2000年頃は、「次のパンデミックはH5N1(鳥インフルエンザ)が最有力候補」と云われていました。
しかし蓋を開けてみると、2009年にパンデミックを起こしたのはH1N1(豚インフルエンザ)でした。
これは専門科の間では“想定外”だったのですね。
幸いなことに、強毒性ではなかったので以前のパンデミック(スペイン風邪、香港風邪、アジア風邪)ほど多数の死者は出さずに済みましたが。
さて、次のパンデミックもいつ起こるかわかりません。
本日のニュースで、
「パンデミック用のインフルエンザワクチンをH5N1からH7N9へ入れ替える」
と衝撃的なことを言ってました。
これは、次のパンデミックの最有力候補が、H5N1ではなくH7N9に変わったと判断したということ。
■ ワクチン 「H7N9」型のワクチンに順次切り替えへ
(2018年11月3日:NHK)
新型インフルエンザが流行した場合の対策として備蓄しているワクチンについて、国は、中国を中心に1500人以上の感染が報告され国際的に警戒が高まっている「H7N9」型と呼ばれる新しいウイルスから作ったワクチンに順次、切り替える方針を決めたことがわかりました。
「新型インフルエンザ」は、鳥インフルエンザウイルスが変異して、ヒトからヒトに感染するようになったもので、免疫を持たないため世界で大きな流行となることが予測されるため、国は、これまで最も警戒されてきた「H5N1」型と呼ばれる鳥インフルエンザウイルスから作ったワクチンを備蓄してきました。
しかし、WHO=世界保健機関によりますと、5年前に新たに報告された「H7N9」型と呼ばれる鳥インフルエンザウイルスが、主に中国で5年間に1500人余りに感染して600人以上が死亡し、「H5N1」型の20年間の感染者の2倍程度に達するなど新たなウイルスに対する警戒が高まっています。
このため国は、予算を確保したうえで、現在備蓄されているワクチン1000万本について、2年後から期限が切れしだい、順次、「H7N9」型のウイルスから作った新しいワクチンに切り替え、最終的にはすべてを置き換える方針を決めました。
新型インフルエンザのためのワクチンの備蓄は12年前に始まりましたが、ウイルスの種類を変更するのは初めてです。
厚生労働省結核感染症課の丹藤昌治室長は「H7N9型は新型インフルエンザに変わる可能性が高いと言われているため、できるかぎり早く備えたい」と話しています。
■ 【厚科審小委員会】プレパンワクチン備蓄切替え‐H7N9を1千万人分
(2018年6月1日:薬事日報)
厚生科学審議会感染症部会の新型インフルエンザ対策に関する小委員会は5月23日、鳥インフルエンザ対策として備蓄するプレパンデミックワクチンのタイプについて、2019年度中に「H7N9」に切り替える方針を示した。現在はH5N1ウイルスに対応したワクチンを備蓄しているが、来年度中にH5N1ワクチン900万人分が有効期限を迎えることに加え、海外でH7N9ウイルスによる感染・死亡例が急増していることなどを踏まえた対応で、1000万人分を備蓄する。
この日の会合では、H5N1ウイルスの感染事例が近年では減少している一方、中国でH7N9ウイルスに感染・死亡した患者が急激に増加していることなどを踏まえ、H7N9ウイルスを「危機管理上の重要性は高い」と指摘したワクチン作業班の議論を説明。その上で、H7N9ワクチンを1000万人分備蓄するよう切り替える案が示された。
パンデミックになり得るかどうかは、そのウイルスがヒトへの感染性を獲得しているかどうかで決まります。
有力候補の現況を教えてくれる小文を読みましたので、メモしてきます。
■ 「鳥インフルエンザ、H7N9は次のパンデミックになるのか」(田村大輔、自治医科大学小児科)「月刊薬事」2018.10月号
・インフルエンザウイルスはオルソミクソ科に属するマイナス鎖RNAウイルスである。A、B型が有名であるが、C、D型もあり合計4種類が存在する。
A型:本来の自然宿主はトリ(とくにカモなどの水鳥)。ヒト以外の動物にも広く分布している人畜共通感染症ウイルス。
B型:主な感染宿主はヒト。アザラシからも分離されている。
