徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

子どもの水分補給は「水」が最適

2011年06月28日 05時20分34秒 | 小児科診療
 子どもの水分補給に何を飲ませていますか?

 栄養ドリンクを多用する習慣は日本人には珍しいと思われますが、イオン飲料は運動後や嘔吐下痢の際の水分補給によい、というイメージで日常的に多用される傾向があります。この論文はそれにクギを刺す内容です。
 イオン飲料には本来必要なミネラル分の他に、余分なカロリーが入っているので好ましくない、ふだんの食生活が充実していれば、スポーツ競技・選手レベル以外の運動後の水分補給は「」が最適であると結論づけています。

■ 子どもに栄養ドリンクはダメ、スポーツ飲料も不要 米研究(CNN)
 栄養ドリンクは10代までの子どもにふさわしい飲料ではなく、スポーツ飲料もほとんどの子どもにとっては必要ないとする研究報告を米国の専門家がまとめ、米小児科学会誌に発表した。
 報告は同学会に所属する栄養学やスポーツ医学の研究者がまとめた。それによると、栄養ドリンクは集中力や精神力を高めるなどの効果をうたい、大量のカフェインやガラナ、朝鮮人参、タウリンなどの滋養強壮成分が配合されている。
 こうした飲料を子どもが飲むことには危険が伴うと研究チームは解説。栄養ドリンクと心拍数や血圧の上昇、睡眠障害、不安神経症との関係を指摘した。
 栄養学専門家のマーシー・シュナイダー氏は「多くの場合、ラベルを見ただけではどのくらいのカフェインが入っているのか分からない」「エネルギードリンクの中には、ソーダ14缶分に匹敵する500ミリグラム以上のカフェインが含まれているものもある」と警告する。
 一方、運動で失われる水分や電解質の補給をうたって炭水化物やビタミンなどを配合したスポーツ飲料については、激しい運動や長期に及ぶ練習をする若者の場合は効果的な場合もあるとした。
 しかし、そうでなければビタミンやミネラルはバランスの取れた食生活を通じて摂取すべきだと指摘、「定期的に運動しているほとんどの子どもにとっては普通の水が一番よい」(スポーツ医学専門家のホリー・ベンジャミン氏)とした。スポーツ飲料には子どもには不要な余分なカロリーが含まれており、肥満や虫歯の原因になりかねないという。「運動後には水を飲み、食事の時には推奨摂取量のジュースや低脂肪牛乳を飲んだ方がいい」とベンジャミン氏は助言している。


より詳しい内容はこちら

 一部抜粋しますと・・・

 米国小児科学会では、今回の調査研究をふまえて、次のことを推奨している。
・市販されているスポーツドリンクや栄養飲料の栄養成分について、小児科医は子供や親によく説明し、健康に与える影響について理解してもらった方が良い。
・清涼飲料の中には糖分が多く高カロリーのものがあり、過体重や肥満、虫歯を引き起こすおそれがある。子供や若者が毎日摂取するのは好ましくない。
・ただし、電解質が適量含まれたスポーツドリンクが運動中・後の水分補給に適していたり、糖分を摂取する必要がある場合などは、機能性をもたせた清涼飲料の利用を必要に応じて行った方がよい。
・子供や若者の水分補給にもっとも適しているのは水であり、運動時などに勧められるのは水を飲むことである。


 イオン飲料と虫歯については日本小児歯科学会が声明を発表しています(「イオン飲料と虫歯に対する考え方」)。・・・嘔吐下痢の際の水分補給で役に立ったのでふだんも飲ませよう・・・という習慣はダメ、と注意を喚起する内容です。

 この中から「乳幼児への対策」を抜粋します;

・過激な運動や極端に汗をかいたとき以外は,普通の水を与える。
・イオン飲料を水の代わりに使用しない。
・下痢や嘔吐でイオン飲料を飲ませたときは症状が軽快したら中止する。のどが渇いたときは普通の水を飲ませるようにする。
・寝る前や寝ながらイオン飲料を与えないようにする。夜中にのどが渇いたときには水を与える。
・入浴後は水を飲ませる。
・寝る前に歯を磨く。やむを得ず,寝る前や寝ながら与えるときは水を飲ませる。あるいは,与えた後に綿棒や指先にガーゼを巻き口腔内を清拭する。


