徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

スギ花粉舌下免疫療法(シダトレン®)の“私的”Q&A

2014年10月23日 13時12分02秒 | 小児科診療
 引き続きスギ花粉舌下免疫療法の話題を。
 これは新しい治療法なので、調べているといろんな疑問が湧いてきます。
 まずは製薬会社の用意したQ&Aを;

トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ(鳥居薬品)
教えてドクター!花粉症のための「舌下免疫療法」(KYOWA KYORIN)

 追加分として、私が感じた疑問点を発売元の鳥居薬品に質問して回答いただいた内容を提示します(灰色部分はわたしの“つぶやき”です)

Q. 長期間休薬した場合、再開時の方法として
 ①最初からやり直す
 ②中止時の量で続行
 の2つに分かれるが、その期間の線引きは具体的に何日に設定すべきか?

A. 長期間の休薬期間に関しては、現在具体的な日数の規定・目安はない。

 参考までにシダトレンの治験時において休薬した症例の事例を提示する。

<有害事象(副作用を除く)若しくはそれ以外の理由で2週間以上休薬した症例>
 有害事象(副作用を除く)若しくはそれ以外の理由で2週間以上休薬した症例は9例(休薬期間:14~35日間)であった。この9例のいずれにおいても、維持期投与量(維持用量:2,000JAU/mL、1mL、1日1回)から医師の監督のもと再開したが、再投与による副作用は発現しなかった。

 しかし長期間にわたる休薬後の再投与に係るデータは得られておらず、再投与時にアナフィラキシーが発現する可能性は否定できない。休薬後の再投与は、患者毎の休薬期間の長さや休薬の原因となった症状の種類や程度等も考慮の上で、医師の判断で再開することとなる。
 従って、原則再開時は安全性を考慮し、初回投与時と同様に、増量期の用法・用量から医師の監督のもと再開することが推奨される。
 また、上記については「維持期」で休薬した場合であり、増量期に関しては例示できる症例が存在しない。

 自信を持って患者さんに指導できるデータがない・・・これって困りますねえ。

Q. 口腔内の副作用(舌下腫脹など)が発生した場合のシダトレン継続/中止の目安
A. 口腔内に副作用が発生した場合にシダトレンの服用を継続するか中止するかの目安はない。

 患者さんの症状に合わせて、適宜継続・中止の判断すべし。

 参考までにシダトレン第相臨床試験では、口腔内の症状は27件発現し、全て軽度~中等度だった。
 その内訳は、24件は服用継続しその後回復、残り3件は休薬後再開している。口腔内27件の副作用発現から回復までの期間は、以下の通り。

 2週間以内が12件(44.4%)
 4週間以内では18件(66.6%)

 なお、口内腫脹からアナフィラキシーを含めた他の副作用につながった例はない。

 これも現場では困ります。でも、口内/舌下が腫れた例に治療を継続していても、一過性で消えてしまう確率が大、と理解しました。

Q. 旅行の際の注意点
A. 冷所保管(冷凍庫でも凍らない)が可能か確認、移動中は冷所保存を推奨するが異常高温でなければ失活しない。

 25℃での安定性は、2,000JAU/mLボトル・パックは7日、200JAU/mLボトルは3ヶ月変化がない(規格内である)ことを確認済み。
 増量期のボトル(10mL)はキャップがきちんと閉まっていることを確認し、できるだけ立てた状態で、外気の影響を受けないよう出来れば保冷バッグ等(可能であれば保冷剤も)に入れて持ち運ぶべし。
 直射日光は避け、旅行先で出来るだけ早く冷蔵庫に保管する。維持期のパック(1mL)も同様。また、車内や屋外等の気温条件が過酷な場所に放置することは避ける。

 冷凍庫に入れても凍らないそうです。でも、旅行の際は医療機関が近くにあるかどうかの確認も必要ですね。

Q. 将来錠剤が発売された場合、無条件に移行可能か
A. 未定(データがない)。

 皮下免疫療法→ 舌下免疫療法への切り替えが安全かどうかのデータもないそうです。

Q. 1年目/2年目/3年目の有効率と、1年目/2年目に無効だった場合、それぞれ2年目/3年目以降に有効になる確率は?
A. 経年的な有効率は以下の通り;
 寛解(無治療で無症状)1年目:2.3%、2年目:17%
 有効(症状軽減)1年目:30%、60%