C型:主な感染宿主はヒト。ブタからも分離されている。ヒト、特に小児を中心に小規模の流行を起こし、急性上気道炎、いわゆる“かぜ”として診断されることが多い。
D型:ウシで検出されている。ヒトへの感染は不明。
C、D型ウイルスは、A、B型と比較して臨床へのインパクトが小さいことから迅速診断キットはなく、特別な抗インフルエンザ薬もない。
抗インフルエンザ薬は、パンデミックインフルエンザには有効と考えられていますが、季節性インフルエンザの兄弟分には無効ということですね(意外)。
・過去100年にヒトで流行したA型インフルエンザのサブタイプは、H1N1、H1N2、H2N2、H3N2亜型。
・現在は、H1N1、H3N2亜型。
・将来の候補は、H5N1、H7N7、H7N9、H9N2亜型 ・・・これらはヒトへの感染も確認されているが、局地的および散発的な流行にとどまり、“パンデミック”には至っていない。
【H5N1】
・1997年、トリで流行していたインフルエンザウイルスが突然ヒトに感染し重篤な肺炎や多臓器不全を起こした。
・患者から分離されたウイルス遺伝子は、8本の遺伝子分節すべてが鳥インフルエンザ由来であり、ヒトへの感染性を獲得していなかった。H5N1/97は「トリで流行しているトリインフルエンザウイルスが特別な状況下でヒトに感染した」と考えられた。
・当初は東南アジア(インドネシア、ベトナム、中国など)での報告が多く、その後中央アジア、欧州、アフリカへと広がった。とくにエジプトでは2014年後半から感染者が増え、2015年1月からの半年間で130名以上の感染者が出た。しかし検出されたウイルスに新たな遺伝子変異は見つからず天候や家禽飼育環境の変化などの多因子が重なりヒトへの感染が増加したと考えられた。
・2018年3月現在、2003年以降のヒトへの感染確定者は860名、うち死亡者は454名(WHO発表)。
【H7N9】
・2013年に発生、H5N1/97同様、トリで流行している鳥インフルエンザがヒトに感染している状況。
・2018年3月現在、感染者数は1567名、死亡者は615名。
鳥インフルエンザが、まれながらヒトに感染するカラクリは・・・「ウイルスが認識する宿主細胞表面の糖鎖末端」に起因するそうです。
・ウイルスは宿主細胞の表面に突出しているシアル酸を感染ターゲットとしているが、鳥インフルエンザとヒトインフルエンザではその方が微妙に異なる。
・鳥のウイルスはシアル酸がガラクトースにα2-3結合したものを認識し、一方、ヒトのウイルスはα2-6結合したものを認識する。
・ヒトの鼻腔・咽頭・扁桃の細胞にはα2-6結合が圧倒的に多く、鳥のウイルスはヒトの上気道に感染するとはできない。
・しかしヒトの下気道にはα2-6結合が少なく、α2-3結合をもつシアル酸が多く存在する。このため、鳥インフルエンザウイルスに感染した鳥と濃厚接触した場合、塵となったウイルスを吸い込み、下気道までウイルスが到達すると感染が成立する。
なるほど。
鳥インフルエンザが増えそうで増えない理由がわかりました。
ちょっと接触しただけでは感染は成立せず、気道奥深くまで吸い込んではじめて感染が成立するのですね。
<鳥インフルエンザの予防>
・死んだ鳥に近づかない。
・鳥を扱う市場などを訪問しない。
・鳥と接触する場合には、マスクをする。
まあ、当たり前のことです。
その他の新型インフルエンザ候補の現況;
【H9N2】
・鳥由来ウイルス。
・アジア、アフリカ、中東の水禽で流行中、世界中で散発的にヒトへの感染が報告されている。
・臨床症状:軽度な上気道炎症状が中心で、重篤な症状はない。
・WHOは持続的な感染報告はないためパンデミックの可能性は低いと判断している。
【H1N1variant】
・ブタ由来のウイルス。
・感染者21名(2005年以降)
【H1N2variant】
・ブタ由来のウイルス。
・感染者13名(2005年以降)
【H3N2variant】
・2005年以降、全米各地で持続的にブタからヒトに感染を起こし、感染患者が増加している(CDC)。
・2005年以降2017年末までの合計患者数は434名。
・臨床症状はいわゆる風邪症状であるが、季節性ウイルス同様、ハイリスクグループが感染すると重症化する可能性がある。
<参考>