 当院では嘔吐下痢の際の水分補給に、医療用イオン飲料として「ソリタ-T3顆粒」を処方しています。脱水症の時に行う点滴の中身を粉にしたもので、水に戻してチビチビ与えると点滴と同じ効果が期待できます。市販のイオン飲料よりおいしくないので、ふだん飲む習慣はつきません(苦笑)。
 具体的な使用法は当院HP(★ 嘔吐下痢の自宅療養 ~ 経口補液 ~)をご参照ください。

 さて、梅雨もそろそろ終盤、熱中症が心配になる季節となりました。
 最高気温が30℃となるあたり(いわゆる「真夏日」)から熱中症の患者の発生がみられ、33~34℃になると患者数が急激に増加する、といわれます。

 熱中症対策の基本は、こまめな水分補給です。
 補給する水分は、あまり汗をかいていない時は水や麦茶、たくさん汗をかいた時は塩分や糖分を含んだイオン飲料がおすすめです。

<追記>
 2011年7月14日のNHK「ためしてガッテン」で熱中症予防としての水分の取り方を特集していました。
 従来の「水分+塩分」はスポーツなどで大量に汗をかいた後によい方法で、ふだんの生活の中で発汗する程度では塩分は必要なく、高齢者が塩分を努めて取ろうとすると血圧が上がってしまいかえって問題になるとのこと。
 まあ、上記の通りと云うことです。
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健康に関するニュース、拾い読み

2011年06月27日 07時37分42秒 | 小児科診療
 最近目に付いた、子どもの健康に関するニュースをいくつか。

■ 睡眠不足の小児、体脂肪量増加による過体重のリスク増大

2011/06/17(金) No.J001572
睡眠時間が短い小児は過体重となるリスクが増大していることが、ニュージーランド・オタゴ大学のPhilippa J Carter氏らが行ったFLAME試験で示され、BMJ誌2011年6月4日号(オンライン版2011年5月26日号)で報告された。体重増加の原因としては、除脂肪体重の増加ではなく、むしろ脂肪蓄積の増大の影響が大きいという。子どもの睡眠不足が体重増加を招くとの指摘は多いが、最近の縦断的研究は睡眠時間や身体活動の客観的な反復測定を行っておらず、交絡変数の調整にもばらつきがみられるなどの限界があり、成長期の睡眠不足と体脂肪量、除脂肪量の変化の関連を評価した検討はないという。


 ・・・生活の基本が乱れていると健康は維持できないという証拠ですね。

■ 「喫煙で死ぬことがあります」…米でキツイ警告

2011/06/23(木) 読売新聞
【ワシントン=山田哲朗】米食品医薬品局(FDA)は21日、たばこの包装に新たに掲載を義務づける警告文のデザイン9種類を発表した。「喫煙で死ぬことがあります」という警告文と胸に大きな手術痕がある遺体の写真、「たばこは脳卒中や心臓病を引き起こします」の警告文と呼吸器をつけてあえぐ男性の写真など、どれも視覚に訴えるきつい内容だ。
 25年ぶりの大きな改定で、来年9月以降、米国内で販売されるたばこは、パッケージの上半分をこの警告に当てなければならなくなる。たばこ業界は、言論の自由などを理由に新規制無効を求める訴訟を起こしている。


 ・・・添付されている肺の写真を見るとタバコを吸いたくなくなります。医学生が解剖実習の後、喫煙率が低下するのと同じですね。親が喫煙すると、子どもは受動喫煙を避けられません。
 以前より少なくなりましたが、タバコの臭いをプンプンさせているお母さん・お父さんがいらっしゃいます。親の喫煙により、子どもの気管支炎や中耳炎、喘息のリスクが上がり、喘息発症後は薬が効きにくくてどんどん治療が強くなってしまう傾向があります。
 統計データでわかっているのに、日本のタバコ行政はまどろっこしい対応しかできていませんね。リスクの隠蔽体質は原発と同じ?