 1年目無効→ 2年目は有効:40%(有効)
 1年目無効→ 2年目も無効:50%(無効)
 判定不能(統計学的有意差なし):10%


※ 3年目以降のデータはない。

Q. アナフィラキシーは添付文書によると「頻度不明」とあるが、実際の確率(海外報告でも可)は?
A. 日本での治験ではゼロ。世界的(経験は10年以上)には4例(死亡例ゼロ)。

 この数字を見てちょっと安心(あくまでも「可能性はゼロではない」という説明が必要ですが)。

Q. シダトレン使用前後2時間は「激しい運動は控える」とあるが、自転車通学や学校の体育はどう判断すべきか。
A. 自転車通学/部活/朝練/体育は避けて時間設定すべし。

 すると昼しかない? でも4時間目や5時間目に体育があるとダメ?・・・中高生は毎日続けるのが難しそう。

Q. シダトレン開始後に妊娠が判明した場合の措置と妊産婦へのシダトレン投与について
A. 妊娠中/授乳中の投与に関する安全性は確立していない。

(1) 妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。
 なお、アレルギー反応に伴って遊離されるヒスタミンが子宮筋収縮作用を有することが知られており、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する。
(2) 授乳中の投与に関する安全性は確立していない。
 授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが、やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせる。

<参考>
本剤の臨床試験において2 例の被験者は妊娠のため本剤の投与を中止(投与244 日目及び372日目)したが、その後問題なく出産している。

Q. 開始後に妊娠が判明した場合の措置:中止か続行か
A. 中止を推奨。

 一般的に減感作療法(アレルゲン免疫療法)は妊娠中には開始すべきではないとされる。しかし減感作療法(アレルゲン免疫療法)を実施中に妊娠しすでに維持療法期に達している場合などは、医師の判断により継続することもある1)。

文献 1)WHO見解書 アレルギー 47(8) 749-794 1998

 添付文書上は「妊婦、産婦、授乳婦は禁忌ではなく慎重投与」という設定になっていますが、当院では無用の混乱を避けるため扱わないことにさせていただきました。

<追記>
Q. なぜ毎日やらなくてはいけないのか?
A. 治験前の臨床研究で、週1回では有効性が低く、連日投与に変更したら効果が増したため。
 2005年、厚生労働省の指示により千葉大学耳鼻咽喉科で舌下免疫療法の臨床研究を開始し、その一つは2006~2008年にかけてランダム化プラセボ対照二重盲検比較試験として実施した。スギ花粉症患者103名を対象に、週1回、口の中にアレルゲンエキスを含み、2分間保持後吐き出す方法で、投与スケジュールは20JAU/mL、0.2mLから3週間かけて漸増し、4週目以降は週1回、2000JAU/mL、1mL投与とした。その結果、1シーズン目(2007年)は症状・薬物スコアに差は認められなかったが、第二シーズン目(2008年)はプラセボ群と比較して実薬群の方が症状・薬物スコアが有意に低下し、一定の効果があると考えられた。
 そこで、より早期からの治療効果発現を期待し、週1回投与から連日投与に変更し、同様の試験を6ヶ月間実施した。第一シーズン目(2009年)の結果は、症状・薬物スコアに優位さは認められなかったものの、プラセボ群と比較して実薬群の方が改善傾向が見られた。
 これらの結果を受け、製薬企業が現在認可されている治療デザインを採用し第III相臨床試験を開始することになった。

 皮下注射法では安定期は週1回に減りますが、舌下免疫法では吸収量が少ないため連日投与が必要になるのでしょう。
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2015年春のスギ花粉症はひどいらしい →「舌下免疫療法」への期待

