徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

2016-17シーズンのインフルエンザ脳症(速報)

2017年01月30日 06時48分10秒 | 小児科診療
 最近あまり話題にならないインフルエンザ脳症ですが、少数ながら発生し続けています。
 日経メディカルの記事を紹介します;

■ インフルエンザ脳症、今季初の死亡例 〜累計で22例に、10歳代以下が16例と多く
2017/1/23:日経メディカル
 今シーズンのインフルエンザ脳症例が22例に達したことが明らかになった。第47週(2016年11月21~27日)以降、6週連続で報告されており、2017年第1週には今季初の死亡例が報告された。感染拡大に伴い重症例も増えていくとみられ、今後も留意する必要がありそうだ。
 国立感染症研究所がまとめている感染症発生動向調査を基に、全数把握疾患である急性脳炎のデータをピックアップし、インフルエンザが原因の症例を集計した。その結果、2017年第1週までの累計で、インフルエンザ脳症例は22例となった。2016年第37週に初めての例が報告され、47週以降は6週連続で報告されている(図1)。


図1 インフルエンザ脳症報告数の推移(国立感染症研究所のデータを基に作成)


 年齢別に見ると10歳代以下が16例と多く、0~6歳が11例、10歳代が5人となっている。最近は高齢者の報告も目立っており、1週には今季初となる死亡報告(70歳代患者)もあった(図2)。
 原因ウイルスのタイプ別では、A型が19例と大半を占めている。


図2 インフルエンザ脳症例の年齢分布(国立感染症研究所のデータを基に作成)


・・・インフルエンザ脳症は子どもの病気というイメージがありますが中年以降の高齢者にも発生していることに気づきます。
昔は「死亡率30%、後遺症率30%」とされていました。現在は治療法の進歩からこれらの数字が大きく改善されています。
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「風疹ゼロプロジェクト」始動

2017年01月27日 08時10分08秒 | 小児科診療
 2月4日は「風疹の日」だそうです。
 ちょっと強引な語呂合わせ(^^;)。

■ 風疹ゼロプロジェクト始動、国内感染ゼロ目指す
2017.1.26:TBS
 妊娠中の女性がかかると赤ちゃんに障害が出るおそれがある風疹について、国内での感染ゼロを目指すプロジェクトが立ち上がりました。
 日本産婦人科医会が立ち上げた「風疹ゼロプロジェクト」は、2020年までに風疹の国内での感染をなくすことを目指します。
 風疹は発熱や発疹を伴うウイルス性の感染症ですが、妊娠中の女性がかかると、赤ちゃんの視覚や聴覚、心臓に障害が出るおそれがあります。
 プロジェクトでは、2月4日を「ふう(2)しん(4)の日」、2月を「風疹ゼロ月間」と定め、免疫がない人の割合が高い30~50代の男性や海外への渡航者にワクチンの接種を呼びかける方針です。


 してその活動内容は・・・ん、ワクチン接種の呼びかけだけ?

 実は現在、風疹ワクチンを含むMR(麻疹/風疹)ワクチンが不足していて小児科開業医でも入手が困難です。
 子ども対象の定期接種用のワクチンさえ不足しているのに、このタイミングで接種を呼びかけても・・・なんだかバランスが悪いですね。

 2016年夏に起きたジャスティン・ビーバーのコンサートに端を発する麻疹流行騒ぎ。
 あのとき、厚生労働省はなにもせず、高みの見物に終始しました。
 その後成人の麻疹ワクチン希望者が増えたため、現在のMRワクチン供給不足を招いたと言われています。
 それを解決せずに今回も声かけだけ・・・無責任なお役所仕事という印象が否めません。
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2016-17年シーズンのインフルエンザ本格的流行が始まりました。

2017年01月25日 08時36分40秒 | 小児科診療
 今週に入り、北関東の当地でもインフルエンザ流行による学級閉鎖があちこちで始まりました。

 迅速検査ではほぼ全員A型で、情報によると、現在流行しているA型は「A香港型」のようです。
 発熱当初、嘔気を伴う患者さんが目立ちます。
 今のところ重症化して入院した患者さんは当院ではゼロ。
 皆さん、手洗いを励行し、咳エチケットをお願いします。

 乳幼児ではRSウイルス感染症もまだ出ています。
 インフルエンザが流行しはじめるとRSウイルスは影を潜めるのがふつうなのですが、今シーズンはちょっと変ですね。

 さて、ご存じと思われますが、毎年流行するインフルエンザを「季節性インフルエンザ」と呼び、今までに人類が経験したことのない新しいタイプを「新型インフルエンザ」と呼びます。