 もう一つ、喫煙関係のニュースを。妊娠中の母親の喫煙が赤ちゃんの心臓病のリスクを挙げるという報告;

■ 母の喫煙で心臓に先天異常

 妊娠早期の喫煙は、赤ちゃんの心臓に先天異常が生じる危険性を20%以上高めるとの調査結果を米疾病対策センター(CDC)が発表した。
 CDCは、米国で1980年代に生まれた6千人の子どもと、母親の喫煙の関係を解析。妊娠の最初の3カ月で喫煙していると、心臓の右心室から肺への血液の流れが滞る病気と、心臓の壁に穴がある心房中隔欠損症のリスクが20~70%高まることが分かった。これらの病気は毎年、出生異常による乳児死亡の原因の30%を占めている。
 妊娠中の喫煙は、ほかにも早産や低体重のリスクを高めることが知られており、CDCは「自分と赤ちゃんの健康のために喫煙をやめるべきだ」としている。


 母親本人の喫煙のみならず、受動喫煙(父親の喫煙)も当然影響を受けるはずです。

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アトピー性皮膚炎診療で思うこと

2011年06月19日 07時17分07秒 | 小児科診療
 当院は小児科ですが、アレルギー科も標榜しているので湿疹やアトピー性皮膚炎の相談にこられる患者さんもいらっしゃいます。
 赤ちゃんではじめて湿疹が出て心配になり受診される方、他院に通っていたけどなかなか良くならない方など、様々です。

 「皮膚科に通っていたけどよくならないので受診」パターンには困ってしまいます。
 ほとんどの皮膚科の先生は、当院より強いステロイド軟膏を処方しているからです。小児科医である私は臆病者なので、強度が5ランクに分類されているステロイド軟膏のうち、中等度以下に分類されている軟膏しか使っていません。一方、皮膚科医は上位にランクされている軟膏を処方しています。

 ではなぜよくならないのか?

 それは「塗り方の指導がされていないから」だと感じています。
 「これを塗って、よくなったらやめてください」程度が多い印象。

 一方、患者さんが知りたいことは、どのくらいの量をどれくらいの期間塗るとよくなるのか、やめた後悪化したらどうするか、ふだんのスキンケアの方法は、入浴法は、生活上の注意点は・・・等々たくさんたくさんあるのです。

 アトピー性皮膚炎治療の基本は「皮膚の保湿ケア」です。ステロイド軟膏が薬物治療の中心ですが、すべてではありません。
 日々皮膚に刺激となるものを避け、保湿剤を複数回塗るのを日課とし、それをベースにして悪化時はステロイド軟膏の力を借りる、という感覚であり「これを塗って、よくなったらやめてください」だけでは解決しないのです。

 しかし、これらのことを一通り説明しているとひとりの患者さんに30分くらいかかり、外来診療が止まってしまいます。
 当院では患者さん用のプリントを複数作成し、ポイントだけ説明してあとは帰宅後読んでもらっていますが、それでも説明が大変です。
 小児科より患者数が多い皮膚科では、おそらくそこまで手が回らないのでしょう。

 ぜこんな風になってしまうんだろう?
 と日々疑問に思っていたところ、ふと「日本の医療システムに問題があるのではないか?」と気になり出しました。

 日本は「国民皆保険制度」を採用しており、いつでもどこでも標準医療を受けることができ、平均寿命も世界一を達成しています。
 高齢化社会に伴い、医療費がかさんで政府は「医療費削減」と声高に叫んでいます。
 当然、日本の総医療費も世界一かかっているんだろう、と思いきや、実は先進国の中では低い方なのです。

 なぜ「少ない医療費で長寿世界一」という奇蹟が可能なのか?

 それは医師が「医は仁術」というボランティア精神で身を削って働いてきたからです。休日出勤や当直明けの連続勤務は当たり前、いつポケベルで呼ばれても30分以内に病院へ駆けつける・・・それもとうとう限界となり、近年の「医療崩壊」に至ったわけです。

 他にも弊害が発生しています。
 アクセスが簡単なので患者さんが多数来院します。すると医療費が膨れあがるから厚労省はひとり当たりの患者さんの医療費(単価)を減らさざるを得ません。これが「診療報酬を減額する」ということです。すると医院は経営が成り立たなくなるからもっとたくさんの患者さんを診ないとつぶれてしまう・・・こうして出来上がった「薄利多売の悪循環」あるいは「3分間診療」。
 診療報酬(単価)を上げて、患者数を減らして、ゆっくりじっくり診療に向かうよう舵を切るべき時なのに、厚労省はさらに診療報酬を下げようとしていますから、この悪循環に拍車がかかることは目に見えています。むなしいですね。
 民主党の公約に「総医療費を先進国標準に引き上げる」というものがあったはずですが、どこに忘れてきてしまったのでしょう。医療費抑制政策が続けば、医療崩壊も進むこと間違いなし。