2014年10月10日 06時12分44秒 | 小児科診療
 2015年春のスギ花粉症予報が発表されました。

ウェザーニューズ、2015年度の“スギ・ヒノキ花粉”傾向を発表

 わかりやすい図が掲載されていましたのでそのまま引用させていただきます。





 群馬県は平年比110~130%、2014年比200~250%、と大量飛散は避けられないようです(涙)。

 さて、この10月にスギ花粉症の新しい治療法「舌下免疫療法」の治療薬(シダトレン®)が発売され、処方可能になりました。
 従来の免疫療法は注射でしたので、痛みを伴い頻繁に通院する必要がありましたが、新しい治療法は痛みはなく自宅での治療が可能なため、通院のストレスもありません(ただし新薬は発売から1年間は2週間分しか処方できません)。
 逆に医師なら誰でも処方できるわけではありません。
 自宅でアレルゲンエキスを体内に入れるという今までにない治療法であり、副作用の発生が危惧され、その対策も万全でなければなりません。
 そのため、処方医にはいろいろハードルが作られました。
 まず、学会指定の講義を受け、さらにネット上のレクチャーを受けチェックテストに合格せねばなりません。
 さらに、開業医の場合は、重篤な副作用発生時の救急搬送先を決めてあらかじめ契約しておく必要があります。処方可能医はいずれ公表される予定です。

 もう一つ、わかりやすい記事を引用;

「花粉症に新薬」自宅で服用し完治へ、保険適用
(2014年10月11日:スポーツ報知)
 4人に1人が花粉症患者といわれる。毎年、春先から鼻水、くしゃみ、目のかゆみに苦しんできた人に朗報だ。スギ花粉に体を慣らす減感作(げんかんさ)によって花粉症の完治が期待できる新薬が登場した。
 減感作療法はこれまでも行われてきたが、スギ花粉のエキスを皮下注射するため定期的に病院に通う必要があり、なかなか普及しなかった。新薬は自宅でスギ花粉のエキスを舌の下に垂らして粘膜から吸収するだけなので頻繁に病院に通って注射を打つ必要がなく、普及が期待されているのだ。
 欧米では以前から花粉症の治療法として普及しているので国内で待ち望まれていた。そこで東京都が中心になって2006年から3年かけて臨床試験を行った。その結果、安全性と効果が確認されたことから今年承認を受け、今月8日に販売が開始された。これまでの臨床試験では、7~8割は症状が軽くなり、そのうちの1割は発症しなくなったという。
 新薬は「シダトレンスギ花粉舌下液」(鳥居薬品)。最初の2週間は低濃度、少量から始めて徐々に増量、高濃度へ移行し、3週目からは同じ濃度と量を維持する。1日1回、舌の下に垂らして2分間たったら飲み込む。その後5分間は、うがいや飲食を控える。口内の粘膜からスギ花粉エキスを吸収させるためだ。
 人によってはアレルギー反応を起こしたり、まれにアナフィラキシー(じんましん、腹痛、嘔吐、意識混濁など)を起こすことがあるので、治療を始めた当初は体調の変化に注意を払う必要がある。
 完治まで3~5年かかるとされるが、花粉が飛散する3か月以上前から治療を始めれば、最初のシーズンでも一定の効果が期待できるという。治療は長期にわたるが、健康保険が適用されるため、薬剤費に限れば患者の支払いは3割負担で年間1万1000円程度。主に耳鼻科で診療するが、発売したばかりの新薬のため、事前に「花粉症の舌下(ぜっか)免疫療法を受けられますか?」と電話で問い合わせをするといい。
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予防接種“慎重派”宣言

2014年10月06日 06時52分08秒 | 小児科診療
 先日当院で実際にあったエピソードです。

 予防接種の予約で来院した患者さんが他院へ通院していることがわかりました。
 しかしその診断名と治療内容が不明のため、当日は接種を保留し主治医の接種許可をもらってくるよう話しました。

 そして数日後、診断名と治療内容、接種の可否(“可”に○)を記した書類を持ってきていただきました。
 そこには小児科医の私には馴染みのない病名と治療薬の名前がありました。
 私は「接種はこの病気と治療薬について調べてからにしたいので、申し訳ないが接種を延期させてください」と説明したところ、家族が怒り出しました。
 「向こうの医者が“接種可”と書いているのだから大丈夫だろう。早く接種してくれ。」
 と譲りません。