 2009年にブタ由来のインフルエンザが「新型インフルエンザ」と認定され流行したことは記憶に新しいですね。
 大きな騒ぎになりましたが、重症度・死亡数は歴代の新型インフルエンザ(スペイン風邪、香港風邪、・・・)の中では低い印象がありました。
 しかし、
 「まあ、あんなもんか」
 と安心してはいけません。
 ブタインフルエンザは幸いなことに「弱毒性」だったので、被害が少なかったのです。

 これから怖いのは、トリ由来のインフルエンザが新型インフルエンザになること。
 鳥インフルエンザは「強毒性」なので、重症度・死亡率がブタインフルエンザの比ではありません。
 WHOが再度警告を出しています;

■ 鳥インフルエンザ約40か国で新たに報告 WHOが警戒呼びかけ
2017年1月24日:NHK
 WHO=世界保健機関は、養鶏場などでの鳥インフルエンザウイルスの感染拡大が去年11月以降、世界の40近くの国で新たに報告されているとして、警戒を徹底するよう呼びかけています。
 WHOは23日、スイスのジュネーブで執行理事会を開き、チャン事務局長が声明を発表しました。
 この中で鳥インフルエンザウイルスについて、「去年11月以降、40近くの国の養鶏場や野鳥などから高病原性のウイルスの新たな感染拡大が報告されている」と述べ、警戒すべき事態だと強調しました。
 なかでも、アジアの養鶏場などから感染の報告が相次いでいるH5N6型のウイルスのなかには、これまで確認されたものとは遺伝情報が一部、異なるウイルスもあるということです。
 また、中国では2013年以降、H7N9型の鳥インフルエンザウイルスに感染する人が相次いで報告されていて、これまでに1000人以上の感染が確認されています。
 なかには、限定的ながらヒトからヒトへの感染が否定できないケースもあるということで、チャン事務局長は、「兆候を見逃すことは許されない」と述べ、世界各国に対し、警戒を徹底するよう呼びかけています。
 
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中学2年野球部員が部活中、ジョギング後に倒れ死亡(群馬県館林市)

2017年01月23日 08時10分46秒 | 小児科診療
 近隣の中学校の出来事なので引用しておきます。
 亡くなったお子さんのご冥福をお祈りします。

■ 部活中に倒れ中2死亡 野球部員がジョギング後 館林
2017年1月23日:上毛新聞
 群馬県の館林市教委は22日、市内の中学校の野球部に所属する2年の男子生徒(14)が21日午前の部活動中に倒れ、翌22日早朝死亡したと発表した。館林署が関係者から事情を聴くなどして詳しい状況を調べている。
◎AED使うも蘇生ならず 練習は1週間休止
 関係者によると、亡くなったの多々良中の男子生徒。
 市教委によると、男子生徒は21日午前8時半ごろから、中学校のグラウンドで行われた野球部の練習に参加。約400メートルのウオーキングと約1.2キロのジョギングを終えた後に倒れた。体調不良の様子などは見受けられなかったという。練習には部員12人が参加し、顧問の30代男性が指導していた。救急車が到着するまで、教員2人が自動体外式除細動器(AED)などを使って蘇生を試みた。
 多々良中によると、23日に全校生徒や野球部の保護者を対象にした集会を開き、事故の詳細を伝えるという。野球部の練習は1週間ほど休止する方針。事故を受け、市教委は同日、臨時の校長会議を開く。
 館林市内の中学校の部活動を巡っては、3年の男子生徒が昨年5月、柔道部の練習中に頭を打って意識不明の重体となったほか、その約2週間前に同じ柔道部の3年の女子生徒が練習中に右足を骨折する大けがを負った。
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スギ花粉症対策座談会2017

2017年01月15日 07時45分06秒 | 小児科診療
 メディカル・トリビューンで特集された座談会から気になった箇所を抜粋します。
 座談会のメンバーは、耳鼻科専門医の以下の方々;

 ふたばクリニック院長 橋口一弘氏
 日本医科大学大学院頭頸部・感覚器学分野教授 大久保公裕氏
 ゆたクリニック院長 湯田厚司氏


 一通り読んで、耳鼻科と他科(主に内科)を受診する患者層は異なるんだろうな、と感じました。
 耳鼻科受診患者は、鼻汁/鼻閉がつらくてたまらないから何とかして→ 治療も即効性、有効性を優先。
 他科受診患者では、鼻汁/鼻閉もつらいけど頭痛/だるさなど全身症状もつらい、もともと喘息を持っている→ 多様な治療法選択。
 という傾向が読み取れました。

