徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

決め手のない「水いぼ」の治療

2017年07月02日 07時08分31秒 | 小児科診療
 夏になると水いぼ(伝染性軟属腫)の相談が増えます。
 学会の声明では、「水いぼはプールの水ではうつらないので入ってもよい、ただ、接触感染するのでボードやタオルの共用は好ましくない」とのことですが、実際にはたくさんできていると入れてくれない施設もあるようです。

 さて、その水いぼの治療ですが、検索すると実にさまざまな方法がヒットします。
 視点を変えれば「決め手がない」ことの表れと云えるでしょう。

 以下に紹介する論文も「決め手がないから自然治癒に任せた方がよい」という論調です。
 しかし、放置してたくさん増えてしまうと目も当てられない状態になってしまうことがあります。

 この夏も水いぼの扱いは悩ましい・・・。

■ 水いぼに効く薬はある?あらゆる治療を検証〜文献の調査から
from The Cochrane database of systematic reviews
2017.06.11:MEDLEY
水いぼは子供に多い皮膚の病気です。痛みやかゆみはないことが多く、通常は自然に治ります。治療としてこれまでに報告されている方法の調査が行われました。
水いぼは医学用語では伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)と呼びます。
オランダなどの研究班が、伝染性軟属腫に対する治療の効果の研究報告を調査し、これまでに報告されている内容をまとめて『Cochrane Database of Systematic Reviews』に報告しました。2006年・2009年にも同様の調査が行われていましたが、以後の情報も含めるよう更新されました。
調査対象として、伝染性軟属腫の治療法を評価するために、治療法をランダムに割り当てる方法の試験を行った報告を集めました。免疫不全状態ではない人を対象にしたものを選び、性的接触により感染した場合のものを除きました。

◇ 治療が有効と言える質の高い証拠はない
調査によって22件の研究が見つかりました。
外用剤(塗り薬など)として使われる5%イミキモドを、基剤(有効成分以外の成分)と比較した研究がありました。次の結果が出ていました。

・5%イミキモドは基剤に比べて短期的・中期的・長期的治癒に効果がない
・5%イミキモドが何らかの有害作用を起こす割合は基剤と差がないか、あってもわずか
・塗った箇所の反応に限るとイミキモドのほうが多い

以下の治療の効果が報告されていましたが、いずれも証拠の質は低いと判断されました。

・5%イミキモドより冷凍スプレーのほうが有効
・5%イミキモドより10%水酸化カリウムのほうが有効
・10%オーストラリア産レモンマートル油がオリーブオイルよりも有効
・10%過酸化ベンゾイルクリームが0.05%トレチノインよりも有効
・5%亜硝酸ナトリウムと5%サリチル酸の組み合わせは5%サリチル酸単独よりも有効
・ヨウ素と茶油の組み合わせがヨウ素単独または茶油単独よりも有効

以下の優劣は不確か

・10%水酸化カリウムと生理食塩水の比較
・ホメオパシーのカルカリア・カーボニカ(カキの殻)と偽薬の比較
・5%水酸化カリウムと2.5%水酸化カリウムの比較
・10%ポビドンヨード溶液と50%サリチル酸絆創膏の組み合わせと、サリチル酸絆創膏単独の比較

薬の副作用やその他の原因による症状など(有害事象)として最も多く報告されていたものは、使用したときの痛み、赤み、かゆみなどでした。
研究班は以上の結果を「伝染性軟属腫の治療に有効と確信できることを示された単独の治療はない」とまとめたうえ、「見つかった証拠からはどの単一の治療が優れているとも言えなかったため、伝染性軟属腫に対処するには自然治癒がいまだに有力な方法である」と結論しています。

◇ 水いぼは放置が一番?
水いぼ(伝染性軟属腫)に対して質の高い証拠から有効と言える治療はないという報告を紹介しました。
治療に効果がなく副作用があるならば何もしないほうが合理的な判断です。
伝染性軟属腫は普通、見た目以外の症状がなく、数か月程度で自然に治ります。直接触れることやタオルなどを介してうつる場合がありますが、感染力が強いものではありません。
焦って治そうと薬を探すよりも、触らないことなどに気を付けるほうが大事と言えるでしょう。

<参考文献>
Interventions for cutaneous molluscum contagiosum.
Cochrane Database Syst Rev. 2017 May 17. [Epub ahead of print]
[PMID: 28513067]


水いぼはウイルス感染症です。
根本的な治療は、このウイルスをやっつける抗ウイルス薬ですが、まだ開発されていません。
なので、皮膚科を受診すると医師の方針はバラバラで、ドクターショッピングをすればするほど患者家族は混乱します。

そんな患者さんが当院を受診した際は、私は以下のような説明をします;

「基本的に自然治癒しますが、大きくなると治っても痕が残ります。それが心配なら皮膚科の処置を優先してください。ただ、痛くて嫌がり通いきれないなら、漢方薬が効くことがありますので、ご希望なら処方します。有効率は50%くらいです。」

<参考>
□ 「水いぼQ&A」(日本小児皮膚学会)
□ 「小児の水いぼ治療
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子宮頸がんの今

2017年07月02日 06時59分51秒 | 小児科診療
 HPVワクチンの積極的接種勧奨中止から4年が経過しました。
 世界の国々では子宮頸がんのリスクが減る中、日本は接種開始前の水準に戻ってしまったという記事;

■ 子宮頸がん、ウイルス感染リスク、導入前水準に ワクチン接種勧奨中止から4年
(2017.6.11:産経新聞)
 子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンの積極的勧奨が中止されて4年がたち、接種者が大幅に減ったことにより、国内の女性の20歳時点でのHPV感染リスクがワクチン導入前と同程度に高まるとする予測を大阪大の上田豊助教(産婦人科)がまとめたことが10日、分かった。同ワクチンをめぐっては、体のしびれや痛みといった接種後の副反応が報告されたとして、積極的な接種勧奨が中止されている。
 HPVは主に性交によって感染し、女性の多くが一度は感染するとされる。多くは自然に治り、ウイルスは排除されるが、まれに感染が長く続き、がんの前段階を経て子宮頸がんになることがある。
 上田助教は、ワクチンの公費助成開始時に助成の対象年齢を超えていた平成5年度生まれの女性の20歳時点での2種類のウイルス型の感染リスク(感染者の割合)を1と設定。公費助成が始まった際に助成対象の16歳だった6年度生まれ以降の感染リスクをワクチン接種率から計算した。すると、約7割の人がワクチンを接種したことで、20歳時点での感染リスクは約3分の1にまで減った。
 ところが、25年度以降のワクチンの接種率は4~0%に激減。今年度に定期接種の対象年齢(12~16歳)を超えて17歳になる12年度生まれの女性の20歳時点での感染リスクは、0・96とワクチン導入前と同水準になると予測した。



【子宮頸がんワクチン】 子宮頸がんの主な原因であるHPVの感染を予防するワクチン。筋肉注射で3回接種する。ウイルスには多くの型があるが、悪性度の高い2種類の型を防ぐ。「接種を促すはがきを送る」といった積極的勧奨は平成25年6月から差し控えられている。世界保健機関(WHO)や日本産科婦人科学会は子宮頸がん患者が増える恐れがあるとして勧奨再開を求めている。
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