 確かに、何回も受診してその度に「接種延期します」と言われる家族の気持ちもわかります。
 ただ、そのような理由で、接種される子どもに副反応のリスクがのしかかるのは避けなければいけません。

 ・・・私がここまで慎重になったきっかけは、数年前に起きた日本脳炎ワクチン接種後の死亡事故です。

予防接種後男児死亡 岐阜県「使用量など適切」
(2012年10月19日:中日新聞

 概要を記しますと、小学生の男児に接種する際、嫌がり暴れたのでスタッフ数人で押さえつけて注射し、その後間もなく意識を失い、救急搬送され集中治療を受けましたが、残念ながら亡くなりました。
 その後の検証過程で、男児はほかの病院へ通院し投薬治療を受けていることが判明しました。母親は予防接種してはいけないとは説明されていなかったので、通院/投薬に関して接種医に申告していませんでした。
 しかしその投薬内容に問題がありました(新聞記事内には記載されていません)。
 心臓に負担のかかる薬物が複数あり、うち2つは併用禁忌薬と添付文書に記載されていました。頻度はまれですが異常興奮状態では不整脈が惹起され命に関わることがあるのです。
 そして男児は予防接種の際、嫌がり暴れて押さえつけられて・・・異常興奮状態に陥り不整脈が起きたと推測されます(証明はされていません)。


 このとき、母親が通院/投薬内容を接種医に申告していたら・・・通院先の医師に接種許可の確認を取っていたら・・・展開が変わったかもしれない、と思うと残念でなりません。

 以上のことから「他院通院先の医師が問題ないと考えている」=「接種可能」というわけにはいかないと考えています。
 他院通院先の医師の意見は一つの情報であり、実際に接種する医師が総合的に問題ないと判断するのは別次元とご理解ください。
 ダブルチェックと言ってもよいかもしれません。

 もし、接種後に具合が悪くなった時、受診するのは別の通院先ではなく接種医院に行くはず。
 つまり、最終判断するところが最終的に責任を持つのです。

 このような理由で、私は予防接種に関しては“石橋を叩いて渡る”ことにしています。
 予防接種を含めた医療に関しては大胆さよりも慎重さの方が優先されると考えています。
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その後のHPVワクチンの評価(2014年10月現在)

2014年10月05日 06時18分16秒 | 小児科診療
HPVワクチン副反応報告は過大評価か過小評価か
[MTPro:2014年10月2日(VOL.47 NO.40) p.01]
 昨年(2013年)6月,厚生労働省はヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的な接種勧奨を中止した。接種部位以外に広範な疼痛を生じた症例が多数報告されたためで,適正な情報提供ができるまでの措置だが,いまだに積極的推奨は再開されていない。その是非をめぐり各方面で議論が巻き起こっている。
 第33回日本思春期学会総会・学術集会では,筑波大学産科婦人科学准教授の松本光司氏が厚労省のHPVワクチン副反応報告には自然発症例が紛れ込んでいる可能性があるとし,積極的接種勧奨の再開を主張した。
 一方,日本線維筋痛症学会は,副反応報告は過小評価の可能性があるとし,適正評価のために「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(Human papillomavirus vaccination associated with neuropathic syndrome;HANS)」を提唱,診断予備基準案を発表した。


 未だに積極的勧奨停止が解除されないHPVワクチン。
 最近、医学学会では「アジュバントが病的状態を作り出している」という批判と「紛れ込み事故が否定できない」という肯定意見とが出されて昏迷の度を深め、出口が見えてきません。
 私の印象では「副反応とされる症状の発生頻度をHPVワクチンを接種した人達と接種していない人達を比較すると差が無いことから、ワクチンが原因ではないと判定」という統計学的手法を用いた松本先生の意見の方が科学的であり受け入れやすいと思います。