■ 花粉症対策座談会 〜アンケート結果から2016年の症状、薬物療法、防御策を探る
2017花粉症対策 | 2016.12.26
 花粉の飛散状況は毎年異なるため、経年的な調査でそのトレンドを探ることができる。そこでスギ花粉症舌下免疫療法(SLIT)を実施した経験があるMedical Tribuneウェブ医師会員106人を対象に調査〔耳鼻咽喉科、アレルギー科・小児科など、調査期間は今年(2016年)9月中旬〕を行った。調査では、2016年春季の花粉飛散シーズンに問題となった症状や、喘息や通年性アレルギー性鼻炎など他のアレルギー疾患を合併する患者の症状に関する特徴、従来の治療法である経口薬、点鼻(鼻噴霧用)薬、点眼薬を用いた薬物療法の実際、治療薬を処方する際の留意点について聞いた他、花粉防御策の実際に関しては医師と患者で意向の違いを探った。さらに、日本医科大学大学院頭頸部・感覚器学分野教授の大久保公裕氏、ゆたクリニック(三重県)院長の湯田厚司氏、ふたばクリニック(東京都)院長の橋口一弘氏に、花粉飛散期特有の症状について討議してもらった。


<花粉飛散期における花粉症の症状>



 患者さんがどんな症状で悩むのか・・・喘息合併患者さんでは、咳が出る比率が高いことがわかります。
 また、目鼻の局所症状にとどまらず、だるさ/全身倦怠感を訴える方も10〜20%と少なくありません。

<鼻症状以外で、今年春の花粉シーズンでひどかった症状>



 耳鼻科と他科受診者との症状の比較では、頭痛/頭重感やだるさ/倦怠感で明らかな差が出ており、全身症状が辛い患者さんは耳鼻科以外(おそらく内科)を受診されている様子がうかがえます。

 次に治療について。

<飛散シーズン前の中等症以上の患者への初期療法>



 耳鼻科専門医と他科の医師との治療の違いを示した表です。
 もともと喘息の薬で、近年鼻閉にも保険適応になった抗ロイコトリエン薬は他科医師の方が処方率が高いですね。
 患者層の違い(内科では喘息合併者が多い)を反映しているものと思われます。
 ただ、当地域では耳鼻科医でも抗ヒスタミン薬+抗ロイコトリエン薬の2剤併用が多い印象があります。
 座談会出席者が気にしていた点鼻ステロイド薬の処方率は、思ったほど差がありませんでした。

<花粉飛散期における中等症以上の患者への処方薬の組み合わせ>



 中等症以上の患者さんに対しては、抗ヒスタミン薬+抗ロイコトリエン薬+点鼻ステロイド薬の3剤併用が約50%を占めており、一つのスタンダードになっていることがわかります。

<治療薬を処方する際に重視すること>



 医師が薬を処方する際、耳鼻科では症状抑制を、他科では副作用の有無を重視していることがわかります。

<中等症以上の花粉症患者に処方している点眼薬>



 ここで気になるのはステロイド点眼薬です。
 ステロイド点鼻薬は30%以上の医師が処方している一方で、同じく強い効果が期待されるステロイド点眼薬は耳鼻科/他科医師ともに5%にとどまっています。
 この理由は副作用にあります。
 ステロイド点眼薬は連用すると緑内障発作を誘発するリスクがあるため、長期に使用する場合は眼科医の管理が必要になるのです。
 私は抗アレルギー点眼薬と内服薬で眼症状(かゆみ、充血)がコントロールできない場合は眼科受診を勧めています。

 次は患者さん自身が行っている花粉症対策について。

<有用と考えられる花粉対策グッズ・食品など>



 マスク、眼鏡/ゴーグル、空気清浄機は予想できましたが、「鼻洗浄」の34%は意外でした。
 つらい鼻閉感を何とかしたいといいう気持ちの表れと思われますが、効果が報告される一方で、鼻洗浄のやり過ぎは鼻粘膜の繊毛にダメージを与えることも指摘されています。

<花粉症の防御対策(日本リサーチセンター社の患者調査から、複数回答)>



 私自身も花粉症なので、シーズン中は洗濯物/ふとんは外に干さないようにお願いしています。
 この調査によると、行っている人は30%程度・・・思ったより少ないですね。