 小児科開業医の私は、毎日50~100人の患者さんを診療しています。でも、この数字は欧米の医師にとっては驚異的らしい。
 
 こんな笑い話を耳にしました。
 ある国際学会の会場で、診療する患者さんの数が話題になり、日本の医師が「100人くらいですかねえ」と言ったところ、アメリカの医師が「1週間に100人も診るのですか、それは多い」と驚いたそうです。(いや1週間ではなく、1日の患者数なんだけど・・・)と心の中で思ったけど言える雰囲気ではなかった、と。
 アメリカのアレルギー専門医は、1週間に100人以下、つまり1日20人以下の患者さんしか診療していない・・・これが世界標準?
 確かにそれくらいの余裕があれば、医師も患者も納得できる医療が実現できそう。

 イギリスでは家庭医(GPと呼ばれます)制度があります。どんな病気でも最初はそこを受診し、必要であれば紹介状を書いてもらい専門医を受診する安心システム。しかし、逆に必要と判断されなければ専門医にかかるのは難しいという面もなきにしもあらず。

 例えば、アトピー性皮膚炎の子どもが家庭医の診療に満足できず、独自にアレルギー専門医の診療を受けようとすれば、自分で予約することになり、平均3ヶ月待たされるそうです。
 「ここの先生とは馬が合わないから、あちらの医院へ行ってみよう」という日本のようなドクターショッピングの自由はイギリスにはありません。

 というわけで、日本の医療は良かれ悪しかれ「薄利多売システム」が現状。
 これは国民(つまり患者さん自身)の希望が反映されていると思います。日本人は欧米のような「ゆっくりじっくり診療」よりも「気軽に受診して薬をもらえる診療」を選んできたのではないでしょうか。
 実際に、現在でも「薬だけください」という患者さんが後を絶たず困っています(診察なしの薬処方は法律違反です!)。
 このようなシステムの中で「ゆっくりじっくり診療」を望む患者さんがはじき出されてしまいがちなのは、仕方のないことなのかもしれません。

 冷静に考えてみてください。患者さんが望む理想の医療は・・・
1.いつでもどこでも最高の医療
2.患者さんが納得するまで懇切丁寧な説明
3.安い医療費
 ・・・すべてを実現している国が果たして存在するでしょうか?
 もし可能だとすれば、専属の医師と契約できる個人のお金持ちだけでしょう(3の条件は満たしませんが)。
 
 ここで提案があります。
 「ゆっくりじっくり医療」を希望する方は、開業医を渡り歩くのではなく、総合病院の専門外来をお勧めします。特にほとんどの小児科には「アレルギー外来」が設置されています。
 私も昔勤務医でしたが、予約制の専門外来では理想の診療を追求していました。当然、ひとりの患者さんに使える時間も今より多かった。

 なぜそれが可能なのか?

 理由は、病院は自治体からの寄付(つまり税金)があるので経営を最優先に考えなくてもよいから。寄付金をもらえない零細企業の開業医ではそれは許されません(あらら、半分愚痴になってしまいました)。
 視点を変えれば、役割分担ですね。軽症患者さんは開業医、ゆっくりじっくり診療が必要な患者さんは病院へ。

 まとめますと、日本のアトピー性皮膚炎診療の問題点「説明不足で患者さんが満足していない」の原因の一つは、国民皆保険制度による薄利多売システムの弊害ではないかと考える次第です。
 総合的にはメリットの方が勝るので、国民皆保険制度を否定するものではありませんが。

 この辺をご理解いただき、患者さんも医療機関を受診していただければ幸いです。
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里の川のホタル

2011年06月18日 06時36分24秒 | 日記
 

(画像をクリックすると拡大表示されます)


 近所の川にホタルが棲息しているらしい・・・との噂を長男から教えてもらいました。
 子どもの頃、釣りをしたり、水中に潜って魚をヤスで突いたりして遊んだ里の川です。比較的清流であり、その昔、サケが遡上してきたエピソードは耳にしたことがありました。しかしホタルもいるなんてついぞ聞いたことがありません。

