最近話題の「学校健診着衣脱衣問題」について考えてきましたが、
私が感じる大きな要因は「生徒・家族の知識・理解不足」です。
学校健診は学校医にとって「症状の出ない早期に病気を発見する繊細な医療行為」であり、
「疾患を見つけるためにこのような診察が必要」とマニュアルに記載されているため、
学校医はそれをシンプルに実行しているだけです。
ところが、
「思春期で恥ずかしいから」
「健診ごときで上半身裸になるのはおかしい」
と感情論で否定されがちです。
これは、学校・教育委員会が生徒への説明・啓蒙を怠ってきたツケです。
私が学校医を拝命した際、
生徒家族への説明と同意を提案しましたが、なしのつぶて。
ひたすらクレーム回避をする行動しか出てこないので呆れました。
病気の発見のために不十分な診察法しかできないのなら、
学校健診の意味はありませんから、
私は現場から立ち去る予定です。
さて、小児科医にとって昔から問題になっていることが他にもあります。
それは「ワクチン忌避」。
こちらも大きな理由の一つに「知識・理解不足」があると思います。
小学校で「感染症」の授業をして理解させ、
その対策として「ワクチン」が有効であることを客観的に示す必要があります。
家族ではなく本人に情報提供するのです。
子宮頚がんワクチン(HPVワクチン)もここでつまづきました。
日本では性教育が遅れており、
子宮頚がんがウイルス感染で発生すること、
その感染は性行為によること、
などを教えてきませんでした。
そこに突然、筋肉注射という痛い接種が始まり、
その痛みと恐怖だけが注目されてマスコミが騒ぎ立て、
いろんな問題につながりました。
イギリスでは子ども自身に上記のことを教えてきたので、
拒否する例は少なく、ずっと接種率8割以上を維持しています。
先日、ワクチン忌避に対する記事が目に留まりましたので紹介します。
読んでみると、
「接種される子どもへの教育の前に、接種する医師への教育不足」
という事実が明らかになってきました…唖然!
確かに言われてみると、心当たりがあります。
小児科医は予防接種を担当するため、必要に迫られて情報を集めます。
私は一時期、医師会会員向けのレクチャーを担当していたので、
その準備として随分ワクチン関連本を読みあさりました。
しかしワクチン接種を担当しない他科医師達は最低限の知識しかないと思われます(個人差あり)。
医学生時代の教育でもワクチンを学んでいるのか不明です(私には記憶がありません)。
この問題、根が深いですね…
医師はまず「己の襟を正せ!」ということ。
■ なぜ生じる?「ワクチン忌避」―必要な対策は
→ 医療者の正しい知識が要
※ 下線は私が引きました。
ワクチン接種により発症または重症化を予防できる感染症(VPD)について、ワクチン接種が可能であるにもかかわらず接種を先延ばしまたは拒否すること(ワクチン忌避)は、個人の罹患リスクを高め、感染症の流行抑制を妨げるため、公衆衛生上の課題となっている。三重大学基礎医学系講座教授の神谷元氏に、日本においてワクチン忌避が生じる要因を聞いた。(関連記事「コロナワクチン忌避に陰謀論が関連」)
▶ 忌避を助長する土壌―ワクチンの効果は実感しにくい
――ワクチン忌避によってどのようなリスクが考えられるか
ワクチンは主に、
①治療法が確立されていない
②重症化のリスクが高い
③後遺症や合併症が起こりやすい
−疾患を対象に開発が試みられている。VPDに対する予防接種を受けられる環境にあるにもかかわらず、ワクチン接種をしなかったり最も効果が高い時期に接種を受けず先延ばししたりすると、ワクチンによる予防効果が十分に発揮されない。
――なぜワクチン忌避が生じるのか
ワクチンは感染症に罹患する前に接種し体に抵抗力をつけるため、接種により感染しなかった/重症化を予防したという人はワクチンの効果を実感しにくいが、ワクチン接種部位の腫脹や発熱などが起きた人は副反応だけを実感しやすいという特徴がある。これがワクチン忌避の土壌となっている可能性がある。
▶ ワクチン忌避を助長する要因 ①:SNSにおける情報の錯綜
――ワクチン接種について、Twitter(現X)などのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)で論争が行われている
SNSでは、個人の主観的な感想と、ワクチンの有効性・安全性の客観的評価に基づく情報が同じ土俵の中で錯綜している。しかし、不確定な情報はワクチン忌避のリスクを上昇させるので注意が必要だ。