<花粉対策用に購入した商品(日本リサーチセンター社の患者調査から、複数回答)>



 保湿ティッシュ/ローションティッシュ以外は10%以下にとどまり、あまり一般的ではないようですね。
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2017年春の花粉予測

2017年01月15日 07時30分12秒 | 小児科診療
 年が明けると気になるのがインフルエンザ流行。
 当地ではまだ下火です。

 そして1月も中旬になるとスギ花粉症も気になります。
 当地(北関東)の飛散予測は、飛散開始が2/15〜20頃、飛散量は前シーズン比:やや少ない(70%)、例年比:やや少ない(80%)と悲惨なことにはならない様子。
 一方、西日本の皆様は飛散量が前シーズン比:2〜3倍の地域もあり、要注意です。

 さて今の飛散状況は・・・私がいつも参考にしている「はなこさん」(環境省花粉観測システム)はまだ稼働していませんね(^^;)。

■ 2017年春の花粉予測 西日本は前シーズン比「非常に多い」、東北と北海道は「少ない」
2016/12/09:Qlife
◇ 飛散開始 東京は2月15日ごろ、大阪は2月20日ごろ



 日本気象協会は12月6日、2017年春の花粉飛散予測の第2報を発表しました。2017年春のスギ花粉の飛散は2月上旬に九州北部や中国・四国・東海地方の一部で始まるとのこと。大阪は2月20日ごろ、名古屋は2月15日ごろ、東京は2月15日ごろと予測されおり、全国的に例年並みとみられています。
 飛散量については、2016年春と比較すると、九州・四国・近畿地方で非常に多く、中国・東海地方で多く飛散する見込みです。そのほか、北陸地方はやや多く、関東地方ではやや少なく、東北地方と北海道では少ない見込み。2016年夏は全国的に気温が高くなり、日照時間は北海道、北陸・東海・近畿・四国・九州地方のほとんどで多くなりました。「高温」「多照」なほど、翌年のスギ花粉飛散量が多くなることから、西日本の多くの地域で前シーズンよりも「非常に多い」予測となっています。

◇ 飛散量が少なかった2016年春の3倍以上となる地域も
 地域ごとの飛散量は以下の通りです。北海道はシラカバ花粉、それ以外の地域はスギとヒノキの花粉が対象です。



 なお、ここでいう「飛散開始」とは「1平方センチメートルあたり1個以上のスギ花粉を2日連続して観測した場合の最初の日」のこと。それ以前も、わずかではありますがスギ花粉は飛散します。早め早めの対策が肝心といえるでしょう。

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誰でも接種したくなる魅力的なワクチンとは(by 新見正則先生)

2017年01月11日 11時10分14秒 | 小児科診療
 先日紹介したイグ・ノーベル賞受賞の新見先生の続きの記事に、やはり興味深い記述がありました。
 魅力的なワクチンの条件を挙げて解説しており、ふむふむと頷ける内容です。
 その中で子宮頸がんワクチンにも言及しており、スムースに進まない理由を「少ない副作用に目をつぶれるほどワクチンの効果が絶大ではない」と分析しています;

■ バイオテロに備えて…天然痘「根絶宣言」でも種痘接種を
2016年9月16日:読売新聞

 ・・・僕が思う、みんなが受けたくなるワクチンの要件は、

<1> 対象が絶対に罹かかりたくない病気であること
<2> ワクチンの効果が絶大であること
<3> 費用がかからないこと
<4> 副作用が少ないこと


だと思っています。それらをすべて、種痘は満たしていました。

◇ 国策のワクチン接種なら、無料に
 天然痘にかかると40%も死亡し、そしてうまく生き残っても「あばた」が残るのでは、絶対に罹りたくない病気ですね。一方で麻疹(はしか)や風疹(三日ばしか)は、「 あえて子供の頃に罹ってしまえばいい」と主張する人がいるほど、「全員が絶対に罹りたくない病気」という範疇には入りません。一方で、がん全般に有効なワクチンや、心臓病を予防できるワクチン、そして認知症にならないワクチンなどが登場すれば、誰もが率先して接種すると思っています。
 そして種痘は接種後、数十年経っても抗体価(免疫力を測る値)が強陽性の人が半数近くいるという報告もあります。インフルエンザのワクチンが毎年接種する必要があったり、また麻疹や風疹の抗体価が10年後には相当低下することに比べると種痘の効果はすばらしいのです。
 また、種痘はWHOが主導的立場で、世界中で撲滅計画を進めました。いろいろな援助のお陰で貧しい国でも種痘接種を行えたのです。だからこそ、根絶宣言に至りました。