 夜9時頃、自宅から歩いて10分ほどのその川へ行ってみると・・・いました、いました。
 数百匹のホタルが舞っています。草むらで点滅するメスと、乱舞するオスと。流星群を見ているような錯覚に陥り、幻想的な梅雨の夜となりました。

 幼なじみに報告したら、昔からホタルのいる話はあったとのこと。彼女はカワセミも見たことがあると云ってました。
 う~ん、知らなかった。

 手持ちのデジカメで撮影にトライするも、一眼レフではないのでなかなか思うようにいきません(苦笑)。何回か通ってよい写真が撮れたらまたアップします。
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「ワクチン同時接種で男児死亡、全国で8例目」by 読売新聞

2011年06月15日 08時04分21秒 | 小児科診療
 前項と同じ読売新聞の記事です。

「ワクチン同時接種で男児死亡、全国で8例目」
 熊本市は13日、細菌性髄膜炎などを予防するヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンを3日に同時接種した同市の2か月の男児が、接種の翌日に死亡したと発表した。
 両ワクチンの接種後に乳幼児が死亡したのは全国で8例目。厚生労働省が4月に接種の再開を認めてからは初めて。
 発表によると、男児は市内の医療機関で接種を受け、4日未明に死亡した。持病はなかった。担当した医師によると、接種との因果関係は不明という。
 両ワクチンを巡っては、全国で乳幼児の死亡が相次いだため、厚労省は3月、各都道府県に使用を見合わせるよう通知し、安全性に問題はなかったとして4月に再開を認めていた。


 記事の題名からして適切ではありません。まったくマスコミって人の弱みにつけ込んで不安を煽る・・・困ったものです
 2~3月に相次いだ死亡7例は検討の結果「ワクチンと因果関係無し」と判断されて再開したわけですから「ワクチン同時接種で死亡」は間違った表現です。

 いろんなところで書かれていますが、医療の進んだ現代日本でも、生まれて1歳になるまでに命を落とす赤ちゃんが毎年2500人程度存在します。そのうち解剖しても原因がわからない「乳児突然死症候群(SIDS)」が数百人いるとされています。つまり、毎日のように原因不明で赤ちゃんが命を落としているのです。

 もし、その前日に予防接種を受けていたらどうでしょう。
 ご両親は「ワクチンを接種したせいでうちの子は死んだ」と考えてしまうのはやむを得ないこと。
 そこで「ワクチン接種による死亡かどうか」を科学は証明しなければなりません。
 しかし、不活化ワクチンの場合は難しい。接種直後のアナフィラキシー・ショック以外は因果関係を証明するのは困難であり、逆に云うとSIDSの紛れ込みがほとんどであろうとされています。

 その際、役に立つ判断材料は「統計学的データ」です。
 ワクチンを接種した何万~何十万人の赤ちゃんと、接種しない何万~何十万人の赤ちゃんの死亡率を比較して差があるかどうか、あれば予防接種が原因となった可能性があり、なければ紛れ込みに過ぎません。
 3月の厚労省の会議ではこの点も検討されて「問題なし」と判断されたはず。

 さて、ここで考えていただきたいことがあります。
 ワクチン同時接種が危険、と心配して1種類ずつワクチンを接種すると接種に通う日が必然的に増えます・・・その回数分だけSIDSの紛れ込みが増える、つまり「見かけ上ワクチン接種後の死亡例が増加」することが懸念され、今後も混乱が予想されます。

 安全宣言を出した厚労省、あるいは同時接種推進宣言を出した日本小児科学会は筋の通った声明を出し、予防接種行政を後退させてはならないと考えますが・・・。
 日本国民全体が冷静に対処できるかどうか、試練ですね。
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インフルエンザワクチン集団接種は学級閉鎖を減らしていた。