■ 「新型インフルエンザ対策の最前線」(ケアネット:2017/11/24)
しかし蓋を開けてみると、2009年にパンデミックを起こしたのはH1N1(豚インフルエンザ)でした。
これは専門科の間では“想定外”だったのですね。
幸いなことに、強毒性ではなかったので以前のパンデミック(スペイン風邪、香港風邪、アジア風邪)ほど多数の死者は出さずに済みましたが。
さて、次のパンデミックもいつ起こるかわかりません。
本日のニュースで、
「パンデミック用のインフルエンザワクチンをH5N1からH7N9へ入れ替える」
と衝撃的なことを言ってました。
これは、次のパンデミックの最有力候補が、H5N1ではなくH7N9に変わったと判断したということ。
■ ワクチン 「H7N9」型のワクチンに順次切り替えへ
(2018年11月3日:NHK)
新型インフルエンザが流行した場合の対策として備蓄しているワクチンについて、国は、中国を中心に1500人以上の感染が報告され国際的に警戒が高まっている「H7N9」型と呼ばれる新しいウイルスから作ったワクチンに順次、切り替える方針を決めたことがわかりました。
「新型インフルエンザ」は、鳥インフルエンザウイルスが変異して、ヒトからヒトに感染するようになったもので、免疫を持たないため世界で大きな流行となることが予測されるため、国は、これまで最も警戒されてきた「H5N1」型と呼ばれる鳥インフルエンザウイルスから作ったワクチンを備蓄してきました。
しかし、WHO=世界保健機関によりますと、5年前に新たに報告された「H7N9」型と呼ばれる鳥インフルエンザウイルスが、主に中国で5年間に1500人余りに感染して600人以上が死亡し、「H5N1」型の20年間の感染者の2倍程度に達するなど新たなウイルスに対する警戒が高まっています。
このため国は、予算を確保したうえで、現在備蓄されているワクチン1000万本について、2年後から期限が切れしだい、順次、「H7N9」型のウイルスから作った新しいワクチンに切り替え、最終的にはすべてを置き換える方針を決めました。
新型インフルエンザのためのワクチンの備蓄は12年前に始まりましたが、ウイルスの種類を変更するのは初めてです。
厚生労働省結核感染症課の丹藤昌治室長は「H7N9型は新型インフルエンザに変わる可能性が高いと言われているため、できるかぎり早く備えたい」と話しています。
■ 【厚科審小委員会】プレパンワクチン備蓄切替え‐H7N9を1千万人分
(2018年6月1日:薬事日報)
厚生科学審議会感染症部会の新型インフルエンザ対策に関する小委員会は5月23日、鳥インフルエンザ対策として備蓄するプレパンデミックワクチンのタイプについて、2019年度中に「H7N9」に切り替える方針を示した。現在はH5N1ウイルスに対応したワクチンを備蓄しているが、来年度中にH5N1ワクチン900万人分が有効期限を迎えることに加え、海外でH7N9ウイルスによる感染・死亡例が急増していることなどを踏まえた対応で、1000万人分を備蓄する。
この日の会合では、H5N1ウイルスの感染事例が近年では減少している一方、中国でH7N9ウイルスに感染・死亡した患者が急激に増加していることなどを踏まえ、H7N9ウイルスを「危機管理上の重要性は高い」と指摘したワクチン作業班の議論を説明。その上で、H7N9ワクチンを1000万人分備蓄するよう切り替える案が示された。
パンデミックになり得るかどうかは、そのウイルスがヒトへの感染性を獲得しているかどうかで決まります。
有力候補の現況を教えてくれる小文を読みましたので、メモしてきます。
■ 「鳥インフルエンザ、H7N9は次のパンデミックになるのか」(田村大輔、自治医科大学小児科)「月刊薬事」2018.10月号
・インフルエンザウイルスはオルソミクソ科に属するマイナス鎖RNAウイルスである。A、B型が有名であるが、C、D型もあり合計4種類が存在する。
A型:本来の自然宿主はトリ(とくにカモなどの水鳥)。ヒト以外の動物にも広く分布している人畜共通感染症ウイルス。
B型:主な感染宿主はヒト。アザラシからも分離されている。
C型:主な感染宿主はヒト。ブタからも分離されている。ヒト、特に小児を中心に小規模の流行を起こし、急性上気道炎、いわゆる“かぜ”として診断されることが多い。