 乳幼児期や学童期のワクチンは基本的に無料ですが、大人が接種するには数千円が必要です。数千円は富裕層にとっては何でもない金額かもしれませんが、低賃金で必死に生活している人々にとっては相当な金額です。国策としてワクチン接種を行うには、僕はすべて無料で、つまり国のお金で行うべきだと思っています。また貧しい国では麻疹や風疹のワクチン接種などは十分に行われていません。天然痘に比べて費用対効果が悪いからです。

 副作用はゼロが理想です。しかし、種痘でも副作用はあるのです。有名なのは種痘後脳炎で、10万人に1人ほどに起こり、約半数が死亡したとも言われています。しかし、それぐらいの副作用は承知で受けたくなるぐらいに天然痘は罹りたくない病気だったのです。

 子宮頸がんワクチンは、がん全体を防止するわけではありません。すべての子宮頸がんを防止するわけでもありません。また効果が100%でもありません。つまり、ほんの少しの副作用に目をつぶるほど、頻度が高い重病に対する効果的なワクチンではないのです。だからこそ、頻度が少ない副作用でも問題視されるのです。
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ワクチンの効果は接種後年単位で減っていく・・・百日咳の場合

2017年01月11日 08時22分47秒 | 小児科診療
 ワクチンの種類によって程度は異なるものの、接種後徐々に免疫効果が減っていくことが知られています。
 大まかに言うと、不活化ワクチンで5年、生ワクチンで10年程度で発症予防ラインを下回るとされています。

 紹介する記事は、百日咳ワクチンの効果減衰に関するデータです。
 接種後8年を過ぎると41%の人は感染防止効果がなくなってしまう・・・。

 だから、成人後も追加接種が必要なのですが、日本ではまだ手つかずの状態です(T_T)。
 そのため、生まれたばかりの赤ちゃんが、お祝いに来た大人達から百日咳をもらって重症化し、命に関わるという事例が今でも発生しているという、悲しい事実があります。

■ 百日咳ワクチンの効果が年々切れていく?8年過ぎた人で「41%」
 〜オンタリオ州5,867人のデータから
from CMAJ : Canadian Medical Association journal = journal de l'Association medicale canadienne
MEDLEY:2017年1月11日
 予防接種を打っても長年のうちに効果が弱くなってしまう場合があります。百日咳にかかった人の統計から、百日咳ワクチンの接種から年が過ぎるごとに予防効果が減っていたことが報告されました。

◇ オンタリオ州で百日咳の検査を受けた人の統計
 カナダの研究班が、地域の統計データをもとに百日咳ワクチンの効果を解析した結果を医学誌『CMAJ』に報告しました。
 この研究は、百日咳の検査を受けて結果が陽性だった人と陰性だった人を比較して、百日咳ワクチンを打ってからの期間などを調べることで、接種後の期間と予防効果の相関関係を調べています。
 調査対象として、オンタリオ州に住む人の診療登録データベースの中で、2009年から2013年に百日咳の検査(PCR)を受けた人のデータを解析しました。検査陽性(百日咳にかかっていそうだという判定)の人が486人、陰性の人が5,381人、あわせて5,867人が対象となりました。

◇ 8年以降で有効率41%
 解析から次の結果が得られました。
 調整したワクチン有効率は、最後の接種後
15日から364日には80%(95%信頼区間71%-86%)、
1年から3年には84%(95%信頼区間77%-89%)、
4年から7年には62%(95%信頼区間42%-75%)、
8年以降には41%(95%信頼区間0%-66%)だった。
 予防接種を打って1年から3年の間には、百日咳の84%を防ぐ効果が見られた一方、8年以上経過した人では百日咳の41%を防ぐ効果にまで下がっていると推計されました。年が過ぎるごとに予防効果が減る傾向が見られました。
 研究班は「この研究により、カナダの百日咳予防接種戦略を再検討し、ワクチン開発を促す必要が強調された」と結論しています。

◇ 過去の病気ではない百日咳
 百日咳ワクチンの効果が時間とともに弱くなるのではないかとする報告を紹介しました。
 この研究で使われたカナダのデータの中では、百日咳ワクチンは17歳までに6回打つこととされています。日本では百日咳ワクチンは三種混合ワクチンに含まれ、7歳までに4回が定期接種とされています。効果を高めるために繰り返し接種しても、予防効果は絶対ではありません。
 百日咳は現在の日本でも毎年発生しています。大人では比較的軽い症状で済むことが多いですが、乳児では重症になることがあります。症状の中でも特徴的なものとして以下があります。
・発病してから1-2週間はウイルス感染に似た症状(鼻水、目やに、のどの痛み)が出る
・短い咳が連続して何回も起こる
・息を吸うときに、笛の音のようなヒューという音が出る(笛音)
・顔のむくみ
・点状出血
・鼻血
 百日咳を大人から家族にうつしてしまい、子どもが重症になる場合も考えられます。予防接種は欠かさず受けたうえ、咳が出る人の周りでは手洗い・マスクなど基本的な対策で感染が広まらないように気を付けてください。