2011年06月15日 07時30分19秒 | 小児科診療
 6月14日の読売新聞に件名の記事が掲載されました。

「インフル集団接種、やはり学級閉鎖少なかった」
 インフルエンザワクチンの接種率が高いと実際に小学校の学級閉鎖が減ることが、慶応大学などの調査で分かった。
 接種率を上げるため小学校では1960年代から集団接種が行われたが、はっきりとした効果が認められないとして94年に廃止された。84年から24年間にわたって追跡調査したところ、この通説を覆す結果が出た。米感染症学会誌(電子版)に発表する。
 調査チームは、ワクチン接種率と学級閉鎖の延べ日数、欠席率などとの関係を、都内の小学校1校で調べた。
 接種する義務があった年代(1984~87年)の接種率は96・5%で学級閉鎖日数は1・3日だったのに対し、集団接種がなくなりほとんど接種されていない年代(95~99年)は接種率2・4%で学級閉鎖は20・5日だった。その後、自主的な接種が増えた2004~07年には、接種率78・6%で学級閉鎖は7・0日に減少した。
 接種率と児童の感染防止の関係は、これまで統計的に明らかになっていなかった。


 日本の予防接種行政は、世論やマスコミの扇動に惑わされがちです。
 是非、科学的データに基づく判断をしていだたきたい。

 来シーズンのインフルエンザワクチンは接種量が世界標準となる予定です。
 従来は年齢に応じて0.1ml~0.5mlまで細かく分けられてきましたが「乳児では接種量が少ないのではないか」と小児科医から再三指摘されてきました。

 そして今回、「3歳未満は0.25ml、3歳以上は0.5ml」になりそうだ、との情報が入りました。
 さらに世界標準は筋肉注射、日本は皮下注射・・・小児科医はこちらの変更も期待していますが、未確認です。
 追加情報が入りましたら記載します。
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ポリオ・ワクチン ~「生」か「不活化」か?

2011年06月13日 06時55分04秒 | 小児科診療
 最近話題のポリオ・ワクチン。
 「現行の生ワクチンは危険?」との噂が広がり接種を控える動きがみられる一方で、不活化ワクチンを個人輸入する小児科医も出てきました。

 このような際、混乱を防ぐためには正しい知識が必要です。

 まずはポリオの現代史から。
 戦後、日本でもポリオは流行する病気でした。当時もワクチンを接種していたものの、流行を抑えることができませんでした。それは「不活化ワクチン」だったのです。
 政府はその事態を打開するために「生ワクチン」の緊急輸入に踏み切りました。主にロシアとカナダから輸入されました。その普及とともにポリオ流行も沈静化し、近年はポリオの自然感染例は報告されなくなり、病気のインパクトも人々の記憶から薄れてきました。
 今をときめく感染症専門家:岩田健太郎先生の著作「予防接種は効くのか?」の私の感想文中終わりの方に「ポリオの歴史」の概要がありますので御参照ください。

 患者さんが減ってくると、ワクチンの副反応が気になってきます。
 たとえそれが希であっても。
 ポリオ生ワクチンを接種すると、腸の中で増殖する過程で毒性が回復して病原性を発揮し、麻痺を起こす例が450万接種に一人の確率で発生しています(VAPPと呼びます)。
 また、接種した子どもの腸から排泄されたポリオウイルスが、周囲の成人に感染して麻痺を起こす例が550万接種に一人の確率で発生します。

 この二つの副反応は生ワクチン特有のもので、不活化ワクチンでは起こりません。
 ポリオの自然発生がなくなった国々では、生ワクチンから不活化ワクチンへの移行が行われてきましたが、日本はこの動きが鈍いことが問題視されているのです。

 その日本でも、従来の3種混合(DPT)と一緒にした混合ワクチンという形(DPT-IPV)で数年以内に接種できそうな気配が見えてきました。同時に単独の不活化ポリオ・ワクチンの開発も指示されました。

 では、現時点で接種対象となる乳幼児はどうしたらよいのでしょう。
 現行の生ワクチンを接種すべきか?
 450万接種に一人発生するVAPPを恐いと考えて不活化ワクチンの発売を待つべきか?