日本線維筋痛症学会 HANSの診断予備基準案を作成
[MTPro:2014年10月2日(VOL.47 NO.40) p.07]
 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種例の副反応報告に対し,日本線維筋痛症学会(理事長=東京医科大学医学総合研究所所長・西岡久寿樹氏)は,第6回学術集会(9月13~14日)で記者会見を開催。厚生労働省副反応検討部会が接種部位以外の広範囲疼痛および運動障害のみを重篤症例と発表していることを問題視し,重篤症状では中枢神経症状が群を抜いて多く過小評価の可能性を指摘。副反応の適正評価のために「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(Human papillomavirus vaccination associated with neuropathic syndrome;HANS)」を提唱,診断予備基準案を発表した(表)。



□ 急性型と遅延型が存在か,過小評価の可能性
 西岡氏によると,2009年12月~14年3月末に厚労省に副反応症状が報告された2,500例のうち「重篤症状あり」は1,231例。しかし,同省はそのうち接種部位以外の広範な疼痛および運動障害症状がある489例のみに評価を行い,176例を「重篤」,すなわち機能性身体障害と位置付けたという。
 これに対し,同学会と一般財団法人難病治療研究振興財団が合同で立ち上げたHPVワクチン副反応病態究明チーム(代表理事・チームリーダーは同氏)の調べでは,2,500例のうち「重篤症状あり」は1,112例で,報告された副反応症状7,676件のうち中枢神経症状が2,570件(高次脳機能障害,痙攣,意識レベル低下,ギラン・バレー症候群を含む),重篤な症状4,649件では同1,382件と最も多かった。
 また,同チームの自験44例,症状376件を病態解析した結果,中枢神経障害88件,広範囲疼痛71件,メンタル障害68件,慢性疲労症候群52件,自律神経障害30件など臨床症状は50種類以上に及んだ。発症年齢は15~26歳が33例,14歳以下が11例と若年層が多くを占めていた。
 さらに,HPVワクチン第1回接種から症状発現までの期間は,接種後30日以内が44例中12例を占めたが,平均期間は8.5カ月±12.1カ月で,急性型と遅延型が存在することが示唆された。脳SPECT画像診断の結果では多くの症例で脳血流低下が見られ,主に後頭葉における血流低下が認められたという。

□ アジュバント誘発性の脳内免疫異常症候群の1つか
 西岡氏は厚労省評価について以下を問題点としてまとめ,HPVワクチン接種に伴い,中枢神経や免疫で異常が起きる可能性を指摘した。

 ①厚労省は重篤症例の評価に当たり,重篤症状あり1,231例から「接種部位以外の広範な疼痛および運動障害」以外の有症状者742例を除外したが,中枢神経症状が群を抜いて多い
 ②感覚器障害やメンタル障害,自律神経障害といった副反応が少なくないが検討していない
 ③接種部位以外の広範な疼痛と運動障害で,既知疾患と診断できないものを機能性身体障害とした
 ④自験例から急性型および遅延型の症例,多様な症状が分かった

 同学会は,厚労省にHPVワクチンとの正確な因果関係を解明するために接種者全員の追跡調査を行うことを強く要請。さらに,HPVワクチン接種後の免疫応答を高めるアジュバントにより誘発される脳内免疫異常の症候群として提唱されているAutoimmune Syndrome Induced by Adjuvants(ASIA)の1つにHANSを位置付け(図),診断予備基準案を厚労省線維筋痛症研究班代表研究者の松本美富士氏(東京医科大学客員教授)らと共同で作成した。