<参照文献>
Effectiveness of pertussis vaccination and duration of immunity. CMAJ. 2016 Nov 1.
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HPVワクチン関連情報:2016年12月

2017年01月05日 16時14分15秒 | 小児科診療
 すでに2016年は終わってしまいましたが、気になる情報をメモしておきます。

 まずは2016年12月末に流れた情報を。
 副反応とされる体の痛みは、HPVワクチンを接種していない思春期女子でも一定数存在するというデータです。

■ 子宮頸がんワクチン、非接種でも「副作用」...症状を追加分析へ
2016年12月27日 読売新聞
 子宮頸がんワクチン接種後に体の痛みや歩行障害など原因不明の副作用疑い例が相次いだ問題で、厚生労働省研究班は26日、接種歴のない女子でも一定程度、同様の症状を訴えているとする調査結果を有識者検討会に報告した。
 ただ、接種者との比較は「年齢構成の違いなどからできない」との内容で、委員からは研究班に追加の分析を求める声が相次いだ。追加分析には数か月かかる見通しで、検討会はその後に同ワクチンの積極的な勧奨を再開するかどうか、議論を進める。
 研究班(主任研究者=祖父江友孝・大阪大教授)による調査は今年1〜11月、全国の計1万8302の小児科や精神内科などを対象に実施。昨年7〜12月に受診した12〜18歳で、関節痛や歩行障害など約20の症状のうち、一つ以上が3か月以上続き、通学や就労に影響がある患者を調べた。
 その結果、原因不明の痛みなどの症状を持つ患者数は、ワクチンを接種していない女子では10万人当たり20・4人、接種した女子では同27・8人と推計された。2013年6月に勧奨が中止されたことで、接種者は10歳代後半に偏っており、非接種者の年齢構成とかなり異なっていることなどから、祖父江教授は「単純な比較はできず、接種と症状との因果関係も言及できない」と説明した。
 これに対し、検討会の委員からは、調査結果を評価するためには、さらなる分析が必要との意見で一致。年齢構成の差などを踏まえ、年齢別の特徴などの分析を追加で行うよう求めた。
 検討会終了後、座長を務めた桃井真里子・国際医療福祉大副学長は記者会見で、「接種していない人でも、これだけの人が症状を訴えているということを国民に理解してもらうのは重要なこと。接種勧奨の方向性は現段階では言えない」と述べた。

◇ 弁護団「調査に問題」...学会は勧奨再開求める
 今回の調査結果について、子宮頸がんワクチンで健康被害を受けたとして国などを相手取り損害賠償訴訟を起こしている原告側弁護団が26日、東京都内で記者会見し、「非接種者でも副反応(副作用)と同じような多様な症状が出ているという結論は不当だ」との見解を示した。
 弁護団は、原告の女性の中には運動障害や認知機能障害など複数の症状が出ている人がいるのに対し、調査では、頭痛など一つの症状だけでも対象としていることを問題視。代表の水口真寿美弁護士は「調査の設計自体に問題があり、今回の結果をワクチンの接種勧奨の再開に向けた基礎データとして使用することに断固反対する」と述べた。
 一方、日本産科婦人科学会の藤井知行理事長は今回の調査を受け、「多様な症状がある女性の診療に真摯に取り組むとともに、多くの女性が子宮頸がんで命を落とすなどの不利益が拡大しないよう、国の勧奨再開を強く求める」と話した。
 厚労省によると、国内では年間約1万人が子宮頸がんを発症し、約2700人が死亡。ワクチン接種でがんの原因となるウイルス感染を50〜70%防ぐことができるという。同ワクチンの接種率(推計)は、18歳が81・2%であるのに対し、15歳は42・9%、13歳は0・7%にまで落ち込んでいる。


 これと同じようなデータは以前にも名古屋市の調査で発表されています。

 次に副反応の頻度の捉え方について。
 現時点で"重篤な副反応の発生率は0.007%"とされていますが、これは10万人に接種して7人に発症するというレベルです。これを多いと感じるか、少ないと感じるかは個人差があります。
 視点を変えて"99.993%は重篤な副反応がない"と捉えるとどうだろう、という報告を紹介します。