 正解はありません。
 もし接種を控えて生ワクチンの接種率が低下すれば、不活化ワクチン導入前に流行が発生するリスクが高くなってしまいます。

 将来、すべての子どもが不活化ワクチンを接種するようになると生ワクチンは必要なくなるのでしょうか?
 答えは「No」です。

 最初の文章を読み直してください。
 「日本は当初不活化ワクチンを採用していたが、流行が抑えられないので生ワクチンの緊急輸入に踏み切った」のです。
 接種率を高く保てば大流行にはなりませんが、不活化ワクチンは接種した子どもの発症は防ぐものの、残念ながら広がりを抑える力はありません。不活化ワクチンは皮下注射なので腸管免疫(大腸の中でウイルスの繁殖を防ぐ免疫力)が獲得できず、増殖したポリオウイルスは便中に排泄されて広がってしまうのです。

 以下の2パターンでは生ワクチンの方が効果を期待できます;
・外国からポリオが持ち込まれた場合
・バイオテロ

 
 この2パターンの心配がゼロにできるなら生ワクチンは必要なくなりますが、無理でしょう。
 不測の事態に備える危機管理という視点から、昨今の世界事情を考慮すると生ワクチンもなくしてはいけないのです。
 受ける側も接種する側も悩ましい問題です。

※ 当院ではポリオの不活化ワクチンは扱っておりません。
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大阪で「君が代条例」可決 ~強制の連鎖~

2011年06月08日 07時23分14秒 | 日記
 タレント弁護士の橋下さんが知事を務める大阪府で「教職員は君が代斉唱の際に起立して歌わなければならない」という条例が可決されました(下記は朝日新聞の記事);

 公立校の教職員に君が代の起立斉唱を義務づける全国初の条例案が3日、大阪府議会(定数109)で成立した。同府の橋下徹知事が率いる「大阪維新の会」府議団が提出。公明、自民、民主、共産の4会派は反対したが、過半数を占める維新の会などの賛成多数で可決された。
 条例は賛成59票、反対48票で成立。自民の1人が退席した。条例名は「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」。府内の公立小中高校などの学校行事で君が代を斉唱する際、「教職員は起立により斉唱を行うものとする」とした。府立学校など府の施設での日の丸の掲揚も義務化した。


 ・・・困ったなあ。

 橋下知事は「愛国の意を示すのは日本国民として当然」という考えのようですが、愛国心は強制するものではなく自然に育まれるもの。それを強制する条例が可決されると云うことは、もはや”戦後”ではなく言論・思想の自由が奪われる”戦前”という見方もできます。

 国・自治体が教職員に「強制」する規則は、教職員が児童生徒に「強制」する風潮を生みます。人間は、その人が受けた扱いと同じことを、他の人にもしてしまう「連鎖」という行動を取りがちです。

 先日NHKで放映された柳美里さんの番組「虐待カウンセリング~作家・柳美里の500日間の記録~」を見て、その思いを強く再確認しました。
 彼女が受けた虐待の理由を知りたくて親と対峙すると、両親もその親たちから同じような虐待を受けていた・・・彼らにとって「子育て・しつけ=体罰」という考え方が当たり前だった・・・。

 その大元を辿れば「社会の歪み」が弱者に溜まる構図が浮かび上がります。

 児童精神医学者の佐々木正美先生の言葉が思い浮かびます;

 子どもは子どもらしく扱われているから、子どもらしい。
 子どもはかわいがられているから、かわいい。


 裏を返せば、

 子どもらしくない子どもは、子どもとして扱われていない。
 かわいくない子どもは、かわいがられていない。


 という可能性もあると云うこと。

 「罰則付きルール」で縛られて育った子どもたちは、将来大人になったとき、他人を「罰則付きルール」で管理するようになることでしょう。さらに、規則で縛られがちな社会では、人は「他罰的」になります。事ある毎に「自分ではなく他人が悪い」という風潮が生まれるのです。

 橋下知事は弁護士です。過ちを犯してしまった人間の弱さを認め・受け入れ、それを弁護する仕事をしていたはず。その人が何故「罰則付きの強制」なんて条例を作りたがるのか理解できません。

 外国から見ると「自国の国旗・国歌に敬意を表することがためらわれる」日本人は奇妙でしょうね。
 
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ナダル、6回目の全仏制覇

2011年06月07日 06時18分55秒 | テニス
 2011年全仏オープン男子決勝は3-1でナダルがフェデラーを下しました。

 フェデラーは準決勝ジョコビッチ戦ほどの”神がかりプレー”までは行きませんが、調子は上々。文字通り「元世界王者 vs 現世界王者」の意地とプライドのぶつかり合いのようなゲーム展開となりました。
 しかし、フェデラーの攻めがちょっと甘くなるとナダルの深くてスピンの効いたドライブボールが返ってきて攻撃を封じられてしまい、結局はナダルの粘り勝ちといういつものパターン。フェデラーはストローク戦になる前に早めの攻撃を仕掛けるのですが、すべて成功というわけにはいかず。
 一つの試合の中でもプレーに微妙な波があり、それをどう自分の方に引き寄せてポイントを重ねるかという駆け引きも見物でした。