接種部位の痛みなど主観的な感想を個人がSNSで述べることは自由だが、それらと本来学会などの場で行われるべきワクチンの有効性・安全性についての科学的な議論は明確に区別される必要がある。SNSという公の場で両者が錯綜する状況は、ワクチンについての情報を混乱させ、ワクチン忌避のリスクとなりうる。
また、医療者がそれぞれの主観に基づく意見を患者に伝えることもある。ワクチン接種について医療者の意見が統一されていない状況は、患者に過度な不安を与え、ワクチン忌避を誘引する。SNSにおける発信が一般の人々に与える影響について、医療者が正しい知識を得ることが重要だ。
▶ ワクチン忌避を助長する要因 ②:マスメディアの報道姿勢
――ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種のキャッチアップ接種が2025年3月に終了するが、接種率は必ずしも伸びていない
ワクチン忌避の定義に照らすと、HPVワクチンのキャッチアップ接種率は半数以下と、ワクチン忌避が起きている状況といえる。
HPVワクチン接種者においては副反応が出なかった例がほとんどである。しかし当時マスメディアはその事実を踏まえず、少数の副反応例に焦点を当てて報道した。ワクチン未接種で子宮頸がんによって亡くなった方、子宮頸がんで母親を亡くした小さな子供を含めた残された家族の気持ち、子供を残してこの世を去らなければならなかった母親の気持ちなどを考えれば、ワクチンの効果についても報道するべきである。物事の一側面だけを過剰に取り上げて報道する姿勢は公正とは言い難く、一般の人々に過度な不安を与えたことは問題である。
▶ ワクチン忌避を助長する要因 ③:国の対応
――かつてHPVワクチンの積極的勧奨を中止した国の対応をどう考えるか
先進国では積極的勧奨を行う場合、副反応など追加調査が必要と考えられる報告があれば、調査は行いつつも、積極的勧奨自体は予防のメリットを副反応のデメリットが超えない限り中止しない。
すぐに積極的勧奨を中止するという対応は、国民だけでなく海外に対してもHPVワクチン接種への強い不安を与えた。
一方、国は積極的勧奨を差し控えている間も、定期接種としてHPVワクチンの無償化は続けていた。そのことを理由に、積極的勧奨が行われていなかった世代(キャッチアップ接種対象世代)が将来的に子宮頸がんを発症しても「定期接種で接種する選択肢はあった」とする可能性がある。そうした点を考えると、やはり接種対象者および保護者の正しい判断に寄与する情報提供が重要である。
▶ まず医療者が接種の必要性を学ぶことが重要
――ワクチン忌避を防ぐためにどのような対策が考えられるか
米国では新しいワクチンが登場した場合、まずは接種を進めながらリアルワールドデータを解析し、集積された新たな有効性や安全性に関するデータに基づいて接種方法の改善を図る。しかし、日本では新たなエビデンスが出るごとに推奨を改訂するという柔軟なワクチン接種の運用姿勢が不足しており、改善が必要である。
――臨床現場で有用な方法は
患者に対する動機付け面接がワクチン忌避対策として有用であるとの報告があり、米国小児科学会では臨床現場に取り入れる活動をしている。
動機付け面接では、医療者は「その日に接種可能なワクチンを全て接種する」という立場を取り、患者に対してワクチン接種を行うと伝えた上で、患者の抱えた疑問や不安を話し合いながら解消していく。大前提として医療者がワクチン接種の必要性を十分に知っていることが重要である。
――日本では医療者に対するワクチンの情報提供は十分か
米国では、研修医を対象に保健所で1週間程度のトレーニングプログラムが提供され、その後実際に接種を行うなど、教育環境が整っている。他方日本では、指導医などの手技を見学する時間が設けられている程度にとどまっているのが現状だ。
日本の医学教育や研修医指導において、ワクチンについての知識や患者とのコミュニケーション方法のトレーニングなどの機会を拡充すべきである。
――ワクチン忌避について医療者ができることは
小学校入学前に予防接種が義務付けられている米国などに比べると、日本はワクチン接種が強制されない仕組みになっており、接種の選択が一般の人々に委ねられている。だからこそ、医療者は十分な知識に基づいて患者の判断を手伝えるよう努めてほしい。