りました。ヒロインのスズ子が東京に行き、服部良一をモデルとする作曲家と出会い、いよいよ歌手として活躍する話になりそうです。ただ、物語は現在昭和13年。世の中が段々キナ臭くなるところですが、この頃の世間はどんな感じだったかを知るのに絶好なのがこの「B面昭和史」」。

 ご存じ歴史探偵こと半藤一利先生の本で、正調で昭和の歴史を語った「昭和史」がありますが、これは「B面」というだけあって世間の風俗や流行りもの、庶民の生活などに焦点を当てたもの。

 私なんぞは、戦前というともう昭和の初めから暗い時代であったような感覚ですが、これを読むと結構東京あたりの庶民は浮かれ騒いでたのがわかります。「東京音頭」のレコードが発売されたのが昭和8年。翌9年には「さくら音頭」というのが出て、これは競作でありしかもコロムビアは松竹と、ビクターは日活とタイアップ。さらにポリドール、キング、テイチクが加わっての大騒ぎだったとか。この当時、既にそういう横文字のレコード会社がいっぱいあったのですね。

 そして、この頃エロのカフェーが下火になり、代わりに喫茶店とかミルクホールが盛り場に登場。カフェーに行くようなお金のなかった学生たちを喜ばせるようになったとか。

 さらに驚いたのが「パパ・ママ論争」。当時の文部大臣が「日本人はちゃんと日本語を使って、お父さん、お母さんといわねばいかん。舌足らずのパパ・ママを使うのはいかがなものか。」と言って、世間では「パパ・ママ禁止令」が出るかもという噂も。

 日本の家庭でパパ・ママと言うようになったのは戦後もずっとたってからかと思ってたら、昭和10年にこんな話があったというのも驚きです。

 もっとも、これらは半藤先生がいた東京を中心とした話であって、昭和9年あたりは東北の農村ではコメをはじめとする農作物の不作で大不況でした。当然、そこでは娘の身売りもあるわけで、その窮状を見て黙っていられなかった青年将校が起ち上って…ということが二・二六事件などにも繋がるので、B面とはいえこの本も段々とA面の話が多くなってきます。それだけ庶民があれこれ楽しめなくなっていったということでしょう。

 そんなこんなですが、ドラマの背景にある世間はどんな感じだったかというのを理解しながら「ブギウギ」を見ると、さらに楽しめるかも。ただし、この本は文庫とはいえ650ページ以上あります。愛読書と言いたいところですが、私はまだ3回しか読んでおらず。もちろん読むたびに新たな発見があります。興味ある方は是非どうぞ。


陽眠る/上田秀人

2023年11月05日 | ブックレビュー

 これは新しい本でハルキ文庫から今年の8月に発売されたもの。タイトルだけ見るとなんのこっちゃわかりませんが、帯には「幕末海軍から見た佐幕派激闘史として出色のスケールを持つ傑作である。」ということで、主役はほぼ開陽丸。開陽丸が何かわからない人は、さらに「なんのこっちゃ」かもしれません。

 人物としては榎本武揚、澤太郎左衛門が中心とはなりますが、物語の始まりが鳥羽伏見で幕府軍が初戦敗退し慶喜がトンズラするところからですので、これらの人物がそもそもどういう生い立ちであったかという詳細はありません。

 上田秀人というと、私は奥右筆秘帳シリーズが大好きで最新刊が出るたびにハラハラしながら、時にはモリッとしながら読んでました(?)。その作者による幕末物ということであれば、これは読まねばならんということですぐ買ったと。

 感想はというと、さすが上田秀人で特に登場人物の会話部分は映像が浮かんでくるように生き生きしてて面白かったです。勝海舟の描き方も王道といえばそうですが、佐々木譲の「武揚伝」のような悪役にはしておらず、林隆三でも松方弘樹でも武田鉄矢でもオッケーな感じ。(なのか?)

 ほぼ主役の開陽丸についても、悪天候で座礁してしまうのは史実通りですが、そこに至るまでの傷み方とちゃんと修理できないもどかしさはこれまで読んだものの中で一番わかりやすかったかも。

 そういう風に面白い事は面白いのですが、さすがに全部で327ページなので江戸から出て行って函館まで行く間の戦いの詳細や、函館での戦いも私のような幕末オタクには物足らない部分はあります。土方歳三も出てきますし大鳥圭介もいるし永井尚志もいますし、これがドラマなら「ワシらのセリフ増やせや。」と役者さんが文句言いそうなレベル。

 とはいえ、面白かったのは間違いないです。榎本武揚は大河ドラマの主役にもなりそうなものですが、なかなかそういう話はないですね。とはいえ、この人が出てくる小説は佐々木譲の「武揚伝」、司馬遼太郎の「燃えよ剣」、童門冬二の「小説 榎本武揚」など色々ありましたが「抱かれたい幕末維新の人物」のランキング入りする雰囲気はないので、エリートといえる人であって破天荒なところがないのがドラマにはしにくいのでしょうか。そういえば、このこの小説もお色気シーンは一切なかったです。奥右筆秘帳シリーズはその辺が満載でしたけどね。

 なんにしてもすぐ読める話なのでこれはお勧めです。ドラマにするんだと榎本武揚は誰がいいでしょうね。