HPVワクチン副反応報告を解析~自然発症の紛れ込みを否定できず
[MTPro:2014年10月2日(VOL.47 NO.40) p.07]
第33回日本思春期学会総会・学術集会
 筑波大学産科婦人科学准教授の松本光司氏は今年(2014年)7月までの厚労省発表のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン副反応報告を解析し,「接種後の広範な疼痛や運動障害の報告例の中には複合性局所疼痛症候群(CRPS)や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などの自然発症が紛れ込んでいる可能性がある。患者サポート体制の整備も進みつつあり,HPVワクチンの積極的接種勧奨を再開すべきではないか」と,第33回日本思春期学会総会・学術集会(8月30~31日,会長=筑波大学産業精神医学・宇宙医学教授・松崎一葉氏)で主張した。
□ 自然発症より低い発現率
 昨年6月の厚労省による積極的な接種勧奨の中止を受け,HPVワクチン出荷数量はそれまでの平均の約24分の1に激減。事実上,同ワクチン接種はストップしている状況である。問題となっているのは接種後の感覚麻痺,四肢痛,接種部位以外の疼痛,運動障害であり,CRPS,線維筋痛症(FMS),ADEM,ギラン・バレー症候群(GBS),転換性障害などの病態が生じていると考えられている。
 そこで,松本氏は第6回および第10回厚労省ワクチン副反応検討部会(2013年12月,2014年7月)で公表されたデータ(以下,厚労省データ)を解析し,各病態の自然発症率との比較を試みた。まず,厚労省データから広範な疼痛・運動障害症例のみを抽出。医師評価されている176例(疼痛群127例,運動障害群49例)について検討した。
 疼痛群についてはCRPSが17例(0.2/10万回),CRPSと確定できないが広範な疼痛を接種後4週間以内に訴えている症例を含めると81例(0.9/10万回)であった。これに対し10歳代女性におけるCRPS自然発症率はオランダのデータで14.9/10万人年(Pain 2007; 129: 12-20)。ちなみに厚労省データにおける発症率はカナダで検討されたB型肝炎ワクチン接種後の女児における発症率0.8/10万回(J Pediatr 2003; 143: 802-804)と同等で,CRPSは献血後にもごくまれに生じることから,ワクチンの成分は問題ではないと考えられた。
 FMSと診断されたのは厚労省データでは4例(0.004/10万回)で,広範な疼痛を全て含めても1.4/10万回。わが国の10歳代女性のFMS発症率1,760/10万人年(2009年日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査)を踏まえると,厚労省データに自然発症の紛れ込みがあっても不思議ではない。
 次に運動障害群49例について検討すると,厚労省データではADEM 5例(0.05/10万回),GBS 14例(0.15/10万回)が報告されており,ムンプスワクチンや水痘ワクチンの接種後と差はない。接種後におけるADEMとGBSの発現頻度を合計しても0.2/10万回であり,自然発症率である0.86/10万人年(ADEM 0.4/10万人年,GBS 0.46/10万人年)より低い。転換性障害(類似疾患を含む)は厚労省データの7例(0.07/10万回)に対し,10~15歳女子の推定罹患率は7.1/10万人年(J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 2007; 46: 68-75)で,ここでも自然発症の紛れ込みの可能性を払拭できそうにない。

□ 「接種後の発生」≠「接種が原因」
 さらに,中和抗体価および有害事象発生率が大きく異なるとされる2価ワクチンと4価ワクチンで,広範な疼痛,運動障害の発生頻度に差が見られなかったことも,ワクチン成分が原因ではない可能性を示唆している。
 10万人の思春期女性がHPVワクチンの3回接種を受けた場合,接種後に広範な疼痛・運動障害(接種後4週間以内に発現,3カ月以上持続)が1.8人で起こると推定されるが,松本氏は「接種後の副反応への対応と診療体制の構築が進展しつつある今,ワクチンによる子宮頸がん発症予防効果(34歳までに10万人当たり約50人で浸潤がんを,約30人で上皮内がんを予防)を踏まえ,厚労省には積極的接種勧奨の再開を期待したい。ワクチン接種後に発生したものとワクチンによって引き起こされたものは同じではない」と強調した。
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待合室に診療プリントをパウチして閲覧できるようにしました。

2014年10月04日 12時48分16秒 | 小児科診療
 先日、診療で使用しているプリントをパウチし、自由に閲覧できるように待合室に置きました。
 テーマと、それに対応するHPの箇所を以下に示します;

予防接種関連
・同時接種は危険ですか/予防接種を受けたくない人へ
・予防接種後の発熱/風邪・発熱と予防接種
1歳までは「太もも」へワクチン接種
みずぼうそう(水痘)/おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
・抗インフルエンザを使いますか?/インフルエンザに解熱剤を使っても大丈夫?