■ 子宮頸がん予防のために"0.007%"を母親にどう説明するか
第19回日本ワクチン学会学術集会で勧奨メッセージを発表
2015.11.23:メディカル・トリビューン
 子宮頸がんの予防を目的としたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは,副反応をめぐる報道や国の積極的勧奨の中止を受けて接種率が低迷している(関連記事)。HPVワクチン接種対象年齢の娘を持つ母親にアンケートを行った大阪大学大学院産科学婦人科学病理研究室の八木麻未氏らは,娘へのワクチン接種に対する母親の意向を向上させるためには,重篤な副反応の発生率である0.007%*の伝え方を変えることが有用であると報告した。なお,今回の報告は第19回日本ワクチン学会学術集会(11月14〜15日,会長=江南厚生病院こども医療センター顧問・尾崎隆男氏)で行われた。

* 製造販売業者と医療機関からの報告のうち,医師が重篤と判断した,接種回数当たりの副反応件数(第10回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会,平成26年度第4回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料〔資料7 各ワクチンの副反応報告件数〕)

◇ 現時点で接種させる意向のある母親はわずか0.2%
 八木氏らは,HPVワクチンの接種を促進するためには,母親の意識を変える働きかけが重要であることをインターネット調査で既に明らかにしている(関連記事)。今回は,HPVワクチンの普及に必要な勧奨手法を検討するため,ワクチン接種に対する母親の意向や条件などについて,小学6年から高校1年のワクチン未接種の娘を持つ母親2,060人を対象に調査を行った(調査期間2015年5月25〜26日)。
 その結果,厚労省の積極的勧奨が中止となっている現在,娘にHPVワクチンを条件なく接種させる意向のある母親は0.2%にすぎなかった。一方,「勧奨再開したらすぐに接種(させる)」と答えた母親が3.9%,「周りや知り合いが接種してから(接種させる)」と答えた母親が16.9%だったことから,積極的勧奨が再開された後の接種率はこれらの合計である21.0%まで自然に伸びると見込まれた。これに対し,「同世代の多くの子が接種してから」などの,接種により厳しい条件を課す母親が63.5%で,「接種しない」と答えた母親が15.5%だったことから,これら計79.0%の母親らにワクチン接種の啓発活動をいかに行うかが重要であると示唆された。

◇ 勧奨再開と"99.993%が健康"で接種率は27.3%に上昇?
 次に,母親らに対し,「子宮頸がん予防ワクチンは,世界120カ国で接種されており,効果と安全性の高さが証明されています。日本でも,接種を受けた方のうち99.993%の方は,重篤な副反応などなく,健康に暮らしています」などの,接種を勧奨するメッセージを見せた。すると,メッセージを見せた後の,厚労省による積極的勧奨が再開された場合の接種率は27.3%まで伸びることが見込まれ,メッセージを見せる前の21.0%に比べ有意に上昇した(P<0.001,Fisherの正確検定)。また,母親らがワクチン接種を決めるときに考慮する情報について検討したところ,ワクチン接種に消極的だった前述の79.0%の母親らは,副反応の情報を特に重視することが分かった。
 勧奨メッセージを"重篤な副反応の発生率は0.007%"ではなく"99.993%は重篤な副反応がない"とした理由について同氏は「行動経済学におけるフレーミング理論では,同じ情報でもどの部分にフォーカスを当てるかによって与える印象が変わるとされる。この理論に基づくメッセージで,恐怖感を与えずに副反応情報を提供し母親を行動変容させることで,HPVワクチン接種率を向上させられる可能性がある」などと述べている。


 最後に、ちょっとくだけた新見正則先生のコラムを紹介します。
 視点が斬新で、ワクチンを車のエアーバッグに例えており、なかなか興味深い論理だと感心しました;

■ イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常「予防接種を打たないのは…エアバッグが作動しない車に乗るのと同じ」
2016年9月9日:読売新聞
 先日、我が家に車のリコールのはがきが届きました。僕の愛車は10年以上前に販売されたもので、走行距離は12万キロ近くを走っている国産の四輪駆動車です。エンジンの大きさも、車のサイズも大きすぎず小さすぎず、立体駐車場にも入るのでとても気に入っています。現在までまったく問題なく走っていますので、これからも動く限り乗り続けようと思っています。
 エアバッグの不具合だそうで、日本のメーカーのエアバッグで、アメリカなどで死亡事例が発生し、それに関連したリコールが僕の車にも行われるということです。助手席のエアバッグに関するもので、エアバッグを膨らませる装置であるインフレーターの金属片がエアバッグ作動時に助手席の同乗者に当たり、それが原因で死亡することがあるそうです。2016年の時点で、リコール対象車は世界で1億台以上、そしてリコール費用は1兆円を超えると報道されています。

