さて、当院では小児科では珍しく
漢方薬を処方しています。
といっても漢方専門ではなく、西洋医学の薬物療法では効果が今ひとつで「もう少し何とかならないかなあ」という場合に「漢方を試してみますか?」と遠慮がちにお勧めするというスタンス。
最初から処方すると面食らう患者さんが結構いますので(苦笑)。
主な対象疾患は・・・
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鼻汁:サラサラ鼻汁が止まらないとき(花粉症の鼻汁もOK)、色つき鼻汁(=青っ洟)で鼻が詰まってつらそうなとき
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便秘:西洋医学の下剤がなかなか止められないとき、下剤を使うとお腹が痛くなってしまう子ども
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湿疹:乾燥肌~アトピー性皮膚炎、汗疹、水いぼ
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夜泣き・寝ぼけ:西洋医学では「年齢依存の一過性のものなので様子を見ましょう」としか云われませんが、漢方では複数の薬が用意されています。
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虚弱児:風邪を引きやすい、食が細い、線が細い、便通が不安定(便秘気味/下痢気味)、ストレスがお腹にきやすい(朝になるとお腹を痛がって登園をぐずる)
等々。
上手く飲めて想定外の効果を実感し、リピーターになる方も少しずつ増えてきました。
漢方医学は1000年昔に中国から伝わった医学が日本で独自に進化・熟成した医学であり、名前からイメージしやすい「漢方=中国医学」ではありません。
あえて言えば、明治時代に西洋医学が導入される以前の
日本の伝統医学ですね。
つまり、日本の風土・民族に長い時間をかけてカスタマイズされてきた薬物療法なのです。
先人の知恵の結晶とも呼べる薬を利用しない手はありません。
ただ、甘いお菓子が氾濫している現代に、にがい味の薬を飲ませるのはお母さん方にとって一苦労。
今までもいろいろ漢方関係の本を読み、セミナーや講演会に参加して子どもへ飲ませる方法について情報を集め、服薬指導してきました。
でも、飲んでくれる子どもがなかなか増えません。
どうしたものか・・・。
そこで昨年(2012年)春に、一念発起してスタッフみんなで
漢方味見大会を行い、どんな工夫をしたら飲ませることができるかを探求しました。
日頃処方頻度の高いエキス剤を中心に、身近な食材に混ぜたり溶かしたりして味がどうなるかを自身で味わってみたのです。
すると、ただ「これに溶かすと飲みやすくなりますよ」では解決しない小さなハードルがたくさんあることに気づきました。
当院で採用しているツムラのエキス剤は大きめの顆粒(インスタントコーヒーのフリーズドライの細かいもの)です。
水では溶けきれずツブツブ感が残ると子どもは嫌がるし、それが口の中に残って溶け出すと漢方本来の味が出てくるので、それを味わってしまうと次に飲ませるときに口を開けてくれません。
そこで、何かに溶かす前に「前処理」として袋の上からマジックインキを転がしてつぶしたり、袋を開けてすりこぎでつぶしたりして細かくしてみました。
すると溶けやすくなるしツブツブ感がなくなるので苦い後味が軽減することがわかりました。
また、水で溶けにくい場合は、電子レンジで20-30秒間「チン」すると溶けてくれます(その後冷ましてくださいね)。
混ぜて味を誤魔化す目的の食材・材料も10種類以上試し、結果をまとめて「
漢方味見表」を作成しました。
他のノウハウも含めて、味見大会の細かい内容は当院HPに公開していますので御参照ください。
★ 「
漢方薬の上手な飲ませ方」
漢方味見表の評判は上々で、学会でお会いした全国の小児科医達からも「あれ、参考にしてますよ」と声をかけられました。
一方「あの薬はやってないんですか?」とのリクエストも。
季節は巡りまた春がやってきました。
この時期は診療に余裕ができますので、続編を作るべく味見大会を再開しました。
昨年の反省に立って、より手に入りやすい材料を用いるように努め、できるだけ手間がかからない方法を模索しているところです。
今回は子どもに処方することの多いエキス剤に加えて、皮膚疾患に使用する苦~いエキス剤にも挑戦しています。
そこで大きな発見をしました。
ココアは万能。
ココアは昨年の成績でも、すべてのエキス剤に混ぜても◎という快挙を成し遂げたオール5の優等生でした。
他に牛乳やアイスも善戦しましたがココアには及びません。
今年の苦~いエキス剤に唯一対応できたのもこのココアです。
どんな味でも消してくれる不思議。
なぜ?と素朴な疑問を持って調べてみたら、意外な事実が判明しました。
ココアは「味をごまかす」のではなく「味覚をブロックする」のです。
ココアに含まれる脂肪分(ココアバター)が味蕾の味覚受容体をコーティングしてそれ以降の反応を起こさせないというメカニズム。
特に苦味受容体は疎水性(親油性)なので、ココアバターがくっつきやすいらしい。
なるほど。
これぞ、
ココア・マジック!
メーカーHPのQ&Aによると、
ココアは1歳前後から飲んでも良いとのこと。
ココアを投薬のたびに飲ませることに抵抗のあるお母さんには、ココア+麦芽エキス+栄養素配合の健康飲料として有名な「
ミロ」もお勧めです。
メーカーHPによると、
ミロは1歳半頃から使用可能です。
なお、ココアとミロには少量カフェインが含まれていますが、その量はインスタントコーヒーの10分の1程度で、カフェインレス・コーヒーと同程度だそうです。
さらに、0歳の乳児にも安心して使用できる食材はないかどうかも検討中です。
ある程度結果がまとまりましたら、5月を目途にHPへアップする予定です。