 この二人のグランドスラム決勝には一種独特の雰囲気を感じます。
 同じ時代テニス界を引っ張ってきた”同士”というか、”戦友”というか。
 試合終了後のインタビューではお互いに気遣い合うコメントも聞かれました。

 優勝したナダルは、実は1,2回戦では苦戦を強いられました。
 全仏オープン前までの試合では、迫り来るジョコビッチに4連敗し、自分のテニスに自信を失いつつありました。精神的にも落ち込み「まだ25歳だけど100年間テニスをしている気がする」という弱気の発言もあり、一部のマスコミは”燃えつき症候群”と評したほど。

 それでも粘りで勝ち上がり、準決勝のソダーリング戦でようやくナダルらしいプレーが復活、そして迎えたフェデラーとの決勝・・・優勝トロフィーを掲げた姿は勝ち続けることの大変さを物語っているようで感慨深かったです。
 やはりローラン・ギャロスの土にはナダルが似合います。
 これでビヨン・ボルグと並ぶ全仏オープン6回制覇を成し遂げました。来年以降は新記録樹立が期待されます。

 いずれにしても、フェデラーもナダルも元気なプレーを見せてくれたので私は大満足。
 来るウィンブルドンが楽しみですね。

 観客席には往年の名選手がたくさん。
 ジム・クーリエ、クエルテン、マルチナ・ナブラチロワ、etc・・・皆元気そうでした。
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フェデラー、ジョコビッチの前に立ちはだかる!

2011年06月05日 05時53分10秒 | テニス
 今年の全仏オープン・テニス大会の話題は「ジョコビッチのランキングNo.1取り」と「ナダルの6回制覇」で持ちきり。フェデラーはこの二人の影に隠れて「参加していることに気づかなかった」と地元フランスの新聞に皮肉られる始末でした。

 しかし、視点を変えれば”注目されない”というのはプレッシャーがかからず伸び伸びプレイができるということ。事実、フェデラーは準決勝まですべてストレート勝ちで、徐々に「フェデラーの調子が良さそうだぞ・・・」と囁かれるようになりました。

 そしてジョコビッチとの準決勝。
 現在の世界ランキングはジョコビッチ2位、フェデラー3位。”絶対王者”と尊称されたフェデラーはピークが過ぎて落ち目であり、公式戦43連勝中のジョコビッチの時代に取って代わられる瞬間が見られるのでは、との前評判でした。

 しかし蓋を開けてみると・・・フェデラーがすごい!
 ”神がかり的”と表現してもよいプレー。全盛期を彷彿とされる、いや全盛期以上の集中力でエレガント&力強いプレーを披露しジョコビッチを翻弄します。
 ファーストサーブは軒並み200km/hr越え、セカンドサーブもエースを取るほどキレがよい。弱点とされているバックハンドのミスも少なく、振り切ってのパッシングショットも決まり、フォアの切り返しはフットワークの素晴らしいジョコビッチがついて行けず、ボレーはコーナーに深々と決まる・・・私は(このペースがずっと続けば勝てるけど、最後までモチベーションを維持するのは至難の業だよなあ)といつフェデラーが崩れるのかヒヤヒヤしながら観戦していました。
 第三セットこそ少々集中力が途切れがちなところもありましたが、そこは百戦錬磨の”世界王者”。終始有利に駆け引きを続け、精密機械のような渋いプレースタイルのジョコビッチは最後まで自分のペースをつかみきれないままフェデラーの技に敗北を喫したのでした。

 観客も盛り上がりました。
 フェデラーのプレーに魅せられて、最終セット終盤ではスタンディングオベーション。復活した王者に惜しみない拍手を送っていました。

 今年のベストゲームでしょう。

 さて、明日の夜は「フェデラー vs ナダル」の決勝戦。
 楽しみです。
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