D型:ウシで検出されている。ヒトへの感染は不明。
C、D型ウイルスは、A、B型と比較して臨床へのインパクトが小さいことから迅速診断キットはなく、特別な抗インフルエンザ薬もない。
抗インフルエンザ薬は、パンデミックインフルエンザには有効と考えられていますが、季節性インフルエンザの兄弟分には無効ということですね(意外)。
・過去100年にヒトで流行したA型インフルエンザのサブタイプは、H1N1、H1N2、H2N2、H3N2亜型。
・現在は、H1N1、H3N2亜型。
・将来の候補は、H5N1、H7N7、H7N9、H9N2亜型 ・・・これらはヒトへの感染も確認されているが、局地的および散発的な流行にとどまり、“パンデミック”には至っていない。
【H5N1】
・1997年、トリで流行していたインフルエンザウイルスが突然ヒトに感染し重篤な肺炎や多臓器不全を起こした。
・患者から分離されたウイルス遺伝子は、8本の遺伝子分節すべてが鳥インフルエンザ由来であり、ヒトへの感染性を獲得していなかった。H5N1/97は「トリで流行しているトリインフルエンザウイルスが特別な状況下でヒトに感染した」と考えられた。
・当初は東南アジア(インドネシア、ベトナム、中国など)での報告が多く、その後中央アジア、欧州、アフリカへと広がった。とくにエジプトでは2014年後半から感染者が増え、2015年1月からの半年間で130名以上の感染者が出た。しかし検出されたウイルスに新たな遺伝子変異は見つからず天候や家禽飼育環境の変化などの多因子が重なりヒトへの感染が増加したと考えられた。
・2018年3月現在、2003年以降のヒトへの感染確定者は860名、うち死亡者は454名(WHO発表)。
【H7N9】
・2013年に発生、H5N1/97同様、トリで流行している鳥インフルエンザがヒトに感染している状況。
・2018年3月現在、感染者数は1567名、死亡者は615名。
鳥インフルエンザが、まれながらヒトに感染するカラクリは・・・「ウイルスが認識する宿主細胞表面の糖鎖末端」に起因するそうです。
・ウイルスは宿主細胞の表面に突出しているシアル酸を感染ターゲットとしているが、鳥インフルエンザとヒトインフルエンザではその方が微妙に異なる。
・鳥のウイルスはシアル酸がガラクトースにα2-3結合したものを認識し、一方、ヒトのウイルスはα2-6結合したものを認識する。
・ヒトの鼻腔・咽頭・扁桃の細胞にはα2-6結合が圧倒的に多く、鳥のウイルスはヒトの上気道に感染するとはできない。
・しかしヒトの下気道にはα2-6結合が少なく、α2-3結合をもつシアル酸が多く存在する。このため、鳥インフルエンザウイルスに感染した鳥と濃厚接触した場合、塵となったウイルスを吸い込み、下気道までウイルスが到達すると感染が成立する。
なるほど。
鳥インフルエンザが増えそうで増えない理由がわかりました。
ちょっと接触しただけでは感染は成立せず、気道奥深くまで吸い込んではじめて感染が成立するのですね。
<鳥インフルエンザの予防>
・死んだ鳥に近づかない。
・鳥を扱う市場などを訪問しない。
・鳥と接触する場合には、マスクをする。
まあ、当たり前のことです。
その他の新型インフルエンザ候補の現況;
【H9N2】
・鳥由来ウイルス。
・アジア、アフリカ、中東の水禽で流行中、世界中で散発的にヒトへの感染が報告されている。
・臨床症状:軽度な上気道炎症状が中心で、重篤な症状はない。
・WHOは持続的な感染報告はないためパンデミックの可能性は低いと判断している。
【H1N1variant】
・ブタ由来のウイルス。
・感染者21名(2005年以降)
【H1N2variant】
・ブタ由来のウイルス。
・感染者13名(2005年以降)
【H3N2variant】
・2005年以降、全米各地で持続的にブタからヒトに感染を起こし、感染患者が増加している(CDC)。
・2005年以降2017年末までの合計患者数は434名。
・臨床症状はいわゆる風邪症状であるが、季節性ウイルス同様、ハイリスクグループが感染すると重症化する可能性がある。
<参考>
■ 「新型インフルエンザ対策の最前線」(ケアネット:2017/11/24)