これはムッシュかまやつの自伝で、元々は2002年9月に単行本として発行され、2009年11月に文庫化にあたり加筆されたものです。そもそもは「南沙織がいたころ」という新書を読んだところ参考書籍としてこれが出ており、そういえば読んでないわと思い立って入手しました。
感想としてはすごく面白かったです。もっと早くというか、ムッシュが存命中に読んでいればあの人の活動にもっと注目していたかもと思います。
ムッシュという人は、そもそも飄々としていて自分の好きなように歌ってれば知らず知らず人が集まってきて、常に日本のミュージックシーンで一定の地位を確立していたというイメージでしたが、その時々ではかなり苦労し、悩み、落ち込み、その中で方向性を模索していたのがわかって意外でした。
本編は生い立ちから年代順の話になってますが、冒頭の「イントロダクション」はムッシュの還暦パーティーの話から。これは1999年の1月にユーミンの仕切りで知り合いのミュージシャンや俳優に声を掛け、メディアには内緒で行われたというもの。こんなパーティーがあったこと自体知りませんでした。
参加の勧誘は前日または当日に電話かファクスで行い、マネージャーは同行させず本人だけ来て欲しいという要望だったにも関わらず当日は150人も集まったのだとか。それもスパイダースのメンバーはもちろん、泉谷しげる、井上陽水、トノバン、今井美樹、桃井かおり、NOKKO、高橋幸宏、吉田美奈子、石井竜也、、森山良子、アルフィーなどなど、錚々たる顔ぶれ。これだけでいかにミュージシャンから慕われてたかわかりますね。
イメージとしては、結構適当にその場その場をやってきて、昔のことはあまり記憶されてないのかと思ったら、スパイダース以前からどういうバンドにいて、その時のメンバーがどうだったとか、その時々でどの事務所に所属していたのかとかすごく詳細に記されていたのが本当に意外。(何度も意外と書きますが。)
還暦パーティーの様子を聞くと、昔からどのジャンルの人からも慕われてたのかと思いきや、ロックの側からは「ロックじゃねぇ」と言われ、フォーク側からはGS崩れのくせにと言われ、複雑な思いもあったようです。
さらに、ビクターのスタッフとして社員になるよう勧誘されたり、映画「戦国自衛隊」に出演した時の苦労とか知らなかった話だらけ。とにかくそういうのが次々に出てくるので驚きっぱなし。
さらに意外だったのは(またですが)、スパイダースで初のヨーロッパ遠征に行った時に人手がないという理由でマネージャーも同行せず、唯一片言の英語ができるムッシュが楽器の手配やローディーのような仕事もやって寝る暇もなかったということ。メンバーの中では芸能界のベテランの方だったので、そういうことはなさらないのかと思ってました。
他のメンバーはホテルがぼろいとかいう文句も出てて、このあたりは井上尭之さんの著書で見た様子とは結構違いますね。あの人の本だとどこに行っても一流ホテルに泊まって注目されてたような話だったので。ここもちょいと興味深いです。
これは読み物として面白いだけではなく、日本のポップスやロックの歩みを知る資料的な価値も大きいと思います。今はもしかしたら中古でしか入手できないかもしれませんが、興味ある方は是非お読み下さい。