「冬は風邪に注意」というイメージは常識となっていますね。
しかし小児科医である私は、
春夏秋冬の季節により様々なウイルス性風邪を経験しますので、
“風邪の種類で季節を感じる”不思議な職業です。
ご存じのように、
冬はインフルエンザ、RSウイルスが有名です。
一方、夏には、
手足口病(エンテロなど)
プール熱(アデノ)
ヘルパンギーナ(コクサッキーなど)
が流行します。
近年、春〜初夏にかけてヒトメタニューモウイルスも話題に上るようになりました。
冬と夏の間の、春と秋にはライノウイルス、コロナウイルスの出番です。
【子どもに多い病気の年間カレンダー】(スゴいい保育)より
【ウイルス流行年間カレンダー】(のどぬ〜るスプレーHP)より;
これらの中で皆さんの記憶にあるウイルスは、
迅速診断キットが開発されているものですね。
それがないと、メディアが取り上げてくれませんので。
2019年にパンデミックを起こし現在も流行中のコロナは、
“新型”という名前が付いています。
すると“旧型”があるわけで、
小児科医にとって“旧型”コロナはふつうの風邪の原因ウイルスであり、
重症化するわけでもなく注目されなかったのです。
前置きが長くなりました。
なぜ、ウイルス流行には季節性があるのでしょうか。
昔からいろいろ指摘されてきましたが、
「湿度」「温度」が有力です。
冬にインフルエンザが流行するのは、低湿度・低温度だから・・・
まあ、頷けます。
しかし、赤道直下の国々では一年中インフルエンザが散発流行する事実もあります。
日本でも沖縄では夏に流行することがあります。
すると、低湿度・低温度だけでは説明しきれません。
何年か前に、インドネシアで夏季にインフルエンザが流行するのは、
暑すぎるので人々が屋内で過ごし、
密になるからだという記事を読んだことがあります。
インドネシアのデータは見つかりませんでしたが、シンガポールでも同様の様子;
(「かがやきクリニック川口」のHPから)
なるほど。
というわけで、その季節にそのウイルスが流行する理由は、
複数の因子が絡む結果と言えそうです。
先日目にとまった「低湿度がインフルエンザの流行に影響する」という記事を紹介します。
ポイントは、
・インフルエンザウイルスは湿度が40%を越えると失活する(新型コロナも同じであろう)。
・新型コロナの死亡リスクは湿度40-60%で低い。
・高湿度(>60%)では気道に対するダニやカビの侵襲リスクが増加する。
・よって「人体に適正な湿度は40-60%」と言える。
■ 新型コロナが感染しにくい最適な湿度は何%ですか?
倉原優(呼吸器内科医)
(Yahooニュース:2022/12/27)より抜粋;
新型コロナなどの感染症の予防には、気道の水分量を一定に保つことが重要です。加湿器によって室内の湿度をコントロールすることで、感染予防効果がありますが、どのくらいの湿度が新型コロナの感染予防に効果的でしょうか?
・・・
◇ 気道の水分量が重要
ウイルス感染症や細菌感染症の予防には、気道の水分量が必要です。
気管や気管支で水分量が不足していると、線毛(せんもう)というホウキの役割をする防御機構が機能不全を起こし、ウイルスや細菌が気道に停滞してしまいます。
・・・
◇ 相対湿度と新型コロナの死亡者数
一般的には40~60%くらいの相対湿度が最適とされていますが、実際のところどうなのでしょうか?
実は、インフルエンザウイルスは、相対湿度が40%を超えるとウイルスの活性化率が急速に低下することが知られています(1)(図2)。おそらく、同じRNAウイルスである新型コロナウイルスも類似の結果になると思われます。
新型コロナワクチンが接種される前の時期における121か国の気象データと新型コロナの感染者数・死亡者数を調べたアメリカのデータによると、室内の相対湿度を40~60%に維持することで、新型コロナの感染だけでなく、ひいては死亡者数まで低下するという研究結果が報告されています(2)(図3)。
◇ 新型コロナ以外のリスクも低減
以上から、新型コロナの感染リスクを減らすためには、湿度40~60%が適正ゾーンと考えてよいでしょう。
新型コロナ以外にも、湿度と関係することは色々あります。
たとえば、呼吸器感染症を起こす細菌や真菌(カビ)なども湿度の高低によって気道にリスクがあります(図4)。湿度が高すぎるとダニなどを吸入するリスクが高くなることから、やはり40~60%というラインを維持することが重要になります。
また、湿度が低いと、文章を書いたり計算をしたりというオフィスワークのパフォーマンスにも影響することが分かっています。相対湿度を40~60%にコントロールすることで、欠勤率が7%下がるという研究結果もあるのです(3)。
◇ まとめ
新型コロナやインフルエンザの感染リスクを減らすため、また屋内作業のパフォーマンスを上げるためにも、部屋の湿度は40~60%を維持するよう心がけましょう。
<参考>
(1) Noti J, et al. PLoS One. 2013; 8(2): e57485.
(2) Verheyen CA, et al. J R Soc Interface. 2022; 19(196): 20210865.
(3) Arundel AV, et al. Environ Health Perspect. 1986; 65: 351-61.