◇ 「凶器」の作動停止が目的
 その1億台の中の1台が僕の愛車だったようです。さて、電話で予約すると、30分で終わるとの話です。「簡単に交換できるんだな」との印象で修理工場に持って行くと、30分の修理時間に担当者が説明をしてくれました。なんと今回の処置は助手席のエアバッグが作動しないようにするためだそうです。エアバッグ本体の製造には時間がかかり、早くても6か月以上も先になりそうだと説明してもらいました。
 つまり、今まではエアバッグが作動すると金属片が飛び出して死ぬかもしれない状況で乗っていたのが、少なくともエアバッグは働かないので、エアバッグの使用で死亡することはないという説明です。
 ちょっと納得いかないですよね。助手席のエアバッグは衝突時に助手席の同乗者の命を守るために装着されていると思っていました。ところが、それがむしろ「凶器」で、今回の処置はエアバッグの作動停止が目的です。エアバッグは車の保安基準の対象外のため、取り外したり、または作動不能にしても罰則はないそうです。

 娘が質問します。
娘「リコールって、何してきたの?」
僕「助手席のエアバッグ、事故の時に助手席に乗っているお前が、ダッシュボードに頭をぶつけたり、フロントガラスを突き破って外に出ないように風船が膨らむような装置に不具合があったんだって」
娘「それを交換してきたの?」
僕「しばらく交換の部品がないので、今日はエアバッグが動かないようにしたようだよ」
娘「それじゃー、追突事故があったら、私は頭をぶつけたり、外にとびだしたりするのね」
僕「そういう可能性を減らすためのエアバッグが作動停止だから、そうなる可能性が増えるよね」
娘「わかった、今日から助手席には乗らないね」
 娘の純粋な対応が当たり前に思えますね。
 僕が知りたいことはエアバッグが装着されていることによる死亡リスクと、エアバッグが装着されていないことによる死亡リスクです。リコール対象のエアバッグでの死亡事故は、ある報道によると15例だそうです。1億台に装着されていて、そして15人が死亡です。まったく読めないのが、エアバッグによって命が助かった数です。死亡に至らない事故を世界中のこのエアバッグ装着車すべてで記録し、そしてエアバッグによって救命できたかを正確に判断することが難しいのでしょう。でも、ある程度の試算ぐらいは見つかると思いましたが、僕には見つけられませんでした。

◇ 何事にも利点と欠点が…
 何事も利点と欠点があります。そのバランスでそれを選択するかどうかを決めます。医療でも同じですよ。例えば、全身麻酔です。全身麻酔をすることによって死亡する率はだいたい0.001%と説明している病院が多いと思います。10万人に1人は全身麻酔という行為で、特異体質などによって死亡するということです。しかし、全身麻酔をしなければ施行不可能な手術はたくさんあります。ですから、このわずかな危険率を承知した上で、治療を行う方も、治療を受ける方も、手術に臨むのです。
 また、予防接種もそうですよ。公衆衛生の立場からは、できる限り多くの人、できれば全員に予防接種は打ってもらいたいのです。でも、予防接種によって死亡することも、または重篤な後遺症が残ることもわずかながら存在します。ですから、その利点と欠点のバランスで予防接種の必要性を決めます。1994年に予防接種法が改正されるまでは、予防接種は強制義務でしたが、1994年からは努力義務になりました。公衆衛生のために本当に必須であれば、国は強制義務として予防接種を行い、そしてごくまれに不幸な転帰をとった人は国の責任で救済すべきと思います。努力義務であれば、予防接種を受けないという選択肢も当然に選べるわけであって、そんな選択肢を選んだ人が、SNSなどで、「反国民的行為」の様にバッシングされるのはいかがなものかと思ってしまいます。努力義務に関しては東京都福祉保健局の「接種を受ける努力義務」などを参考にしてください。
 予防接種を打たないという状況は、エアバッグが作動しない車に乗っているのと同じことです。そこに法的な罰則はありません。エアバッグが作動しなければ、エアバッグの誤作動で死亡することは有り得ません。しかし、エアバッグで助かる命は、残念ながら救えないことになりますね。

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