病気のケア/救急
子どもの発熱と対処法
鼻のかみ方/鼻血の止め方
漢方薬の上手な飲ませ方
熱性けいれんにつて/熱性けいれんの検査と予防について
子どもの熱中症と対策
・夜、子どもが急病になったら?(群馬県館林邑楽郡地域の夜間・休日小児救急

よくある病気
溶連菌性咽頭炎/溶連菌は繰り返す?
気になる「RSウイルス」感染症/マイコプラズマが心配な方へ
子どもの感染性胃腸炎/家庭でのケア~経口補液~
子どもの便秘と対策

湿疹/皮膚炎
赤ちゃんのスキンケア
・ドライスキンのケア/湿疹になってしまったら
アトピー性皮膚炎のスキンケア/ステロイド軟膏の上手な塗り方
・再発を繰り返すアトピー性皮膚炎の方へ/リアクティブ療法からプロアクティブ療法へ
・水いぼ(伝染性軟属腫)について/水いぼの治療あれこれ

食物アレルギー
卵アレルギーのお話
牛乳アレルギーのお話
大豆アレルギー/小麦アレルギーのお話
アレルギー物質特定原材料について
牛乳アレルギー用ミルク一覧表/乳製品の蛋白含有量
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米国における妊婦のインフルエンザワクチン接種率

2014年10月04日 12時37分53秒 | 小児科診療
 日本では「妊婦にワクチン・・・大丈夫なの?」というイメージですが、アメリカでは妊娠時期を問わずインフルエンザワクチンが推奨されています。では実際の接種率は、と聞かれるとなかなか答えが出てきません。
 その疑問に直接答えるデータが発表されました。
 内容を整理しますと、妊婦のインフルエンザワクチン接種率は;

 2013~2014シーズン:52.2%
 2012~2013シーズン:50.5%
 2011~2012シーズン:46.4%
 2010~2011シーズン:44.0%


 と、日本では考えられないほど高率です。
 また、接種した理由としては、

1.乳児への感染を予防するため(31.1%)
2.自分自身の感染を予防として(23.3%)
3.医師から接種を勧められた(14.8%)


 だそうです。自分のためより赤ちゃんのため・・・これは国や人種を問わない価値観なのですね。

妊婦におけるインフルエンザワクチン接種率 ― アメリカ、2013~2014年インフルエンザシーズン
 Influenza Vaccination Coverage Among Pregnant Women ― United States, 2013–14 Influenza Season
(2014/09/19 MMWR63(37):816-821)

 妊婦および乳児はインフルエンザ関連合併症のリスクが高いため、Advisory Committee on Immunization PracticesおよびAmerican College of Obstetricians and Gynecologistsは2004年から、インフルエンザシーズンに妊娠または妊娠を望む全ての女性に対し、ワクチンの接種を推奨している。
 今回、CDCは2014年3月31日~4月11日に実施したインターネットパネル調査のデータを分析し、2013~2014年インフルエンザシーズンにおける妊婦のインフルエンザワクチン接種率を推定した。
 回答者1,619名において52.2%が2013年7月1日以降にワクチンを接種しており(妊娠前:17.6%、妊娠中:34.6%)、2012~2013年シーズン:50.5%と同等、2011~2012年シーズン(46.4%)および2010~2011年シーズン(44.0%)から増加していた。
 人種別では非ヒスパニック系白人:52.0%、ヒスパニック系:56.7%、非ヒスパニック系および他の人種:61.9%に比べ、非ヒスパニック系黒人にて低く(42.7%)、年齢別では18~24歳:45.6%、25~34歳:56.5%、35~49歳:53.0%であり、大学卒未満の学歴、未婚、医療保険未加入、未就労、貧困層、合併症のリスクの低い状態にて接種率が低い傾向が認められた。
 医師から接種を推奨され、接種の提案を受けた場合の接種率は70.5%と高く、推奨のみの場合(32.0%)、推奨も提案もない場合(9.7%)は低かった。
 また、ワクチンの接種を受けた主な理由として、乳児への感染を予防するため(31.1%)、自分自身の感染を予防として(23.3%)、医師から接種を勧められた(14.8%)などが挙げられ、受けなかった理由としては、接種によりインフルエンザに感染するのではないかが心配(16.8%)、接種により乳児にリスクがあるのではないか心配(14.4%)、接種の必要はない(12.2%)などが挙げられた。
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